西村成忠×湯川ひな×広田亮平×黒河内りく:出演×荒井遼:演出 TALK 「BLINK」

1977 年生まれの英国の劇作家フィル・ポーターによる「BLINK」(瞬き、きらめきの意味) は、二人の登場人物が一風変わったラブストーリーを紡いでいく作品。2012年にロンドンで初演、大ヒット。日本初演となるこの度、はかなく切ない青春を描いた本作にふさわしく、若手演出家と注目の若手俳優による上演が実現。
演出は『ダブリンキャロル』(コナー・マクファーソン作 出演:首藤康之、山下リオ、小日向 星一)、『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』(シェイクスピア原作・ベン・パワー作 出演:土居裕子、大森博史)などの荒井遼。
出演は、映画『ソロモンの偽証』で映画デビューし、今回が初舞台となる西村成忠。サンダンス映画祭短編部門グランプリ『そうして私たちはプールに金魚を、』(長久允監督)や ドラマ『FM999 999WOMEN’S SONGS』にて主演を果たし、多方面から注目を集める湯川ひな。
舞台『吾輩は猫である』(ノゾエ征爾演出)、タクフェス『天国』(宅間孝行演出)などの舞台の ほか、大河ドラマ『真田丸』など数多くのドラマ、映画で活躍する広田亮平。映画『エッシャー通りの赤いポスト』(園子温監督)で 700 人の中から抜擢されヒロイン咲切子 役でデビューし、今後の活躍が期待される黒河内りく。二人芝居、2チームで上演される。
このキャスト4名と演出の荒井遼さんのトークが実現した。

――そもそもこの作品を上演しようと思ったきっかけは?

荒井:あらすじを見て、面白いかなと思って買ってみたのがきっかけですね。ショッピングサイトでたまたま見つけたんですよ。ちょうどコロナの第1派の時期でした。ベタベタしすぎない人間関係が現代的でいいかなと思いましたが、寝かせていた企画でした。

――確かに、役者さん2名しか出ないですものね。

荒井:はい。2人しか出ないし、ちょっと変わった話でもありますし。でも、孤独感とか、若い人が共感できるような部分が多いんじゃないかなって。

――昔はいわゆるトレンディドラマとかに描かれるような、すぐに合コンしたり、べったりしたのが当たり前でしたけれども。今でいうマッチングアプリでも違うけど同じようなところもあって。

荒井:なんとなくそうですよね!誰かに一緒にいてほしいけど、でも……みたいなところが絶妙で、それで選んだんです。会話ではなく語りで物語が進むところもあるので、役者さんが大変です。勿論、演出も含めてですが。そこが見どころでもあります。

――それでは、演じる側の方にお伺いしますが。実際、この台本を読んでみてどうでした?

広田:最初読んだとき自分の感情をそのまま声に出して喋り続けるところが多い印象を受けました。彼女と一緒にコミュニケーションを取りながらも自分の世界の中にいるような…区切りがあいまいなところがあるので、演じていて難しいと思います。台本を読むたびに新たな発見がある感じですが、稽古をしていくうちに変わっていくのかなとも思います。

黒河内:私もそうですね。自分の中で会話をするところとか、そうでない、自分語りとの区別がつけられなくなることもあります。たまにジョナと交わさないといけないところも忘れてしまったりしています。でもそういうときに、広田さんが私の方に来てくれたりとか、客観的に、演出から、あるいは周りの方々が導いてくださるので。「ここはもっとこうしていいよ」とか。それで初めて「こうやってもいいんだ」と自分の自信にもつながってきているので。いま毎日、新しい学びと発見ができて楽しいです。

湯川:脚本を読んだときにまず、ソフィという役柄の特徴、存在感を感じられないとか、孤独の感じ方にすごく共感できて、キャラクターがすごく好きになったんですけれども、稽古を始めていくうちに、俳優が喋っていないところ、ほぼないなとも。物語の中で自分をどうやって変えていくかというのを理解していないといけないし、観たお客様もそれがわかるように、頭に入っていくように伝えなければならない。ただ感情だけでやるお芝居ではなく、ちゃんと言葉を自分の中に入れていくことをしないといけないと思うと、難易度は高いなと思います。なので、すごくやりがいを感じているところです。

西村:僕は今まで映像のお仕事が中心で、今回が初めての演劇なので、経験や知識がまだまだ修行中なところもあるんですが…今回のこの台本は相手役とのコミュニケーションが大切だなというのを感じています。相手の響き合いというんでしょうか、そこを今まで100%でやっているのかと、この台本によって問いかけられているような感じ。相手をちゃんと見るということすら今までしてこなかったかも、とも思えてきています。相手を通して、写し鏡にして結局自分を見ていたんだなと改めて思ったこともありまして、そんな発見が毎日あります。他のアプローチはないだろうかと模索したり、その末に芝居として昇華できたら新しいステップに進めるような、自分なりの武器が手に入れられるなと思いながら、稽古場で奮闘しているところです。

――ジョナとソフィは、生い立ちがそれぞれ複雑ですよね。日本では馴染みのない宗教についても描かれていましたし。それを踏まえると役作りについてはどうなんでしょう?

荒井:なかなか珍しいですよね。どこかから出発する。ということを大切にしていこうと思っています。外と閉ざされているコミューンで育ち、孤独感を感じている男の子と、一般的な生活はしているんだけど存在感に悩みアイデンティティを持てない女の子の話。そこが普遍的なところだと思います。どう一歩進むか。というのをやれるといいのかなと。青春を描こうと考えています。青春がずっと魅力的なモチーフである理由は、だいたいのことが初めてで、どう対応していいかわからない人を描くからなんですよね。同世代は共感できて、大人は観ていていじらしい部分、もう取り戻せない部分(笑)がまた魅力的になるんですね。

広田:宗教観や、ジョナがどう人生を生きていくのかが、僕自身のこれまでの経験にはないことなんです。その中でどれだけ自分との共通点を見つけられるかを今探っているところ。若いがゆえに突っ走って、形は違えども、恋愛したり、戸惑ったり。根底にある感情を自分が拾って、いかにジョナに重ねられるかが重要な課題だなと思っています。稽古をしている中で、悩むことがたくさんありますから。これから稽古を重ねてどう変わっていくのか、自分でも楽しみにしています。

黒河内:生い立ちとかに関しては、たしかに自分とはまったく違うのでどう演じるのかなという不安はありました。台本を読んで、共感できる部分のほうが印象が強かったので、例えば孤独を感じる、あるいは新しい感覚にドキドキワクワクするところであったり。そうした部分は自分にもあるなと感じたから、そこから、だんだんとソフィという人物を分かってきたかなと思っています。実際稽古に入ってからは、小道具とかを見て、これが私(ソフィ)が大切にしていたものなんだなと、より実感できるように進歩しました。新しい感覚が芽生えた感じですね。

湯川:私が拠り所にしているのは、すごく自分を愛してくれた人が亡くなってしまったことを抱えながら生きていくというソフィの設定です。ジョナと出会うにつれて、どんどん前進しようと思うんだけど、やはり亡くしたときの悲しみが消えるわけではなくて、たまに思い出したりすることもある、そういう誰しもが持つ心の傷というものがあるなと。その傷はいつか絶対なくなるわけではなく、向き合わなくてはならないんだというのを考えさせられるというか、そこが現実的だなと思います。

西村:僕としては、ジョナ自身とカブる部分が多くて…幼少期はキリスト教の学校に通っていましたから、礼拝もしていました。当時のことを少し思い出したり…とはいえ、なにか一つの宗教に重きをおくという生き方にはなっていないんですけど。今、ここにきて小さい頃の経験が繋がったりするんだなと、不思議に思ったりしています。彼の持つ、自分から外へと飛び出していくというのがちょうど僕みたいで(笑)。今まで構築してきたやり方を出そうとしても「なんかそうじゃないな」と。その殻から一歩飛び出るという機会だなと読むたびに思います。ジョナは超えていっているけど、僕は新しい自分を表現できているのだろうかと。今、一緒に歩んでいる感じです。

――今回、2チームでやろうと思ったのはなぜ?

荒井:みなさん未知数で、個性も様々なところが面白く、刺激を受けます。変化、進化が楽しみです。2チームあるとお互いが刺激になったりもするし、揺らいでいる姿が魅力的になるかなと。仕上がりにもバリエーションを持たせられるなと思っていたんですね。ちょっと質が違う2チームになっているように目論んだんですけれども。

――それぞれのチームのカラーが見え始めている?

荒井:そうですね。西村くんと湯川さんのほうが陰が深い感じがします。広田くんと黒河内さんのほうはピュアさが強いかな。でも両方がこの台本には必要な要素ですし、その匙加減がそれぞれ違うところが面白みだと思っています。一言セリフ言って歩くだけでも演じる人が変わればまったく違いますからね。歩き方ひとつとってもすごく違うので、だんだんやっていくと動きもそれぞれ変えたくなってくるんです。だけど、照明が大変なことになってしまいますから(笑)。どの塩梅にしようかと考えながら作っているところです。若い役者さんは稽古で沢山の変化がありますからね。そんな時期にご一緒できるのは、すごく光栄ですし個性を存分に活かした作品を作っていきたいなと思います。

――今回の作品だと、舞台上何もなかったりするのかと一瞬思いました。

荒井:いえ、多少は小道具を用意していますね。とはいえ、言葉で語り、想像させることが大前提だと思っています。演出的にはOHP(オーバーヘッドプロジェクター※)って昔あったと思うんですけれど、あれを何台も設置していて、役者さんが操作します。なかなか今どきOHPって見ないので、それが沢山あるだけでもなんか変な感じの絵面だと思います、ご期待ください(笑)。

――小学生の頃は学校にありましたが、それ以来見たことがないですね(笑)。

荒井:俳優さんたちも、みんな見たことなかったって言ってました(笑)。OHPで表現するのは抽象的なものが多くなると思います。

――実際立ち稽古してみて、気づいたことは?

広田:2人芝居なのでお互いセリフ量が多くて長いので、相手が喋っている時間に僕がどういう動きをしているのか、そこで、その役の普段の生活感や個性が出てくるかなということに気づきました。少し動いてみることで、ジョナがどういう感情だったのかというのを自分の中で繋げられるきっかけにもなります。それが本読みだけではわからないところだなと思いました。

黒河内:舞台はあまり経験がなく、今回が2回目。普段は映像をやっているので、それとは違って、見えているのが一面ではなく頭からつま先までなのでごまかせないし、何でもバレてしまうなという怖さがありつつ、実際にソフィーと心情がリンクしたときはある意味自由になれる。その楽しさを感じ始めていますね。こういう面白さが舞台なんだなと日に日に思います。

湯川:この舞台は場面転換がすごく多いなと思っています。セリフを1言言ったら、すぐに違う場面になっているシーンも珍しくなくて。それを身体で一つひとつ表そうとしてもなかなかうまくいかないこともあるし、ただ動きをなぞるだけだと面白くないし。もっともっと抽象的な身体の表現をしていかないといけないんだと思うと、言葉で言っていることのリアルさとはまた違った表現が必要で。楽しくもあり、その反面「プランがもうない」と思うくらい、引き出しがまだ足りていないところに未熟さも感じたりしています。

西村:台本を読んでいたときに組み立てていたプランが、実際動いてやってみると通用しないことも。動き1つとっても意味をなしていないなんてザラで、毎日困難の連続。どこをどううまくやっていけばいいのかなと思うことからも離れないといけないのかなと模索しています。もっと相手とピュアな気持ちを持ってぶつかっていかなくてはと、思っております。

――それでは、最後にメッセージを。

荒井:誰しも共感できる青春ドラマです。だから変に小難しく考えないで観てほしいなと思いますね。若い方も、大人の方も。間口が広い芝居じゃないかなと思います。ぜひ劇場に足を運んでいただければ。

広田:表現の仕方がとてもたくさんあります。単純にストレートなお芝居じゃないように見えても根底には若者の愛情、葛藤、孤独感があって、誰しもが持っている感情やテーマがところどころに散りばめられています。そこを一番に伝えていきたいです。チケット1枚で2名ご覧になれますので、気軽にみなさんに観に来ていただき、楽しんでもらえたらと思っています。

黒河内:今の時点で、こういう舞台になるとはまだ言えない段階ですが。それぞれのチームも模索中とはいえ、きっと色がちがう2チームになると…ダブルキャストの魅力、両方観ていただいて、ご感想を聞いてみたいなと思います。

湯川:私も経験がたくさんあるわけではないので、観ていただく方にすごいものを見せるというよりは今ちょっとずつ積み重なっているものを、今の私たちができうる等身大のものを精一杯をお届けしたい。そこに何かを感じていただければうれしいです。

西村:僕にとっても新しい挑戦なので。ここ数年、新しいことに挑戦し辛い時期でもありましたし、とくに観に来ていただく方には、新しいものへ飛び込むことは楽しいことであって、挑戦って素敵なことなんだよというのを、そういう気持ちになっていただけるとすごく演じた甲斐があったなと思えると思います。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

※テキストを含む画像を聴衆に提示するための表示システムの一種。

物語
世間知らずで一途なジョナ。なかなか自分の存在を認められないソフィ。二人は偶然にも同じような人生経験をしている。二人とも最近、親を膵臓がんで亡くしたのだ。自給自足の宗教コミューンで育ったジョナは、コミューンを抜け出し自立しようとする。父を亡くして一人ぼっちになった
ソフィは、悲しみを吹っ切ろうと父の部屋を改装して貸すことにする。やがてジョナがその部屋に
引っ越してくると二人の“出会わない”奇妙な関係が始まり……やがて惹かれ合っていく……。

概要
『BLINK』
日程・劇場:2022年6月24日(金)〜7月3日(日) あうるすぽっと
作 フィル・ポーター 翻訳 大富いずみ 演出 荒井遼
出演: (ダブルキャスト) 西村成忠 × 湯川ひな 広田亮平 × 黒河内りく
美術 牧野紗也子
照明 榊美香(正しくは木へんに神)
音響 小林遥
衣装 伊藤正美 上杉麻美 舞台監督 深瀬元喜 宣伝美術 宇野奈津子 制作 吉越萌子
制作協力 MAパブリッシング
企画・製作:幻都
日程・劇場:2022年6月24日(金)〜7月3日(日) あうるすぽっと
入場料金 3,500円(全席自由・税込) 未就学児入場不可 (チケット1枚で2名様がご観劇頂けます。)
公演に関する問い合わせ
info01gento@gmail.com
03-5791-1812(MAパブリッシング)
公演ホームページ:https://theatertheater.wixsite.com/blink2022
twitter:https://twitter.com/GEN_TO_play
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし