《対談》『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』 草刈民代×髙嶋政宏

バレエ、そして俳優業に果敢に取り組んできた草刈民代自ら企画の舞台『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』、
この作品は戯曲『死と乙女』『谷間の女たち』などで世界的に著名なチリの劇作家アリエル・ドーフマンによる二人芝居の傑作。2005年にシアトルで初演され、09年には映画「ロード・オブ・ザ・リング」で一躍スターダムに登った俳優ヴィゴ・モーテンセンも本作に挑戦し、大きな話題に。作品はギリシャ悲劇の劇作家エウリピデスの『王女メディア』とジャン=ポール・サルトルの『出口なし』をモチーフにスピーディーかつスリリング に展開。 演出はイギリスのアーツ・カウンシル・ロンドンの総監督を10年務め、英国王立演劇アカデミーの校長を15年務めたニコラス・バーター。さらに映画監督・周防正行の脚色によって、巧みなセリフの応酬による見事な会話劇となっている。またレディーガガも着用したシューズデザイナーの串野真也もクリエイターとして本作に参加。
出演は本作の企画者である草刈民代さんと映画、ドラマ、舞台と幅広いフィールドで余人を持って代えがたい存在感を放つ髙嶋政宏さん、このお二人にこの作品を上演することになった経緯や作品についてなどを大いに語っていただいた。

「この作品のチョイスは直感みたいなもんですよ(笑)」(草刈民代)
「その作品をよく考えて、かなり練り上げてこの場に同席できる、出演できる!たまらないですね!」(髙嶋政宏)

――これは草刈さんがおやりになりたかった企画とお伺いしておりますが、作品を知ったきっかけはやどこに惹かれたかなどをお話ししていただければと思います。
草刈:元々はニコラス・バーター先生との出会いから始まりました。彼のワークショップを受けているうちに先生と一緒に舞台作品を作ってみたいと思いまして、それで、この作品に出会いました。
――まさに“出会い”ですね。
草刈:はい。先生がアリエル・ドーフマンの作品がお好きで、初めは『死と乙女』も挙がっていました。私はコンパクトに出来る二人芝居がいいなと思っていまして。バーター先生が「面白い作品らしい」と「プルガトリオ」も紹介してくださって。そして、読んでみたんです。日本語版がないので英語で読みました。英語で読んでいるので完全にはわかりませんでしたが、「ちょっと、これ、面白いかもしれない!」と思い、周防に相談したところ「下訳に出してみれば」と言ってくれて。その下訳を周防が読んだら、「これは面白い芝居になるよ」と言ってくれたのです。そして、上演を目指して、少しずつステップを踏んでいきました。髙嶋さんにお声がけしたのは、昨年8月ごろでしたね。
――そのオファーを頂いた感想をお願いいたします。
髙嶋:大光栄です!突然、電話かかってきてびっくり!「え?草刈さん?もしもし(笑)」その時は本当に「なんだろうなあ」と思って。芝居も見に来てくれたし、一度みんなで食事に行きましょうっておっしゃっていたから、食事の話なのかな?と(大笑)、そうしたら「忙しいですか?」って言われまして・・・・・ちょっと驚いたんですけど、お芝居に出ていただけませんかという仕事の話で。会って詳しいお話をという感じだったんですけど、僕が「この作品はどんな話なんですか?」ってあんまり言うんで、草刈さんはすぐに「じゃあ、簡単にしゃべります」っておっしゃってくださり、内容をお伺いした瞬間に「これは面白いんじゃないか」と。すぐにマネージャーに電話してその時期に空いているかどうかを聞いて「空いています」と・・・・・・即「やるぞ!」と。そこから改めてお話を詳しくお伺いしました(笑)。基本的にはいつも「面白い!」と・・・・・まずはそこからです。で、「やる」って決めてから読みます(笑)。
――直感を信じるタイプですね。
髙嶋:はい。
――その直感は外していない。
髙嶋:バッチリです!直感は信じますし、大事にしています。
草刈:私も、この作品のチョイスは直感みたいなもんですよ(笑)。はじめに読んだのは英語版ですから。
髙嶋:草刈さんは海外でずっと活動なさってたから英語は大丈夫ですよね。
草刈:でも戯曲を読むのは大変です。簡単には読めません。今回は演出なさるバーター先生の解釈を伺いながら本を創っていますが、先生の解釈を伺っていると、「えっ、そうなんですか!」という驚きばかり。この戯曲は、含みを持ったセリフが多いですし、ドーフマンの母国語はスペイン語のようなので、純粋な英語の感覚とも違うようです。おそらく、どれだけ英語に堪能な人でも、日本人では読み解くのが難しいのではないかと思いました。周防も、この本はバーター先生と一緒につくらないと無理だと言っていました。文化的な背景に対する理解も必要ですし。海外の人が日本のことを理解するとしても、完全にというわけにはいきません。同じように、日本人がヨーロッパの文化を理解しようとしても、限界がある。こういう作品をバーター先生の演出で上演できることが、ラッキーだと思っています。本当に理解していらっしゃるから。
髙嶋:今回は全部きっちりやって突き詰めているんですね。
草刈:バーター先生は書いてある一語一句をすべて理解していらっしゃるように見えます。「そこまで理解できるものなんだ!」というほど。私は英文と日本語訳の整合性をチェックしてきましたが、次の段階では読み合わせをして音で聞きづらいところを周防がさらに直して、きちんと台本を完成させようと思っています。稽古が始まると、まだまだ直すところが出てくると思いますが。
髙嶋:その作品をよく考えて、かなり練り上げて芝居ができる!たまらないですね!
――私も企画意図と物語を読ませていただきました印象では、まず、構造が非常に面白い。たった二人しか出てこない、最初は男の人が白衣を着ていて、暗転の時に立場がチェンジするんですね。表裏一体ですね。
髙嶋:そうそう!とにかく、暗転になった時に“役者のなりきり”をお客様から問われる、違う人になってなきゃいけない。しかも、また元に戻って、そこから最後はどうなっていくのか、ですね。
――チラシを拝見しますと二重の螺旋階段(笑)。
草刈:“衝撃のラストに向かって”っていう・・・・・・。
――これを言葉で表現するのは難しいですね。
草刈:そうなんです!
髙嶋:諦めでもないし、愛みたいなもの・・・・・・絶望ではない、言葉で言い表すのは難しいですね。
草刈;内容が・・・・・・。
髙嶋:深い!
草刈:それを面白く見せているんです。軽い会話から始まって、そこからグーーっと入っていって、緩急がすごく計算されていてそれもすごいです。
――元々の本の完成度が高いんですね。

「英語のテンポ感を反映させることを意識していますので、日本語だと分かりづらいところは語順を変えています」(草刈民代)
「セリフのリズムがすごくいいんですよね」(髙嶋政宏)

――これは本当に会話だけですね。そこに自分たちがいるだけで、すべてをどうにかしなくちゃいけないですね。
髙嶋:この脚本は僕らに対して、「早く喋りたくなる」あるいは「少し間をとったりしたくなる」っていう“操作”をしてくれるんです、そこが面白い!全部通して何十回も読んではいないのに!ですよ。読み進めていくと、急に「ここは、早く言っていい」とか「ここはちょっと間をとって言う」とかっていう欲望が自然に出てくる。
草刈:英語のテンポ感を反映させることを意識していますが、日本語と英語では語順が違いますからね。でも、できるだけ、英語の会話の雰囲気に近い感じを目指しました。
髙嶋:すごくリズムがいいんです!ジャン・コクトーかっていうく
らいにセリフがいい!(笑)。
草刈:それが、ドーフマンのすごいところなんでしょうね。ジャ
ン・コクトーのようなアーティステックな部分が芯にありつ
つ、現代的で。また時間も『パラレル』。これは具体的にそこだけにフォーカスされているわけではないのだけれど、作品の世界観を表現する重要なキーとなっています。その感覚を持って、芝居ができれば。
――まさしく時間のパラレルワールドですね。
草刈:「プルガトリオ」とは煉獄という意味で、日本の神話でいえば黄泉の世界といった感じ。ただし、それについては一切説明がない。でも、「下に行ったら」とか「来生では」みたいな台詞はあるんです。
髙嶋:そこでわかりますよね。
草刈:一度読んだだけではよくわからなかったけれど、何度も読んでいくと、本当に深さがわかります。その深さを演劇作品として表現することを目指したいですよね。

「声もいいし、ふわっとセリフが滑らかに出てくる、身体も演劇を表現する身体(笑)」(草刈民代)
「草刈さんこそ、本当に世界で戦ってきたプリマドンナですし(笑)」(髙嶋政宏)

髙嶋:2017年の「クラウド・ナイン」の時に観劇してくださったことをお伺いしてびっくりですよ。
草刈:本当に良かったです。声もいいし、セリフがふわっと滑らかに出てくる、身体も演劇を表現する身体(笑)、私はダンサーだったので、舞台を観ても、体から受け取る情報が人より多いんだと思います。『演ずる身体がしっかりある人』っていうんでしょうか、存在感がある。演劇をする人にとっての存在感は、言い換えると機能が高い身体(笑)。
髙嶋:草刈さんこそ、本当に世界で戦ってきたプリマドンナですし(笑)。
草刈:「誰に頼もうかな〜」って色々考えている時にたまたまシルビアさんが出ていた舞台を拝見して、「あ、髙嶋さんがいた!」って(笑)。
髙嶋:「シルビア長者」です(笑)。
草刈:素晴らしい(笑)

「もしも本当にその戯曲が理解できたなら、言葉の奥にあるものは言葉がない世界と同じ」(草刈民代)
「これはライフワーク、それくらいのものだと思いますね」(髙嶋政宏)

――劇場もシアターウエスト、濃密な空間で最高の場所ですね。
草刈:かなり緊張感が高いと思うので、その緊張を一緒に体験していただきたいです。濃密な空気感で呑み込めるようなサイズの劇場がいいな、と思って。
――このくらいの空間ってちょうどいいですね。
草刈:シアターウエストの舞台の額縁には無機質な感じがあると思うので、ぴったりだなと。
髙嶋:ちょうどいい!
草刈:セットが入ると、空間も生きていい感じになるんじゃないかなと思います。
――最後に「見に行こうかな」、あるいはチケットを購入してワクワクしている読者の方々へ一言ずつお願いいたします。
草刈:芝居は言葉の表現と思われがちですが、もしも本当にその戯曲を理解して創られ、演じられたとしたら、セリフの奥にあるものは踊りのように言葉がない世界と同じなのではないかと感じています。今回はイギリスの演出家とお仕事するわけですが、日本語ではない言語で書いてある世界観であっても、自分たちのものにして演じたいですね。演劇は言葉の表現でもあるけれど、文化の壁を越えられるはず。そこまでたどり着きたいです。
髙嶋:まずはワークショップを頑張る!
草刈:そうですね。
――公演を楽しみにしています!
草刈・髙嶋:はい!

<物語>
簡素な白い部屋。尋問なのかカウンセリングなのか。白衣の男が女に問いかける。
女は家族のこと、子供時代のこと、そこで何があったかを話しはじめた。
皮肉とユーモア。その駆け引きからやがて女の本音が浮かび上がる。
同じようにしか見えない白い部屋。白衣の女が入ってくると男に問いかける。
男と女の立場が入れ替わった。男はすべてを剥ぎ取られるように追い詰められる。
男と女は立場を入れ替えながら、二重のらせん階段を登る。
衝撃のラストに向かって
<出演(配役)>
女:草刈民代
男:髙嶋政宏

【『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』:公演概要】
作:アリエル・ドーフマン
演出:ニコラス・バーター
脚色:周防正行
劇場・場所:2019年10月4日(金)-10月14日(月・祝)東京芸術劇場シアターウエスト
公式HP:https://www.purgatorio-stage.com/
一般発売:2019年7月20日㈯
お問い合わせ:サンライズプロモーション東京
TEL:0570-00-3337(全日10:00-18:00)
協力:オスカープロモーション
制作協力:インプレッション
主催・製作:スオズ
文:Hiromi Koh
撮影:金丸雅代