舞台「カレイドスコープ-私を殺した人は無罪のまま-」開幕!真実はどこに?

「カレイドスコープ‐私を殺した人は無罪のまま‐」が開幕した。多くの2.5次元舞台を手がけている吉谷光太郎初の密室劇、劇場は新宿FACE、小ぶりの劇場で舞台を客席が取り囲む。観客は、この”事件”の話し合いの場におり、それを見つめている、といった状況だ。
場所はとある場所にある別荘。持ち主は会社社長・森田凌平(冨田翔)、30代にして事業を成功させている。彼の中学生の一人娘・かすみが亡くなった。これは自殺なのか、他殺なのか、議論が白熱する、という内容。しかし、これが判明したところで少女は帰ってこない、これだけが厳然たる事実としてここにある。
舞台中央に長方形のテーブル、それから椅子がある。死んだはずのかすみが雑誌を読んでいる。そしてどこかへと去っていく。
場面が変わって伊藤健一(山本裕典)らがやってくる。伊藤は森田の友人で役者をやっている。バイトで生活、自由に生きている。浅井幸助(君沢ユウキ)は記者、馬場貴明(輝馬)は森田側の検事。浅井はやや皮肉まじりに「人生の成功者ってこういう人のことをいうんでしょうね」と言う。森田は娘を失った悲しみの中にいる。「そんな状態で戦っていけるのか?」と伊藤が森田に言う。裁判のことだ。「お前にわかるわけがないだろう!」と激昂するも、そういう言い合いができるのは友達だから。「俺がついている」と伊藤。そして”事件”の確認をし始める。被告は夏樹陸(桑野晃輔)という若者。彼は別荘近くの飲食店の店員。しかし、証拠不十分、無罪という証拠もなく、混沌とした状況、そこへ森田凌平の姉である鯨井祥子(西丸優子)がやってきて、それからその娘・久美(大島涼花)も。遅れてかすみの学校の先生で担任でもある影山雄太(山田ジェームス武)もやってくる。さらに被害者の会を主宰している五十嵐智久(磯貝龍乎)、なぜか署名を集めている。ここで主だった人物は全て登場。場面は過去と現在を交錯させながら進んでいく。

事実としてはかすみが亡くなったということ。自殺か他殺かを巡って論争を繰り広げる人々。持論を展開させるも、この持論というのが曲者で、各々、皆、自分の見地からものを言っている。検事である馬場はクライアントである森田を勝たせたい、それは自分の実績につながる、五十嵐に「あなたでは勝てない」と言われ、「なんなんですか!」と言い返す。この事件を追っている浅井はレコーダーを回したり。被告の夏樹は過去に少年院の経験がある。その過去が彼の印象を悪くさせる。しかし、それはかすみを殺害した理由には当たらない。森田は娘に不自由な思いや寂しい気持ちにさせまいと心を砕いていた。それでかすみは満たされていたのか否か。


そこにいる人々の思惑、そして関係、置かれた立場、時にはかみ合わず、時には感情的になったりもする。夏樹がかすみを殺害したと決めつけようとする森田、その思いのはどこからくるのか、担任だった影山の回想、かすみと親しかった従姉妹の久美の回想、森田の過去、実は妻と離婚していた。親権は森田が裁判で勝ち取ったものであった。証言によって次々と明らかになっていくかすみの状況、夏樹はかすみから「陸お兄ちゃん」と呼ばれていた。そして他殺なのか自殺なのか、核心に迫ろうとする・・・・・・。

タイトルに使われている『カレイドスコープ』は英語で『万華鏡』、『(状況、模様、場面などが)千変万化するもの』という意味合いもある。かすみの死は事実であるには違いないが、他殺?自殺?動機は?セリフをよく聞くと、そして回想シーンも見ると、登場人物の「観点」でのかすみの死因の捉え方が異なっている。彼らの視点から見ると「そうかな?」と思えるが、主観的なものもあり、必ずしもそれが方向性としてそうなのかはわからない。見えてくるのはかすみの死の前の状況、それは彼女と接したことのある人々が捉えている”かすみ”である。それは父である森田凌平も、である。
不穏な音楽や椅子、回想シーンと現在を交錯させる場面、時は激昂したり、泣いたり、そして登場人物のフォーメーションで彼らの心理状況や置かれた立場を視覚的に見せる。そして山本裕典が演じる伊藤健一が主人公ではあるが、群像劇的な要素もあり、皆、なんらかの闇を抱えているようにも感じる。
さて、結末は?それは野暮というもの。地球上に生きる人々、人は一人では生きていけないと言う、また常に孤独を抱えている、とも言える。そして人の心、優しさとはどういうものなのか。彼らの言動からそんなことも考えさせられる。

この物語、事実はあるが、真実は何処にあるのだろうか。密室で本音が見え隠れするサスペンス、ちなみに「サスペンス」という言葉、ズボンのサスペンダーからきているという説があり、「観客の心を宙吊りにする」というところからきているそう。いろいろなことを考えさせてくれる、上演時間はノンストップの約2時間。

<ストーリー>
ある日、別荘で首を吊って亡くなっていた森田かすみが発見され、
夏樹陸が容疑者として浮かんできた。
しかし、他殺と見られたその事件は「自殺」と判断され、
夏樹には無罪判決が下った。
「判決・・・無罪」
娘を失い、気持ちの整理をつけることができない森田凌平は、
時間が止まったような生活を送るようになった。
それから半年後の冬、凌平の身を案じた親友の伊藤健一により
「凌平の為に真実を追求する」という名目で、
判決に疑問を持った10人がかすみの亡くなった別荘に集められた。
そして始まる、あの時のあの場所で一体何が起きたのかという話し合いが・・・。
事件と裁判の一部始終を追いかけている新聞記者の浅井幸助。
凌平の会社の元弁護士で今は検事の馬場貴明。
いつもかすみを見守っていた中学校の担任、影山雄太。
事件の被害者に寄り添う活動をしている五十嵐智久。
世間体を気にする凌平の姉で、かすみの叔母でもある鯨井祥子。
祥子の娘で、かすみを妹のように思っていた鯨井久美。
自殺か?それとも他殺なのか?
各々が主張する推論と矛盾に閉ざされた空間で、凍てついた感情だけが過ぎてゆく。
一体どれだけの沈黙が続いたのだろうか・・・。
時計の針は無情にも正確に時間を刻んでいく・・・。
謎に包まれた事件の真相を巡り、
集まった10人のむき出しの感情と本心を鋭く暴いていくサスペンス密室劇。
残酷なパラドックスの果てに導き出されるテーゼを知ったとき、
人は本当の優しさの意味を知る。

【「カレイドスコープ‐私を殺した人は無罪のまま‐」公演概要】
公演日程/ 劇場:2020年2月20日(木)~3月1日(日) / 新宿FACE
チケット価格:7,000円(全席指定・税込・ワンドリンク制)
※別途ワンドリンクの料金(500円)がかかります。
脚本:谷碧仁(劇団時間制作)
演出:吉谷光太郎
出演:山本裕典 桑野晃輔 磯貝龍乎 輝馬 山田ジェームス武 西丸優子 大島涼花 木村心静 君沢ユウキ 富田翔
主催・企画・製作:ポリゴンマジック
公式HP:http://kaleidoscope-stage.com
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