ある少女の死をきっかけに世間からバッシングを受けるエリート医師
それぞれのアイデンティティをめぐる病院内のパワーゲーム・怒涛の会話劇
2021年10月30日にロンドン発の新作舞台『ザ・ドクター』の埼玉公演が開幕、いよいよ11月4日よりPARCO劇場にて東京公演。
物語はエリート医師・ルースの元へ、自ら妊娠中絶処置を行った一人の少女が運び込まれるところから始まる。
生死をさまよう少女のもとへ「彼女の両親から臨終の典礼を頼まれた」と神父が現れるが、ルースは面会謝絶を理由に彼の入室を拒否。
このことで、ルースは世間から激しいバッシングを受ける―。
信仰やジェンダー、階級格差、SNS問題という現代社会にはびこるテーマを取り扱いながらも、
誰もが感じたことのあるような、人生の中の“生きづらさ”や“違和感”が描かれている。
決して答えは一つではないが、たくさんのヒントがそこにある。観終わったあとに、つい、誰かと話し合いたくなるような作品だ。
演出を手掛ける栗山民也は戯曲を一読して、「最先端の医療現場ですら改善されていない構造的な歪み、歴史認識やジェンダー、人権をめぐる問題までが絡み合い、自分たちで築いてきた社会の仕組みに縛られ、喘ぐ人間の姿が生々しく浮かび上がる。
新聞の一面から順に、トピックとなる記事をモンタージュしたような刺激的な作品」と感じたと言う。
主人公・ルースを演じる大竹しのぶは、久しぶりの現代劇といっても、「ギリシャ悲劇を演じていても、シェイクスピアを演じていても、それらが現代劇ではないという感覚は、自分の中にはない」と語り、「命というものが人間にとって大きなテーマであると思います。医師はそこに携わる人。
これまでいろいろな人が、いろいろな作品で医師役をやってきていると思いますが、奇をてらわずしっかりと演じたい。
『人間である前に、医師だと思っています』というルースの台詞はあるけれども、やっぱり、ひとりの人間を、演じたいなと思っています。」と語る。
奇しくも2019年にロンドン初演版を1列目の客席で観劇し、主演のジュリエット・スティーブンソンの演技に圧倒されたという大竹が、今回特に大切にしたいのは『リアリティの追求』。「言葉」を大切に、11人の俳優で紡ぐ濃密な人間ドラマ。
現代社会のあらゆる問題点を抱えながら、とある医療機関で繰り広げられるパワーゲーム。ルースを取り巻く研究所の医師たちに、橋本さとし、橋本淳、宮崎秋人、那須凜、久保酎吉。研究所の同僚で病院の広報担当役に村川絵梨、いわく付きの保健大臣役に明星真由美。ルースのパートナーに床嶋佳子、近所に住み心をかよわせるティーンエイジャー役に天野はな。
そして、事件のキーパーソンとなる神父と少女の父親の2役に益岡徹。
宗教問題や人種差別は、我々日本人にとっては遠く聞こえるかもしれないが、様々な立場や考えを持った本作の登場人物たちの誰かしらに共感し、違和感を持つことで、これまでの自分を見つめ直し、新たな自分と出会える。
たった1人の医師を取り巻くいくつものもめ事・・・それは、まるで現代社会の縮図。自らのアイデンティティをめぐり、さまざまな思惑が交錯し、怒涛の言葉の応酬が繰り広げられるあっという間の3時間。
▼コメント『ザ・ドクター』
[栗山民也]
彩の国の劇場で初日を開け、今、自宅に向かっているところ。いろんな場面のいろんなセリフが、今も容赦なくこちらに向かってくる。
登場人物たちの多くの問いかけが、エンドレスに繰り返される。
現代という時代を輪切りにしたような言葉の戯曲と格闘したこの数週間の時間が、だがなんとも心地よい疲労感の中に少しずつ溶けていくようだ。
時代と向き合うことから目を背けず、ぐっと近距離まで近づいて見ることの覚悟を、この作品から学んだように思う。
なんだか、とてつもなく熱く鋭利な一つの塊に出会ったような感じ。
「演劇は、時代を映す鏡である」という馴染みの一文が、また新たな声で深く響いている。
[大竹しのぶ]
これほどスリリングな舞台になるとは思ってもみませんでした。この緊張感がたまらなく楽しいです。
劇場を出た後に、誰かと3時間ぐらいは話したくなるような芝居です。人間について、それを取り巻く社会について。
あらゆることに無関心、無自覚に生きてきたことを痛感します。劇場は様々なことを教えてくれる場です。
今、そこで生身の人間が言葉を交わし、その場で人生が変わってゆくのを目の当たりにすることが出来るのです。
だからやっぱり演劇は面白いなと、改めて思える作品です。
[橋本さとし]
ついに幕が上がりました。しかし答えは出ていません。そう、この芝居には答えがないのです。あえて言うなら、一瞬一瞬に起こる事、 感じる事が答えです。善も悪もなく、各々の主義主張が正義なのです。これは役者にとってかなり高いハードルで毎回がスリリングで 集中力を要します。対立する役柄とは裏腹にカンパニーの結束力は日々高まっております。ぜひそんなヒリヒリとした空間で「言葉の 力」を楽しんでください。
[村川絵梨]
2021 年もいろいろありましたね。今日初日を迎えられたこと、いまこの作品を上演出来ること、本当に嬉しく思います。 稽古期間中、数々の台詞に何度もハッとさせられ気付かされ、考えさせられました。今、目撃して頂きたい!そんなお芝居です。最 後まで意義を持ってステージに立ち続けたいと思います。劇場でお待ちしてます!!
[橋本淳]
現実をそのまま映したような作品。演劇でありながら演者である私たちは、まるで日常を生きているかのようになるべく稽古を積んでき ました。その瞬間瞬間に起きることが、生であればあるほどきっと多くのモノが届くと信じています。現代社会が抱える目を背けたくなる 問題に、真正面から切り込む本作。どうか多くの方に、届きますように。ガラスのように脆く儚い、しかし熱い時間を、丁寧に紡いでい きたいと思います。まずは開幕出来たことが、本当に幸せです。
[宮崎秋人]
稽古場で毎日行われた抗原検査や、定期的な PCR 検査のお陰もあり、常に新型コロナウイルスに気をつける姿勢を持ちながら今 日まで来ました。ホッとしています。この作品が持つ”問いかけ”。これは、是非誰かと共有してほしいなと思います。日本ではこの作品 の中にある問題というのはやはり遠いモノで、それを誰かと共有して話し合うことで身近になると思います。そうして初めてこの作品を 日本でやる意義があるのかなと。僕自身、この作品に勉強する機会を与えてもらって今後の世界の見方が変わっていくと思います。
[那須凜]
皆様のおかげで『ザ・ドクター』無事に幕が上がりました。お客様の拍手を聞いて、お芝居を生で観ていただくことの有り難み、そして何 より現代の問題を鋭く突いたこの作品を今、上演出来ることの素晴らしさを改めて実感いたしました。今後いらっしゃるお客様にも、多種多様な問題に一緒に悩み考えて頂けたら嬉しいです。お客様と一緒に成長していくであろう『ザ・ドクター』どうぞお楽しみに!
[天野はな]
毎日必死に向き合ってきたこの作品を無事にお客様の元へお届けできる喜びで胸がいっぱいです。初日を迎えた今、『ザ・ドクター』 という作品には、この時代を生きる皆様に聞いて欲しいと願う言葉がたくさん詰まっていると改めて実感しています。その言葉が届くよう、千秋楽まで日々丁寧に作り上げていきたいと思っておりますので、どうぞお楽しみに!劇場でお待ちしております。
[久保酎吉]
初日が開きました。ラウンドにあがるボクサーのような、高揚感と緊張で闘い、ヘロヘロになりましたが、カーテンコールの熱い拍手に包まれ、今はとにかくホッとしています。役者の闘い様、是非、体感しに劇場に来て下さい、「最後に選ぶのは、あなたです。」
<物語>
イギリス最高峰の医療機関・エリザベス研究所。その創設者 あり、所長のルース・ウルフ (大竹しのぶ)は、訳あって自ら妊娠中絶を行い、敗血症 運び込まれた 14 歳の少女を 看取ろうとしていた。そこに「少女の両親から傍についていてほしいと頼まれた」というカトリックの 神父、ジェイコブ・ライス(益岡徹)が現れる。神父に対し、ルースは面会謝絶を告げて、集 中治療室への入室を拒否する。若手医師(那須凜)から少女の容態の急変を知らされ、 同僚の医師ポール・マーフィ(橋本淳)やマイケル・コプリ―(宮崎秋人)と手を尽くすが少 女は死を迎える。少女の死に立ち会えなかった神父は、典礼を拒絶されたとして怒り、この出 来事を公にすると告げて去る。ほどなく、このことはインターネットから発信され、研究所の出資 者の耳にも入ってしまう。
ブライアン・シプリアン教授(久保酎吉)や、広報担当のレベッカ・ロバーツ(村川絵梨) は、ルースへの批判を不当なものとして、相手にはしていない。だが、次期所長の座を狙う野 心家ロジャー・ハーディマン教授(橋本さとし)やマーフィらは、一部の出資者たちが怒ってい ることを問題視。それ も毅然と「自分に落ち度はない」と主張するルース。その姿勢は、自 身の元教え子 保険担当大臣のジェマイマ・フリント(明星真由美)からも支持されたよう に見えた。しかし、彼女を断罪しようとする出資者の動きにより、世論は激化。信仰、人種、 ジェンダー……、アイデンティティの違いもあいまって、医師たちもまた医学上、宗教上の主張 により対立。研究所内の分断は深まり、パワーゲームは白熱していく……。
自宅 は、パートナーのチャーリー(床嶋佳子)や近所に住むサミ(天野はな)と心を通 わせ、自分を見つめ直すルース。自分を取り戻した彼女は医師としての信念を貫くことを決意。自分を責め立てる人々が待ち受ける、テレビのディベート番組への出演を決める――。
<公演概要>
パルコ・プロデュース2021 『ザ・ドクター』
作:ロバート・アイク 翻訳:小田島恒志 演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ/橋本さとし 村川絵梨 橋本淳 宮崎秋人 那須凜 天野はな 久保酎吉/
明星真由美 床嶋佳子 益岡徹
企画・製作=株式会社パルコ
公演日程:
2021年10月30日(土)~31日(日)彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2021年11月 4 日(木)~28日(日)PARCO劇場
2021年12月 2 日(木)~ 5 日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2021年12月10日(金)~12日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2021年12月18日(土)~19日(日)まつもと市民芸術館 主ホール
2021年12月25日(土)~26日(日)北九州芸術劇場 大ホール
問合せ:パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中) https://stage.parco.jp
企画・製作:株式会社パルコ
公式HP:https://stage.parco.jp/program/doctor
撮影:宮川舞子