数々のミュージカルのヒロイン役を演じてきた濱田めぐみさん。とりわけディズニー・ミュージカルの『美女と野獣』や『ライオンキング』、『アイーダ』等に出演、日本を代表するミュージカル女優であるが、今回は名作中の名作、ミュージカル『メリー・ポピンズ』のタイトルロールに!オーディションのことやディズニーミュージカル出演の経験等、貴重なお話を伺いました。
「見た目、音楽、衣裳、どれを取っても完璧な舞台で、今、この時代に日本でやるべき作品だと思っています」
ーー『メリー・ポピンズ』との最初の出会い、また感想をお願いいたします。
濱田:『メリー・ポピンズ』は映画で拝見いたしました。実写にアニメーションを取り入れた作品ですよね。しかも世界的に知られた非常にメッセージ性も高い名作で、ジュリー・アンドリュースさん等錚々たる名優の方々が演じられて……ディズニーの『メリー・ポピンズ』のメッセージ性の深さ、表面上に現れない、響いてくるものが凄くあります。見た目、音楽、衣裳、どれを取っても完璧な舞台で、今、この時代に日本でやるべき作品だと思っています。一見、煌びやかに見えますが、大人達が抱えているインナーチャイルド、自分の子供の部分を引っぱりだしてどれだけ対話出来るか、ただ楽しいだけの作品ではない、人間として生きていくことや何が一番大切なのか、エンターテインメントだけじゃない何かがある作品です。またどういう風にして舞台化し、自分はどうやってメリー・ポピンズとして舞台上で生きていくのか、ミュージカルとしてトライしていくか、ですね。
ーーオーディションはいかがでしたでしょうか?決まった時の感想もお願いいたします。
濱田:最初のオーでションは歌と台詞ですね。メリーとしての立ち振る舞い、歩き方とか決まってまして。イメージビジュアルの撮影時に「メリーはのけぞらない」と……(背筋を伸ばして)「まっすぐ!」って言われました。オーディションではまず、その動き方、また背中と肩のラインを凄く細かく見られていて、最後のオーディションでちょっとでも崩れると「ハイ、真っすぐ!」って言われました。オーディションっていうよりもレクチャー受けつつ、そこでメリーの動きを貼付けられていました。例えば振り向いた時の肩の角度等、動きやあらゆるものが完全に決まっているんですね。オーディション終わって「よく頑張ったね」「毎日、来てくれてありがとう!」って!言われて……クッキーもらいました!美味しかった!大きなチョコチップクッキー(笑)。メリー役を丁寧に熱心に教えてくださって、メリーとしても素質を伸ばして下さって……早いですね~オーディション期間は結構長かった!走り出したら千秋楽まであっという間なんだろうな~衣裳着けたら変わるんだな(笑)
「私の場合は、その役が生きてきた人生を“舞台で生きる”、でないと、役名やイメージに囚われてしまう」
ーーメリー役を演じるにあたって心がけようとしていることは?
濱田:まず、文化の違いですね。我々が常識と思っていたことが、作品の原文の中では「え?」ってことが多々あるんです。それは翻訳する際の翻訳家のセンス、それを読み解く演出家のセンス、体現する俳優のセンスが入ってきた時に、元々の“花の種の部分”が開かない時があるんです。例えばその過程で意味合いが違ってきたりとか……また英語と日本語は言葉の発想が異なるし、子音だけで発音する英語と母音を絶対に入れなければならない日本語では歌う時に音が足りない、言葉数が足りないんですよ。どんな作品でも恐らく、ところどころでそういうことが起こると思いますが、それを理解した上で、その差を埋めながらの作業になるんじゃないでしょうか。翻訳そのものを理解しないと原作と台本の上滑りになってしまう可能性があるんです。例えば、国によっては絶対にやってはいけない仕草もあったりしますので、そういう作業は大変で考えなくてはならないところなので、最初のとっかかりは凄く神経を使うところですね。さらにお客様の反応を見て……だから最終的な調整は初日、そこで帳尻を合わせていくんです。また、日本にはない習慣もたくさんありますし、色んな比喩を使っているのでピンと来ないところもある。まさに文化の融合!です。レクチャーの仕方で印象的だったことは『ライオンキング』の演出の時に「わからなくなったら耳をふさげ」と。それから「目をふさげ」と言われたんです。正解はひとつ、わかる瞬間があるんです。英語でも日本語でも正解のものはわかるんです。そこを外さないように見極められるようになるのが……英語が完全にはわかっていない方が実は彼らが何を伝えたいのかが読み取れる。心で渡そうとする演出の本質的なところがスムーズにわかるんです。『ライオンキング』『アイーダ』『ウイキッド』の時はわからない状態だったので、オブラートに包んでいない、どストレートに頭に入ってきたんです。言葉は会話してわかったつもりになるけど、実は本当はわかっていなかったりする。それがキャッチ出来た時に、目と耳を覆っても本物はわかるんだよっていう感覚、「ナルホドな~」と思いました。
ーーディズニー・ミュージカルの経験等で今回の『メリー・ポピンズ』に生かせることは?
濱田:抽象的かもしれませんが、ポジティブな部分が明快にわかるんです。「こういうことをこういう風に表現したい」があって、組み立ては既にしっかりとあって、作りながら結果的にこういう表現になったっていうことは絶対にないんです。しかも「そこにいくにはいろんなやり方があるよ」とか「君にはこのやり方が合ってる」と示唆してくれる。彼らが発信している「矢印」が凄く明確で『アイーダ』も『ライオンキング』の時もそうでした。世界各国でやるから正解はひとつしかないし、そこに行き着くまでが明確なので、自分が間違ったこともわかるし、だから、軌道修正も出来る。メッセージも言葉で渡せるものがある。そこの部分はクリアで明確、わかりやすい。無駄は全部省いて、ゴタゴタした飾りがない。ストレートに『メリー・ポピンズ』のメッセージを伝える法則が自分の中に出来上がっていると思うので、それを上手に生かせていけたらいいなと思います。無駄なく、クリエイティブなところで明確に、カラーもしっかりお届け出来ると思うんで……イメージを構築して行く創り上げ方は凄く苦しんだこともありましたが、今となっては経験してよかったなと……舞台のいいところは、受け取って下さるお客様が観て、共鳴して何かが生まれること。今回の作品は、明快にわかりやすく、なおかつ単純ではない人間の世界を俯瞰で見たメリー、「メリーはそういう風にするんだよね」と客観的に全てが見える状態でチャレンジしてみたい。スタッフ・役者、全員がわかって、共有出来てそれについて話し合うっていうところまでいかないと成功じゃないと思う。この作品はやらなければならないことが非常に多いし、自分を騙せない……役作りをしてる時は、まず役名を取っちゃうんです。私の場合は、その役が生きてきた人生を“舞台で生きる”、でないと、役名やイメージに囚われてしまう。“メリー・ポピンズ”という役よりも“メリー・ポピンズ”がいて、そこから“見える存在”……人間の格好をして傘を持って飛んでくる……果たして彼女を地球の上に生きている人間として捉えるのは、作品として成功するのか?っていうことですね。そのキーは、メリーと“人”の距離感だと思うんです。子供達はそもそもピュアな存在で、どういう風に彼らをもっていったらいいかというのは彼らに示唆するだけで、すんなり疑問が解けたらすぐにどこかに行っちゃうんです。大人達、お父さんやお母さんは、それをねじれた形で、インナーチャイルドに蓋をしてしまい、見なかったことにしておこうとする存在なんです。だからメリーは大人の方が問題だと感じているし、寄り添わなければならない……ただ子供に教える、導いているところを大人達にみてもらってそこに(何かを)感じてもらおうと……。実はまだ役作りに着手する前に、メリーという役に自分は入っていますが、今迄の役作りの経験も踏まえて、感覚的にわかっている部分もあります。だからオーディションで選んで頂けたんだと思うんです、あとは演出家が導いて下さる。私が理解する上で重要な点はパワーバランス、上下関係ではなく、その人との距離感。それがわかっていて地球に来てるのかな?と。また帰っていくんですよね~~(笑)メリーって人間?(笑)、私は普段は宇宙人って言われますが、その普段の感覚が近いかも(笑)。メリーは人間離れしていますね。初日にはどんなメリーになっているかは乞うご期待!
「劇場で何かひとつでも心の中にメリーの撒いた種の芽が出て成長していけるような何かを出せたらいいな」
ーー楽しみなシーンは?
濱田:メリーがバンクス家の人々と初めて会うところ、そのやり取りの部分とバートと2人だけの「Chim Chim Cher-ee」のシーンと2幕の島田歌穂さんと鈴木ほのかさんがWキャストで演じるミス・アンドリューと対決するシーン、そこがどうなるんだろうと想像しています。ダンスナンバーはね~これはみんなで盛り上げて稽古するしかないんで~。ストーリー部分に関しては、芝居の部分、面白いって言って頂けるシーンになればいいなと。きっと七転八倒しながら!稽古です!
ーーメリーがいたら、何をしてもらいたいですか?
濱田:私は色んなことをメリーに聞きたいですね。まず、聞いてみたいのは「なんで自分がこの世に生まれてきたのか」を知りたい、自分がこの世からいなくなった後もどうなるか知りたい……自分がいくことになるであろうこの世ではない先に凄く興味があります。そういう話をしたいし。いろんなことを聞きたいですね。やって欲しいことはなく……自分で見つけて苦しんでやって這い上がって……でもこれでよかったかな?っていうのを聞きたい。メリーは何でも知っていそうで(笑)、ドラえもんのポケットみたい!彼女は間違わないから!戦争のこととか身近なこととか「なんで」と思うこととか凄く多いので。ハッピーなことじゃなくって悲しくなるようなこと……TVを見ててなんでこんなことがあるのかな?とか、その意味が知りたいです。毎回思うことですが、その作品をやることによって、それを受け取ったお客様が、何を感じるのか……この作品で神様はどんなメッセージを伝えたいのかって。一番最初の『メリー・ポピンズ』のイメージは、ショーアップされて楽しく、メリーは子守でというイメージしかなかったんです。ところが映画を観て……『メリー・ポピンズ』ってこんな感じなんだってわかりまして……その後に『ウォルト・ディズニーの約束』を観ました。実は『メリー・ポピンズ』の原作者に興味がありまして、彼女を身近に感じていまして……(映画を観て)腑に落ちたんです。だから今、『メリー・ポピンズ』を日本でやるんだな、と思いました。いろんなディズニー作品に関わらして頂き、吹き替えもやらして頂きまして、この時点で『メリー・ポピンズ』が自分のところにやってきて「ここで全部合致したんだな」と思いました。
ーーもしもメリーみたいに不思議な力を持ってたら?
濱田:単純に、私はその人の苦しみとか痛みの原因をほどきたいし、取りたい!「あなただけじゃないんだよ」って……みんな恐がりなんだよ、一緒だよということを共通認識としてあることをわかりあいたい、そして「人を傷つけないで」と言いたい。メリーの力があれば、そうしたいです。災害とかみているとどうしようもないし、切ないですが、人同士で何かやりたい、鼓舞し合いたい!
ーー最後に楽しみな場面と作品PR。
濱田:「A Spoonful Of Sugar」のナンバーのところはどういう風になるかな?というのと、あとは「Chim Chim Cher-ee」は大好きなんで……この2曲はとても楽しみです。前任者の衣裳も着させてもらいまして、前の方のエネルギーも感じられたし、身が引き締まる思いです。一生懸命やるのはもちろんですが、エネルギーを壊さないように、劇場で何かひとつでも心の中にメリーの撒いた種の芽が出て成長していけるような何かを出せたらいいな、と。メリーという役が死ぬまで自分の中に残ると実感しているので、大事に、大事に、最高の舞台に!
<ミュージカル『メリー・ポピンズ』について>
誰もが知っている名曲、『チム・チム・チェリー(Chim Chim Cher-ee)』等で知られているミュージカル『メリー・ポピンズ』。パメラ・トラバースの原作小説と、1964年に制作され、主演ジュリー・アンドリュース、アカデミー賞も総なめにした名作中の名作映画とをもとに、ディズニーと『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』等のヒットミュージカルのプロデューサーとして知られているキャメロン・マッキントッシュがタッグを組んで2004年に遂に舞台化!現在、世界10カ国以上で上演されている。この2018年の春、日本人キャストで初上演となる。
【公演データ】
ミュージカル『メリー・ポピンズ』
<東京公演>
プレビュー日程:2018年3月18日~3月24日
日程:2018年3月25日~5月7日
会場:シアターオーブ
<大阪公演>
日程:2018年5月19日~6月5日
会場:梅田芸術劇場
<出演>
濱田めぐみ、 平原綾香/大貫勇輔、 柿澤勇人/駒田一、 山路和弘/木村花代、 三森千愛/島田歌穂、 鈴木ほのか/コング桑田、 パパイヤ鈴木/浦嶋りんこ、 久保田磨希/小野田龍之介、 もう中学生 他
公式サイト:http://hpot.jp/stage/marypoppins
©Disney / CML
取材・文:Hiromi Koh