本作は、『怒りの葡萄』や『エデンの東』などで知られるアメリカのノーベル賞作家ジョン・スタインベックが1937年に発表した小説を原作とし、スタインベック自身が戯曲化した作品。
1930年代の世界大恐慌下のアメリカを舞台に主人公のジョージに待ち受ける厳しい現実と相棒への想い、そしてその想いゆえの葛藤と苦悩をスタインベック自身の季節労働者としての体験をベースに社会への皮肉と機知に富んだ文章で描き出し、スタインベックが注目をされる切っ掛けとなった作品の一つ。
この世界中で高い評価を得ている名作を、小劇場から大劇場、ストレートプレイ、ミュージカルと
多種多様なジャンルで精力的に活動する鈴木裕美の演出で上演。
主演は、近年意欲的に舞台出演を続けている三宅健。常に視野を広く持ち、様々な文化・伝統などに造詣が深い三宅が、相棒のことで苦悩し葛藤を抱える主人公ジョージを演じる。
演出の鈴木とは、2008年の『第17捕虜収容所』以来、実に10年ぶりにタッグを組む。
ちなみにこの作品は何度か映画化されている。1939年の『廿日鼠と人間』では『ロッキー』などのバージェス・メレディス、1992年の『二十日鼠と人間』では『フォレスト・ガンプ/一期一会』などのゲイリー・シニーズがジョージ役を演じた。
舞台上に草が生い茂る。演奏は生、奏者は2人、この物語に登場しそうな労働者のいでたちをしている。ハーモニカとバイオリンの音色で幕開きだ。舞台中央に小さな“池”、大柄な男は喉が渇いたのか水を飲む。水の揺らめきがきらめく。顔を突っ込んだり、それをたしなめようとするもう一人の男、この2人は、この作品の主な登場人物、出稼ぎ労働者ジョージ(三宅健)とレニー(章平)、時代は1930年代、世界大恐慌。ジョージは夢を語る「俺たちの農場で働くんだ」と。それを満面の笑みで聞いているレニー、頭は悪いが純朴で腕力は誰にも負けない。そんな2人は新たな農場にたどり着く。レニーが問題ばかり起こすので、景気が悪いというのに農場を転々としているのだった。この新しい職場には個性的な同僚たちとちょっと怖そうなボス(藤木孝)、その息子カーリー(中山祐一朗)と美しい妻(花乃まりあ)がいる。この“流れ者”2人がやってくることによって農場にさざ波が起こる・・・・・・・。
しかし、この2人の存在だけがことの発端ではない。人種差別をするボス、夫を愛していないカーリーの妻など、皆、大なり小なりの問題を抱えている。しかも景気も悪い。ジョージはレニーを見捨てることはできない。なぜなら、レニーは問題ばかり起こしており、後始末はジョージの役目。頭は悪いが心は純粋、ジョージを尊敬しているからだ。そんなレニーを心のどこかで惹かれていながらもうっとおしく思っている、彼がいることでジョージは自由を手に入れることはできない、複雑な気持ちで揺れ動く。しかし、夢を語り合う2人はどこか輝いている。
時折、バイオリンやハーモニカ、バンジョーの音色が優しく響くがどこかもの悲しい。登場人物に悪人はいない。皆、その日を懸命に生きている。三宅健は性根は優しいが、自由にならない苛立ちやレニーに対する複雑な気持ちをちょっとぶっきらぼうにも感じるセリフや挙動で好演。相棒・レニーを演じる章平は三宅健との掛け合いの息もピッタリで純朴で時折感情を爆発させるキャラクターを熱演する。その他、脇を固めるベテラン、藤木孝や山路和弘らのしっかりとした演技はさすが。紅一点である花乃まりあがこの汗臭そうな労働者たちの中で華となってアクセントに。そして2幕ではカーリーの妻は素朴なレニーにどこか惹かれ、映画女優になる夢を語るが、彼女もまた寂しく、自由を求めている女性であったことがわかる。
様々なファクターが結末に向かって途中で怒涛のように集結する。「時代さえよかったら」と思うところもあるかもしれないが、実は現代でも通じること。自由とは?生きるとは?愛とは?多様なテーマや問題が内包されているが、この2幕物にはそんな深い、深い、何かが静かに横たわっている。
ゲネプロの後に囲み会見があった。登壇したのは三宅健、花乃まりあ、章平、藤木孝、山路和弘。フォトセッションでは多くのフラッシュがたかれた。三宅健は作品について「難しいです」と告白。映画では名だたる名優が演じている有名作品。演出家とは「どういう解釈でやりましょうか」とディスカッションした様子。もちろん、舞台では描かれていない部分もあるのだが「いろんなものが交錯している」と語る。感情、事情、アメリカならではの差別問題、これらが複雑に絡み合う。ゲネプロ実施までに色々あったようで「そのためのゲネ」とコメント。最後の最後まで調整していた様子。三宅健の『座長ぶり』に関して藤木孝は「頼もしい主役!頼りにしています!」といい山路和弘は「セリフ、忘れてもフォローしてくれる」と笑わせた。相棒・レニーの章平は「僕は安心してレニーとしていられる」とコメント。三宅健は「みんな、このお芝居のことしか考えていない。面白い戯曲ですが、集中すれば奥が深い。『もしかしたら、こういう解釈があるかもしれない』というのがどんどん出てくる・・・・・・こういう役はあんまり(演じたことは)ないかな?(章平さんとは)初めてですが、二人の無垢な関係がね、『読み合わせしたいな』と思っていたら彼もそう思ってて・・・・・・」と相性の良さをアピール。対する章平は「安心しますね。優しいんだろうなーと思ってて(実際にあった印象は自分の中では)変わったっていうのはない」とコメント。
最後に座長らしく「ぜひとも『二十日鼠と人間』の世界にどっぷり浸かっていただけるように全員、精進いたします!」と締めて会見は終了した。
<ストーリー>
1930年代、世界大恐慌時代のカリフォルニア州。 出稼ぎ労働者ジョージ(三宅健)とレニー(章平)は、いつか自分たちの農場を持つ夢を持ちながら、いつも共に行動してい る。しかし、頭の回転が悪い大男レニーがいつも問題を起こすので、数々の農場を渡り歩くはめになっていた。 ジョージは失敗ばかりするレニーの尻拭いをする毎日だが、見捨てることは出来ずにいる。レニーはそんなジョージに 頼り切っていた。 レニーが問題を起こし、前の職場から逃げた2人は新たな職場である農場にたどり着く。ボス(藤木孝)と呼ばれる管理人の 農場で働くことになるが、レニーはボスの息子のカーリー(中山祐一朗)になぜか目を付けられる。カーリーは若さと美貌を 兼ね備える妻(花乃まりあ)を迎えたばかりであったが、なぜかイライラしていた。 ジョージとレニーは賢くリーダーのスリム(姜暢雄)の下で、下品で無神経なホイット(瀧川英次)やカールソン(駒木根隆介)、 黒人であるがために馬小屋に住まわされているクルックス(池下重大)、片手が無い老人キャンディ(山路和弘)と共に働き 始め、生活を共にしてゆく。 ジョージはレニーに、農場で面倒を起こさないよう言い聞かせながら、仕事の合間には夢を語っていた。
ある日、2人の語る夢を聞いていたキャンディが隠していた貯金を持っているから、仲間に入れてほしいと2人に持ちかけてき たことで、描いていた夢が現実味を帯びてくるが…。
【概要】
舞台『二十日鼠と人間』
10月3日(水)~10月28日(日)
東京グローブ座
11月8日(木)~11月11日(日)
大阪・森ノ宮ピロティホール
原作:ジョン・スタインベック
翻訳:広田敦郎
演出: 鈴木裕美
出演: 三宅健
花乃まりあ 中山祐一朗 姜暢雄 池下重大 瀧川英次 駒木根隆介 章平
藤木孝 山路和弘
公式サイト:https://www.hatsukanezumi-ningen.jp
主催: 東京グローブ座
企画・製作: Quaras
取材・文:Hiromi Koh