昭和の芸人夫婦、その泣き笑い人生を中山忍の初座長で描く『レッドスネーク、カモン‼』

女優・中山忍が芸能生活30周年にして初座長を務める舞台『レッドスネーク、カモン‼』が10月5日から13日まで東京・三越劇場にて上演となった。

この舞台、昭和の演劇界で活躍した“東京コミックショウ”を題材にしたものだ。

派手なターバンのインド人風の男が縦笛を吹くと、あ~ら不思議、箱の上に置かれた赤・緑・黄のカゴから3匹の蛇(ぬいぐるみ)がニョロニョロと顔を出す!
これが東京コミックショウのショパン猪狩による一代限りの名人芸。昭和を知る世代の人ならば「レッドスネーク、カモン!」のかけ声とともに記憶に残っていることだろう。
そして、このパフォーマンスで蛇のぬいぐるみを箱の中から動かしていたのが、ショパンの妻・猪狩千重子であった。
本作は千重子さんが夫婦二人三脚の思い出を記した『スネークショウの箱の中』(三一書房)を原作にしたもので、脚本は安井國穂と西澤悟の共同、演出は児玉宜久。
主人公の千重子に中山忍、そして夫のショパン猪狩こと猪狩誠二郎にワハハ本舗の梅垣義明が扮している。
公演前日の10月4日のゲネプロにお邪魔してみたが、そこはシンプルかつ芳醇な昭和の時代が懐かしくも初々しく表現されたパフォーマンス空間と化していた。

まずは昭和の寄席風景とともに、東京コミックショウの芸がどんなものであるかが披露される。

梅垣義明がアドリブも交えながらショパン猪狩の芸を見事に再現し、最後に箱の中に入っていた千重子=中山忍が姿を現し、拍手喝采!
そして一気に、舞台は戦後の米軍占領下時代の東京へ遡っていく。

進駐軍キャンプでダンサーとして踊る千重子(捕捉すると彼女は幼いころからバレエを習う良家の出で、何と戦前のハリウッド・スター早川雪州は叔父にあたる)の華麗さに目を見張らされるが、そんな私たち観客と同じ目線で彼女に見とれているのが猪狩誠二郎=ショパン猪狩といった図式である。
続けてショパンとその兄・パン猪狩(石井愃一)と妹・リリー猪狩(中島唱子)によるボクシング・コントが繰り広げられつつ(当時の彼らは“パン・スポーツショウ”なるユニットを組んでいた)、千重子の人気ぶりや誠二郎の純情などが、さながらミュージカルでも観ているかのような軽快なタッチで綴られていく。

やがて誠二郎の熱心な求愛で、ふたりはめでたく結婚。

と、ここから嫁姑問題が発生。誠二郎の母タキ(長谷直美)は何かと千重子に憎まれ口を叩き、時に千重子も反発するといった確執が、辛辣ながらもどこかユーモラスな風情で展開されていく。
その風情に一役買っているのが、石井愃一と中島唱子で、なぜか母と一緒にいることが多いふたりの子どもたちのさりげない存在が、実は舞台空間に微笑ましさを与えており、ひいては嫁姑のヒリヒリした空気を緩和させ得ている。
(ちなみにパン猪狩は日本初の女子プロを作った人とも謳われており、リリー猪狩は日本初の女子プロレスラーとして活躍)。

また、そのさなかに千重子がはがれた革靴を手にはめて戯れていたのを見て、誠二郎は“三匹調教”のへび使い芸を発案し(実際は諸説あるようだが)、人気者になっていく過程や、その後TVの時代になじめず孤立していく誠二郎の焦り、姑の死、やがて千重子がへび使い芸の箱の中に入る決意をするくだりなどがテンポよく描かれていく。

実はこの作品、組まれたセットは誠二郎の家の中くらいで、あとは黒幕や白幕を基調としたシンプルな趣向が図られているが、キャラクターにエノケンなど時折々の流行歌や流行り文句を口ずさませるなど“音”に気を配りながら、観客に時代を大いに想像させる演出が図られている。また今回の中山忍が着るさまざまな衣裳も戦後昭和を彷彿させるものがあるが、また彼女がそれらを着こなすことで庶民的ムードを湛えたままのグレードアップ感まで描出。

思えば中山忍はデビューから一貫して清楚で可憐、しかしながら芯の強い庶民的な魅力を矜持し続けていて、一方では芸能生活30年経った今もその美貌に何ら変わりがないのは驚嘆するほどではあるのだが、さりとて“美魔女”と呼ぶには可愛らしすぎる、そんな彼女の好もしい個性がこの舞台では遺憾なく発揮されているのだ。

それを受けての梅垣義明の芸達者なる存在感も、舞台の上でより大きく映えわたる。実際に千重子さんとコンビを組んで以降の東京コミックショウは“美女と野獣”とも称されていたものだが、そんな夫婦ならではの味わいが今回のコンビからは見事に醸し出されていた。

要所要所でグリーン(山根涼羽)、レッド(岡田諒)、イエロー(市川愛大)のヘビの妖精たちが登場してはドラマの進行を示唆していくのも楽しく効果的ではあったが、ふと、演じる若手の子たちはリアルタイムで東京コミックショウを見たことはないのだろうなと思うに、昭和から平成を越えて令和に至る世の流れの速さを改めて痛感させられてしまった次第である。

(中山忍コメント)
今回は初めての座長という立場ではありますが、座長って周りのみなさまに支えられて初めて成り立つものであることを実感していて、ありがたくてもう泣いちゃうくらいです(笑)。
「みんなで船出しよう」
これは石井愃一さんがおっしゃってくださったことなのですが、本当に今回は共演の方々に恵まれましたし、こうした力強い素敵なチームワークで一致妥結し、千秋楽まで駆け抜けながら、私たちの思いをお客様に届けたいですね。

【公演概要】
レッドスネーク、カモン‼

日程:2019年10月5日(土)~13日(日)
場所:三越劇場
原作:猪狩千重子『スネークショウの箱の中』
脚本:安井國穂、西澤悟
演出:児玉宜久

キャスト:
中山忍、梅垣義明(ワハハ本舗)、長谷直美、山根涼羽(AKB48)、石井愃一、中島唱子、山田太一、立川談慶(Wキャスト/7~11、13日)、小宮孝泰(Wキャスト/5、6、12日)

主催:株式会社ピープス
公演に関するお問い合わせ:株式会社ピープスTEL:03-6264-1641(平日10:00~18:30)
リンク:https://peeps.co.jp/works/redsnake-cmon-201910/

取材・文:増當竜也