舞台『12人の怒れる男』の東京公演が8月12日より開幕する。
本作は1954年にアメリカのテレビドラマとして誕生し、1957年に映画化、さらに舞台化もされたレジナルド・ローズの傑作。「法廷モノ」に分類されるサスペンス作品で、密室劇の金字塔として高く評価され、現代でも多くの人を魅了し度々上演される色あせない名作として知られている。
ナイコンでは『純粋に芝居と向き合いたい。上質な空間を提供したい』という想いから2018年より定期的に本作を上演。4シーズン目となる今回もWキャスト、Wチーム編成で挑んでいる。
物語は、父親殺しの罪に問われた少年の裁判に12人の陪審員が招集されるところから始まる。
守衛がテーブルに紙やペンを並べて準備、それから前説。時間になり、モノローグ。”事実を見極める”、”一人の命がかかっている”という。この物語のキーワードとなる言葉が次々と出てくる。
この密室劇の登場人物たちが入ってくる。季節は真夏、ちょうど、この公演の日程も真夏。暑そうに入ってくる、軽快な服装の者、スーツを着た者、年齢も職業もバラバラな12人、誰一人として知り合いではなく、ただ、一つの目的のために集められた12人。Bチームで観劇。上杉祥三だけがA、B通して陪審員3番で出演、それ以外はチームによって俳優陣が異なるところがWチームの面白いところ。
陪審員1番(菊地浩輔)が行きがかり上、陪審員長として議論を進行させる役目を負う。自ら進んでやっているわけではないが、責任を持ってやり遂げようとする。裁判では少年にとって不利な証拠や証言、陪審員の大半が少年は有罪だと思っている。ところが、ただ一人、陪審員8番(池下重大)が無罪を主張する。陪審員、皆、好きでやってるわけではない。全員、同じ意見、つまり0vs12でないと終わらない。この陪審員8番が無罪と言い出したところから、皆、この状況から逃れられなくなる。陪審員たちはもちろん初対面、「全員一致で結論を出さなければならない」という課題がある。ここで仲間意識が生まれる。この一見、奇妙に見える連体感だが、実は日常的にある連体感。そして少年が有罪であろうと無罪であろうと、彼らの人生にとっては関係のないこと。そこに浅はかさが生まれ、たった一人無罪を主張する陪審員8番に対して同調圧力がかかる。
ここからが、この作品の真骨頂。この同調圧力に屈しない陪審員8番。実際、陪審員7番(糠信泰州)は8番に食ってかかる。陪審員4番(横井翔二郎)は「少年の話はデタラメとしか思えない」と言う。しかし、よく考えてみると少年の話がデタラメかどうかは定かではない。つまり、そう思っているだけなのだ。陪審員8番は辛抱強く、しかし、巧みに一つ一つ、事実を検証し、浅はかな考えを崩していく。そして、まず、陪審員9番(ジジ・ぶぅ)が有罪の意見を翻す。この陪審員8番の行動、言動により、一人、また一人と無罪側についていく。陪審員8番は社会心理学的にはマイノリティ・インフルエンス。議論は時には混沌とし、また、陪審員たちのバックボーンも透けて見える。
気が弱そうで少々あやふやな陪審員2番(登野城佑真)、陪審員3番(上杉祥三)は息子との確執があり、自分の考えには絶対的な自信もあり、最後まで有罪を主張する。陪審員4番(横井翔二郎)はクールで演説もうまいなど、彼らの性格や生い立ちが彼らの意思決定においてかなりの影響があることがわかる。つまり、公平性に欠けており、時には感情的になったり、あるいは差別的発言もする。しかも密室で暑い。そんな状況でも陪審員8番は”無罪”に手を挙げる陪審員を増やしていく。彼は「人一人の命がかかった証言です」と言う。正論だから、誰もそれに異を唱えられない。つまり彼らに対して心理的揺さぶりをかけているとも受け取れる。こうして状況はじわじわと変化していく、戯曲の巧みさ、時折男たちが激昂したりする。そして結果は言わずもがな、である。
キャスティングされた俳優陣、幅広い年齢、観客側にとっては観るたびに新しい発見がある作品であり、演じる側にとっても毎回新しい発見があることであろう。大阪公演を終えて、東京公演、かなりこなれた印象。主人公は陪審員8番で映画ではヘンリー・フォンダが演じたが、群像劇的な要素もあり、すべてのキャラクターに見せ場がある。ラスト、ついに最後まで有罪を主張していた陪審員3番が自分の意見を翻す。彼は息子との確執故に有罪にこだわっていた。しゃがみこんで泣く。ここで彼は自分のことに気がつく。
自分の強引さが息子との確執を生み、また最後の最後まで少年の有罪にこだわっていたことを知る。また中盤でナイフで陪審員8番を相手にナイフの実証をする場面では剣より言葉の方が力があることを象徴的に指し示し、秀逸なシーン。
演出面では最初は色とりどりな服装のキャストがラストで陪審員3番以外、全員トップスが白(または白に近い色)、それはちょうど知らない間にオセロで盤面の石がほとんど白になったかのような感覚。正義とは、また同調圧力、同調行動、差別、偏見、多くのテーマを内包している作品、キムラ真が、この『12人の怒れる男』にこだわり続けるのも納得。
東京公演に向けてキャストからコメントも到着した。
【陪審員10号役◆足立英昭】
東京公演を迎え、色んな感情があります。ですがやっぱり「嬉しい」が一番に来てしまいますね。
大阪公演では劇団、共演者、お客様、沢山の方にご迷惑とご心配をおかけしました。
それでもこうして東京公演に立たせて頂ける事は本当に光栄で、感謝の気持ちでいっぱいです。
個人的にナイコン12人は4年連続4回目の出演です。なんか甲子園みたいですね笑
ですが、それほど僕にとって、当たり前ではない、目指すべき場所の一つに成りつつあります。
去年に引き続きのこの状況。色んな方の色んな注目の仕方があると思います。
その中で、それぞれの形で、毎年最高を更新し続けるナイスコンプレックスでの12人の怒れる男を応援して頂ければと思います。
【陪審員11号◆和泉宗兵】
大阪公演を無事終えこうして東京公演初日を迎えられたことに喜びを感じてます。
そして喜びだけではない様々な感情も芽生えています。
僕たちの仕事は演劇作品をお客様にお届けし楽しんでもらうこと。
その為に出来得る限りの努力を重ね本日を迎えました。
陪審員室で起きるワンシチュエーション密室劇。
物語の始まりと終わりではまるで別の景色のように感じると思います。
演出キムラさんの演劇愛を感じていただきたい。
ナイスコンプレックス2021年版『12人の怒れる男』を沢山の方に観ていただきたい。
感染症対策の為の客席半減でチケットの手配が厳しい回もございますが、公演の配信もございます。
是非、何とぞ、よろしくお願い致します。
【陪審員12号◆畑中智行】
無事に東京公演初日を迎えられたこと、本当に嬉しく思っています。
今回初めて参加させていただいたのですが、とても気持ちの良い現場です。
常々、俳優に必要なことは「演技力以上に人間力」だと思っているのですが、今公演のメンバーは、みんな人間力の塊です(笑)。
個性豊かなキャストが、今回の「12人の怒れる男」の魅力につながっていると思います。
強い手ごたえを感じた大阪公演からチームも一新し、また面白い2チームの組み合わせが出来上がりました。
「12人の怒れる男」は、一つの事件を通して12人の陪審員の人間性が露呈し、変化していきます。
僕も、高校生の時に見た一つ演劇作品に衝撃を受け、人生が大きく変わりました。
一つの演劇作品が、観客に大きな変化を与えることがあります。
この作品を通して、皆様の生活に潤いと、良い変化をもたらせたらと思います。
【主宰・演出/守衛役◆キムラ真】
他にあまり類を見ない「本番終わってまた稽古して再び本番」。
それをナイコン12人は毎回行なっております。
先週大阪での公演を終えて、チームをMIXさせて再び稽古をしていよいよ東京公演です。
「お客様に観て頂く本番」と「稽古」では、その効果は全然違います。
稽古10回でも得られない発見が本番にはあります。
あと、よく本番終わってから「あーしとけば良かったなー」とか言う人もいますよね?
何を言いたいかと言うと、
【ナイコン12人の東京公演は物凄い到達点になる】という事です。
昨年で実証済み。今年はその効果をより良く。
今、コロナ禍が一番数字的に見て末期になっているのかもしれません。ですが、昨年ほどパニックになっていません。決して慣れた訳じゃない。舐めてもいない。
「僕らは経験してきた」
誰を信じていいか、何が真実なのか、どれが効果的なのか、何もかもが分からなかった昨年。
それでも必死に対応対策して、この1年演劇を上演し続けてきました。
この1年は絶対忘れません。
ナイスコンプレックスが今「芝居が大好きな」みなさんを楽しませる事が出来る1番の演目が始まります。
コロナ禍だからこそこの贅沢すぎるキャスト陣が揃ったのかもしれません。僕は忘れません。日本一を目指します。
ライバルは、先週大阪で上演していた自分たちです。
芝居がご飯より好きなすべての人へ
<Aチーム:PHOTO(撮影:鏡田伸幸)>
<公演概要>
タイトル:『12人の怒れる男』
大阪:2021年7月30日(金)〜8月1日(日)大阪市立芸術創造館 ※公演終了
東京:2021年8月12日(木)〜8月15日(日)赤坂RED/THEATER
【キャスト】※東京公演
Aチーム: 東拓海、篠原麟太郎、上杉祥三、藤原祐規、山本誠大、松本寛也、桑野晃輔、濱仲太、赤眞秀輝、室たつき、和泉宗兵、畑中智行、キムラ真
Bチーム: 菊地浩輔、登野城佑真、上杉祥三、横井翔二郎、山本誠大、片山浩憲、糠信泰州、池下重大、ジジ・ぶぅ、足立英昭、竹下健人、ナカヤマムブ、赤眞秀輝
裁判長(声の出演) 黒田崇矢
【スタッフ】
原作:レジナルド・ローズ
脚色・演出:キムラ真、音楽作曲:橋本啓一
主催・企画制作:ナイスコンプレックス