二兎社公演43「私たちは何も知らない」空気を読まないで、ピュアにやりたいことを!感性を信じ、信念を信じる。

二兎社「私たちは何も知らない」が、埼玉・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ公演を経て、現在、東京・東京芸術劇場 シアターウエストで上演中だ。今作は永井愛の新作。雑誌「青鞜」を舞台にした群像劇だ。
出だしはラップなのだが、よく聞くとあの「青鞜」のフレーズ、セットは抽象的、ボーイッシュな女性が青鞜にやってくる。スタジャンにキャップ、ポニーテール、現代風な格好だ。とにかく威勢がよく元気そのものだが、少々空気が読めない感も否めない。彼女の名前は尾竹紅吉(夏子)、この「青鞜」の社員になりたくてやってきたのだった。「青鞜」のことをある程度、知っていれば、その後の展開もわかる。そしてこの作品では、登場人物たちはいわゆる、彼女らが実際に生きていた時代のファッションではないところが視覚的に面白い。彼女たちのファッションで、なんとなくそれぞれの個性が見えてわかりやすい。アグレッシヴな紅吉、平塚らいてう(朝倉あき)に出会い、二人は恋愛関係に陥る。その過程はジェットコースターのごとく、早い。しかし、恋というのはそんなものなのかもしれない。一気に突き進むところは一種、リアリティも感じる。
それから伊藤野枝(藤野涼子)などが登場する。

難しいことは一切ない。彼女たちは、ひたすらにこの時代を生き、自分が思ったままに正直でまっすぐ。女性同士の恋愛、この時代なら、好きだと思っても世間体を気にして行動に移さないが、行動してしまうこと自体『空気を読まない』と言える。『空気を読む』とはなんだろうか?という根元的なことを考えさせられる。平塚らいてうは奥村博(須藤蓮)と恋愛関係になり、紅吉は嫉妬し、傷つく。特別に変わったことではなく、
平塚らいてうも尾竹紅吉も、そして伊藤野枝、岩野清(大西礼芳)、保持研(富山えり子)、山田わか(枝元萌)、ワチャワチャと賑やかに「青鞜」を軸にして懸命に生きる。

暗転も効果的で、セットの奥の斜めの『坂』が様々な表情と役割を担う。生きにくい時代、空気を読んでいたら、こんなことは到底できないし、まず「青鞜」も創刊されなかったように思う。俳優陣がキャラクターを等身大で演じているところに一種のリアリティも感じる。そして2幕の後半、戦争の足音がひたひたと忍び寄る。照明がその不穏な空気感を伝える。タイトルの「私たちは何も知らない」、そしてキャッチフレーズが「空気を読まない女たちがマジで議論した『青鞜』編集部の日々」、何も知らない、それはある意味、ピュアなこと。そして思ったことや感じたことを行動に移す、それが物議を醸しだそうが、知ったことではない。もしも彼女たちが空気を読み、行動する前によくよく考えていたら「青鞜」もなかったかもしれない。らいてうと紅吉は恋愛もしなかったかもしれない。そう考えると不自由な時代において彼女たちは自由だったかもしれない。そして振り返ると現代の方が自由に見えて実は不自由で空気を読まざるをえないのかもしれない。現代はコミュニケーションの方法はいくらでもある。ツイッターやらSNSやら・・・・・・しかし、言葉尻を捉えて炎上させたりもする。それに引き換え、彼女たちは真剣に向き合い、真剣に話し合い、真剣に思うがままに行動した。その結果がなんであれ・・・・・・。

【公演概要】
日程・会場:2019年11月29日〜12月22日 東京芸術劇場 シアターウエスト
作・演出:永井愛
出演:朝倉あき、藤野涼子、大西礼芳、夏子、富山えり子、須藤蓮、枝元萌
二兎社HP:http://nitosha.net/nitosha43/
撮影:本間伸彦
文:Hiromi Koh