2023年5月、愛知県芸術劇場とDance Base Yokohamaは、神奈川県民ホールと連携し、演出家・振付家のクリスタル・パイト 率いるバンクーバーのカンパニーKIDD PIVOT(キッドピボット)を招聘し、『REVISOR』(読み:リヴァイザー/邦題:検察官)を愛知で上演し、無事に終幕。横浜の神奈川県民ホールにて公演を迎えた。パイトは、2019年のNDT (ネザーランド・ ダンス・シアター)来日公演で大きな話題を呼んだ『The Statement』の振付家で、自身のカンパニーとしては2022年の 来日予定からコロナ禍のツアー中止・延期を経て、2023年が念願の初来日。『REVISOR』は、2022年にイギリス演劇界で最も権威ある賞と言われるローレンス・オリヴィエ賞最優秀ダンス作品賞を受賞した、いま世界でもっとも注目されている作品のひとつ。作品タイトルとなっている原作「検察官」は、ウクライナ出身の劇作家ニコライ・ゴーゴリによりロシア語で描かれた代表的戯曲で、1836年に5幕の喜劇として発表、腐敗政治がはびこるロシアのある地方都市における、検察官と人違いをめぐる騒動を描いた当時の役人への風刺を内容とした茶番劇。
KIDD PIVOTは、トラウマや依存、衝突、自我、死といった複雑なテーマを軸に、ダンスと演劇を両立させた作品を発表。その大胆で独創的な手法は国際的に高く評価され、ジャンルを問わず世界中のアーティストに影響を与えており、国際的な賞も多数受賞。所属ダンサーには、日本人では元NDT1の鳴海令那(なるみれな)がおり、クリスタル・パイト のダンスを体現できる優れたダンサーとして、NDT、KIDD PIVOTでのクリスタル・パイトとのクリエイションに多数参加。
本作では、鳴海令那やエラ・ホチルドを含む8名のダンサーが予め録音されたジョナソン・ヤングの脚本にあわせて踊る。前半の演劇的なシーンと後半の抽象的なダンスが展開されるシーンでその様相は大きく変わり、言葉と身体の密接な繋がりを通して、観客は現代にも通じる人間社会やそこに関わる人々の葛藤や滑稽さ、また堕落を目の当たりにしていくことになる。
セットは最小限、出だしは音楽とともに。だが、音楽はずっと流れているのではなく、ほとんどが録音された脚本、それに合わせてのパフォーマンス。演劇的で具体的、コミカルな動き、取材会では「漫画」という言葉が出たが、ダンサー陣の身体表現、形式的かつ独創的、原作になっている『検察官』は悪人は出てこないが、地方の権力者、しかし一皮剥けば”小市民”、取り違えられた青年も然り。自分たちの地位をKEEPしたい彼らの思惑や行動がビジュアル的にわかりやすく、ちょっと笑える動きもあり、いかに彼らが”虚しい”人生を送っているかがわかる。そして後半はセットがなくなり、文字通り、人間のパフォーマンスのみでの表現、わかりやすい衣装ではなく抽象的、照明が幻想的、かつ哲学的にも見える。人間の奥底、綺麗なものではなく、不穏で不安定さを醸し出すことによって”人間”そのものを見せている。そして録音された言葉、時には音楽的にも聞こえる。題材がゴーゴリの『検察官』、世界中で数えきれないほど上演されてきた作品、欺瞞、腐敗、それを単なる”茶番劇”として提示するのではなく、登場人物たちの奥底に見え隠れする心、言葉を超えて観客に提示する。その捉え方は人それぞれだが、難しく考えずに観たそのままを感じ取ることをお勧めしたい。
原作について
『検察官』は、首都から遠く離れた地方小都市を舞台に、市長を中心とするその街の一握りの権力者たちに起こった出来事を描いた作品である。
狡猾で無情な市長、無知で腐敗しきった役人たち、官金横領、収賄、下層市民への不当な圧迫、いろんな不正不義がそこではあたりまえのこととして行われていた。彼らは微行の検察官がやってくるという噂に慌て怯える。そこへたまたま、首都で小官吏であった青年が、カルタ遊びや放蕩で身をもちくずし文無しになり、故郷へ帰る途中で街の宿屋に投宿しているのを、彼らは微行の検察官に取り違えてしまう。市長はその青年のために盛大な歓迎会をひらき、賄賂を握らせ、自分の娘まで彼に与えようとする。思わぬ賄賂で懐をふくらませた青年は、正体を覚られぬ内にと、さっさと町を立ち去る。
手紙など平気で開封する郵便局長の手によって、青年が首都の友人に宛てた、自分の冒険を報じ権力者たちの阿呆さ加減を思いきり嘲笑している手紙が開封され、それが市長をはじめ集まっている一同に知らされ唖然としているところへ、本物の検察官の到着が告げられる、というところでこの劇の幕がおりる。
<Zoom取材会レポ>
クリスタル・パイト率いる KIDD PIVOT『REVISOR』コロナ禍のツアー中止・延期を経て、来る2023年5月、念願の初来日 合同取材会レポ
概要
KIDD PIVOT『REVISOR』
日程・会場
愛知公演
2023年5月19日(金)19:00開演(18:15開場) 愛知県芸術劇場大ホール(愛知芸術文化センター2階)
神奈川公演
2023年5月27日(土)18:30開演(17:45開場)、5月28日(日)14:00開演(13:15開場) 神奈川県民ホール大ホール
脚本:Jonathon Young (ジョナソン・ヤング) ※字幕あり
演出・振付:Crystal Pite (クリスタル・パイト)
台本:Nikolai Gogol (ニコライ・ゴーゴリ)『Revisor (検察官) 』より
出演:Rakeem Hardy, Rena Narumi(鳴海令那), Brandon Alley, Doug Letheren, Ella Rothschild, Greg Lau, Jennifer Florentino, Renee Sigouin
初演:2019年2月、Vancouver Playhouse カナダ、バンクーバーにて 上演時間:90分
企画制作・招聘:愛知県芸術劇場、Dance Base Yokohama 後援:カナダ大使館
公演特設サイト:https://kiddpivot.dancebase.yokohama/
©Tatsuo Nambu 提供:愛知県芸術劇場