《インタビュー》浪漫活劇『るろうに剣心』脚本・演出 小池修一郎

大人気コミック「るろうに剣心」、映画版もヒットし、舞台化は宝塚歌劇団で2016年に雪組で上演、早霧せいなの剣心が話題になったが、2018年10月、装いも新たに再び、早霧せいな主演の浪漫活劇「るろうに剣心」が見参!する。脚本・演出は初演と同じく小池修一郎が手がける。許諾時のエピソードや初演時の苦労、そして小池修一郎が考えるコミック・アニメ等の原作モノの舞台について等、語っていただいた。

「新しい役を作ってください」と言われて・・・・・・・これが一番、びっくり!「え?!新しいの、作っていいのですか?」って(笑)。

――2016年宝塚版は拝見しております。当時の雪組の座組も良かったですね。

小池:自分にとって漫画原作は初めてだったのですが、宝塚では留意しなければならない点がございまして、1つは原画の持つビジュアルをどこまで見せるのか、見せられるのか、ここにすごく不安がありました。例えば初演の「ベルサイユのばら」、リアルタイムに観ていますが、漫画をすごく意識したメーキャップをしていたと思います。ところが木原敏江先生の「紫子」「大江山花伝」、これは原画に似せるということにそれほど意識していなかったように思います。いわゆる、宝塚の和物のメーキャップの顔。衣裳も、絵を似せたものもあったかもしれませんが、トータルな印象としては宝塚の日本物の括りの中で不自然なことなくハマっていたと思います。早霧せいなさんがトップだった頃の雪組は「伯爵令嬢」(2014年)と「ルパン3世」(2015年)を上演しておりまして・・・・・・実は「るろうに剣心」に関しては早霧せいなさんのファンがご覧になりたいって言うのを噂では聞いてはいました。剣心のキャラクターがすごく合うと皆さんがお思いになって、自分もすごく「あーそうだろうな」と感じました。版権元の集英社さんのハードルは高かったのですが、ありがたいことに、特例でミュージカル化の許諾をくださいました。そして早霧さんが演じるにあたって、一体どこまで似せなくてはいけないのか、どこまで似せることができるのか・・・・・・こういったマンガ原作ものは僕にとっては初めての経験。雪組の生徒さんの方が経験値があり、ある程度は知っていましたので、意識して顔を描いたり、髪型を作ったりしてくれました。特に宝塚の場合は女性ですから、男が前をはだけてみたいな事は女性では出来ませんので、そういったところはちょっとずつ補正されていきますが、これで、どこまで漫画のイメージが保てるのかな?と・・・・・・もう一つは原作の和月伸宏先生からキャラクターを変えないで、新しい役を作ってほしいと言われました。つまり、2番手が演じるに相応する役、宝塚の場合、2番手が演じるのは2枚目の悪役、敵役でないといけないのです。それに相応する役がいまひとつなくって「どれかの役をこういう風に変えてはいかがでしょうか」というご提案をしたんです。ところがビジュアルを綺麗にしてしまったり、カッコよくしてしまうと、それは原作ファンにとっては違和感があるので「新しい役を作ってください」と言われまして・・・・・・・これが一番、びっくり!「え?!新しいの、作っていいんですか?」って(笑)。ファンも作者も集英社の方たちも、みんな「観たい!」っておっしゃって!原作にないものを加味するなって言われるのが通常ですが、そうじゃなかった!しかも原作ではない形でやってくださいと言われてしまいましたので・・・・・・出す限りはキャラクターをできる限りきちんと忠実に、全身全霊で再現していかなければならない。そして該当者がいない、というポジションには別の役を描いてください、と言われたわけです。幕末の剣豪「人斬り抜刀斎」と言われた人が、明治維新後、逆刃刀を持って平和な世の中を守ろうとする剣心という人間に“生まれ変わる”わけです。敵も味方も幕末の生き方と維新後の生き方と、その対比の中で起きる葛藤がドラマになる。そこに剣心が関わる、そういうスタイルです。それは新しいキャラクターにも必要だなと。剣心と何らかの因縁があった方が面白いと思って、幕末の「人斬り抜刀斎」、彼の味方の中に接点があり、維新後に再び会えたら、お互いに違う生き方をしている。そこで剣心と因縁のある新しいキャラクターを幕末で会える人、そこで新撰組の中の人にしました。誰か適当な人がいないかどうか探したんですが、なかなかピンとくる方がいなくて・・・・・・そんな折、架空の人物である加納惣三郎という存在が面白いなと。彼には2通りの話がありまして一つは伝説の島原の花魁と駆け落ちしようとして、斬られたと。大変な剣の使い手であるとか美男であるとか、ちょっと後から付け加えられたかもしれないような“装飾”はありますが。もう一つは司馬遼太郎の「新撰組血風録」、この小説は短編集で、この中の「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」をベースに大島渚監督が映画「御法度」を発表しましたが、そこでは新撰組を惑わす美男という話になっている。この加納惣三郎の存在がなかなか面白く、このキャラクターが伝説になっている。おそらく、何人かが“合成”されていると思います。これを私が「◯◯◯◯」と名前をつけてもよいのですが、この伝説の人が物語に入ってくるのは面白いのではないかと。この話にリアリティを与えたのが実在の人物である斉藤一。そういった人たちと剣心が会ったのが個人的にすごく面白い。歴史物の中の架空の人物である緋村剣心を歴史の中に置いて展開するっていうところが面白い。

――周りの人たちの剣心との関わり合いっていうか、この物語の一つの・・・・・・。

小池:面白いところですね、はい。

本当の男性だとなかなかこうはできないよねっていうような鮮やかさみたいなものを早霧せいなさんが見せる、剣心として十分成立すると思います

――架空の人物がいて、それで実在の人物がいる。その混在しているところが面白いですね。

小池:はい。これが宝塚で上演するときの大きな要でございました。男役の時に当たり役があって、その役で実際に男性たちと一緒にやるのは非常に少ない。僕の記憶では「霧深きエルベのほとり」、2019年の星組で40年ぶりくらいに再演いたしますが、初演の主演である内重のぼるさんが宝塚をお辞めになり、女優になり・・・・・・宝塚で演じてから10数年ぶりに男性キャストさんと一緒になさっています。「カール物語」とタイトルを変えて上演しています。これが結構、当たって何回かやっていらっしゃいました。宝塚で当たり役をやって同じ演目で実際に男性たちとやる、その時にどのくらいのリアリティを持ってやれるかが非常に難しいところです。ただ、作者の伸月先生が、最初描いていた時に、なぜ、剣心の頬に傷をつけたかというのを解説されていて、描いても描いても女の子の顔になってしまう、と。ちょっとワイルドにしなくてはいけない、で、顔に傷をつけた。そうしたら、少年とまでは言わないけど、若者の剣心になったと。「なるほど」と思いました。

――今回上演の「るろ剣」は本当に稀なケースですね。テレビアニメの方は剣心役は涼風真世さんでしたね。

小池:声はそうですね。

――それで「合うかな」と思うのです。剣心は引き継いで、周りが普通に男性の役は男性がやる、女性の役は女性がやる、ありかな?と。

小池:そういう意味では実際にそれをやったのが「ピーターパン」ですね。ちょっとピーターパン的な要素があるのではないかな?と。そのような要素を広げていくとうまくいくかな?と思いますね。すごく楽しみにしているんです。本当の男性だとなかなかこうはできないよねっていうような鮮やかさみたいなものを早霧せいなさんが見せる、剣心として十分成立すると思います。

――ところで剣心が明治に入って、彼が言っていることって一種の理想ですよね。多少、夢に近いこと、今、ピーターパン的っておっしゃって、そこのところも「なるほどな」と。

小池:生きにくい世の中をある種“のほほん”と生きようとしているみたいなね。

幕末の彼はもっとギラギラした目つきであったり、怖い存在、宝塚版も、ですが、別の役者さんが演じます。今回の「人斬り抜刀斎」は松岡広大さん、小柄ですがシャープでなかなか面白い、しかも似ています、早霧せいなさんに。

――早霧さんですが、期待することは?

小池:まず、『早霧せいなさんの剣心にすごく会いたいな』と思ったのと、もういっぺん、『早霧さんの剣心が観られる!』それと、彼女は宝塚時代からずっとアスリート型の役者さんなので、彼女はランナー、みんな一緒に走る。しかもすごく頑張って走る人なので、みんな一緒に走らなきゃならないのですが、それはすごい快感を伴っていく・・・・・・ここが彼女の素晴らしいところ、エネルギーを共有し合う、カリスマ、みんな引っ張られる、楽しみですね。

漫画というメディアは表現芸術において無限の可能性を広げたと思います

――アニメ・漫画・ゲーム原作はビジュアルがはっきりしていて、それが舞台化となるとファンの人たちはやはりビジュアルに期待していると考えます。特にアニメやゲームになりますとキャラクター・ヴォイスが存在します。このジャンルの可能性ってどう思われますか?

小池:漫画ってすごく日本の文化ですよね。近年、ドラマ、映画とか漫画原作がすごく多い。小説原作は少ないですよね。漫画原作は結構インパクトがあって、文章に相当するところが絵になっている、セリフ、つまりネームもありますが、文章の描写に相当するところが絵で描かれている。日本は漫画の文化が発達している。それは優秀な人材がいて競争して描いている、編集者も優秀で、競争しているから、出てくるものはやっぱり面白いです。空想でも想像でも、映像化に耐えうるものがあるし、舞台もそれをベースにしていくとより面白いものができるというのではないかな?という風に思います。「2.5次元」と呼ばれるスタイルでやることもあるだろうけど、逆に絵をそっくりに作らないで、ストーリーを重視してそれを舞台化していく、こういうものがいっぱい出てくるのはいいことではないかと思います。想像の世界、マンガ、絵術、子供も十分楽しめるし、それから、いろんなものが汲み取れる、ためになるところもあって、“手塚治虫の子孫たち”が競争している、それが映画、TVを完璧に制覇していますね。

今回もそうですが、刀を持って戦ういわゆる“戦い系”のものはすごく多いですが、小野賢章さん主演の「ReLIFE(リライフ)」(注)を拝見いたしましたが、こういったものは今後はどんどん舞台化されていくのではないでしょうか。そうすると普通のストレートプレイになっていくわけだから・・・・・・漫画は雰囲気や精神的な何かを描いていたりしますからね。

――確かに“スポーツ系”や“戦い系”は視覚的に分かりやすいですね。ところが「ReLIFE(リライフ)」に代表される作品はアクションは期待できない(笑)。

小池:そうすると絵を見せまくる、ということにこだわらなくてもつくれるなと思う。映画もそうなっていると考えます。

漫画というメディアは表現芸術において無限の可能性を広げたと思いますね。

――最後に締めの言葉、作品PRを!

小池:早霧せいなさんの熱い剣心と再会しましょう!いや、再会できます!本当に!ハイ!

――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。

(注)「ReLIFE」は夜宵草原作の学園漫画。漫画アプリcomicoにて2013年10月12日から連載。受験や就職につまずき、無職となった主人公・海崎新太が社会復帰の実験として高校生活をやり直す姿を描いた作品。舞台化は2016年、小野賢章がアニメと同役で主人公を演じた。

<キャスト>
緋村剣心…早霧せいな
神谷 薫…上白石萌歌

斎藤 一…廣瀬 友祐
四乃森蒼紫 …三浦 涼介
武田観柳… 上山 竜治
相楽左之助…植原 卓也
高荷 恵…愛原 実花
緋村抜刀斎(剣心の影)…松岡 広大

加納惣三郎…松岡 充

明神弥彦(交互出演)…加藤憲史郎 大河原爽介 川口 調
朱音太夫…彩花まり
関原 妙…五條まりな
三条 燕…田村 芽実
山県友子…月影 瞳
セバスチャン… 遠山 裕介
井上 馨… 松井 工
山県有朋… 宮川 浩

【概要】
浪漫活劇『るろうに剣心』
<東京公演>
日程:2018年10月11日〜11月7日
場所:新橋演舞場
<大阪公演>
日程:2018年11月15日〜11月24日
場所:大阪松竹座
原作:和月伸宏「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊)
脚本・演出:小池修一郎
主催・製作:松竹 梅田芸術劇場
企画:梅田芸術劇場
協力:宝塚歌劇団
公式サイト:https://ruroken-stage.com/

©和月伸宏/集英社

文:Hiromi Koh