梅田芸術劇場とイギリスのチャリングクロス劇場が共同で演劇作品を企画・制作・上演プロジェクトが始動した。イギリスのウエストエンドは世界的な演劇の拠点である。その中心部にあるチャリングクロス劇場は150年以上の歴史を持ち、オフウエストエンドの中で最も注目されている劇場の一つ。
この企画はチャリングクロス劇場の芸術監督であるトム・サザーランドの総指揮のもと、日本とイギリスの共同で公演を企画・制作し、演出家と演出プランはそのままに『英国キャスト版』と『日本キャスト版』を各国の劇場で上演。日本の演劇史上でも類い稀なるプロジェクトといえよう。その記念すべき一発目がミュージカル『VIOLET』というわけだ。
この企画の発表会が9月12日、都内で執り行われた。
登壇したのはトム・サザーランド (チャリングクロス劇場芸術監督、 『タイタニック』演出)と 藤田俊太郎 (『VIOLET』演出)。まず、梅田芸術劇場の取締役である村田裕子から、このプロジェクトのきっかけなどについて話があった。トム・サザーランドとの出会いは2014年のこと。ミュージカル『タイタニック』(2015年上演)でのミーティング。『タイタニック』という素晴らしい作品が300人の劇場でやっている、との情報を人づてに聞き「絶対に見なければいけない作品」ということで、そこから連絡を取り・・・・・という流れ。ミュージカル『タイタニック』の日本初演までの軌跡は、日本側、イギリス側の行動力によるところが大きい、という印象。「優れた作品は日本で上演したい」という情熱以外の何物でもない、つまり【志】だ。この作品以降、梅田芸術劇場とトム・サザーランドとの“タッグ”が誕生した。ミュージカル『タイタニック』、好評を受けて今年の秋に上演が決まっている。そしてトム・サザーランドを通じて多くのクリエイターを紹介してもらったそうだが、ここでいかに人と人との結びつきや情熱が大切かが、改めて実感できるエピソードだ。そして逆に日本のクリエイターもこういった活躍の場がないだろうか、と考えたそうである。そしてミュージカル『グランドホテル』の上演中にトム・サザーランドからチャリングクロス劇場の芸術監督になったとの報告を受け、そして彼から、これからはマネージング・ディレクターのスティーヴン・M・レヴィとどんどん新しいことにチャレンジしていくんだと聞いたそう。その時に人と人との結びつきで何かできるのでは?と考え、しかも、このチャリングクロス劇場は歴史も古く、新しいことに挑戦していく劇場とのこと。早速、トム・サザーランドに相談し、将来性のあるプロジェクトをやろう!と・・・・・『即断』で!双方の行動力の賜物といえよう。しかも一回コッキリでは・・・・・なので、継続性のあるもの、築き上げていくものもあるだろうということになったのは自然な流れ。5年で3プロジェクト、ミュージカルとかストレートプレイとか、そう言ったジャンルの垣根を超えて、のプロジェクト、トム・サザーランドからは「『これは、と思う作品を選ぶべきだ』と示唆された」と語る。また、現状ではロンドンで話題の作品をいざ日本で!となるとかなりの年月がかかってしまう。現状ではうっかりすると10年後、これではタイムリーではないということで、いわゆる『ナルハヤ』での上演を目指す。また、今回の作品は日本人の演出家によるロンドン初演、“商業”ということを考えるとかなりリスキーだ。しかし、これは大きなチャンスとも言える。なぜならそこには『挑戦』があるからではないだろうか。そして、藤田俊太郎に決まったのは梅田芸術劇場内部での“満場一致”であることが明かされた。というのは藤田俊太郎は故蜷川幸雄に師事し、イギリスの演劇事情の厳しさも知っている、といった理由で白羽の矢が当たったというわけだ。また藤田俊太郎の活躍に関しては、ここで紹介するまでもなく、ミュージカル、ストレートプレイなどで評価。またたまたま藤田俊太郎は初演の『タイタニック』を観劇していたそう。そしてぴったりの演目、それが、このミュージカル『VIOLET』というわけだ。日本の演劇界、いやエンターテイメント界でも大きな一歩になる作品になるに相違ない。
それからトム・サザーランドから改めて挨拶があった。ミュージカル『タイタニック』の初演以来、毎年来日しているそうで「演劇は人生のすべて、人生に常にあるもの」と語る。そして「舞台上で起こることは国際的言語」とコメント、つまり、演劇は国境を超える、ということ。そして「藤田俊太郎に会えて嬉しい」と語る。そして「国際的に作品を残していきたい」とコメントし、藤田の方を向いて「藤田さんには早くロンドンに来て欲しい」と熱烈ラブコール。それから藤田俊太郎が挨拶、なんと英語!メモを見ながらではあるが、そばでトム・サザーランドが笑顔で頷く。チャリングクロス劇場には何度か観に行く機会があり、「クリエイティブな空気と歴史ある建物に感銘を受けました」といい、ミーティングもとてもエキサイティングであったと語る。「劇場をバスに見立てて演出したい」と語るがかなり意欲的な作品になるのは間違いない様子。またトム・サザーランドは「現代にこそ大切な作品」とコメント。
アメリカのミュージカルをロンドンでプロデュースし、日本人の演出家が手がける。これだけでもチャレンジャーかつ国際的。企画段階で、すでに国境は超えている。さらにトム・サザーランドは「演出家が演出家に仕事を渡すのは、かなり稀なこと」と言い「大きな深みのある作品、藤田さんが扱ってくれることが嬉しい」と最大級の賛辞を送った。それを受けて藤田俊太郎は「ありがたいです。演出家として野心はあります。いい作品は現代を照らし出す鏡」と言い、続けて「トムさんは体験することを導き出せる数少ない演出家」とコメントした。
また藤田俊太郎は『VIOLET』と同じルートでバスに乗って旅もしたそうで、この体験も作品に反映されることは間違いない。
いずれにしても楽しみな公演、プロジェクト。梅田芸術劇場にとっては大きな、大きな公演、企画であるが、これは日本の演劇界やエンターテイメントの世界においても大きな意義を持つことになるであろう。
<ミュージカル『VIOLET』について>
1997年にオフ・ブロードウェイにてプロデュースされ、7部門のドラ マ・デスク・アワードにノミネート。ドラマ・クリティックス・サークル・アワードの最優秀ミュージカル賞、ルシル・ ローテル賞の最優秀ミュージカル賞受賞作。音楽のジニーン・テソーリが手掛ける楽曲は高い評価を受けている。
[あらすじ]
アメリカ南部の片田舎。幼い頃の事故により顔に大けがを負ったことで、人目を避けて暮らしていた、25歳の ヴァイオレット。テレビで見たあらゆる傷を治すという奇跡の宣教師に会うために、長距離バスに乗って西へ 1500キロ、願いを胸に彼女の旅が始まる。
梅田芸術劇場が英国 チャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演新規プロジェクト始動!藤田俊太郎氏がロンドンでミュージカル演出デビュー!
【公演概要】
ミュージカル『VIOLET』
日程:
<プレビュー公演>2019年1月14日〜1月20日
<公演期間>2019年1月21日〜4月6日
場所:イギリス・チャリングクロス劇場
日本公演はロンドン公演終了後、東京・大阪にて上演予定。
音楽:ジニーン・テソーリ (『ファン・ホーム』2015年トニー賞最優秀オリジナル楽曲賞)
脚本・歌詞:ブライアン・クロウリー
原作:ドリス・ベッツ『The Ugliest Pilgrim』
公式HP:http://www.charingcrosstheatre.co.uk/
文:Hiromi Koh