およそ2年間の準備期間を経て、2019年4月に韓国で初演を迎えた本作、開幕後「舞台、照明、映像の恍惚な三位一体」 「実際に宇宙の中にいるような感覚」、「皆が嘘を盲信する中、真実が言える人になれる勇気を与える作品」など、評論家や観客から好評を博した。その後、2020年8月に再演。同年10月に2カ月の延⻑公演を行い、本年、2022年7月26日〜10月16日に再び韓国で上演されることに。
また、今年の夏には中国人キャストによる上海公演も決定しておりアジア全域で話題のミュージカル。
本作で披露されるミュージカルナンバーは全15曲。 音楽もこの作品が愛される要因のひとつ。
全編に散りばめられた楽曲は美しく、耳に残るメロディーは神秘的で 幻想的な雰囲気を舞台上に繰り広げ、星明かりの浪漫と温かさが溢れる壮大な世界を創造する。
登場人物はガリレオ、ケプラー、そしてガリレオの娘のマリアの3人。ゲネプロではガリレオ役(財木琢磨)、ケプラー役(少年T)、マリア役(富田麻帆)。
最初に登場するのはマリア、聖書の創世記の有名な一節、「はじめに神が天と地を創造された」、そしてマリアは修道女、黒い服に十字架を胸に。「全能の主と全ての聖人たちに誓います」。それからケプラー、ガリレオが登場する。マリアの手には手紙、「手紙を燃やしてくれ」、父の言葉、その手紙の差し出し人は全てケプラーだった。マリアはなぜ、この手紙を燃やさなくてはならないのかわからない。「知らなくては…」と言う。
音楽と共にストーリーが動き出す。舞台上のセットは宇宙を彷彿とさせてくれる。時間が遡り、ケプラーがガリレオに手紙を書くところから始まる。「失礼を承知で手紙を書きました」と歌うケプラー。ガリレオは困惑する、「あなたが何を言っているのかわからないが、これだけは申し上げよう。紙の浪費はおやめなさい」とガリレオの手紙を読むケプラー。無理もない、いきなりよくわからない手紙をもらったガリレオ、だが、ケプラーはテンションアゲアゲ、どんどん手紙を書く。史実でもケプラーはガリレオにせっせと手紙を書いていたが、ガリレオは実際には2回しか返事を出していないそう。勝手に「宇宙の神秘」(1596年に出版)と言う本を送りつけるケプラー。
ガリレオは手紙が来るたびにクシャクシャにする。この落差がビジュアル的に面白い。難易度の高い歌を歌いながら、スピーディーに物語が進行する。ケプラーは歩きながらガリレオに近くなっていったり。ガリレオは敬虔なローマ・カトリックの教徒、「聖書を読め」とガリレオ、だが、ケプラーは意に介さない、「聖書の言葉は私の考えとはかなり違うのです」と言う。当時、聖書に書かれていることを否定しようものなら、大変なことが待っている。それでもケプラーはやめない、彼の探究心、あくなき追求。ガリレオはケプラーの熱量によって少しずつ変わっていく、コペルニクスの本を取り上げ、計算を始める、太陽が地球を回っていたら解けないが、地球が太陽の周りを回っていたら…答えが…「今までの計算は間違っていた」とガリレオ。
真実を突きとめたい、科学者、研究者の性。ケプラーはとにかく明るくポシティブ、舞台上で元気に動き回り、歌う。ガリレオはクールで己の立場をわきまえている。だが、根っこは同じ、真実を探求し、向き合うことを欲する。そんな二人のやり取り、基本的には”フィクション”だが、”そうだったかも”と錯覚させるくらいのリアリティも感じる。畳み掛けるような展開、歌に次ぐ歌、そして時折マリアが登場する。ガリレオが研究に没頭していく、「夜になるたび パパは部屋にこもった」と歌う。
舞台上を行き交う、時には離れたり、時には会話したり。この二人は実際には会っていないのだが、”もしも”と思う、科学や宇宙の研究はもっと早くに進んでいたかもしれない。紀元前4世紀のアリストテレスの時代からコペルニクスの登場する16世紀まで、地球は宇宙の中心にあり、まわりの天体が動いているという天動説が信じられてきた。そういう時代、しかも聖書は天動説を唱えている、とされていたが、実はキリスト教世界が天動説を受容したのは、それがキリスト教の世界観に一致したから。聖書自体には「天」と「地」があって、天には星がある、ぐらいしか書かれていない。彼らの、当時のカトリック教の基本理念は人間は神が作った特別な存在、だから地球もまた特別な存在だから地球が動くことはあり得ない、他の天体が回っているのだと言うこと、つまり天動説は『嘘』ということになる。だが、この時代、これを真っ向から否定することは到底できない。
これこそが『時代の壁』。ガリレオとケプラー、タイプは違うが、真実を知りたいと言う想い、それこそ命をかけて追求。これをミュージカル仕立てで、見せていく。そしてバリバリの修道女であるマリア、彼女はカトリック教の基本理念を否定できない、父がわからない。そんな苦悩をにじませつつ、父・ガリレオを”解いて”いこうとする。そして父が異端とされた原因の一つがケプラーであることを知る。
舞台上に宇宙、彼らは望遠鏡で宇宙を覗く、星が煌めく、舞台上に時折星が煌めく、史実でもそうだが、世界は変わらないように見えて実は少しずつ変わっている、常識だったことが、変わっていく、ドラスティックには変わらないが、彼らは真実と向き合い、前に進もうとする、そこには困難がつきまとう。だが、ガリレオとケプラーは、そこで止まったりはしない。真実を知ったからだ。知らなかったことを知ること、いつか真実が伝わることを信じる心。「生きてこそ真実を伝える」ラストの景色は美しい。
ガリレオ・ガリレイ役を演じた財木琢磨、ガリレオが一人歌い上げる場面では堂々たる歌唱、そして悩みながらも真実を知ろうとする姿を熱演、またケプラー役の少年Tはコミカルな雰囲気を湛えながら、超前向きでガリレオにアプローチし続ける姿は愛らしく、そして情熱的に演じきった。マリヤ役の富田麻帆は地動説を唱える父、自分自身は修道女、難しい立ち位置にいる、その苦しみを心揺さぶる歌で表現する。
多彩で難易度も高い楽曲、シンプルながら、観客の想像力を刺激する照明、そして舞台中央に太陽とおぼしき球体、そこで起こるドラマ、アナログな演出手法で提示。ミュージカルから発せられるメッセージ。己を信じ、真実を信じ、未来を信じる。普遍的なメッセージはキャッチーな音楽によって心に届く。なお、クアトロキャストなので、チーム毎のカラーが異なるが、そこは劇場で。また、配信も決まっているので、Huluストア、ドワンゴで。劇場に足を運べない方はこちらで。また、公演終了後、イベントも用意。詳細は公式HPを。
取材会には12人全てのキャストが登壇した。
「カシオペア」チーム、ゲネプロを終えたばかり。ガリレオ役・財木は、「やっとここまで来たかという達成感はあります」と語り、そして「落ち着いてトップバッターとして初日を迎えられれば」とコメント。ケプラー役の少年Tは「全力で演じたばかりで涼しい顔をしていますが、衣装が暑くって!すぐにでも脱ぎたい(笑)」と語る。マリア役の富田は「ゲネプロを終えて、すぐなので、またフレッシュな気持ちで」と笑顔。
「ペガサス」チームのガリレオ役、鮎川は「ひとつひとつ魂を込めて大切に表現することを心がけて。セットも楽曲も作品もとても良いので、お楽しみに」とコメント。ケプラー役の神永は、「歌の面で、すごくしごかれてたくさん練習しました。3人で歌う部分は、円を作って手をつないで練習してきたので、それが結果として出ればいいなと」と語るが、ほぼ歌で綴る印象。マリア役の七木は「お客さんが入って、対面して届けようとするときに、さらに熱量の変化があるのでは?」とコメント。
「ペルセウス」チームの魅力、ガリレオ役の井澤は、「ケプラー役の吉田広大とは、7年8年の仲で、一番仲のいいアーティスト。そこにマリア役の磯部さんが交わり、 良いチーム感を表現できたら」と語る。吉田も「仲が良いからと言って、なあなあになることなく、切磋琢磨できた」と。磯部も「2人が長く仲が良いということで、どうやって中に入っていけばいいかと思っていましたが、最初からウェルカムで楽しく稽古できた」と語った。
「オリオン」のガリレオ役の石井は、「このチームの強みは、俺です」と笑わせ、「3人とも感覚が似ているのも強みかも」と語り、ケプラー役の小野塚も、「強みは、僕です」とさらに(笑)。「3人とも感覚が似ているので、誰かが浮いてしまうシーンがない。僕より2人の歌唱力の安定感があるので、僕はそこにのっかって、その安定が強みかな」と答えた。マリア役の石川は、「強みは私?」と言ったあと、「自主稽古をやりたいんですとお願いしたりして、3人で話し合って結束を強めることが…おふたりの歌声が大好き、歌も聞いてほしい」とコメントした。
最後に財木が「全公演パワーを届けることで、観てくれた方の日々の活力になればうれしい」と締めくくった。
CAST
ガリレオ:石井一彰、鮎川太陽、井澤勇貴、財木琢磨
ケプラー:小野塚勇人、神永圭佑、吉田広大、少年T
マリア:石川由依、七木奏音、礒部花凜、富田麻帆
物語
修道女マリアは、父親のガリレオから自分の部屋に隠してある手紙を燃やして ほしいという、一通の手紙を受け取る。 その手紙の差出人は全てケプラーという聞き慣れない名前であった。 太陽が地球の周りを周回すると信じられていた1598年、数学者でイタリア の大学教授でもあるガリレオは、ドイツの数学者ケプラーから「宇宙の神秘」 という一冊の本とともに宇宙への研究を提案される。 ガリレオは一度は断ったものの、粘り強いケプラーの説得により、彼の仮説が 間違っていることを証明するための研究を行う。 そうした中、言及することさえもタブー視されていた「地動説」の論拠を示せば、 とんでもないこの仮説が正しいかも知れない・・・という結論を下すことになる。
概要
公演タイトル : ミュージカル「シデレウス」
公演日時:2022年6月17日(金)〜6月30日(木)16回公演予定
会場: 自由劇場
作/作詞:ペク・スンウ
作曲/作詞:イ・ユジョン
※上演時間は約110分(予定) 休憩なし
日本版台本/演出:田尾下哲
日本語翻訳 / 訳詞 : 安田佑子
音楽監督 :宮﨑 誠
アシスタントプロデューサー : 津幡未来
プロデューサー : 石津美奈
エグゼクティブプロデューサー : 家村昌典
主催/企画/制作 : LDH JAPAN
公式ホームページ : http://musical-sidereus.jp
公式Twitter : @sidereus_jp
BOOK & LYRICS BY SEUNGWOO BAEK MUSIC & LYRICS BY YOUJEONG LEE ORIGINAL PRODUCTION BY RANG Inc.