世界的なベストセラー作家・アガサ・クリスティの傑作「オリエント急行殺人事件」
2019年に続き舞台上演。主演に椎名桔平、演出は河原雅彦。
「オリエント急行殺人事件」は1934年英国での出版以降、名探偵ポアロが軽妙に事件を解決する様が世界中の人々を魅了し、数多くの映画・ドラマ化をされ、ポアロを名優たちが演じてきた。
2019年、日本初演の幕を開けた本舞台は、巧みに構成されたコメディと心理会話劇を、演劇界の奇才・河原雅彦によって演出し好評を博し、アガサ・クリスティー生誕130周年となるこの12月、演出・河原雅彦&椎名桔平の豪華初タッグにより待望の上演となる。
アガサ・クリスティは1920年に数々の出版社で不採用にされたのち、ようやく『スタイルズ荘の怪事件』を出版、ミステリ作家としてデビューする。そして1926年の『アクロイド殺し』で一躍、有名に。1952年には書き下ろしの戯曲『ねずみとり』の世界最長ロングラン公演(1952年11月25日 – )が始まった。デビューから85歳で亡くなるまで長編小説66作、中短編を156作、戯曲15作、メアリ・ウェストマコット (Mary Westmacott) 名義の小説6作、アガサ・クリスティ・マローワン名義の作品2作、その他3作を執筆している。とりわけ、『アクロイド殺し』(1926年)、『オリエント急行の殺人』(1934年)、『ABC殺人事件』(1936年)、『そして誰もいなくなった』(1939年)等は世界的なヒット作となっている。また、メアリ・ウェストマコット名義で発表した小説『春にして君を離れ』がミュージカル化されており、今年2020年に再演が予定されている(タイトル『SUNDAY』)。まさにアガサ・クリスティのアニバーサリーイヤー。
開幕前のBGMは、このオリエンント急行の時代設定にふさわしいジャージーな楽曲、トロンボーンやコントラバスの音色が軽快。雰囲気も否応無しに盛り上がる。そして、この物語の主人公である名探偵名高いポアロ(椎名桔平)、髪をセンターに分け、よく手入れされている髭、彼のモノローグが響く、そして「終わりなきミステリー」とつぶやく。なぜ、ポアロはオリエント急行に乗る必要があったのか、ポアロは語る。映像では列車が止まっている場所はイスタンブールとわかる。ポアロは言う「到着前からすでに事件は始まっていたのだ」と。
車掌(中村まこと)は客席に向かって話しかける「どなた様もお足元にはお気をつけてください」、続々と乗客がやってくる。その挙動や発言で彼らの性格や地位、国籍がなんとなくわかる。オリエント急行の乗客の国籍は実に様々だ。ポアロはベルギー人、アンドレ二伯爵夫人(松井玲奈)は貴族でハンガリー人、ヘクター・マックイーン(室龍太)はアメリカ人、といった具合。また、粟根まことはサミュエル・ラチェットとアーバスノット大佐の2役を演じるが、キャラの切り替えは見所。
1幕では登場人物たちのそれぞれの行動を通して人間関係などがわかる。さらに、舞台上に時間や停車駅の場所が映像で表示されるので、そこは何気にチェックして欲しい。作品をあらかじめわかっている観客は脳内で原作のページをめくって比較して見るのは一興。キャラの違いなどを確認しながらみれば、舞台も俄然面白くなってくる。
キャストは”続投”と”初役”の混合。椎名桔平は落ち着いた紳士な雰囲気を漂わせつつ、2幕では名探偵らしく鋭い眼差しで真実を追う。また、マルシア演じるヘレン・ハバードのあっけらかんとした挙動、室龍太のヘクター・マックイーンの軽やかさ、どちらも一目見て”アメリカ人”っぽい感じ、対して高橋惠子のドラゴミロフ公爵夫人、松井玲奈のアンドレ二伯爵夫人、貴族、着ているドレスはもちろん、立ち振る舞いも優雅で落ち着いている。
それからこの1930年代という時代設定、オリエント急行の最盛期、シンプロン・オリエント急行がカレーおよびパリからイスタンブールおよびアテネまで毎日運行していたそうである。この作品も1934年に発表されているが、まさに最先端の豪華列車を舞台にしたミステリー、殺人事件、作品の構成、トリック、人間模様の面白さのみならず、そういった側面もヒットの要因であったことは想像に難くない。また舞台上で列車を走らせる、ここはクリエイティヴの腕の見せ所、ここはぜひ劇場で確かめて欲しいポイント。
1幕のラスト近くで乗客の一人、アメリカ人の実業家・ラチェットが鍵のかかった寝室で殺される、しかも密室、無残な姿で!季節は冬、雪崩で立ち往生、閉ざされた豪華列車外部から犯人が侵入したとは到底考えられない。つまり、容疑者は全乗客、ということになる。ブーク(松尾諭)は「我が社の歴史の中で初めてだ!」と嘆く。そしてポアロに事件を解決して欲しいと依頼する。窓は開いている、被害者に傷が…。そこからポアロはたった一つの『真実』を冷静に緻密に手繰り寄せる…。
全体としてわかりやすくすっきり、そしてエンタメ性も高く、キャストも適材適所。列車が”走る”、乗客の心が揺れる。名探偵ポアロの推理、犯人はいったい誰なのか?ということもさることながら、ここに描かれている登場人物たちの本当の気持ち、真実。正義はどこにあるのか、ポアロは最後に何をいうのか、どうするのか、原作を知っていても目が離せない。この殺人事件の結末は劇場で確かめて欲しい。
■主な配役
椎名桔平: エルキュール・ポアロ / Hercule Poirot 探偵 ベルギー人
松井玲奈: アンドレ二伯爵夫人 / Countess Andrenyi 貴族 医大生 ハンガリー人
松尾諭: ブーク / Bouc 鉄道会社重役 ベルギー人
室龍太(関西ジャニーズJr.): ヘクター・マックイーン / Hector MacQueen ラチェットの秘書 アメリカ人
本仮屋ユイカ: メアリー・デブナム / Mary Debenham 家庭教師 イギリス人
粟根まこと ※二役:
サミュエル・ラチェット / Samuel Ratchett 貿易商 イタリア系アメリカ人
アーバスノット大佐 / Colonel Arbuthnot 軍人 スコットランド人
宍戸美和公: グレタ・オルソン / Greta Ohlsson 宣教師 スウェーデン人
中村まこと: ミシェル / Michel オリエント急行の車掌 フランス人
マルシア: ヘレン・ハバード / Mrs.Helen Hubbard あけすけな旅行者 アメリカ人
高橋惠子: ドラゴミロフ公爵夫人 / Princess Dragomiroff 貴族 ロシア人
<2019年公演記事>
<あらすじ>
豪華寝台列車で起きた密室殺人事件――。容疑者は、乗客全員。
シリアで仕事を終えた名探偵ポアロは、英国で起きた事件の依頼を受け、イスタンブール発の超豪華寝台列車 「オリエント急行」で英国へ向かうこととなる。列車に乗り合わせたのは、どこか妙な雰囲気を漂わせる乗客たち。 列車は発車するが、不幸にも旅の途中で雪崩に巻き込まれ立ち往生してしまう。そんな中、事件が起きたー
乗客の一人、アメリカ人の実業家・ラチェットが鍵のかかった寝室で殺されたのだ。
鉄道会社から捜査を頼まれたポアロは聞き込みを開始するが、乗客全員からは完璧なアリバイがー。 ポアロはこの謎を解けるのか。そこには、思いもしない結末が待っていた…
<概要>
タイトル:「オリエント急行殺人事件」
出演:
椎名桔平 松井玲奈 松尾諭 室龍太(関西ジャニーズJr.) 本仮屋ユイカ
粟根まこと 宍戸美和公 中村まこと マルシア 高橋惠子
演出: 河原雅彦
Agatha Christie MURDER ON THE ORIENT EXPRESS Adapted for the stage by Ken Ludwig
日程:2020年12月8日(火)~27日(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
主催:エイベックス・エンタテインメント/サンライズプロモーション東京
企画製作: エイベックス・エンタテインメント
公式HP:https://www.orientexpress-stage.jp
公式twitter: https://twitter.com/orient_st (@orient_St)
撮影:岩田えり
文:高浩美