本多劇場@下北沢 満を持して再開!第一弾「DISTANCE」開幕!画面から伝わる劇場の、舞台の空気感を感じる生配信。

本多劇場グループが、6月1日(月)より、営業を再開した。
緊急事態宣言が解除され、街にも人が戻りつつあるが、新型コロナウイルス感染の危険性が未だある中、劇場再開をどのように行うべきか。その一歩目としてたどり着いた答えが「無観客生配信」
6月1日(月)〜7日(日)の1週間、本多劇場よりひとり芝居の無観客生配信を毎日、日替わりで!演劇の街、下北沢から!
劇場ロビーは常に換気に注意をはらい、消毒も念入りに。

始まりは、劇場が入っている入り口から。ずっとカメラが進む、『観客として入っていく』感じ、受付で料金を払い、チケットを受け取り、ロビーを通って客席に。そして「始まる」。2人の作業着姿の男、頭にタオル。どちらからともなく叫ぶ「DISTANCE!」。

「ここは?」「劇場」「映画観るところ?」「演劇をやるところ、ここでかつて演劇を観ていた」「へー」「観たことないの?」メガネの男(川尻恵太)は演劇を観た経験があり、もう一人(御笠ノ忠次)は演劇を知らない。知らない方は知ってる方に向かって「演劇ってそんなにえらいんですか?面白いの?」と言い、それに対して「俺は好きだったかな」と返す。「どんな感じ?」と聞かれて「言われてもな〜」。確かに答えにくい。「客席の明かりが落ちていく、暗くなっていく、役者がスタンバイしてて・・・・・・」というと画面が暗くなっていく。

そして舞台中央に真四角の明かりが入る。2人はいなくなり、ピンクのトップスを着た男、「永島敬三と申します!」と言い「春も終わっちゃいますね、ずっと家にいた方が多い・・・・・」と一人でマシンガントーク。『永島敬三が永島敬三を演じている』風情、ただ一人マイクに向かってしゃべる。もちろん、リアルに客席にいるわけではなく、こちらはPCの画面を観ているのだが、スタンダップコメディのような臨場感も感じられるのは新鮮だ。映像を観ているのに映画とは全く違うリアルさ、確かに映画とは異なり、演劇、劇場の空気感もあり、PC画面は『平坦』なはずであるのに、なぜか自分が客席にいる錯覚さえ感じる。

技術の発達で没入感満点の映画と違う没入感。もちろん、カメラで撮影しているので、アップもあれば、引きもある。ジャンプした際には一瞬姿が(笑)、そして生配信なので途中で不具合が生じることさえも楽しめてしまう。シニカルだが、どこか温かい”胸の高鳴り””ときめき”といったWORDが出てくる。脈絡がなさそうで実は深いところで芯が通っている、そんな短編であった。
それが終わり、また例の2人が出てくる。

「セリフ覚えてんの?」「当然でしょ」「俺には無理だな」と会話しながらそこらへんを消毒。「観たくなってきた?」「観たくなるものなんですかね」「演劇ってさーなくてもいいんだけど、なくならないもの。必要な人には必要。それが演劇」と言い、「正解があると思うから不正解」という。演劇を観たことのない男は「演劇ってここで観なくちゃいけないの?」それに対して「非効率なのも演劇の良いところ。同じ場所で、同じ時間に観るのが演劇」と。しかし、今、この瞬間、同じ時間ではあるが、同じ場所なのか、と言われれば「違う」のだが、しかし、リアルで画面を観ている人々がいる、この時点で1.94千人が視聴している。

そして次の物語が始まる。女性(井上小百合)が机にうつ伏せで寝ている。「いけない、途中で寝てしまいました」、本を読んでうたた寝、誰でも一度や二度はしたことのあるはず。夢の中でも本を読んでいたと語る。「夢と現実のミルフィーユ」という女性。『浦島太郎』の話を始めるが、よく知ってるあの話と・・・・・・ちょっと違う。そして・・・・・・・・図書館が燃えてしまったという。「どうしていやなことばかり覚えているのかしら?」と言い、「彼の前では嘘をつく」「喜んでくれるから嘘をつく」ともいう。『嘘』、それは”虚構”、演劇も”虚構”、全ての演劇は生身の俳優が虚構の世界で虚構の人間を演じている。そして女性の物語、舞台には彼女一人、”彼”は作家を目指しており、戦争に参加するという。「読んだ人には幸せにになってほしいから、そのためには戦争を終わらせなきゃいけない」という。畳み掛けるようなセリフ、シニカルだが、深いところで共感、誰もが持ち得る感情や考えがメビウスの輪のような、脈々と続いていく、一種の哲学のようなものも感じさせずにはいられない。こちらもおよそ30分程度の短編。
再び作業着の男2人。「観てみたい、多くの人たちが一堂に会しているところを」「観てみたいけどね」「そうだけどね」と話す2人。
3つ目はマスクをした白髪混じりの男(入江雅人)が登場。人混みの、雑踏の音、「また人、増えてねーか」という。そして「距離とって!!!!」「ソーシャルデイスタンス!!!!」「神輿担がないで!!!!」「花火、あげないで!!!!」、叫ぶ、叫ぶ。パトカーのサイレンの音がけたたましく響く。さあ、大変(笑)、PCで観てても思わず笑ってしまう。風刺的で、それでいてコントのようで、前のめりで観てしまう。「俺、主催者じゃないから!」「解散しましょう!!!!」、そして言い訳っぽいことを話し始める。「6月です!ステップ2!!」


タイムリーすぎる話を舞台でやる。しかし、日本において、江戸時代の歌舞伎はタイムリーな話題をすぐに戯曲化していた。『忠臣蔵』は赤穂浪士の討ち入りが当時、話題性抜群だった。それを歌舞伎にし、大当たり、現在も上演され続けているのは周知の通り。
『曽根崎心中』も実際にあった事件で相思相愛の男女の情死、元禄16年4月7日の出来事、人形浄瑠璃として竹本座で元禄16年5月7日上演、その時の口上によるとそれより前に歌舞伎になっていることがわかる。タイムリーな話題を題材にしてタイムリーな手法である生配信で観客に見せる。これこそ演劇の真骨頂とも言えそうだ。
ちなみに視聴者数であるが、時間をおうごとにUP、20時15分で1.94千人、最終的には最大2100人を記録した。

初日は劇場の再開を記念し、永島敬三・井上小百合・入江雅人の各演目を連続上演、そして、初日会見が行われた。登壇したのは、本多劇場グループ、本多一夫、総支配人の本多愼一郎、企画・脚本・演出の川尻恵太、御笠ノ忠次、そして初日出演の永島敬三、井上小百合、入江雅人。会見は密になりやすいが、タイトル通りに「DISTANCE」、新しい形で執り行われた。
客席に報道陣、もちろん間隔を取って座る、席と席の間に透明なアクリル板を挟んでいる。

「時節柄いろんなことがありました。何が起こるかわからない。スタッフ一同頑張ってやっていきたい。」(本多一夫)

 

「やっと初日を迎えることができました。演劇が再開しました。素晴らしい状況で観ることができました。これからもよろしくお願いいたします」(本多愼一郎)

「4月から全国の劇場が閉鎖しました。一番の思いは初めて劇場を開けて演劇をやりたい。みなさんと一緒に作品を作りたいという思いがありました。お客様を入れてできる状態ではありませんが、できることから。友人の御笠ノ忠次さんと話しあって、安全に開けたいなと思い、始めたプロジェクトです。これから少しずつ『DISTANCE』、つまり距離を少しずつ縮めていって、最終的には満員の劇場で、という願いを込めてつけた名です。配信でたくさんの方に観ていただいて、成功したと思います。これからも頑張っていきたい」(川尻恵太)

「川尻さんがいった通りです。僕は前向きな性格で新しい発見ができたなと。苦肉の策ですが、今は来られなくても、これない人も生で観てくれている。今日、希望を持って迎えられた、楽しかったです」(御笠ノ忠次)

「客席にお客様がいないことは、やる前もやる時も『寂しい』と思ったんですが、生配信で、向こう側で想像力を働かせて観てくれている、『もしかして、笑ってる?』『手に力入れて観てくれている』人を想像しながらやってました。夢みたいな時間でした。本多劇場は、多くの先輩たちがやっていらして、僕も本多劇場でやりたいと思っていました。これからも居続けて欲しい。この経験は忘れられないです。お客様とまた劇場で会えると思って希望を持って頑張ります」(永島敬三)

「楽しかったです。やっているうちにどんどん感謝の気持ちが・・・・・・苦しい状況で本多劇場にたてるのは大きなこと。同じ時間を共有して泣いたり笑ったりしているのは貴重な時間。脚本は川尻さんで数年前に書き下ろした作品で『一人で過ごす平和ほど平和じゃないことってあるでしょ』何度もセリフを読んで涙しました。一人でも多くの方に気持ちが届いて欲しい。誰かと泣いたり笑ったりしていきたい。それは生きる意味、目的だった。これからも生きていきたいです」(井上小百合)

「演劇って日本人みんなが観ているわけじゃないし、観たことない人も多数います。でも、演劇で人生が変わる瞬間があって、僕もそうだった。ある演劇を観てのめり込んだ。観てもらえばわかると思うのですが、敷居が高い。配信は日本中で観れる環境、これはいい機会ではないかと・・・・・本多劇場さんが旗揚げてくれた、本多劇場は特別で、ここにいくのが目指すところ、ここに立てたことが嬉しかった。こういう形でできて嬉しいです。心配なのはスタッフさん、全然会っていないです・・・・・これが新しいスタートになることを願っています」(入江雅人)
また今の心境を聞かれて本多愼一郎は
「演劇、観れた!劇場は、いろんな人が集まっていろんなことを創造するところ、1日も早く集まって再開したい」と率直な感想を。
稽古について川尻恵太は、
「短い稽古、ということで了承していただいた方に出ていただいてます」とコメント。
2020年5月22日-東京・下北沢で小劇場を運営する本多劇場グループから、まず都内の小劇場が情報を交換して発信する小劇場協議会(仮称)を発足させる、と20日発表したが、それについて本多愼一郎は
「今までは横のつながりがなかった。まずは対策を考えることが再開を早めること。みなさまと話し合い、未来に向けて情報を発信んしていきたい」と語った。それから稽古の状況についての質問が出た。制作から「人それぞれで」とコメント、キャストからは
「この演目は前にもやったことがありまして。スタッフさんんとの打ち合わせはリモートで。それからリアルに劇場でお会いして不思議な気持ちに・・・・・実際にお会いすると『痩せていますね』と思ったり(笑)、すぐにできるので、『これもありだな』と思いました」(永島敬三)
「一人芝居が初めてで・・・・・・・今まではみんなで長い時は3、4ヶ月稽古してて・・・・・・・1人は誰もフォローしてくれない、泣きました(笑)、友達の前で号泣したり。でもやってみて楽しいし、自分も成長できたので、もっと挑戦したい」(井上小百合)
「持ちネタは何本もあるし、無観客配信もやりました。最後の音楽はオレノグラフィティさんですが、メールでやり取りで新鮮でした。すごくいい経験になりました。明日、どうなるか楽しみです・・・・・・ライブはその日のお客様と作りますし、グルーヴ感はその日しかできないし、同じ反応は起こらない、それがライブ。僕のはお客様の笑いありきなので、今後は戸惑うかも(笑)。劇場に定員入れるのは不可能なので配信を考えないと。観ていただいて、何かのヒントになれば。リモート演劇、苦手な人も多い。今回は3カメあったので、臨場感は伝わるかな?でも限界がある。だから本当に面白いものをやらないと」(入江雅人)
活発な質疑応答、今後の劇場運営について本多愼一郎は
「生で観る、ということについては今後も変わらないし、きていただきたいが、配信については商業面でもサポートできるし、地方の人にも観ていただける環境を・・・・・・・より”生”の価値が高まるのでは?と。生で観て喜んでいただけるように」とコメント。
演劇は”生”がベストではあるが、様々な事情で劇場に足を運べない観客も多数存在する。生配信は今後、活用されていくことであろう。遠隔地に住んでいて演劇に触れたことのない人々に配信という手段で作品を伝えることはゆくゆくは劇場に足を運んでもらえるチャンスかもしれない。

【概要】
■日程
2020年6月1日(月)〜7日(日)

■公演会場 下北沢本多劇場 ※無観客生配信
■企画・脚本・演出 川尻恵太・御笠ノ忠次
■出演者(五十音順)
井上小百合 入江雅人 伊礼彼方 柄本時生 小沢道成
片桐仁 小林顕作 近藤芳正 清水宏 鈴村健一 永島敬三/ 川尻恵太 御笠ノ忠次
■上演時間 35〜45分を予定(1日のみ90分を予定) ※公演日&演目により、多少前後いたします
■配信媒体
Streaming+
■料金
前売当日 2,500円(税込) ※6月1日のみ3演目を連続上演、3,500円(税込)
■チケット発売 5月27日(水)12:00〜
■特設サイト
http://distance.mystrikingly.com
■スタッフ
舞台監督:寅川英司 照明:大波多秀起(デイライト) 音響:藤森直樹(サウンドバスターズ) 演出助手:伊達紀行 映像:ワタナベカズキ 制作:高橋戦車
衣裳:ヨシダミホ ヘアメイク:武部千里 舞台美術&宣伝美術:魚住和伸 協力:ニッポン放送 主催:本多劇場グループ/DISTANCE製作委員会
舞台写真:和田咲子