北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.) 舞台初主演 舞台『火の顔』ありふれた家族の内なる矛盾と危うさが結末に向かって爆発する。

1998年、マリウス・フォン・マイエンブルグがベルリン芸術大学在学中に執筆した処女戯曲『火の顔』、深作健太演出で3月25日より吉祥寺シアターで上演された。
舞台上のセット、パイプのベッド、中央には鉄パイプで通路をしつらえ、テーブル、椅子、無機質な印象。スタンドマイクが2本。
暗闇、マッチを擦る、小さい炎、マッチを持った少年・クルト(北川拓実)、その炎に照らされた意志の強そうで危うい香りがする表情、スタンドマイクを手にかけてしゃべりだす、シャウトするように。「僕は生まれた時のことを覚えている」という。そばには姉のオルガ(大浦千佳・小林風花 Wキャスト)、「本気で言ってる?」と呆れた表情で言う。ロックな印象、インパクトのある出だし。叫ぶようなセリフ、音楽のロックではないが、テイストは近い。ロック・ミュージックは政治行動や人種、性別、セックス、薬物使用に対する社会的態度と結びついている。また青少年の”反乱”の表現とも言われている。ここで2人の社会や大人に対する態度が視覚的に、聴覚的にわかる。父親、母親、姉、弟、よくある家族構成。父と母はごく普通に見えるが、どこか表層的であり、子供達に対する態度も、どこか表面的な感じ。深いところで子供達を理解していない様子がわかる。子供達はそれを鋭く捉えている。父親は新聞の三面記事の、特に刺激的な事件が気になっているようだ。母親は子供達をどう扱っていいかわからない様子、特に娘に対しては同性故のやりづらさも感じられる。どこにでもいそうな家族、仲良し家族ではなく、ギリギリのところでバランスをとっている。彼らのやり取り、行動、挙動、今は平穏でも、いつか何かが起きるのでは?という不穏な空気を孕む。
そこへ娘が恋人を連れてくる。名前はパウル(納谷健・直江幹太 Wキャスト)、大型バイクを乗り回し、サングラス、革ジャンの”いかにも”と言ったルックス。エレキギターが奏でられる、バリバリ!な登場の仕方。弟のクルトは火の哲学に傾倒、姉にとっての恋人は本当の愛の対象でもなさそう、空虚な心を埋める道具なのか、ここは観客の解釈に委ねられている部分。姉は恋人を家に招く、父親は母親の肩を抱き”仲良し”アピール、その後ろ姿はどこか空々しい。彼が現れたことによって、何かが崩れていく。どうにもならない苛立ちとともに、それまで表面的には普通のありふれた家族だったのが、次第に変化していく。自傷行為、引きこもり、連続放火事件、けたたましいサイレンの音、ここからこの戯曲の最大の悲劇がやってくる…そこから一気に結末へと登場人物全員が向かっていく。

白を基調としたシンプルな衣装、時折奏でられる音楽、クルトを演じる北川拓実は等身大でキャラクターの純粋さと危なさを全力で表現。その全力さがクルトというキャラクターをさらに際立たせる。姉のオルガ、公開稽古では大浦千佳、小柄でベビーフェイス、大人と子供の間で揺れる少女、弟との関係、そしてさらに恋人もいる。ラストの土壇場で図太さを示し、母親をどこか毛嫌いしていたが、そんな少女の将来の姿が垣間見えるよう。オルガの恋人、公開稽古では直江幹太、大柄で革ジャンやサングラスがよく似合い、イケイケな空気感。俗物的なわかりやすいキャラ、酒が原因で勤め先を解雇されたり、父親から借金し、バイクを売りはらう、世間的には困った若者、彼はこの4人家族に向けて、大きな風を送り込む。そして両親、父は中野英樹、母は比企理恵、どこにでもいそうなおじさん、おばさん、中野英樹は物わかりが良さそうに見えて子供達への関心の薄さを体現し、比企理恵は子供達に対しての接し方がわからない、特に娘に対しての言動が辛辣。
ドイツの戯曲であるが、現代の日本でも十分に共感できる内容。ここに登場する人々は特別な人間ではない。誰もが持っている闇、迷い、成熟した家族であろうとすればするほど、内なる矛盾が噴出する。滑稽に見え、悲劇的にも見える。見終わったあとは多くのことについて考えさせられる。クルトが最初にいう、自分が生まれた時のことを話す内容が幻想的で象徴的。このセリフのエネルギー、これをマイクでシャウトさせることによって観客は、このセリフをラストまで抱えて舞台上の出来事を観る。20年以上前に書かれたが、今の時代にフィットする作品。こういった内容の戯曲は上演されることは少ないが、時にはズシンとくる舞台を観るのも重要かもしれない。

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《インタビュー》北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.) 舞台初主演 舞台『火の顔』 演出 深作健太

【あらすじ】
どこにでもいる、普通の四人家族。 父は現実から目を背け、母は自らの母性をアピールする。 姉は外の世界へ出る事を夢見て、弟は爆弾作りに没頭する……。 そこへ突然、現れる姉の恋人。 閉ざされた家庭に、新しい〈風〉が吹き込んだ時、 思春期の少年に渦巻いていた〈炎〉は、音を立てて燃えあがる。

<概要>
◆日程 2021年3月25日(木)~2021年3月29日(月)
◆会場 吉祥寺シアター
◆出演
北川拓実(少年忍者/ジャニーズJr.)
納谷健・直江幹太(ダブルキャスト)
大浦千佳・小林風花(ダブルキャスト)
中野英樹
比企理恵
◆スタッフ
作:マリウス・フォン・マイエンブルク
翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季
演出:深作健太
美術:伊藤雅子 照明:佐藤啓 音楽・音響:西川裕一
衣裳:伊藤正美 上杉麻美 ヘアメイク:柿原由佳
演出助手:荒井遼 舞台監督:南部正憲 プロデューサー:児玉奈緒子 主催・企画・制作:深作組/MA パブリッシング/東京音協/ステラキャスティング/Goh
◆公式 WEB サイト https://www.hinokao.com
◆Twitter アカウント https://twitter.com/hinokao (@hinokao)
撮影:阿部章仁
舞台写真は初日公演のもの:パウル役:納谷健、オルガ役:小林風花