ミュージカル「メリー・ポピンズ」、家族の愛と再生の物語

 

ミュージカル「メリー・ポピンズ」が開幕した。映画は有名で、あの傘を持って空を飛んでいるシーンをすぐさま思い浮かべることであろう。ミュージカル版は、2004年に開幕、以来世界の主要都市で上演されており、この2018年3月、日本人キャストで幕が開いた。

 

舞台の出だしは、バートが担う。あの名曲「チムチム〜」の調べが流れる。ここから観客は一気に「メリー・ポピンズ」の世界に誘われる。ロンドンの街、煙突から煙が立ち上っている。バートがこの物語の核になる家族を紹介する。いわゆる“キャラクター紹介”にあたる。あっと言う間に舞台は、バンクス家に。なにやら揉めてる?子守りが「耐え切れない」と言って辞めてしまった。新聞に広告を出そうとするこの家の主、バンクス氏、子供達が広告を作るが父親はそれを破り捨てて暖炉に入れてしまった。真面目で堅物、銀行勤め、子供が書いた広告なんて、という風情。ところが、どこからともなく現れたのは帽子を被った女性、広告を見てやってきたと言い、しかも破り捨てた子供達が書いた広告を手にしている。読み上げる、「そこそこ美人」、客席からクスクス笑い。この「そこそこ美人」こそ、このタイトルロールのメリー・ポピンズだ。ここからバンクス家に“嵐”が起きるのである。

 

カバンからいろんなものが出てくる、映画でもそうだが、「なんで、こんな物が入ってるの?」状態。子供達はびっくりするが、やがてなんだか楽しくなってしまう、メリーの虜になってしまった様子。

ストーリーのアウトラインは、映画とだいたい一緒だが、状況や設定は異なっている。バンクス夫人は映画では女性運動に積極的なキャラクターとして描かれているが、ミュージカルでは専業主婦だ。よって夫はことあるごとに「子育ては任せた」発言。夫人は妻として、母として思い悩む様子。

次々と出てくるおなじみのナンバー、これを聴いているだけでも楽しい。また、映画との違いをチェックしてみるにも一興だ。「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」「2ペンスを鳩に」等が歌われるシーン、映画とは場面設定は異なっているが、全体の構成を考えると「なるほど」と思える。

 

表面的にはいたずらが過ぎる子供達の問題に見えるが、実は違う。真面目で勤勉な性格、銀行の仕事に謀殺されているバンクス氏、家での自分の存在価値が見えなくなってしまったバンクス夫人、そんな両親を見ている子供達。メリーの役割は、そんな家族を再生させるために、ほんのちょっとだけ「後押し」をするだけであり、メリーと知り合いのバートは、さらにちょっと引いた立場でバンクス家を温かく見守っているポジション。よってあまりバンクス家に関わらないが、子供達にとっての“よきお兄さん”ぐらいな距離感。そして彼らを取り巻く人物、鳥の餌を売るバードウーマン、見た目はみすぼらしいが、その内面は慈愛に満ちている。この見た目にいぶかしがる長女のジェーン、外見に囚われずにその心を見なければならない、「大切なことは目には見えない」ことを示唆してくれる。ここで歌われるナンバーはひたすら美しい。また、2幕で登場するこわーーーい子守り、ミス・アンドリュー、厳格で厳しく暴君のようで、彼女は実はバンクス氏のかつての子守りであった。バンクス氏も子供達も恐れをなして逃げてしまう。子供達は公園に行き、そこで仲良しのバートに出会い、凧揚げをする。そんな折、絶妙のタイミングでメリーが戻ってくるが、この戻り方は、かなり“確信犯”で、この鬼のようなミス・アンドリューと対決し、見事に追い払うのだが、ここの“歌合戦”は圧巻で、ちょっとしたイリュージョンも使用するのでここはビューポイント。しかし、このミス・アンドリューがきたことで夫人はようやく夫のことが理解出来、自信を取り戻す。様々な伏線、台詞がラストに向かって集まり、物語は結末に向かっていく。

 

 

ミュージカルとしての完成度は高く、メリー・ポピンズ並に【完璧】だ。とにかくビッグナンバーが目白押し、「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」のところは客席からクラップが起こる。一緒に口ずさみたいところだが、我々にはちと難しいのでクラップのみ(笑)、俳優陣は、踊りながら歌うので、もう流石としか言いようがない。ここのマシュー・ボーンの振付がとにかくダイナミックでコミカル、とりわけ、この言葉の綴りを身体で表現するところは、なんとか覚えてやってみたくなる衝動に駆られる。「チムチムチェリー」は、随所にメロディが登場するが、やはり屋根で歌う場面は印象的。また、タップダンスのビッグナンバーである「ステップ イン タイム」、“STEP IN TIME“、この“IN TIME“、直訳すると「ちょうどよい時に」、つまり、「調子に合わせて」という意味合い、「調子良く踊ろう」ということになる。ここが、本当に調子良く!楽しくも迫力のある煙突掃除人の群舞、そしてバートの宙吊りステップ!もう、ただただひたすら見てしまう!何も考えずに楽しむ場面、ここは映画でも、ビジュアル的に圧倒されるので、比較してみると興味深い。

そしていよいよメリーとの別れ、子供がメリーに「大好きだよ、メリー・ポピンズ」と言うが、ここはエモーショナルで、完璧で表情変えないメリーの心を揺さぶる。よくあるパターンでは、言われた方は満面の笑み、という展開だが、そこは「メリー・ポピンズ」、表情は変わらないが、心が揺れる波動が客席に伝わり、感動的な瞬間だ。

シアトリカルで、洗練されており、何度でも観たくなる。メリー・濱田めぐみ、バートは柿澤勇人で観劇、バードウーマンとミス・アンドリューは同じ俳優が演じるが、この日は鈴木ほのか、バードウーマンのところでは美しい歌声を、ミス・アンドリューでは、鬼の形相、この落差が見事。

濱田のメリーは、もうメリー・ポピンズにしか見えない!くらいでラスト、傘をさして去っていく場面は実にファンタスティックで、観客は本当に物語の世界に入ったかのような感覚に襲われる。ほぼ出ずっぱり、柿澤勇人のバートはどこか茶目っ気があり、温かさを感じる役作り。バンクス氏の駒田一、夫人役の木村花代、芝居巧者ぶりを発揮する。木村のソロは聴かせるし、駒田一のバンクス氏、銀行であの魔法の言葉を言ってしまうところの壊れっぷりはアッパレだ。

映画「ウォルト・ディズニーの約束」では、映画「メリー・ポピンズ」の裏話を描いているが、この物語は原作者の体験が色濃く投影されている。作者の幼少期、生まれた場所と時代、銀行勤めの父親、この映画を見ると「メリー・ポピンズ」の物語を、ただ面白いお話以上にその奥深いところを想像させてくれる。

 

ミュージカル「メリー・ポピンズ」、いよいよ開幕!

 

ミュージカル『メリー・ポピンズ』 メリー・ポピンズ役 濱田めぐみさん 特別インタビュー

 

ミュージカル『メリー・ポピンズ』 バート役 大貫勇輔さん 特別インタビュー

 

 

ミュージカル『メリー・ポピンズ』 メリー・ポピンズ役 平原綾香さん 特別インタビュー

 

ミュージカル『メリー・ポピンズ』 バート役 柿澤勇人さん 特別インタビュー

 

 

クオリティ高し!ミュージカル「メリー・ポピンズ」稽古快調!

 

【公演データ】

ミュージカル『メリー・ポピンズ』
<東京公演>
プレビュー公演:

期間:2018年3月18日~3月24日

会場:シアターオーブ

 

期間:2018年3月25日~5月7日

会場:シアターオーブ

 

<大阪公演>
期間:2018年5月19日~6月5日

会場:梅田芸術劇場

 

<出演>
濱田めぐみ、 平原綾香/大貫勇輔、 柿澤勇人/駒田一、 山路和弘/木村花代、 三森千愛/島田歌穂、 鈴木ほのか/コング桑田、 パパイヤ鈴木/浦嶋りんこ、 久保田磨希/小野田龍之介、 もう中学生 他

公式サイト:http://hpot.jp/stage/marypoppins

文:Hiromi Koh