ミュージカル『オリバー!』が好評上演中だ。子供達が”主役”、大人キャストも合わせると総勢107名の大所帯、オリバー・ツイスト役とアートフル・ドジャー役はクワトロキャスト、ギャング団はWキャスト、救貧院の子どもたちもWキャスト、大人キャストもメインキャラクターはWキャストとなっている。
重厚な楽曲で始まる、舞台上に救貧院。窓、壁には” God Is Love”の文字が。しかし、この言葉に似つかわしくない光景、貧しい身なりの子供達が大勢、しかもお腹を空かしている。食べ物はわずかばかりのお粥。育ち盛りの子供がこれで足りるわけがない。オリバーが「おかわりをください」と懇願する、担当役人のミスター・ハンブルと婦長のミセス・コニーは激怒、オリバーを雪降る街に連れ出し、葬儀屋に３ポンドで売ってしまう。しかもその葬儀屋でも酷い扱いを受け、耐えきれなくなり、葬儀屋から脱走する。その一週間後、ロンドンの街中で年上のドジャーに出会う。ドジャーはオリバーを連れてフェイギンの元に。このフェイギン、実は子供達だけのスリ集団の元締めだった…。
有名なチャールズ・ディケンズの小説のミュージカル化、19世紀のイギリス・ロンドン。産業革命後、世界に先駆けて工業化と都市化が実現、その一方で公衆衛生、貧困、住宅、犯罪など、都市特有の問題が生じる。貧困、オリバー始め、フェイギンやナンシー、ビル・サイクスら、皆、底辺の人々。フェイギンは身寄りのない子供達を集めて窃盗を繰り返し、ビル・サイクスはフェイギンの仲間でナンシーは彼の情婦。救貧法、イギリスの法律で1834年に法改正、福祉費用が大幅に削減。これが下層階級の反発を招いた。フェイギンが歌う『ポケットからチョチョイと』で”この世のお宝は銀行が握っている”と。そして”税金なんか真っ平だ”と。この作品に登場するミスター・バンブルなどは、下層階級を酷使する中層階級、葬儀屋でこき使われるオリバーの姿は象徴的。またオリバーが運命の出会いをするミスター・ブラウンロウ、スリの被害に遭ったにもかかわらず、犯人と思われる少年を心配する情に厚い人物。そしてタイトルロールのオリバー、どんな境遇でも希望を捨てない、素直でまっすぐな少年。彼のそんな姿がナンシーやミスター・ブラウンロウらの心を動かす。
オリバーの波乱に満ちた人生、短いながらもさながらジェット・コースターのよう。めぐりめぐってミスター・ブラウンロウに出会う。まさに運命の出会い、彼の元でしばし、愛情に満ち溢れた時間を過ごすが…がだいたいの流れ。
拝見したのは、オリバー・ツイスト、小林佑玖、アートフル・ドジャー、酒井禅功、フェイギン、武田真治、ナンシー、ソニン、ビル・サイクス、原慎一郎。
とにかく、子供達が達者、オリバー役の小林佑玖、存在感もあり、ドジャー役の酒井禅功、「信じてみなよ」のナンバー、日本では「オリバーのマーチ」というタイトルで有名だが、酒井禅功の歌唱力と巧みなダンスが目を引く。ここの群舞は圧巻で、暗い世相の中でそれでも明るく生きようとする人々の気概を感じる。フェイギンを演じる武田真治がコミカルな雰囲気で、小悪党感。１幕でアドリブで２階席の客いじり、ここは客席から笑いが。ナンシー役のソニン、コケテッシュな雰囲気が役柄にピッタリで、情に熱いナンシーを好演、２幕では聴かせどころのナンバーで熱唱。
ビル・サイクスは原慎一郎、大柄で”圧”があり、フェイギンや子供達がビビるのも納得。幕切れは、登場人物それぞれの顛末、しかも現実的な側面もある。ナンシーの哀しい最期、ビル・サイクス、悪事を繰り返してきた彼の最期は衝撃的、フェイギンも住処を離れざるをえない。時代背景、幼い子供も犯罪に手を染めなければ生きていけない、だが、その中でも健気に生きる人々、考えさせられる結末。ミュージカルナンバーが全てが秀逸、心に残るメロディー多数。
1960年にウィンブルドン劇場で開幕、記録破りのロングラン、その後何度も再演。1963年にはニューヨークで公演。ブロードウェイで好評を得る。キャロル・リード監督による1968年の映画『オリバー!』はアカデミー賞作品賞受賞。そして21世紀、日本での上演、色褪せることのない作品だ。
＜キャスト子役＞
オリバー・ツイスト役（クワトロキャスト）：エバンズ隼仁、越永健太郎、小林佑玖、高畑遼大
アートフル・ドジャー役（クワトロキャスト）：大矢 臣、川口 調、酒井禅功、佐野航太郎
[フェイギンのギャング団(W キャスト)]
<ハックニー>
チャーリー・ベイツ … 中村海琉(なかむら かいる)
ディッパー … 河井慈杏(かわい じあん)
ハンドウォーカー … 山口俊乃介(やまぐち しゅんのすけ)
スネイク … 市村優汰(いちむら ゆうた)
キング … 入内島悠平(いりうちじま ゆうへい)
キャプテン … 髙橋唯人(たかはし ゆいと)
スティッチム … 瀧澤拓未(たきざわ たくみ)
スパイダー … 田中琉己(たなか るき)
キッパー … 田中誠人(たなか まこと)
ニッパー … 髙橋維束(たかはし いつか)
<ペッカム>
チャーリー・ベイツ …日暮誠志朗(ひぐらし せいしろう)
ディッパー … 福田学人(ふくだ がくと)
ハンドウォーカー … 山下光琉(やました ひかる)
スネイク … 河内奏人(こうち かなと)
キング … 花井 凛(はない りん)
キャプテン … 本田伊織(ほんだ いおり)
スティッチム …杉本大樹(すぎもと だいじゅ)
スパイダー … 高田夏都(たかた なつ)
キッパー … 平澤朔太朗(ひらさわ さくたろう)
ニッパー … 渡邉隼人(わたなべ はやと)
[救貧院の子どもたち(W キャスト)]
<メイフェア>
小川竜明(おがわ りょうめい)、西口青翔(にしぐち あおと)、井上綾子(いのうえ あやこ)、 木村律花(きむら りっか)、久住星空(くずみ せいら)、佐藤 凌(さとう りょう)、
土岐田 育(ときた いく)、仲西 奏(なかにし かなで)、廣瀬健也(ひろせ けんや)、 松浦歩夢(まつうら あゆむ)、森田みなも(もりた みなも)、涌澤昊生(わくさわ こうき)、 涌澤摩央(わくさわ まお)
<ベルグレヴィア>
磯田虎太郎(いそだ こたろう)、市川裕貴(いちかわ ゆうき)、石倉 雫(いしくら しずく)、
木村 心(きむら こころ)、黒川明美(くろかわ めいみ)、河本雪華(こうもと せっか)、
鐘 美由希(しょう みゆき)、高澤悠斗(たかざわ はると)、土屋飛鳥(つちや あすか)、 寺﨑柚空(てらさき ゆず)、平賀 晴(ひらが はる)、弘山真菜(ひろやま まな)、矢田陽輝(やだ はるき)、
＜公演概要＞
ミュージカル『オリバー!』
[東京公演]
2021年10月7日~11月7日 東急シアターオーブ
プレビュー公演:9月30日~10月6日
主催：ホリプロ 東宝 TBS 博報堂DYメディアパートナーズ WOWOW
特別協賛：大和ハウス工業
後援：ブリティッシュ・カウンシル
[大阪公演]
2021年12月4日~12月14日 梅田芸術劇場メインホール
主催：ホリプロ 東宝 TBS 梅田芸術劇場 読売テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ WOWOW
特別協賛：大和ハウス工業
後援：ブリティッシュ・カウンシル
[大人キャスト]
フェイギン … 市村正親/武田真治(Wキャスト)
ナンシー … 濱田めぐみ/ソニン(Wキャスト)
ビル・サイクス … spi/原慎一郎(Wキャスト)
ミスター・バンブル … コング桑田/小浦一優(芋洗坂係長)(Wキャスト)
ミセス・コーニー … 浦嶋りんこ/鈴木ほのか(Wキャスト)
ミスター・サワベリー/ミスター・グリムウィグ(2役) … 鈴木壮麻/KENTARO(Wキャスト)
ミセス・サワベリー/ミセス・ベドウィン(2役) … 北村岳子/伊東えり(Wキャスト)
ミスター・ブラウンロウ … 小野寺昭/目黒祐樹(Wキャスト)
ベット … 植村理乃
ノア・クレイポール … 斎藤准一郎
シャーロット … 北川理恵
サリー婆さん … 河合篤子
ローズセラー … 青山郁代
ミルクメイド … 元榮菜摘
ストロベリーセラー … 飯田恵理香
ナイフグラインダー … 森山大輔
荒井小夜子、家塚敦子、石川 剛、大久保徹哉、小原和彦、金子桃子、菊地まさはる、小林遼介、今野晶乃、 白山博基、鈴木満梨奈、高瀬育海、髙田実那、照井裕隆、宮野怜雄奈、吉田玲菜、蘆川晶祥
[スタッフ]
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作詞・作曲:ライオネル・バート
公式サイト: https://www.oliver-jp.com
公式 Twitter: @OliverMusicalJP https://twitter.com/OliverMusicalJP
公式 YouTube https://www.youtube.com /channel/UCH2fF5Bmcu54JLnunmkD_Yw
