舞台『Take Me Out』2025 上演中 多様性をテーマにした作品、多様な表現で2チームでアプローチ。

舞台『Take Me Out』2025、好評上演中だ。
2002年初演のリチャード・グリーンバーグによる戯曲。メジャーリーグを舞台に同性愛者であることを告白した名選手とそのチームを描いた作品で、2003年に第57回トニー賞(演劇作品賞)を受賞し、2016年の日本初演では、第51回紀伊國屋演劇賞団体賞対象作品となり、2018年に再演。人種差別問題や性的マイノリティ、階級、スポーツにおける男らしさといったテーマを基に、メジャーリーグの華やかな選手たちの関係を捉えながら、そこに渦巻く閉鎖性によって浮き彫りになる社会的マイノリティに深く切り込み、私たちが向き合うべき実情にスポットを当てた作品。
レジェンドチームは、2018年の再演を支えたオリジナルメンバーに新メンバーを加えた経験豊かなメンバー、ルーキーチームはオーデションを勝ち抜いた新メンバー。
ストーリーは基本的に初演、再演時と変わらないが、演出が変わり、劇場が変わるとそれだけで景色も感じ方も変わる。ダレン・レミングがある日、ゲイであることを告白してからチームに”さざなみ”が起きる。

レジェンドチーム

冒頭、登場するのは、のちにダレンの会計士になるメイソン、それからキッピーが登場する。だが、その登場の仕方が違う。つまり、冒頭から『異なって』いるのだ。そこに解釈の違いがある。キッピーの独白、ユニフォームも違うし、演じる役者も異なる、佇まい、それぞれの俳優個々の役についてセリフについての解釈も変わってくる。ルーキーチーム、すぐにダンスシーン、躍動感あふれる振付。ダレンの告白によってチームに変化が生じる。そこは同じだが、その変化の仕方がレジェンドチームとルーキーチームでは異なる。セリフを発する時の立ち位置や振る舞いが2チームとも異なっている。例えばチームにさざなみを起こすダレン、服装も違うし、何より表情や佇まい、立ち位置、仕草が違う。しかし、ダレンであることには相違ない。つまり、ダレンはゲイであることを告白すること以外の彼のキャラクターや立ち方、仕草、表情、リアクションの仕方などは解釈は自由であるということが窺える。メイソンも然り、レジェンドチームの玉置玲央はクールな佇まいだが、内に秘めた情熱のようなものを感じるし、対する富岡晃一郎のメイソンは、明るい雰囲気をたたえ、話しやすい空気感を纏う。しかし、どちらもメイソンなのである。そこにあえて2チームで上演することの意義がある。

ルーキーチーム

どちらも人種差別、性的マイノリティに対する考え方、閉鎖性を描いていることは相違ない。だが、それを画一的な表現にせず、2チーム違うアプローチをすることによって”多様性”を見せているように感じる。戯曲の解釈、感じ方、捉え方、そこから想像の翼を広げて舞台で表現する、もしかしたら2チームではなく3チームでもできるかもしれない。同じ演出家で異なるキャスト、2チームのキャストのキャリアや性格、見た目を考えて演出する、だから、そこに相違が出てくるのは必然で、表現や解釈の可能性を示唆している2チームなのである。
また、作品は2002年初演、20年以上前に書かれたものだが、その未来性と現代的なコンセプトを改めて考察。ダレンが起こしたさざなみの波をさらに大きくする役割を果たすシェーン・マンギット、自分が感じたことを公の場で話す、皆が眉を顰めるような発言、「人種とか気にならないんだよ、黄色いのとか、クロンボとか、サンバ踊ってそうなのとか」というが、これ自体が差別的表現、最後に「毎晩、一緒にシャワー浴びなきゃなんねえんだよ、ホモ野郎と。気持ち悪い」と。だが、彼の発言は彼のありのままのもので悪気はない。思っていること、感じていることをただストレートに喋っただけ。翻ってダレンの発言も然り、友人の発言がきっかけとはいえ、これもダレン自身、ありのままなのである。ところで、実際のメジャーリーグではどうなのか?2015年、米メジャーリーグ(MLB)ミルウォーキー・ブルワーズ傘下のヘレナ・ブルワーズに所属するデビッド・デンソン選手がゲイであると公表、これは史上初なのだそう。初演が2002年であることを考えるとこの設定自体が画期的であったことがわかる。
多様性をテーマにした作品、それを多様な表現で2チームでアプローチ、東京公演は後半に突入したが、もしお時間があれば2チームの観劇を。違った景色が見えること間違いなし。東京は6月8日まで。

藤田俊太郎インタビュー

舞台『Take Me Out』2025 演出・藤田俊太郎インタビュー

開幕直前取材会レポ

舞台『Take Me Out』2025 いよいよ開幕!取材会レポ

製作発表会レポ

舞台『Take Me Out』2025 製作発表会レポ

2018年公演レポ

舞台「TAKE ME OUT 2018」

ストーリー
男たちの魂と身体が燃え滾る、「ロッカールーム」。彼らにとってそこは、すべてをさらけ出せる楽園だった。ひとりのスター選手による、あの告白までは――。
黒人の母と白人の父を持つメジャーリーグのスター選手、ダレン・レミングは、敵チームにいる親友デイビー・バトルの言葉に感化され、ある日突然「ゲイ」であることを告白。それは、150年に及ぶメジャーリーグの歴史を塗り替えるスキャンダルであった。
ダレンのカミングアウトに対し、チームメイトのキッピーをはじめ、キャッチャーのジェイソンやダレンの理解者である会計士のメイソン、監督のスキッパーらは好意的であった。しかし、セカンドのトッディや、ドミニカ人選手のマルティネスとロドリゲスらは怪訝な態度を示す。そして、日本人選手のタケシ・カワバタは相変わらず何も語らなかった。ダレンが所属する「エンパイアーズ」内には軋轢が生じ、次第にチームは負けが込んでいく。
そんなときに現れたのが、天才的だがどこか影のある投手、シェーン・マンギット。圧倒的な強さを誇る彼の魔球は、暗雲立ち込めるエンパイアーズに希望の光をもたらしたのだが――。

概要
舞台『Take Me Out』2025
作:リチャード・グリーンバーグ
翻訳:小川絵梨子
演出:藤田俊太郎
出演
レジェンドチーム:玉置玲央、三浦涼介、章平、原嘉孝、小柳心、渡辺大、陳内将、加藤良輔、辛源、玲央バルトナー、田中茂弘
ルーキーチーム:富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、島田隆誠、岩崎 MARK 雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO
ベンチ入り(スウィング):本間健太(レジェンドチーム)、大平祐輝(ルーキーチーム)
日程・会場
東京:2025 年 5 月 17 日(土)~6 月 8 日(日) 有楽町よみうりホール
名古屋:2025 年 6 月 14 日(土)~15 日(日) Niterra 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
岡山:2025 年 6 月 20 日(金)~21 日(土) 岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
兵庫:2025 年 6 月 27 日(金)~29 日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
オフィシャル HP: https://takemeout.jp/

舞台撮影:田中亜紀