成河、千葉哲也、章平による 権力、エゴ、人種の偏見をめぐる会話劇「BLUE/ORANGE」は、ロンドンの精神病院での、ある24時間を描いた、境界性人格障害の診断を受けて入院していた 1人の患者と、2人の医師によって織りなされる手に汗握る会話劇。イギリスで 2000 年に初演後大きな話題を呼び、ウエストエンドでの上演、BBC でドラマ版の放映、そして2010年には日本で初演され、成河は第18回読売演劇大賞最優秀 男優賞を受賞。
今回は、翻訳を新たにして、新演出で上演、翻訳を手掛けたのは、数々の演劇賞を受賞している小川絵梨子、 そして、千葉哲也が演出を務め、俳優としてはロバート医師を演じる。
出演は、初演で患者の青年・クリストファー役を演じた成河が、本作では研修医・ブルース役に。今回新たに出演する目覚ましい躍進を遂げる若手実力派・章平が、青年・クリストファー役を演じる。
舞台は長方形で客席はその舞台を挟む形になっている。中央には長方形のテーブル、中央にオレンジ。パーカッションが小気味良いオープニング曲、まずはブルース(成河)とクリストファー(章平)が登場、クリストファーは体を揺らし、テンション高く「やばいっしょ!やばいっしょ!」と叫んでいる。彼のリズムに合わせつつどこか冷静なブルース、彼は医師、そしてクリストファーは患者という立場だ。患者は自由に表に出られない、退院するかしないかは医師が決める。退院は翌日に迫っていたが、ブルースは彼を退院させたくなかった。統合失調症の疑いがあると判断している。だが、彼は医師としては新米、上司であるロバート(千葉哲也)は彼を退院させたい、2人は議論をするも決着はつかず、平行線のまま。ロバートはブルースにベッドがいっぱいであること、そして指示に従わなければ出世に響くと告げる。
基本的に物語の場所は一箇所で登場人物は出たり入ったりするのみ。彼らのバックボーン、取り巻く環境、立場、どこにでもありそうな会話が展開される。精神病院という設定ではあるが、これを普通の会社に置き換えても当てはまる。例えば、もっと予算をかければ、いいプロジェクトになる、いや、今のままで十分、余分にお金をかければ予算のかけすぎで出世に響く、別の案件の方が出世頭の部長が仕切っているからそっちに力をかければ自分も出世できるかもしれない云々そこでちょっとした摩擦が起きる、テレビドラマでもよく描かれている光景、そんなことに当てはめてみると共感する部分は多い。
クリストファーは、テンションが高いだけでなく粗暴なところもあり、大声を出したりする。話していることもちょっと支離滅裂にも感じるが、彼なりの論理がある。ブルースとロバートの会話、「なぜ、僕の話を聞いてくれないんですか?」「お前の意見を聞くのが俺の仕事だ」、それぞれの思い、エゴ、立場、状況、観客席からは時折笑いも起こる。クリストファーは境界性人格障害ということだが、2人の医師をどこか冷めた目で見ている瞬間もある。ブルースは新米だが、患者としっかりと向き合おうと真摯な姿勢、それに対してロバートはブルースに対して高圧的な態度を取り、出世や自分の立場の方が大事、クリストファーをさっさと退院させたいのが見え見えだ。そんな『トライアングル』を3人の俳優が密度の濃い芝居で丁々発止のやり取りを繰り広げる。またセリフのみならず、アクションも交える、ブルースが紙を丸めて上司に投げつけるところは大きな笑いが起こり、クリストファーがブルースにコップの水を頭からかける瞬間、クリストファーから醸し出される冷たい感情、凍りつく瞬間だ。
設定ではクリストファーが『患者』であり、正常ではないとされているが、ラスト近くになると本当はどうなんだろうか?と疑って見たくもなる。またクリストファーはアフリカ系、ブルースとロバートは白人、そんな状況も彼らの関係性に影響する。結論はどうであれ、文化の違い、人種の壁、育ち、立場、全く異質な3人、交わることなく、共感しあうこともない。納得できない、理解できない、ということもあるが、時には納得する気もないし、理解する気もない、思いやるつもりもない、そんな感情も見え隠れする。クリストファーは2人の医師など、どうでもいいのかもしれない、早く退院したいだけにも感じるし、ロバートは患者のことは実はどうでもいいのかも?と思える。ブルースは新米医師ということもあり、正論をはこうとする。そんな3人は多分、永久に噛み合わないのではないか?とも思える。しかし、これはどこにでも起こりうること。ピリッと辛い、シニカルな会話劇、不協和音、笑ったり、身につまされたり、時には自分の体験も思い出させる、密度濃い2幕もの。青山DDDクロスシアターにて濃密に上演中!
<あらすじ>
ロンドンの精神病院。 境界性人格障害のために入院していたアフリカ系の青年クリストファー(章平)は、 研修医ブルース・フラハーティ(成河)による治療を終えて退院を迎えようとしている。 しかしブルースには気がかりなことがあり、退院させるのは危険だと主張していた。 上司のロバート・スミス医師(千葉哲也)はそれに強く反対し、高圧的な態度で彼をなじる。 納得のいかないブルースはクリストファーへの査定を続け、器に盛られたオレンジの色を問う。 彼はそのオレンジを「ブルー」と答えた――。
<登壇者コメント>
[ブルース・フラハーティ役/成河]
この作品は飾りに飾ったショーアップさせた作品ではなく、3人芝居の会話劇なので、ずっと舞台上でも稽古をしているような感 覚です。実際の稽古場でも、千葉さんが舵を取ってくれ、ディベートができていました。 目には見えないけれど、三つ巴の合戦のような関係性があって、公演によって今日はこの人、別の日にはこの人に共感、なんて こともあるかもしれません。客席のつくりが、はさみ舞台になっていて、すごく密な空間なので、お客さんが一番楽しめるんじゃない かな。
[ロバート・スミス役/千葉哲也]
演出家は、あれこれ指示をするものではなく、俳優が持ち出したものを整理する役目だと思っています。稽古場でみんなで持ち 寄って試行錯誤してきました。また、英語から日本語への翻訳ってすごく難しいんです。でも小川絵梨子さんの新訳は読んでい て分かりやすく、作品の根としてもある権力や人種差別は、日本でも通じるものがあります。用語や難しい言葉も多いですが、 お客さんにはそこだけに気を取られないように、その時の彼らの表情をしっかり感じてもらいたいです。
[クリストファー役/章平]
成河さんも仰ったように、舞台上でずっと稽古しているようで、初めての感覚です。クリストファーは淋しがりやで自分の置かれている環境をいろんな人に認めてもらいたいと思っています。成河さんと千葉さんは、僕が稽古の中でいろんなことを試したり、何をやっても成立させてくれるんです。お二人にはそんな絶大な信頼と安心感があります。また、はさみ舞台に実際に立ってみて、そ こに“存在する力“を貰えたような、エネルギーを感じています。セリフの中でのお気に入りは「ブルーオレンジ」です!
【公演概要】
舞台『BLUE/ORANGE』
日程・場所:2019年3月29日(金)~4月28日(日)/東京・DDD青山クロスシアター
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
出演:成河、千葉哲也、章平
公式HP:https://www.stagegate.jp/
文:Hiromi Koh