日本オペラ協会 日本オペラシリーズNo.83 「ミスター・シンデレラ」地味な男がナイスバディの美女に変身、騒動勃発!

日本オペラ協会は日本オペラシリーズで、100%オリジナルにこだわり続け、意欲的な作品を発表し続けている。2020年はコミック原作、あの『ガラスの仮面』に登場する劇中劇『紅天女』のオペラ化、カテゴリー的には2.5次元。ミュージカル、ストレートプレイは数多くあるが、2.5次元オペラはほぼ、これがお初かもしれない。そして2021年は沖縄諸島周辺で伝承されてきた伝説上の生物、妖怪キジムナーが登場する「キジムナー時を翔ける」。2022年は「ミスター・シンデレラ」、大学でミジンコの研究をしている“くそ真面目”な学者、伊集院正男が、間違って蜂の性ホルモンを凝縮したジュースを飲んで絶世の美女に変身してしまう、という抱腹絶倒のストーリーだ。
出だしはどこにでもありそうな光景、主人公・伊集院正男は大学でミジンコの研究をしている。研究家といえば、聞こえはいいが、早い話が”ミジンコ”オタク、風貌も冴えない、ダサい、真面目だけが取り柄を絵に描いたような男。彼の妻・薫はミツバチを研究している、つまり、DINKS、共働き夫婦。

だが、最近は倦怠期、どうしようもない格好で寝ている夫、見た目はガッカリ。妻は出かける。正男は少々疲れていたので、冷蔵庫を物色、栄養ドリンクを発見、”元気だそう”と言うことで飲んだ…ところがこれは栄養ドリンクじゃなかった、と言うのが騒動の発端。なんと女王蜂の性ホルモンだった!!
正男は潮が満ちると赤毛の女性に、そして干潮になると男に戻る。だが、単純に男になったり女になったりするわけじゃないのが、この作品の面白さ。
赤毛の女性は正男とは正反対な性格、勝ち気で、美貌、ナイスバディ。正男にある考えが浮かぶ。赤毛の女になって垣内教授に近づくというもの。そしてホテルにいるところを薫が見たら、垣内に対する想いがなくなるだろうと。そうししたら元の男に戻る、と。だが、赤毛の女はそれを望んではいなかった。女のままで垣内と一緒になれば、何不自由なこともない。さらにしたたかに正男に男に戻ることを諦めさせるために策略を練る。

 

そんな赤毛の女に垣内が一目惚れしたからややこしくなる。正男、薫、赤毛の女、垣内の4人の恋愛模様、そしてバトルの要素もあり、ファンタジー要素もあり、現代のシニカルな御伽噺と行った風情。
また、現代的な問題、世代間の考え方の相違、正男の両親、保守的な考え方の持ち主、薫のことでやや不機嫌。「子供はまだか」「掃除ができていない」、専業主婦が当たり前だった時代は主婦は家にいて掃除や洗濯、料理をきちんとこなすのが普通だったが、今や共働きは普通のこと、また、主婦ならぬ主夫もいるのが現代。つまりジェンダー、男女の役割分担の問題をコメディタッチで提示する。また、正男と赤毛の女、正男は内気で冴えない、赤毛の女は強く、勝ち気。ここでも男女の在り方が問われている。つまり、かつては男は「カッコよく、強く」、女性は「慎ましやかで、静か」というステレオタイプの理想像があったが、それを男女逆転させている。「男らしさ」「女らしさ」、現代は多様化されており、そういった価値観は過去のものになりつつある。正男の両親はまだ、過去の価値観を基準にしており、薫に対して姑のハナは鹿児島弁で悪態をつく(薫には意味がさっぱりわからない)。

さらに「シンデレラ願望」、赤毛の女は垣内と結婚すれば、”イケメンと結婚した私”、”お金がある”、薫はパッとしない夫と垣内を比較し、心揺れる。だが、結局は赤毛の女も薫も垣内を選ばなかった。正男は赤毛の女として”上がり”の人生を捨て、元の自分に戻り、薫も正男の良さに気が付く。両者にとっての『王子様』は垣内だったが、結局『王子様』を選ばなかった。そこも注目すべきポイントだ。
物語に直接絡まないキャラクター、同じマンションに住むマルちゃんのママ、ファッションが!もしもマルちゃんのママと同じマンションに住んでたら…多分、関わらないようにするだろう(笑)。大学院のお局、マミ、ルミ。ユミ、垣内教授のファン、騒々しい3人組。パーティの席での垣内を巡ってのバトルは注目。

同じく大学院の卓也(たっくん)と美穂子(みぽりん)、大学院内でイチャイチャするシーンはクスリと笑えるし、さらに正男を”地味でミジンコみたい”からかうが、今時なカップル、正男の地味さをいやがおうにも際立たせる。

基本、コメディなので、ドタバタシーンも多く、キャラクターの仕草で大笑いしたり、くすくす笑ったり。満潮と干潮が変身のポイントと知る前は、元に戻ったことに気がつかないで女装のまま、正男が薫や両親の前に姿を現してしまうシーンがあるが、ここは抱腹絶倒、霰もない姿の正男、薫には「変態!」と言われ、両親はボーゼン、そして息子が変態になったのは嫁のせい、と思ったり。

正男役は、ここで体を張って!!おバカを大真面目にやればやるほどに面白く!お局3人トリオの自己アピールぶりも、コントの様相で客席から笑いが起こる。また四重唱など、アンサンブルを多用し、ストーリーをテンポ良く進行させる。メロディも軽快なものが多く、楽しめる。とにかく難しいと思われがちのオペラだが、漫画のように気軽に楽しめる内容。また観たくなる楽しい作品だ。

インタビュー記事
https://theatertainment.jp/japanese-play/97411/

あらすじ
大学でミジンコの研究をする正男と、ミツバチを研究する薫(かおる)は共働き夫婦。
正男は薫が持ち帰った女王蜂の性ホルモンを誤って飲み、潮の満ち引きに合わせて男と女が入れ替わる体になってしまう。
一方、薫は新しい農学部部長の垣内教授に心を寄せるが、垣内は女になった正男に一目惚れ。 男二人に女二人の奇妙な三角関係の決意や如何に!?

概要    ※公演終了
日程・会場:2022.2/19(土)、2/20(日)各日14:00 新宿文化センター 大ホール
指揮:大勝秀也
演出:高木 達
作曲:伊藤康英
出演
伊集院正男:山本康寛(2/19) 海道弘昭(2/20)
伊集院薫:鳥海仁子(2/19) 別府美沙子(2/20)
垣内教授:山田大智(2/19) 村松恒矢(2/20)
伊集院忠義:江原啓之(2/19) 清水良一(2/20)
伊集院ハナ:きのしたひろこ(2/19) 吉田郁恵(2/20)
赤毛の女:鳥木弥生(2/19) 佐藤 祥(2/20)
卓也:松原悠馬(2/19) 高畑達豊(2/20)
美穂子:神田さやか(2/19) 岡本麻里菜(2/20)
マルちゃんのママ:鈴木美也子(2/19) 座間由恵(2/20)
マミ:山邊聖美(2/19) 伊藤香織(2/20)
ルミ:高橋香緒里(2/19) 山口なな(2/20)
ユミ:遠藤美紗子(2/19) 安藤千尋(2/20)
合唱:日本オペラ協会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

特設サイト:https://www.jof.or.jp/performance/2202_cinderella/

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