舞台『Take Me Out』2025 演出・藤田俊太郎インタビュー

2002年初演のリチャード・グリーンバーグによる戯曲。メジャーリーグを舞台に同性愛者であることを告白した名選手とそのチームを描いた作品で、2003年に第57回トニー賞(演劇作品賞)を受賞し、2016年の日本初演では、第51回紀伊國屋演劇賞団体賞対象作品となり、2018年に再演。人種差別問題や性的マイノリティ、階級、スポーツにおける男らしさといったテーマを基に、メジャーリーグの華やかな選手たちの関係を捉えながら、そこに渦巻く閉鎖性によって浮き彫りになる社会的マイノリティに深く切り込み、私たちが向き合うべき実情にスポットを当てた『Take Me Out』。藤田俊太郎が今回初めて、2チーム体制にてそれぞれ違った演出を行うという新たな試みに挑む。
2018年の再演を支えたオリジナルメンバーに新メンバーを加えた経験豊かな「レジェンドチーム」。そして『Take Me Out』の新しい試みとして、一般公募計330人の中からオーディションを勝ち抜いてきた実力の持ち主である12人の新メンバーのみで構成する「ルーキーチーム」の2チームが結成。野球経験の豊富なキャストや、今回が舞台初出演となるキャストなど多様な俳優が集結。この作品の演出に再び挑む藤田俊太郎さんのインタビューが実現した。

ーー初演、再演の思い出や印象に残ったことなどお願いします。

藤田:僕自身のことでいうと、元々演出したいと強く思っていた、せりふ劇に挑戦できるという喜びが大きかったです。中学校で軟式野球をやっていたので、ベースボールが大好きだということ、この作品の多様な価値観が思い描くテーマを役者たちと一緒に作ってみたいなという思いがありました。2016年の公演ではプレビューに近い形での稽古場公演があったのが思い出に残っています。試行錯誤しながら戯曲の言葉を深め、一つ一つ立ち上げていきました。2018年はDDD青山クロスシアター、2016年の時と同じ劇場ですが、1ヶ月を超えるロングラン、これは非常に大きかった、やっていく中で、お客様と共に作品が育っていく、多くのお客様がこの作品を愛し受け入れてくださるその過程に立ち会うことができ、意義深い仕事ができたなと思っています。

ーー野球チームの話ですが、試合は数回しか出てこない、場所はずっとロッカールーム、そこが面白いですね。野球場でプレイする時は観客がいますが、ロッカールームは自分たちだけ。選手たち個々の個性がすごく出やすい場所、チームで戦っているときはチームの一員、パブリックな自分を演じてて、ロッカールームにいくとそのパブリックな自分はいらないから本音が出やすい場所での会話劇っていうところ。

藤田:ロッカールームやシャワールームなど、メジャーリーガーにとって普段はプライベートである舞台裏で物語が進みその裏が表側、パブリックな場所に引き摺り出されるという展開です。その時に思いもよらぬ形で選手自身の価値観が揺らいでいく、そこが革新的な作品なのだと思います。21世紀初頭に初演された時も、非常にセンセーショナルな印象を受けたのではないかと思います。2025年になり現状の世界のあり方や人と人との距離感、分断を感じたり、人と人が分かりあうことが難しいという負の感情も顕在化しました。世界の現実を知った上で、だからこそ、寛容でありたいと、願います。もちろん、それが叶っている現在もある、その両方の側面を作品に色濃く反映したいと思いました。作品全体は普遍的なテーマを扱ってます。ロッカールームという時に閉鎖でもある空間、チームの場所、これは我々、お客様もそうですが、現実世界の自分が属しているコミュニティもしくは社会、あらゆる組織に置き換えてリアリティを持つことができるのではないかと思います。

ーーもちろん、作品そのものが変わっているわけではなく、現在の世界が変化している。大きく変わった要因にやはりパンデミック、このようなことはそうあることではないし。分断という言葉が出ましたが、お客様の意識が大きく変化していると思います。あと、直接的に野球は出てきませんが、メジャーリーグが身近な存在になったのは大きいですね。

藤田:そうですね。正直、日本人メジャーリーガーが2年連続MVPを取る、しかも継続中っていう時代に生きるなんて思いもよらなかったので、少し遠い存在だったメジャーリーグが、同じ地平で応援できる存在に変わったと感じます。今の日本人メジャーリーガーの方々が、まさに新しい世界へと連れ出してくれたと思います。

ーー試合が終わり、選手たちがはけていくところが普通にテレビで見られるようになったのは大きい…。

藤田:WBCで優勝した後、家族との交流とか…あんなにたくさんの方がグラウンドに降りるんだっていう感覚、あとは勝っても負けても、ロッカールームでインタビューを受け、また、記者会見の場とか、監督や選手が話している姿など、私たちはMLBにまつわる更に多くのことを身近な感覚で見ることができるようになったと感じます。

ーー2016年の時と比べるとお客様の意識はだいぶ変化していると思います。逆にお客様の反応が楽しみになるのでは?

藤田:はい。どの役もそうですが、特に日本人メジャーリーガーの捉え方はむしろ真逆ですね。日本人メジャーリーガー役の孤独な姿だけではなく、カリスマ性や、馴染んでいく様子にこだわっています。せりふの響き、伝え方、伝わり方を新鮮にお客様に届けたいですし、反応がとても楽しみです。

ルーキーチームの稽古の様子。

ーー今回は2チームでの上演、改めて違いを。

藤田:両チームともに野球の感動と演劇の喜び、この二つがせりふ劇の中で見事に組み上がっていくのを実感しています。レジェンドチームの重厚で美しく、ルーキーチームは身体性や躍動性、群衆性が際立っています。”Take Me Out”ここではないどこかへお客様を連れ出すことを作品の中心において、両チーム個人の役割、個性、皆それぞれの仕事を追求しました。一つの戯曲、一つの台本、ただ、作り方は全然、変えることはできる。時代の変化に合わせ、この戯曲が持っている多様性、深度に対して私たちカンパニー、2025年現在の捉え方、二つのアプローチをすることができました。

ーー台本を拝見しますと、読めば読むほどに味わいを感じます。

藤田:はい。本当に。あらゆる仕掛けがちりばめられています。

ーー最後に公演PRを

藤田:私たちは誰しも、そしてどんなことにも初めて、というのはあります。初めてキャッチボールをした時、もしくは老若男女問わず、チケットを握りしめて初めて野球場に行った時に楽しくて泣けるような感動があった。野球だけではなく、あらゆる初めて、もしくはあらゆる感動を通して、人はここではない場所に行くことができる。その時に生まれる人と人の豊かな愛を、『Take Me Out』をご覧になった皆様は感じていただけると思います。劇を通して、役者そしてカンパニーのみんな、チーム一体となってお客様を歓喜があふれる場所に連れ出したいと思っています。そして同時に、私たち創り手を連れ出してくださるのは皆様なんです。お客様の想像力、劇場に来て時間を共にしてくださることが、私達を次の世界に連れ出してくれる。劇中、悲劇的なシーンもありますが、総体的にこれこそが現在の世界のあり方だと感じて創作しました。最後のシーンに向けて、とびきりの喜劇が待っています。この作品の大事なチームの一人として、劇場に来ていただけると幸いです。

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<会見レポ記事>

舞台『Take Me Out』2025 製作発表会レポ

<2018年レポ記事>

舞台「TAKE ME OUT 2018」

概要
舞台『Take Me Out』2025
作:リチャード・グリーンバーグ
翻訳:小川絵梨子
演出:藤田俊太郎
出演
レジェンドチーム:玉置玲央、三浦涼介、章平、原嘉孝、小柳心、渡辺大、陳内将、加藤良輔、辛源、玲央バルトナー、田中茂弘
ルーキーチーム:富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、島田隆誠、岩崎 MARK 雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO
ベンチ入り(スウィング):本間健太(レジェンドチーム)、大平祐輝(ルーキーチーム)
日程・会場
東京:2025 年 5 月 17 日(土)~6 月 8 日(日) 有楽町よみうりホール
名古屋:2025 年 6 月 14 日(土)~15 日(日) Niterra 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
岡山:2025 年 6 月 20 日(金)~21 日(土) 岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
兵庫:2025 年 6 月 27 日(金)~29 日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
オフィシャル HP: https://takemeout.jp/