愛知県芸術劇場芸術監督 勅使川原三郎 2022年度プロデュース公演『風の又三郎』『天上の庭』会見レポ

愛知県芸術劇場芸術監督である勅使川原三郎が9月に上演される公演の記者会見が行われた。時節柄、全てZoomにて実施。

上演されるのは「ダンス『風の又三郎』」と「ダンス・コンサート 勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』」。『風の又三郎』は地域にゆかりのあるバレエ経験者と創作し、大ホールにて2021年度に上演され、好評。待望の再演となる。『天上の庭』は、勅使川原が演出とダンスを担い、近年は振付家・アーティスティ ック・コラボレーターとして活躍する佐東利穂子(さとう・りほこ)と、フランクフルト放送交響楽団などのオーケストラと共演を重ねるヨナタン・ローゼマン(チェロ)が共演。世界トップクラスの「ダンス」と「音楽」を同時にコンサートホールで鑑賞できるまたとない内容となっている。
まず、主催の愛知県芸術劇場より、公演の概要をアナウンス。『風の又三郎』は2020年にオーデションを実施、2021年に入ってから稽古を重ね、好評であった公演で再演となるが、3月にダンサーの募集を行ったそう。初演メンバーにプラス、初参加のダンサー、どのような再演になるのか期待が高まる。
「ダンス・コンサート 勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』」、ダンス・コンサートは2016年より始まり、シリーズ化されている公演。ヨナタン・ローゼマン(チェロ)を迎える。もちろん、初共演となる。
それから勅使川原三郎より公演についての説明。『風の又三郎』は現在、リハーサル中とのこと。言わずと知れた宮沢賢治の有名な小説『風の又三郎』であるが、描かれているシーズンは「夏休みの終わりから二学期の始まり、つまり今ぐらい」と解説。またダンスだけでなく、朗読もあり、佐東利穂子が担う。稽古の様子については初演ダンサーの成長もあり、また「新しいダンサーが新しい風を吹かしている」と勅使川原三郎。

<稽古風景>

『天上の庭』について勅使川原三郎は「浮世を離れた世界を描きたい」と語り、「文学的なメッセージ性はありません。純粋に音楽とダンスの共演を」と語る。会場もコンサートホール、音楽を楽しみつつ、目の前で繰り広げられるダンスも同時に楽しむ。そしてチェロ奏者のヨナタン・ローゼマンにはヨーロッパを訪れた機会に会ったそう。さらにリハも行ったと語る。ヨナタン・ローゼマンについては「穏やかで音楽に対する真剣な態度、彼の目指す音楽性は高い」と高い評価。将来が期待される若手チェロ奏者、フィンランド系オランダ人でマリインスキー歌劇場管弦楽団やフランクフルト 放送交響楽団など数々のオーケストラと共演を重ねるほか、チャイコフスキー国際コンクール にも入賞を果たした経歴を持つ。「ダンスと音楽の出会い」と語る勅使川原三郎。音楽と身体、そしてコンサートホールならではの響き、音響。「演奏は英語で“play”と言いますが、文字通りの遊戯性を楽しんでいただければ。同時に、音楽がもともと持っている喜び、奏でられるべき調和がとても大切」と言い、勅使川原は「『風の又三郎』とは正反対に、文学的メッセージはなく、純粋な音楽と身体によるダンスの共演を披露する」とコンセプトを説明。観客もただ耳で聴く、目で見るだけでない、画期的な公演になりそうな予感がする。

勅使川原三郎
佐東利穂子
ヨナタン・ローゼマン

続けて佐東利穂子。『風の又三郎』については「名作だなと改めて思いました。子供の話ですが、私たち、みんなが持っている気持ち…朗読をしていてそこに動く”風”言葉のリズムに乗って運ばれてくる、長い物語ではありませんが、子供の頃に感じた独特のもの、ある瞬間、ゆっくり深く感じられるダンス、構成。今年もやることには意義がある、この作品がもっともっと大きく豊かになって欲しい、ずっと続けていけるといいなと思っています」と語る。『天上の庭』については「初めてのコラボで彼と直接会ってリハーサルできたのはよかった、どのように音楽を考えているのか触れることができた」と言い、さらに「彼はとてもニュートラルに考えていて話ができた、分かり合えるという感覚がありました」と語る。そして「全身で彼の音楽を聴く、またチェロだけで踊るのは初めて、チェロのために作曲された音楽に触れることがとても楽しみです」とコメント。
<初演の様子>

また、この日の朝、メールでヨナタン・ローゼマンからメッセージが佐東の元に届いたそうで「このプロジェクトの未来を思うととても感動しました。ユニークで特別なものを作りたいという思いが強くなりました。このプロジェクトに関われるのを楽しみにしています。(曲目は)チェリストとしては厳しいが素晴らしいレパートリー、演奏するのが楽しみで幸せです。日本の観客とシェアできるのを嬉しく思っています」とのこと。それを受けて勅使川原は「唯一無二のもの、ここで初めて起こること、今、生きていることの証、今同時に生きている人と価値観を共有できる、ヨナタンの気持ち、一緒に喜びましょうと言うことだと思います」と語った。

『風の又三郎』、昨年の公演については「良い公演ができたと思っています。再演は必要と考えていました」と語る。”ファミリー・プログラム”と銘打ってはいるものの、「子供に焦点を合わせすぎないように…大人が、子供が、ではなく、世代を超えて感じること、人間なら幾つになっても感じられることは何だろうか、例えば、新しい出会い、季節の変化、人生の岐路に立つような転換…又三郎は父の転勤で転校してきた。ところが1週間で、また父の転勤で離れなくてはならなかった、風のように去っていく…元々、そこにいた子供達は少し大人になっていく、読み物としての宮沢賢治ではなく、ダンスとして感じられる、体で感じるものを」と語った。『天上の庭』については「音楽が介するもの、音楽が元々持っている喜びが大事。音楽と体が調和する遊戯、音楽と体の調和」とコメントしたが、体全体で音楽を感じること、観客も体全体で感じる、そこにしかない体験がある。
また朗読についての質問が出た。佐東は「どう読もうか、とは考えていない。リズム、文体のリズムが大切だと思います。文章から感じられる息遣い、鮮やかな色を感じる瞬間がある。声に出すことで教わることが多い、踊るときにも影響します。朗読は音楽のような役割を果たすことがあります」と語る。またダンサーの人選について勅使川原は「原作に合った人選で、10代から20代のダンサーでソリストではありません。ひとりひとりのキャラクターが反映できるように、また地元でやる、と言う誇りを共有することは大事です。ダンサーが成長する場所として劇場がある、劇場が活性化する、劇場に関わってくれる地元の人が増えることは大事、ここで育っていただきたい、稽古場も充実してますし、劇場も素晴らしい、地元のダンサーがのびのびしてくれたら」と語った。

公演を行う、その意義と意味。有意義な内容となる予感がする。

概要
「勅使川原三郎 芸術監督 演出・振付 ダンス『風の又三郎』」
日程・会場:2022年9月3日(土) 15:00/9月4日(日) 15:00 愛知県芸術劇場 大ホール
原作:宮沢賢治
演出・振付・美術・衣装・照明デザイン・音楽編集:勅使川原三郎
アーティスティック コラボレーター・ダンス・朗読:佐東利穂子
ダンス:オーディションダンサー(赤木萌絵 / 石川愛子 / 伊藤心結 / 岩怜那 / 菰田いづみ / 佐藤静佳 / 西川花帆 / 松川果歩 / 宮本咲里 / 吉田美生 / 渡邉菫)

「ダンス・コンサート 勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』」
日程・会場:2022年9月16日(金) 19:00/17日(土) 16:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
演出・照明・衣装・選曲・ダンス:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター・ダンス:佐東利穂子
チェロ:ヨナタン・ローゼマン
曲目:
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲より
カサド:無伴奏チェロ組曲より
コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ Op.8

風の又三郎WEB:https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000738.html#000738

天上の庭web:https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000739.html#000739

『風の又三郎』撮影(c)Naoshi Hatori