二人の登場人物が一風変わったラブストーリーを紡いでいく作品、英国の劇作家フィル・ポーターによる「BLINK」(瞬き、きらめきの意味)が上演中だ。
2012年にロンドンで初演、大ヒット、日本初演。はかなく切ない青春を描いた本作、演出は『ダブリンキャロル』(コナー・マクファーソン作 出演:首藤康之、山下リオ、小日向 星一)、『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』(シェイクスピア原作・ベン・パワー作 出演:土居裕子、大森博史)などの荒井遼。
出演は、映画『ソロモンの偽証』で映画デビューし、今回が初舞台となる西村成忠。サンダンス映画祭短編部門グランプリ『そうして私たちはプールに金魚を、』(長久允監督)や ドラマ『FM999 999WOMEN’S SONGS』にて主演を果たし、多方面から注目を集める湯川ひな。
舞台『吾輩は猫である』(ノゾエ征爾演出)、タクフェス『天国』(宅間孝行演出)などの舞台の ほか、大河ドラマ『真田丸』など数多くのドラマ、映画で活躍する広田亮平。映画『エッシャー通りの赤いポスト』(園子温監督)で 700 人の中から抜擢されヒロイン咲切子 役でデビューし、今後の活躍が期待される黒河内りく。二人芝居、2チームで上演される。
舞台にはベッド、椅子などがアトランダムに置かれている。舞台後方にスクリーン、音楽の後、舞台が明るくなり、男女が走って登場、女性がボールを持っていて、それを取ろうと男性が追いかけている。そのボールのやりとり、恋愛映画のワンシーンのよう。男性はジョナ、女性はソフィ。それから、ジョナのモノローグ「本当にあった話だ」と。続いてソフィは「歯茎が疼いて寝れなくなった」と言う。スクリーンに映し出される、歯茎の部分のレントゲン写真と目の構造を描いた絵。これはOHPでうつしている。かつて小学校などで授業に使われていた、ヘッドプロジェクターと呼ばれるもの。二人は交互に自分の生い立ちや家族のことを言う。時々、ソフィ、ジョナは違うキャラクターを演じる。服を着替えたりするわけではなく、ふわっとした印象。ジョナとソフィ、少しずつ距離を縮めていくが、ここは一筋縄ではいかない。ソフィが箱を持ち上げる場面、底が抜けて最大に音を立ててが中身出てきてしまう。
そこでジョナは知る、「僕は彼女の居場所を知った」と言う。ソフィの後をつけるジョナ。二人はなかなか出会わない、むしろどこか出会わないのを楽しんでいる節もある。公園、地下鉄、同じ所に行くも、隣同士にはならず、だが、互いの存在を意識し、知らず知らずのうちに好意を持つようになる。”追いかける”、”追いかけられる”、一種の寓話のようだが、恋愛というのは追いかけ、追いかけられるところがある。脳内で冒頭の出だし、ボールを持って追いかける、追いかけれるオープニングが浮かんでくる。そして、決定的な出来事が起こり、二人は共にいるようになっていく。
一見、特殊な物語にも見えるが、ピュアな恋愛、出会い、出会っていきなり、ではなく、不器用な方法で距離を縮めていく二人。後半でその二人が決定的に恋に落ちた、と思わせる場面があるが、そのあと、客席を見て、『え?』というような舞台の空気感は一瞬、虚構を飛び超える。OHPの映像がレトロ、二人のシルエットで、二人の居場所を提示したり。昨今のプロジェクション・マッピングなら、もっとリアルに分かりやすく見せるのかもしれないが、ここではアナログ的であり、象徴的。距離感を保ちつつの二人の関係、世間を知らない環境で育ったジョナ、自己をなかなか肯定できないソフィ、一見、変わった生い立ちのようにも見えるが、ところどころ共感できるものを見出すことができる。
そんな二人の生い立ちから出会い、関係性を築くまでの過程が愛おしく、また、シンパシーも感じる。揺らぎながら、近づいていく二人。ラストシーンは明るく、きっと、このままゆらゆらしながら二人は日常を過ごすのだろうという印象。もちろん、捉え方は人それぞれ。タイトルの『BLINK』、意味は動詞なら点滅する、ちらつく、きらめく。名詞なら、まばたき、一瞬、わずかな間、明滅、きらめき。心がきらめいたかと思えば、点滅する、まばたきしただけで、映る景色がちょっと変わってたり。
2チーム、西村成忠 × 湯川ひな、広田亮平 × 黒河内りく。どちらも今風の普通なファッションで登場するが、つまり、実は身近な物語、世代によって捉え方は変わるかもしれないが、そのどれもが『正解』。人と人との関係、恋愛に不正解はないのだから。公演は7月3日まで、一名分のチケットで二名入場できる。客席は大体が、二人一組で座っており、終演後は舞台セットを撮影できるので、記念にスマホで。
<インタビュー記事>
物語
世間知らずで一途なジョナ。なかなか自分の存在を認められないソフィ。二人は偶然にも同じような人生経験をしている。二人とも最近、親を膵臓がんで亡くしたのだ。自給自足の宗教コミューンで育ったジョナは、コミューンを抜け出し自立しようとする。父を亡くして一人ぼっちになった
ソフィは、悲しみを吹っ切ろうと父の部屋を改装して貸すことにする。やがてジョナがその部屋に
引っ越してくると二人の“出会わない”奇妙な関係が始まり……やがて惹かれ合っていく……。
概要
『BLINK』
日程・劇場:2022年6月24日(金)〜7月3日(日) あうるすぽっと
作 フィル・ポーター 翻訳 大富いずみ 演出 荒井遼
出演: (ダブルキャスト) 西村成忠 × 湯川ひな 広田亮平 × 黒河内りく
美術 牧野紗也子
照明 榊美香(正しくは木へんに神)
音響 小林遥
衣装 伊藤正美 上杉麻美 舞台監督 深瀬元喜 宣伝美術 宇野奈津子 制作 吉越萌子
制作協力 MAパブリッシング
企画・製作:幻都
入場料金 3,500円(全席自由・税込) 未就学児入場不可 (チケット1枚で2名様がご観劇頂けます。)
問合: info01gento@gmail.com 03-5791-1812
WEB:https://theatertheater.wixsite.com/blink2022
撮影:阿部章仁