2016年5月に韓国で行われた2週間のトライアウト公演が大盛況、同年9月、京都で初演された本作、以降、韓国で2か月のロングランに成功し、韓国ミュージカルアワードの最優秀新人演出賞を受賞し話題になった衝撃の舞台!日本人キャストで開幕!!
初日に先駆けて公開稽古が行われた。披露されたのはTeam RED。
暗闇の中、1人の少女が歩いている。コート、ハット姿の男が少女が置いた写真を拾う。男の言葉、そして少女の歌、「死んだ そのコマドリ 殺したの だあれ?」、有名なマザーグースの歌、「Who killed Cock Robin?」。それから、男は少女に導かれて歩く。デスクには新聞、殺人事件、しかも凄惨な内容の記事だ。
男の名前はユジン(松本利夫丘山晴己、Wキャスト)。新聞を広げたり、電話にでたり、パソコンを開けたり。ユジンのモノローグ、一枚の紙を見つける、それは遺書。それからパソコンにタイプする、「2000年のことだ」とユジン。英国を揺るがした“オフィーリア殺人犯”、証拠はあるのに、犯人は無関係だという。そんな時にドアベル、リモコンでドアを開ける。入ってきたのは、いかにも繊細そうな若い青年、名前はシンクレア(糸川耀士郎、小野塚勇人 Wキャスト)、ユジンがアシスタントを希望していると出版社から聞き、訪ねてきたのだった。ユジンはシンクレアに質問する、まるでインタビューでもしているかのように矢継ぎ早に質問する。
次第に舞台の空気感は緊張していく。ユジン、シンクレアの会話、”自分の中に怪物がいる”とシンクレア。彼は一体、何者なのか、本当にユジンのアシスタントになりたくてきたのだろうか、シンクレアは”自分の物語”を語りだす。母親のこと、彼の母は自分のことでいっぱいいっぱいだった様子。『お前はね、不幸の種』と母親、シンクレアの孤独、セリフではなく歌。歌がとにかく多く、心情や状況などをメロディにのせる。ピアノの旋律、不穏な和音、観客は少しずつ、この”迷宮”にまよいこむ、それはシンクレアと対峙するユジンもそうだと言える。孤独な子供は遊び相手を探す、暗闇に浮かぶ自分を見つめる子供、「だあれ?」「僕だよ」「名前は何?」「ノー・ネーム」。このノーネームとは?
ストレートプレイではなく、ミュージカルなので、楽曲で物語を、心情や思いを紡いでいく。ユジンとシンクレアの二重唱がとにかく圧巻でそのメロディラインが想像力をかき立てる。回想シーンやイマジネーションのシーン、少女が、母親が登場するが、それが幻のように、あるいはリアリティを持って観客に迫る。シンクレアは時折、顔を歪めて頭を抱える、金属音にも似た音が発せられる。ママは必要ないとノーネームに言われ…惨劇。いやリアルな惨劇ではなく記憶の中なのだが、凄惨でありながら、どこか幻のような、不思議な感覚の場面。混沌とした会話、キリキリとした感情、謎、しかし、次第に闇が見えてくる、それは心の闇であり、己も知らない何か、”怪物”。自分の中にいる知らない自分、それが不意に現れる。シンクレアは誰なのか、畳み掛けるように変わっていく空間、360度、隠れて見えないところはない。
冒頭のマザーグース、エドガー・アラン・ポーの「アナベル・リー」、それらが象徴するもの、自分の中に潜む怪物、多重人格、妄想、虚構、作り話、ピアノの調べにのって、それらが渦を巻く。我々観客は、その渦を見る、そして感じる。様々な問題が浮かび上がる。多重人格は耐えきれないストレスによって生まれるもの。それらが語られる時、胸が痛い。そのストレスから自分を守るために出現する別の人格。様々な問題を内包している作品、そして様々な解釈も可能。この密室での事象、しかし、そこはかとなく愛も感じられる。ユジン役の松本利夫は振り返る瞬間やものをとる仕草、シンクレアと対峙するシーン、それらが洗練されており、しかもそこにキャラクターの深い思いも感じる。歌はテクニカル的ではなく、ひたすらに感情を吐露する歌唱、ぐいぐいと観客を作品世界に引きずり込む。言うなれば没入感とでもいうのだろうか。シンクレア役の糸川耀士郎、繊細そうな青年、そして次第に彼の内なる狂気が出現する時は、その振り幅が大きく、舞台上の空気を変える。多様な役を演じるジョアン・シニア役の伊波杏樹(山口乃々華とのWキャスト)、この役は回想シーンや彼らのイマジネーションの中、よって立ち位置が難しいが、儚さと美しさで物語に奥行きを与える。ラストはあっと驚く展開、そしてエンディング。先の来日公演を観劇した観客なら、そこは先刻承知である。照明の変化、そして死角なしの舞台、それだけでも緊張感を醸し出す。ユジンと共にこの空間に入り込み、まよいこむのも一興だ。
公開稽古の後に簡単な会見が行われた。登壇したのは、松本利夫(EXILE)/糸川耀士郎/伊波杏樹/丘山晴己/小野塚勇人(劇団EXILE)/山口乃々華。
まずは演出の田尾下哲から。
「複雑な作品で一回見ただけではわからない。解釈や役者の個性が作品に反映、チームで全くアプローチが違います。解釈、役柄、チームで違います。コロナ禍でやらせていただく、制限もありますが、精一杯のことをやっています」
それからキャスト挨拶。
「2チーム、内容が同じなのに絵が違います。違うものなんだなと。解釈の仕方、自分の役、自分にしかできない役をやるまた、360度の醍醐味、隙がない、人が動く全てが見える、いろんな角度で楽しめます。明るい話ではないですが、厳しい稽古でしたが、やってて楽しかった、これから精一杯やりたい」松本利夫(EXILE)
「多重人格の人ってこういう気持ちなのかなと真剣に考えまして、勉強になりました。マットに”俺が信じられるのか”と言われている気がしています。あと、片目、コンタクトレンズ、落とした!」糸川耀士郎
「360度、観られていて、劇場に入って改めて感じました。しっかりとブラッシュアップして!」伊波杏樹
「ほとんど、松本さんが喋ってくださいました。クリエイティブチームのおかげで360度の劇場のために作られた作品かなと。この作品で伝えなければならないメッセージ、愛される作品になると思います」丘山晴己
「1人の人間なのにいろんな人格が住んでいる。どうしてこうなったのか、いろんな問題がある、難しいところです。魔法のように喋っていて変わる。その人生が見えるような。いろんな見せ方があるので、しっかりと!」小野塚勇人(劇団EXILE)
「初めてのミュージカルです。いろんな方に助けていただきながら…愛の物語、チームそれぞれいいところがあります。各チーム、観ていただきたい」山口乃々華
それから質疑応答。苦労したところをあらためて。
「見えていない存在を見ないようにして演じるところ。多重人格、ある意味騙していかなければならない。もともとはパフォーマンスなので、歌が不安でした。挑戦させていただき、ありがたいです」松本利夫(EXILE)
「台本をいただいて理解するのが大変でした。可能性が多い作品だと思います」丘山晴己
「ジョアンは難しいです。稽古現場は明るくってのびのびやれた。みなさんに助けていただきました」山口乃々華
「膨大なセリフと膨大な歌!あとは間とか芝居、集中力の極限状態です」小野塚勇人(劇団EXILE)
また歌唱について松本利夫は「歌唱の先生につきまして。ミュージカルの歌って歌ったことがないので非常に難しいです。リズムが難しい、音符を覚えるところから入って、音程も自信ないです…まだまだ。歌はセリフを乗せてるイメージですね」と語る。そして松本利夫に”今後、ミュージカル出演は”という質問に対して「二度とやるか!」と笑わせ、「今も苦労しています。ネガティヴではなく、これがあるから楽しい。乗り越えて終わった時の達成感、ワクワク感で『もう一回、やってみようかな?』と。実際楽しい!」と笑顔で。
終始、和やかな雰囲気で会見は終了した。
<関連記事(《トーク》松本利夫(ユジン役 Team RED)& 丘山晴己(ユジン役 Team BLUE ), 日本語台詞・演出 田尾下哲)>
https://theatertainment.jp/translated-drama/75755/
注1:解離性同一障害 かつては多重人格障害と呼ばれた神経症。子供時代に適応能力をはるかに超えた激しい苦痛や体験など(児童虐待の場合が多い)による心的外傷などによって一人の人間の中に全く別の人格が複数存在するようになることを指している。他人から見ると外見は同じ人でありながら、全く連続しない別の人格がその時々に現れる。性格、口調、筆跡までもが異なる。性格の多面性とは別のものである。
注2:イギリスで古くから口伝えで伝承されている童謡、歌謡。庶民から貴族まで階級に分け隔てなく親しまれており、聖書やシェイクスピアと並んで英米人の教養の基礎となっている。「ロンドン橋が落ちた」「6ペンスの歌」などはよく知られている。ここでは“Who killed Cock Robin?”(誰がこまどりを殺したの?)が使われている。
注3:アメリカの小説家・詩人・評論家。ここで引用されている詩はエドガー・アラン・ポー最後のものと言われている。
注4:19世紀のイギリスの画家、ジョン・エヴァレット・ミレー。代表作は「オフィーリア」。
<ストーリー>
愛する人に裏切られたショックから殺人を犯した一人の少年。
彼は自らを罰するべく自死を選ぼうとするが、自らも知らないうちに記憶を改ざんし、死を逃れ、生き延びた。
そして10年後。
青年となった殺人犯の少年は記憶が蘇り、罪の意識から今度は連続殺人犯となっていった。
2001年、ロンドンのとある小さい事務所のドアを叩く音・・・。
ベストセラー推理小説『人形の死』の作家であるユジン・キム(松本利夫/丘山晴己※ダブルキャスト)の事務所へ、
作家志望の青年シンクレア(糸川耀士郎/小野塚勇人※ダブルキャスト)が訪ねてくる。
ユジンは、自殺を企てた連続殺人犯が書いた遺書を差し出し、シンクレアに物語を作ってみろと促す。
そこから10年前の殺人事件の真犯人を探す2人の男の「インタビュー」が始まる。
独創的なストーリーと全20曲の美しい音楽で綴られる物語は、まさかの展開で手に汗握る作品になっております。
この物語の哀しい真実を一緒に見届けてください。
<キャスト>
[Team RED]
ユジン・キム:松本利夫
マット・シニア:糸川耀士郎
ジョアン・シニア:伊波杏樹
[Team BLUE]
ユジン・キム:丘山晴己
マット・シニア:小野塚勇人
ジョアン・シニア:山口乃々華
<概要>
公演名 ミュージカル「INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~」
日程・会場:2021年3月24日(水)~4月4日(日) 全20公演 品川プリンスホテル クラブeX
※ダブルキャストにより回替わりで上演。
原作:チュ・ジョンファ
作曲:ホ・スヒョン
日本語台詞:田尾下 哲
日本語訳詞:安田佑子
演出:田尾下 哲
音楽監督:宮﨑 誠
歌唱指導:五東由衣
料金
・プレミアムグッズ付き指定席 : 12,800円(税別)
※パンフレット+非売品オリジナルフォト(観劇日のTeamキャストの写真3枚セット)
・指定席 : 9,800円(税別)
企画・制作:LDH JAPAN / 東京音協
主催 : 『ミュージカルINTERVIEW』製作委員会
公式ホームページ http://kmusical-interview-japan.com
公式ツィッター https://twitter.com/INTERVIEW_0324
Ⓒ『ミュージカルINTERVIEW』製作委員会