スタジオライフ公演「なのはな」制作発表会 「今、自分ができること、その想いをひとつひとつ大切に」(脚本・演出:倉田淳)

東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を題材に、2011 年 8 月に月刊 flowers(小 学館)で発表された短編漫画「なのはな」。津波で祖母を亡くした福島県の少女が描かれる繊細な物語に、劇団スタジ オライフが挑戦する。今回の舞台化にあたり、福島県出身の作曲家・明石隼汰氏をゲスト出演者として招くことになっている。11月15日、制作発表会が都内で行われた。まず、劇団代表の藤原啓児が挨拶。それから脚本・演出の倉田淳、原作者の萩尾望都、そして今回、客演を果たす明石隼汰との鼎談が始まった。あの東日本大震災が起きた時、萩尾望都は埼玉の自宅にいたそうであるが、TVの映像で建物が次々と崩れるのを目の当たりにした。

「震災が起こった時は埼玉の自宅におりました。テレビの映像で次々と津波で建物が崩れ、車が流され、田畑が水で浸されるのを見ていました。原発があっという間に事故となり、パッと煙が上がって血の気が引きました。スリーマイルやチェルノブイリで起こったことが日本でも起こるなんて・・・・・・」

多分、誰しもがそう思ったに相違ない。原発に近いところに住んでいた人々は避難した。報道で何度、聞いたことであろうか。倉田淳が「大震災が起こって・・・・・それからすぐに、感動的ですごいなと」とコメント。短編漫画集「なのはな」は漫画雑誌『月刊フラワーズ』(小学館)2011年8月号に『ここではない★どこか』シリーズの1編として掲載された。東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を題材として、原発事故後のフクシマで生きる少女と、チェルノブイリの少女との交流を描いた作品で、東日本大震災と原発事故に向き合った作品としていち早く発表されたことで話題になった。
「作品を描く気力がダーッと減ってしまいましたが、友だちがこういう状況だから明るいことをやろうと言ってくれて」開いたお花見の会で、「チェルノブイリでは汚染された土壌を改良するために、なのはなやひまわりを植えていると聞いて希望が持てました」たくさんの菜の花が咲く話を描きたい、それが希望になればいいと思って描いたのがこの本作。

 


この続編「なのはな -幻想『銀河鉄道の夜』」は、放射性物質を擬人化したSF3部作(「プルート夫人」「雨の夜 -ウラノス伯爵-」「サロメ20XX」)と合わせて本作を単行本化する際、主人公の少女の「その後」を、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』と『ひかりの素足』とのコラボで描き下ろした作品。2013年、単行本『なのはな』および作者の全作品は、第12回センス・オブ・ジェンダー賞生涯功労賞を受賞した。萩尾望都の原発に対する想いがこの作品群に込められている。
萩尾望都は「普段はあまりネームを見せないんですが、この時は心配だったので見てもらいました。OKが出たので書かせていただきました」と振り返った。
劇団スタジオライフは今までに萩尾望都の『トーマの心臓』や『訪問者』、『エッグスタンド』『11人いる!』といった作品を舞台にして、高い評価を得てきた。しかし、テーマが重い。倉田淳も迷いに迷ったそう。しかしあれから年月が流れ「日に日に震災のことを忘れていく。置き去りにしてしまう。このままではいけない」と決心したと倉田淳。
原作者の萩尾望都は、「倉田さんの脚本・演出の舞台は物語の骨格を損ねない。作品の芯を捕らえていただける」とコメント。


ところで、この「なのはな」にはプロのミュージシャンとして福島の人たちの思いを代弁したような歌を唄うのがオン兄ちゃんこと石田音寿というキャラクターが登場。このモデルが、この鼎談に参加しているミュージシャンの明石隼汰で萩尾望都とは以前から親交があった。「アララ、アララ」といった言葉を唱えながら歌う場面が描かれているが、ここで!ギターで「アララ」の歌を歌ってくれた。しかも明石は、舞台でこの役を演じることになるので、もうリアル!

「週刊少年チャンピオンで萩尾さんの作品に出会いファンになり、追いかけてきた」という明石。さらに「僕の中でもあの事故はショックだった。(作品を)希望を象徴として感じることができた」と語り、萩尾望都に「ありがとうございます」と改めてお礼を 。 さらに 萩尾望都と知り合う直前、劇団スタジオライフが公演した萩尾望都原作の舞台「訪問者」を見て以来、20年ほど劇団スタジオライフの観覧も続けて来たそう。依頼があった時は参加していいのか迷いもあったそう。 石田音寿が登場するなら「自分以上に演じられる人はいないと思い、そう言ったらぜひと・・・・・・ 皆さんのご指導を受けながら、スタジオライフの流れを壊さないように温かい目で見ていただければ」とやや恐縮。倉田淳からは「舞台ではぜひ、フルで!」と注文が。倉田淳は「今、自分ができること、その想いをひとつひとつ大切に」と締めた。

鼎談が終わり、キャストが登壇、松本慎也は、「萩尾先生の原作は劇団にとって特別な存在で身が引き締まる思いです。ナホという小学6年生の少女が見いだす未来への希望をみずみずしく演じ、福島への想い・・・・・・未来に祈りと希望を届けられる作品を作って行けたら」と抱負を語った 。 関戸は、「ナホはキャスト表では1番上にあるが、大切なものを失った中で生きている家族の物語で、全員が主役。人間として、役者として震災や事故にどう向き合っていくかが問われていますので、 今まで以上の覚悟をもって臨んでいきたい」とコメント。客演で参加する明石隼汰は「どう仕上がるか楽しみです」と語った。最後にフォトセッション、新作に挑むスタジオライフ、公演は来年2019年の2月27日より。

<ストーリー>
阿部ナホは福島で暮らしている小学校 6 年生の女の子。震災の津波でばーちゃんは行方不明のまま。ナホの 家は原発の近くだったので避難先へ移り住み、祖父、両親、兄の家族 5 人で生活している。ある日、ナホは 夢の中でばーちゃんと再会する。ばーちゃんのもとへ案内してくれたのは人形を手にした見知らぬ西洋人の 女の子だった。あなたは誰・・・?夢の中で二度目に会った時、女の子は、ばーちゃんの使っていた花の種 まき機を持っていた・・・。
<キャスト>
[К(クークラ)チーム]
ナホ:松本慎也
学(ナホの兄):宇佐見輝
父:船戸慎士
母:仲原裕之
じーちゃん:倉本徹
ばーちゃん:若林健吾
女の子:伊藤清之
先生:鈴木宏明
生徒1:千葉健玖
生徒2:牛島祥太
藤川さん:藤原啓児
石川音寿:明石隼汰(客演)

[Ц(ツヴェート)チ ーム]
ナホ:関戸博一
学(ナホの兄):千葉健玖
父:船戸慎士
母:仲原裕之
じーちゃん:倉本徹
ばーちゃん:若林健吾
女の子:松本慎也
先生:牛島祥太
生徒1:宇佐見輝
生徒2:鈴木宏明
藤川さん:藤原啓児
石川音寿:明石隼汰(客演)

【公演概要】
東京公演:2019 年 2 月 27 日(水)~3 月 10 日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
大阪公演:2019 年 4 月 12 日(金)~4 月 13 日(土)、OSE:4 月 14 日(日) ABC ホール
* OSE(OSAKA SPECIAL EVENT)はイベントとなり『なのはな』本編の上演はございません。
原作:萩尾望都『なのはな』(小学館刊)
脚本・演出:倉田 淳
挿入歌作曲:明石隼汰
制作:Studio Life / 米田 基
協力:小学館 / style office
公式ホームぺージ: http://www.studio-life.com/
助成(東京公演):文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
(C)萩尾望都/小学館

取材・文:Hiromi Koh