音楽劇「星の王子さま」、”大事なことは目には見えない” 出会いと別れ、それは永遠に続いていく、満点の星空のごとくに。

1月31日より水戸芸術館で音楽劇「星の王子さま」が開幕した。この作品の初演は4年前のこと、主要キャストは続投している。
まずは赤いドレスの女性(ピアノ・薔薇:松木誌奈)が登場し、「物語を始めます」と言う。それから中年の男性(廣川三憲)が登場し、女性から本を受け取る、という趣向。舞台の中央には紙飛行機、サスペンダーのズボンをはいた男性(伊礼彼方)が登場し、その紙飛行機を持って空に飛ばす。
実は主要キャストは3人だけ。それとアンサンブル陣、演奏者。主要キャストの昆夏美は星の王子さまを演じるが、伊礼彼方と廣川三憲は複数役を演じ、語り部的なポジションも担う。
舞台上の幕をとると砂漠に墜落した飛行機、飛行士(伊礼彼方)が倒れている。そこへ少年が登場する。彼が星の王子さまだ。飛行士に羊の絵を描いて欲しいとせがんだり、それでいて描いた絵にダメだしをする。

それらの絵が天井に映し出されるが、これがなんとも可愛くもあり、シュールでもある。
”音楽劇”と銘打っているが、ミュージカル的でもあるし、オペラ的な部分もある。要するに『音楽劇』なのだな、と感じる。音楽は生、よって演者の”呼吸”に合わせて演奏ができるわけであるが、それ以上に、演奏と演者の一体感を感じる。またピアノを弾く松木詩奈、薔薇役も担っているのだが、その演者との『阿吽の呼吸』とでもいうのだろうか、絶妙な演奏。経歴を拝見するとダンサー・杉本音音とのピアノ・ダンスユニット「ネオンシーナ」でダンスと音楽が密接に関わる作品を公演しているとのこと。よって、演者やアンサンブルの動き、ダンス、歌をより立体的に観客に提示、また井手茂太のクリエイティヴな動きも、この作品のファンタジックで哲学的な世界観を見せる。そして低音のコントラバスの響きが重層的でしかも温かみを感じる。

 

主要キャスト、3人とも歌唱力は抜群で、オペラ的な楽曲も歌い上げ、また、芝居巧者、笑わせるところは徹底的に笑わせ、印象的な場面では、まるで絵画を見ているかのごとくに、場面一つ一つをクリエイティヴにクリアーに見せる。アンサンブルのフォーメーション、都会の人々と思しき集団がわちゃわちゃ出てくる場面などは、コミカルでありながら、リアリティも感じ、客席から笑いも。そのデフォルメの仕方、面白くもあり、しかし、時にはぞくっとする瞬間もある。原作の底力であろう。
原作は体裁は児童文学でありながら、実は大人のための作品。原作の有名なセリフ「大事なことは目に見えない」、愛、命、思い。様々なことに忙殺されると、そういったことが見えなくなる、わからなくなる。また、作品が書かれた時代、そして献辞、フランスに住んでいて困難に陥っているあるおとなの人に捧げると述べられている。その『おとな』とは原作者のサン=テグジュペリの友人でジャーナリストのレオン・ヴェルトであり、ここでもレオン(廣川三憲)が登場する。実際のレオンはジャーナリストであり、ナチスドイツのユダヤ人弾圧によりフランスに住んでいた。そして原作者自身のリビアでの不時着体験がベースになっている。そんな彼の人生観も透けて見えてくる。

 

この作品自体、自由な解釈が可能であり、正解、不正解、と考えることは必要ない。出てくるキャラクターは皆、不思議な人(?)ばかり(しかし、意外と身につまされたり、あるあるだったり)。その複数役を演じる伊礼彼方、廣川三憲、時には後方に座って、”俯瞰的”に物事を見つめている瞬間がある。「大切なものは目には見えない」、よく知られている言葉が、心に入ってくる、ゆっくりと。そして王子がいなくなる瞬間はちょっと切ない。しかし、いなくなっても自身の心には存在しているはず。派手な演出はないが、じんわりと作品が心に染み入ってくる。大切なもの、出会いと別れ、せっかく仲良くなっても、いつかは別れる。悲しいかもしれないが、出会ったことは思い出になり、それは美しい。ラストシーンはそんな思いを感じる。ライトが天井から飛行士を照らす。「さよならは また明日」と歌う。さよならは時には悲しいが、それを「また明日」、”See you again”。

 

【公演概要】
原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
脚本・演出:青木 豪
作曲・音楽監督:笠松泰洋
出演:昆 夏美 伊礼彼方 廣川三憲(ナイロン100℃)
吉田萌美 内田靖子 岡野一平 平山トオル 原田智子 沼舘美央 大内慶子 堀江葵月
演奏:
ピアノ演奏・薔薇:松木詩奈 コントラバス演奏:小美濃悠太 内田義範(2月10日~12日)
共同製作:兵庫県立芸術文化センター 水戸芸術館

<水戸公演>
日程:2020年1月31日(金)19:00/2月1日(土)14:00 公演終了。
会場:水戸芸術館ACM劇場
水戸公演主催:水戸市芸術振興財団
お問い合わせ:水戸芸術館ACM劇場 029-227-8123 (9:30~18:00 月曜休館)

<東京公演>
日程:2020年2月8日(土) 17:00/9日(日)13:00・17:00/10日(月)19:00/11日(火・祝)13:00/12日(水)14:00
チケット料金:¥6,000(全席指定・税込)
会場:東京芸術劇場シアターイースト
東京公演主催:サンライズプロモーション東京 兵庫県立芸術文化センター 東京芸術劇場
お問い合わせ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~18:00)
※当日券あり。

<兵庫公演>
日程:2月15日(土)15:00/16日(日)14:00
チケット料金:¥5,500(全席指定・税込)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
兵庫公演主催:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00/月曜休 ※祝日の場合翌日)
※兵庫県立芸術文化センターは2月3日〜10日は冬季休館中
兵庫公演=予約受付中
公式HP:https://www1.gcenter-hyogo.jp ※当日券あり。
水戸公演 撮影:刑部アツシ