錦織一清 インタビュー 「飛龍伝2022~愛と青春の国会前~」

つかこうへいの逝去に伴い解散した「★☆北区つかこうへい劇団」。その解散当時の劇団員の有志によって結成された「★☆北区AKT STAGE」は2016年に「初級革命講座飛龍伝」「あゝ同期の桜」、2017年に「寝盗られ宗介」を錦織一清とのタッグで上演。2022年【★☆北区AKT STAGE】×【錦織一清】の第三弾公演「飛龍伝2022~愛と青春の国会前~」が5月20日より紀伊國屋ホールにて開幕される。
アングラ演劇の旗手として演劇界に革命を起こしたつかこうへいの『飛龍伝』は、 1973年に発表されてから再演を重ねて1990年に『飛龍伝’90 殺戮の秋』で第42回読売文学賞受賞したつかこうへいの代表作。日夜学生たちの弾圧に明け暮れる警視庁第四機動隊隊長・山崎一平と、 進学のために四国から上京した1人の少女・神林美智子が学生運動の波に身を投じ、革命と愛に激しく燃えあがる生きざまが描かれている。つかの薫陶を受けてきた演出の錦織一清と’70年代につかこうへいと共に日本の演劇界を牽引してきた紀伊國屋ホールも共催として作品創りを支える。劇中主題歌「栄光の石(意志)」、劇場初日に劇中で初披露されるのだが、90年代ダンスミュージック風、そして挿入歌「青い太陽」はフォークソング仕立てで、両曲とも演出の錦織が自ら物語の世界観を歌った。今回、演出のみならず、歌も披露する錦織一清さんのインタビューが実現した。

――つかこうへいさんの作品、初観劇はいつ頃でしょうか?感想をお願いします。

錦織:高校生のとき、つかさんの小説に出会ったのが初めてでしたね。一方、つかさんの紀伊國屋ホール時代というのを、リアルタイムでは観たことがなくて。とはいえ、僕らは映画『蒲田行進曲』真っ只中の世代の人間。その衝撃が大きかったんですよね。なので、映画から入ったのが正直なところです。

――たしかに、あの映画は衝撃的でしたよね。

錦織:ですよね。で、舞台としては『熱海殺人事件』になるのかな…つかさんに会う前でいうと。僕としては、当時仕事が忙しかったのもあって、なかなか観劇に足を運べずにいたんですが、やはり『熱海殺人事件』はものすごい作品ですから。後につかさんと出会って、よりのめり込んだとも。いつ頃、どの作品を観たかとか定かでないくらい回数は重ねています(笑)。舞台っていうのは僕の中では、安全というか、すごく上品なものというんでしょうか、文学でいうところの白樺派に似た感じ。つかさんの作品はそういうものとは全く違う印象だったんです。もちろんそれがかっこよかったですし「こんなことを言っていいのか、やっていいのか」という衝撃。いわゆる「放送禁止」「差別用語」みたいなものをなぜ意図的に使うのか、とつかさんに聞いたんですね。そしたら「口に出さないこと、禁止することがそもそもいちばん差別を意識しているのではないのか」と話されていました。

――そういう言葉を“確信犯”的に使っているということでしょうね。

錦織:そうですね。「登場人物がそのシーンの中で“悪”として描かれているのであれば使うだろう」とも。どちらが正しくて、どちらが正しくないかは演劇を観た人がジャッジメントすればいいわけで。とはいえ、そうしたスレスレのセリフについては「絶対に人には言い放ってはいけないこと」とも教えてくれたんです。

――1999年に『蒲田行進曲』に出演されていますが、そのときの印象は?

錦織:印象に残ったのは、稽古場でのリハーサルですね。「決して顔合わせ、読み合わせなんかない稽古場ですから」と予め聞いてはいたんです。僕はそのころ、オーストラリアで仕事があったので、不本意ながら次の日から合流という形に。そしたら「オーストラリアに何しに行ったのか」と詰め寄られまして。その後は稽古場の真ん中に立たされて、木刀を振り回したり歌わされたり。悪い言い方すると“吊し上げ”みたいな状態です。『飛龍伝』に引っ掛けて言うならば、“総括”されていた感じ(笑)。「これが芝居の稽古なのか」とびっくりした記憶があります。

――今回の『飛龍伝2022 ~愛と青春の国会前~』、『飛龍伝 ’90』こちらの台本をベースにしたということですが……。

錦織:今回ベースとして選んだ『飛龍伝 ’90』はもともと90年代のお話。90年代というのは、学生運動が盛んだった20年くらい月日がたったころにあたるんです。すなわちその当時の人にあわせていたんですね。今年はもう2022年と30年ほど経っていますから、今の世代の人に観ていただくにはどうしたらいいのか、と考えまして。それでもともとあった台本をベースにしながら、冒頭と最後のくだりを『飛龍伝 ’90』に出演していらした羽原大介さんに頼んで監修していただきながら、手直ししたのが今作です。つかさんのお芝居って、いろいろな劇団や役者さんが何年も何回もやっていますよね。一方で独自の進化を遂げすぎている部分もあります。それに、今回こうしてやらせていただくのは、つかさんの作品を「古典にしたくない」という想いがあったから。現代でも通用するような形にしたかったし、つかさんもご自身で、必ず舞台を現代にしながら作っていましたしね。それを同じようにやりたかった。

――そして、今回主題歌と挿入歌も担当されていらっしゃいますね。

錦織:一平と美智子の、いわゆるクライマックスの場面に向かうジャンクション的なところに、1曲歌わせていただきました。途中途中で流れる歌についてですが、だいたいこの時代ってフォークソングが主流なんですよね。学生運動やっていた人ももちろんフォークソングを聞いていただろうし。そのオマージュとして挿入歌も。どちらも『飛龍伝2022 ~愛と青春の国会前~』のために歌詞も書いていただいた、全くのオリジナル曲なんです。

――いろいろな意味で、現代に合わせた作品なんですね。今のお客様にとってわかりやすい感じでしょうか。それでは、キャスト陣についてはいかがでしょうか

錦織:これが、びっくりしたんですよ。及川いぞうさんやとめ貴志さんも出たりするから、誰も学生みたいな感じじゃない(笑)。でも、当時の学生運動の写真を見せてもらったんですが、その時代の人のほうが今よりはるかに大人っぽいんです。それこそ50代くらいの顔つき。なので、むしろ説得力が上がるんじゃないかと思った次第でしょうか。

――稽古の様子を教えてください。

錦織:稽古は順調みたいですが、実際問題、キャストそれぞれに合うセリフを言わせてあげたい。僕らもそうでしたけれど、つかさんは、役者それぞれの芝居を仕立ててくれるんですよね。本当にちゃんと、出演者に“似合う”手直しをしてくれたんです。それこそ90年代の『飛龍伝』を懐かしんでくださる場合、違和感を感じる方がいらっしゃるかもしれないですが。僕も前の芝居を踏襲しながら、と欲張らずに今のキャストに合った芝居を誂えてあげたい。

――それでは、最後にメッセージを。

錦織:「リニューアル」とはいえ、本当に新しい『飛龍伝』。新しい作品といった形で一丸となって作っていますし、一平や美智子といった出演者も初々しい役者ばかり。絶対に楽しんでいただける作品になっていますので! 日数もそれほど長くないですが、チケットがなくなってしまう前に(笑)、ぜひお越しいただければ! そして一回とは言わずに何回も観ていただければより深まると思います! 観るたびに面白くなる舞台に作っていますから。そこはつかさんの伝統を踏襲しているというか。そんな「スルメ演劇」ぜひ楽しんでいただきたいですね。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

あらすじ:
この国の『革命前夜』1970年。
新しい日本を夢見た全共闘・神林美智子と、 今の日本を衛る為に命を賭けた機動隊・山崎一平のイデオロギーを越えた純愛物語。
鬼才つかこうへいが描いた革命的青春群像劇が時代を越えて蘇る。
11.26国会前―――、 永遠の愛を誓い合った二人の最終決戦が、 今始まる!

 

「飛龍伝2022~愛と青春の国会前~」開幕! 愛を生きる、信じる、貫く

概要
「飛龍伝2022~愛と青春の国会前~」
作:つかこうへい
演出:錦織一清
脚本協力:羽原大介
出演:一色洋平 井上怜愛 小山蓮司/青野竜平 三浦ゆうすけ 草野剛 大江裕斗 松本有樹純 江刺家伸雄
外波山流太 つかてつお 木村明弘 栗林広輔 此村太志 池田大輔 尾崎大陸/
とめ貴志 古賀豊 及川いぞう
日程・会場:2022年5月20日(金)~24日(火)紀伊國屋ホール
問合:mail@aktstage.com
チケット問合:stage.contact55@gmail.com
主催:特定非営利活動法人 北区AKT STAGE
共催:(株)紀伊國屋書店
制作:北区AKT STAGE
制作協力:(同)ものづくり計画/(株)style office

公式サイト:http://aktstage.com/

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし