公演を4月に控えた劇団四季の新作ミュージカル『バケモノの子』の稽古場取材会が行われた。JR東日本四季劇場[秋]にて、国内のオリジナル作品としては最大級のロングラン公演に挑む劇団四季。あいにくの寒の戻り、外は寒いが、稽古場はホット、劇団四季としてはオリジナル作品で初めてのロングランを行う、しかも、カテゴリー的には2.5次元、日本のアニメーション映画をミュージカル化するのも初めてだ。
まず、作品の冒頭シーンから。「オーバーチュア 祝祭」〜「その日が来る」公開稽古では熊徹役は伊藤潤一郎。
渋天外を治める宗師が神への転生を宣言し、次期宗師の熊徹と猪王山が対立するシーン。バケモノ界の長老である宗師は高齢、近々その役目を引退して神に転生する予定、後継者は最も武術と品格に優れた者がなるしきたり、闘技会の勝者が次期宗師に認定される。
オーバーチュア、軽快なリズム、「諸君に告ぐ。宗師様は重大な発表をなさる…心して聞くように」歌、音楽、そして宋師様の歌、印象的なナンバー、そして「我々、バケモノは神々に仕え…命を捧げよう♪」と歌う面々、そこへ、この物語のメインキャラクター・熊徹登場。「拳でぶん殴って黙らせる」「この街で一番強いのは俺だ!」自信満々。もう一人の候補、しかも最有力と言われている猪王山。
強さ・品格ともに一流と認めるバケモノ。武術館を主宰して数多くの弟子がいる。対する熊徹は強いことは強いのだが、粗暴な性格、弟子もいない、嫁も来ない。「熊徹は乱暴だからな」。宗師は言う「二人を見守ってほしい」と。アンサンブル陣の力強い歌声、ダンス、ここで一気に物語の世界に引き込まれる。
その次に披露されたのは「修行」のシーン。熊徹の弟子となった蓮(九太)。彼は人間、両親が離婚、親権は母親になったが、蓮が9歳の時に事故で急死。親戚に引き取られることになったが逃げ出し、渋谷を彷徨っていたが、そこで熊徹に出会う。彼を探しているうちにバケモノの世界「渋天街」に迷い込んでしまった。熊徹の弟子となり九太と名付けられる。そんな蓮がバケモノたちに受け入れられて修行に励むナンバー。「修行の良さを教えてやる」「やる!」「よく言った九太!」ユーモラスな曲調、蓮は何もできない、まだ9歳(9歳だから九太)、無理もない、箒で床を掃除するもかえって埃が舞い上がる。
音楽に合わせて掃除、百秋坊は家事全般が得意、掃除の仕方、洗濯、料理、百秋坊だけでなく、大勢で蓮に色々と教える、楽しくも心温まるシーンである。料理のシーンではアンサンブル陣が手にしているさまざまなものを”打楽器”にして賑やかに!稽古中なのでこちらはクラップできないが、思わず、手を叩いてみたくなる場面。
最後は「胸の中の剣」〜「母の想い」
熊徹が刀を振り回して蓮に教えるも「ぐえ〜〜〜〜っと」、わかりにくい(笑)、蓮に「反応の悪いやつだな」と言うも「教え方が悪いんだよ」と切り返される。原作でも「剣をグーっと持って、ビュッといってバーンだ」などと言うが、映画を観たなら「うん。うん」と頷けるはず。
ここでナンバー「胸の中の剣」、アコースティックギター、「お前の胸の中の剣を…胸の剣を握りしめる」と歌う。そして蓮は熊徹に問いかける「強さってなんなの?」「てめえで考えろ」。熊徹の言い方は乱暴で突き放した物言いだが、他人に聞いてもわかることでもない。百秋坊は「焦ることはない」と蓮に優しく言う。前半の稽古のシーンは微笑ましくも笑えるが、歌に入った途端にしみじみ。
それから「母の歌」、一人で奮闘する蓮を遠くから見守っている母、たおやかで語りかけるような曲調、しっとりとしたナンバー。原作でも時々、幻となって蓮のそばに現れてアドバイスをする。いきなりの事故で息子を一人ぼっちにさせてしまった母の息子を想う気持ち、じんわりと響く曲だ。
公開稽古はおよそ45分であったが、順調に仕上がっていく様子を垣間見ることができた。初日まで1ヶ月ちょっと。初日が楽しみな公開稽古であった。
それから合同取材会が行われた。出席したのは、脚本・歌詞の高橋知伽江、演出の青木豪、キャスト代表として熊徹役候補の田中彰孝、伊藤潤一郎、そして劇団四季代表取締役社長の吉田智誉樹。
まず、この日の稽古の手応えについて青木豪は「どうなんでしょうか(照笑)、硬いような柔らかいような感じかな。初めての方がたくさんいらっしゃったので、いつもよりしっかり言葉を届けようという感じが役者の間に見られたかな。初日の感じに近いかな?熱に浮かれている感じではなく、落ち着いた中でしっかりできたと思います。それを参考にしてブラッシュアップしていきたいと思います」とコメント。
そして公開稽古で熊徹を演じた伊藤潤一郎は「盛り上がってきた気がします。アンサンブルの人たちの中にわってそこに入ってわーーっていう時に全然、僕の声が聞こえていなくって(笑)、エキサイトはしてました(笑)そんなところです」とコメント。
また映画をミュージカルにすることについては高橋知伽江は「原作が親子の絆という、しっかりとしたストーリーで、脚色に対しては不安はなかったです。劇団四季でミュージカル化することを考えると、ミュージカルの持つエンターテイメント性というものを入れたいと。修行のシーンですとか、ダンスのシーンを意識して入れるようにしました。アクション、殺陣のシーンもたくさんありますが、ミュージカルの重要な要素としてダンスがありますので、それを入れてエンターテインメントにしたいと思いました。ミュージカルにする視点ですが、人間に生まれてバケモノに育てられた子、九太一人ではないんです。そういう点も、もう一人の”バケモノの子”にも焦点を当てています」とコメント。
「もう一人のバケモノの子、一郎彦。映画の表現では割とアップになったりとか、それでその人の感情が中で高まっている、ミュージカルにおいては歌で表現されるので、そこのところを演出としてはどういうふうにしてお客様に届けられるのか、そこを課題にして作っています。映画で、アニメーションで緻密に描かれているので、それを演劇的にお客様の想像力に訴えかけて表現していくにはどうしたらいいのか、その2点について、お客様の想像力と歌によって感情を爆発させる、というところを主軸に作っています」と青木豪。
「先ほど、高橋さんがおっしゃいましたが、骨格がしっかりしている、特にバケモノと人間、姿かたちが違うこの親子の関係、成長しながら互いの関係も…親しみやすい、舞台が渋谷、渋谷の裏側にバケモノの街がある、日常の裏側にいかがわしい、こういう構造は日本人には親しみやすいかな?と。マーケット的にも非常に強い力を持っている。これが(ミュージカル化した)理由かな?と思います」と吉田智誉樹。
また劇団四季との仕事について、青木豪は「いろんなところでやっておりますが、一番大変なのは稽古場で『共通言語』を作るのにすごく時間がかかるんです。四季さんでは、すでに共通言語が出来上がってて皆さん、共有している、僕がその言語を理解すれば、稽古場で共有しやすい。演劇を作る場としては素敵な場所、また、もっと『会社』なところかと思ったら、すごくしっかりした劇団だった!っていうところがワクワクウキウキしています。僕自身、小学生から四季の芝居は観ていたので、色々やらせていただいて、自分が好きだったということで呼んでくれてるんだなと。自分が育ててもらったところに呼んでもらっているので、その中でできること、毎回チャレンジできればと。今、現在もとても楽しくやっております(笑)」
また熊徹役候補のお二人に役の魅力についての質問、
田中彰孝は「役の魅力、僕は熊徹役については憧れが強くて、『ライオンキング』でシンバ役をやらせていただきましたが、ムサファのような存在だなと勝手に思っています。年齢的にはムサファや熊徹役にだんだん近くなってきまして、憧れから入ったものが体に少しづつ染みてきているような状態です。当初はなかなか、自分の憧れの役をやって…作りすぎていたところがあって、そういう課題と対面して、今はそこを削ぎ落とす稽古をチャレンジしております」
伊藤潤一郎「熊徹っていうキャラクター、みんな好きになると思います。それを演じられるワクワク感、いまだにあります。あとは自分の中で、吉田社長にキャスティングさせていただいたのですが、お礼のメールをさせていただきました。僕はこの劇団では父親役とか乱暴者とか気のいいあんちゃんとか、そういう役を多くやらせていただいてますが、そういった経験をしていたのが、今回のチャンス、きっかけになりました、ありがとうございます、というメールをさせていただきました。社長から『キャラクターが合ってると思います・・・』、リンクするところが多い、自分に近い、でも毎回、楽しくやってるのですが、家に帰り『本当にそうなのか』と。今、確かめながらやっています。青木さんに見ていただいてるので、好きなように…自分から持ち込んだものが多いのですが、創作を周りのみんなと一緒に作っていく感覚がすごくあります」
また原作の感想、
伊藤潤一郎「見た時に『このシーン、どうなるんだろう』っていうのが一番にありました。台本上では『全部やります』という意気込みが。意気込み通りのものが出来上がりつつありますね。クジラのシーン、大変ですが、稽古してて、いいシーンになると思います。また音楽の使い方、プロローグ、祝祭っていう音楽が流れますが、ミュージカルでも使われています。そこで物語の始まり、ワクワクした思いがあったので、音楽との相性がとってもいい作品だなと思いました。」また、燃え滾る大太刀の姿をした付喪神に転生するシーンにも触れて「『何かをしよう』と…みんなのケツが叩けるシーンになれば」とコメント。
田中彰孝「ミュージカル化が発表になったその夜に観ました。肌感覚で馴染みがある、剣道をやってまして、父が剣道をやってまして、今も父は剣道を…修行でしょうか。父と私の関係、肌感覚で好きです。ムサファとシンバの関係に近いかな。僕が次に挑戦する役が舞い降りた感覚です…自分の中では当たり前の感覚を表現するにはどうしたらいいのか、悩んでいます。熊徹は父?師匠?ライバル?めんどくさい人なのか?…この二人を結びつけているもの、今は自分の中を探っています。父と剣道で繋がっている感覚を探って、向かい合っています。この作品で届けたいことは、まさに監督が思い描いていること、そのまま、それをリアルにいろんな人に感じてもらえるように、ミュージカルでやる醍醐味。ストーリーを体感してもらう。毎日、新鮮な舞台を届けたいです」
また吉田社長は「四季の作品を観ていない、アニメのファンにも足を運んでもらいたい」とコメント。
稽古中での苦労は「(マスクしてるので)顔が見えない!蔓延防止が解除しても安全に!」と青木豪。田中彰孝は「マスクがすぐにびしょびしょになって貼り付く!大変です。その後で歌ったりして。でもマスクしてるので取ったらパワーアップしてると(心肺機能の向上)」、伊藤潤一郎も「表情がわからない!でも(表情を読み取る)センサーが敏感になってる。蔓延防止が解除されても引き続き対策を」。不自由だが、そこを逆手にとって!
青木豪は「この作品にはたくさんのテーマがある、四季の一貫したテーマ、『人生は生きるに値する』、『生きてていいんだよ』と演劇が教えてくれた。また人を育てるのは一人じゃない」という。
『胸の中の剣』、高橋知伽江は「人間は愛おしい存在。闇があったっていいじゃない、それが人間。そういうメッセージ、剣が最強のものでなくてもいい。細田監督は『父親一人では育てられない』とおっしゃってて、この作品は、九太を育てるのは、みんな。彼もそれがわかっている。最強の熊徹の剣を…」とコメント。田中彰孝は「熊徹は違和感を全部表に出せる人、だから愛される、曲がっていない。日常は自分を押し殺して生きる、八方美人になったり、日常はそういうことが多い。ヨガをやってますが、『自分に素直に感謝する』真ん中とつなげる感覚をふやしたりしています。『胸の中の剣』は素直」と語る。伊藤潤一郎は「自分自身の『胸の中の剣』はなんなのか、公演始まっても考えていきたい。自分がどう伝えたいか、なんのためにこの剣を使うのか、自分で発せられるもの、これからも人生かけて探していきたい」と語った。
ミュージカルナンバーについて青木豪は「作曲家と相談しながら…バラエティに富んでいますし、ミュージカルの王道のような曲作りを、ずっと相談してました。『楽しかったね』って言ってもらえるような曲を、また心に染みるような。キャラクターが出てきた時に、そのキャラクターが出るような、曲調を盛り込んで。曲とキャラクターを味わっていただけるような感じに」と語り、作詞について、高橋知伽江は「オリジナルミュージカルですが、歌詞が先にありまして曲に合わせて歌詞を変えていきました。できるだけ台詞と曲が分離しないように、台詞から歌に入っていく時に、その台詞の流れのままで歌詞の言葉に入っていくように意識しました。『胸の中の剣』とか、九太が自分というものを探すのですが、本当の自分ってなんなんだろうか、っていう葛藤を抱えていて、自分という言葉とか、キーワードが際立った台詞にしたと思います。熊徹のテーマ曲みたいなのがありますが、帰りは絶対に口ずさめるだろうなと」とコメントして会見は終了した。
物語
この世界には、人間の世界とは別に、もう 1 つの世界がある。バケモノの世界だ。
バケモノ界・渋天街では、長年バケモノたちを束ねてきた宗師が、今季限りで神に転生することを宣言。強さと品格に秀でた者があとを継ぐしきたりがあり、数年後に闘技場で催される試合で、次の宗師を決めることとなった。候補者は、とにかく強いが乱暴者の熊徹と、
強さも品格もあわせ持つ猪王山。次期宗師争いは、いよいよ本格的になろうとしていたが、熊徹は、宗師より、弟子を取ることを課せられてしまう。
その頃、人間界・渋谷。9 歳の少年・蓮は、両親の離婚で父親と別れ、母とも死別。ひとりぼっちの日々を送っていた。
行くあてもなく途方に暮れていたある夜、蓮は、弟子を探していた熊徹と出逢い、渋天街に迷い込む。独りで生きるための「強さ」を求めて、蓮は熊徹の弟子となることを決意。「九太」という名前を付けられることとなった。
当初はことあるごとに、ぶつかり合う2人だったが、奇妙な共同生活と修行の日々を重ねて互いに成長し、いつしかまるで本当の親子のような絆が芽生え始める。
一方、猪王山にも、九太と同世代の息子・一郎彦がいた。父の存在が、何よりの誇りであり、父のようになりたいと願う一郎彦。しかし、いっこうにバケモノらしいキバが生えてこないという悩みを抱き続けていた。
時は流れ、九太と一郎彦は青年へと成長。17歳の九太は、熊徹の一番弟子としてその強さを知られるようになっていたが、バケモノと人間のあいだで「自分は何者か?」と揺れ動いていた。ある日、偶然人間界に戻った九太は、高校生の少女・楓と出会って新しい世界を知り、自身の生きる道を模索していく。
やがて訪れた次期宗師を決する闘いの日。人間とバケモノの二つの世界を巻き込んだ大事件が起きてしまう。
皆を救うために、自分にできることは何か――熊徹と九太、それぞれに決断のときが訪れる。
概要
日程・会場:2022年4月30日(土)〜 JR東日本四季劇場[秋] 9月30日(金)公演分まで好評発売中。
原作:映画「バケモノの子」(監督:細田守)
脚本・歌詞:高橋 知伽江
演出:青木 豪
作曲・編曲:富貴 晴美
音楽監督:鎭守 めぐみ