「VR能 攻殻機動隊」これは夢か幻か、電脳世界に迷い込み、人間の本質を問う (0823_写真更新)

日本が世界に誇るSF漫画の最高傑作の一つ「攻殻機動隊」、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』として1995年にアニメ化され、多展開されているコンテンツ。初の舞台化は5年前、3Dを使った数ある2.5次元舞台でも画期的なものであった。演出は奥秀太郎、脚本は藤咲淳一。それから、2016年に能×3D映像公演「幽玄 HIDDEN BEAUTY OF JAPAN」、2017年には平家物語「熊野」「船弁慶」、そして2018年の3D能エクストリーム、スペクタクル3D能「平家物語」と繰り返しチャレンジ。そこから、伝統芸能 × 最新技術、VR能「攻殻機動隊」、その全貌が”お披露目”となった。

最初に今回の公演についての説明、MCは南圭介、5年前の3Dを使った「攻殻機動隊」の舞台に参加、その後は奥監督作品に出演している。「能とは」「VRについて」「『攻殻機動隊』とは」についてわかりやすく説明。能は世界最古の歌舞劇と言われ、2008年にユネスコ無形文化財に指定された。この能と最新テクノロジーであるVR、SFである「攻殻機動隊」、この3つが融合するのである。VRとは「見かけは現実ではないが、本質は現実」。また「攻殻機動隊」、主人公の草薙素子、幼少の頃に、脳と脊髄の一部を除く全身を義体化した女性型サイボーグ。サイバー犯罪の難事件の数々を解決してきた。ある事件をきっかけに、インターネットの海で生まれた知的人工生命体である『人形使い』と融合を果たし、忽然と9課から姿を消した。彼女と旧知の仲であるバトーは、残された9課隊員らと命がけの公安活動を続けながら、素子の面影を膨大なインターネット空間に探し求める。一方で人形使いと融合を果たした素子は、ことあるごとに自らの変種を同位体としてネット上に放出しながら、電脳戦に身を投じて認知限界を拡大しつつあった。失踪から4年後、ある壮絶な電脳戦の果てに、素子は自らの同位体とめぐり合うことになる。

笛の音、舞台後方に映し出されていた「攻殻機動隊」の文字が砂のように散っていく。声が響く。笛、鼓、バトー、登場。従来の能面とは違うが、能特有の奥深さをたたえた面、「素子は何処。姿も影もつかめぬ」と。それから舞台中央奥に草薙素子が登場する。3月のお披露目でも感じたが、現代的な美しさの中に無機質さもあり、またボブヘアーが衣装に驚くほどマッチする。白髪の人形使いも登場し、草薙素子と舞う。

原作はコミックであるが、この舞台は能そのもの。コミックの舞台化なので、カテゴリー的には『2.5次元』ではあるかもしれないが、こういった括り方は、この舞台にはふさわしくないのかもしれない。そのくらい、今までの”常識”が当てはまらない、いや、当てはめるべきではないかもしれない。観ていると吸い込まれていく不思議な感覚、目の前にいる”草薙素子”、バックのファンタジックな映像、水がゆらゆらと揺れているような、それと融和していくような瞬間、まさに”夢幻”、ふと消える場面もあり、観客は”電脳”の世界に迷い込む。

”THE GHOST IN THE SHELL”、世阿弥は言葉、所作、歌舞、物語に幽玄美を漂わせる能の形式「夢幻能」を大成させたと言われているが、まさに、”THE GHOST IN THE SHELL”。 ワキがシテと出会う、ワキはバトーで、シテは草薙素子。そしてそこにVR、映像の最先端技術を使い、劇場全体を”電脳”の世界に。VRはゴーグルをつけるのだが、ここではゴーグルを使用しない。それでいて、作品世界に没入できる。画期的な技術に感嘆するとともに、作品の世界観、底力も改めて認識。

またこの映像技術もさることながら、音響技術も忘れてはならない。音が全身を包み、これがより一層の没入感を助長する。笛や鼓の和楽器の音色がファンタジックに響く。VR、のVはVirtual、「仮想の」「虚の」と訳されることが多々あり、主にコンピューター分野で使用される。しかし、本当の意味は「本質を示すもの」。さらにRはReality、「真実」「事実」「現実」「実在」。今回の「VR能 攻殻機動隊」、原作の持つテーマ、人間の本質とは? これが能という手法とVR、ゴーストグラム、光学迷彩などの技術と深いところで響きあい、融合することによってビジュアル的に作品テーマを観客に提示させる。演劇は生身の人間が舞台上で芝居をすることによって物事の本質や現実を観客に見せる。この「VR能 攻殻機動隊」は最先端でありながら演劇の原点に立ち返っているのかもしれない、しかも世界最古の歌舞劇、能との融合で、そう考えると世界中の人々の心に響くかもしれない。

この世界初のお披露目公演のあとはトークイベントが行われた。
ナビゲーターの南圭介に呼び込まれて、 大島輝久(喜多流能楽師)、亀井広忠(葛野流大鼓方能楽師)、藤咲淳一(脚本)、稲見昌彦(VR技術)、 福地健太郎(映像技術)、そして奥秀太郎監督が登場。初めに奥監督は「本当にまさかこのような状況の中ご来場していただき、そして色んな方々のご協力があって、こうして幕をあけられたこと。本当に心から感謝しています。」そんな言葉から始まったトークショー。

稲見教授は「まさにこのような社会状況で、 なかなか人が集まるのも難しくなってきます。まさに攻殻の世界であると。電脳から一気に進んでいるという風にも捉えることができる。そういう最先端の技術と伝統がどう結びついたかというのをご覧いただきたいです。」と意気込みを話た。

そして本日お客さんとして来ていたという亀井は「突然トークの場に引っ張り出されてびっくりしています(笑)。簡単に言うと私は、能の小鼓、大鼓の音楽の作調・作曲させていただき、演奏・録音をさせていただいてます。基本、能は生演奏なのですが、自分の入れた音や声が聞こえてきて今日は心苦しかったです。あと願わくば、次は生でやりたい。」と監督にアピールした。

また藤咲は 「攻殻機動隊を能にするということで奥監督から話がありまして、どうしたらいいんだろうなというところから始まりました。でも原作をベースにするということで、 心置きなく僕の中にあった攻殻で能ができる部分を抽出して、脚本や構成を考え、川口さんとかに上手く言葉をすくっていただき今回のお披露目となれました。」と日本が世界に誇るSF漫画の最高傑作×伝統芸能の歩みについて話した。

伝統を守らねばならない、能楽師として心がけたことについて聞かれると「なるべく能の基本的な技術や構成を壊さないように、まず一番最初に奥さんにお願いしたのは、原作に忠実な台本をお願いして欲しいということでした。それを具体化していくことで、能の技術もなるべく基本のものを使って構成するように務めました。」と坂口は話し、「攻殻機動隊」という最高傑作と世界最古の伝統芸能の歩みよりの深さを感じさせた。谷本は見どころについて聞かれると「映像技術と我々がどのように舞台上でリンクしているのか、実際 我々が動いてセリフを言っているということと、映像との見比べがどのようにできるのか、我々も興味深く稽古から今日に至るまでやっています。」と VR能であるからこそのリンクを楽しんでいる様子だった。

父が人気漫画家・かわぐちかいじである川口は、そんな父にこの舞台について何を言われたかと聞かれると「おう、そうかとしか言われませんでした(笑)。ただ、父もやっぱり日本の表現として、能と漫画はすごく近い部分があるんじゃないかと考えております。」と話す。
そこでナビゲーターの南が、もしかしたらかわぐちかいじさんの作品も能になるのでは?と聞くと、「能をテーマにした漫画でも書こうかなとも言ってたこともあります。そういう風になりましたらまた奥監督にお願いします!」と川口が回答し、大きな盛り上がりを見せた。

また大島は流派を越えての参加について聞かれると「能では基本、他の流派との共演は禁じられている中で、坂口さんの方から声替をもらいました。プライベートでは25年もの付き合いで、将来一緒に共演したいねとずっと話していたので、坂口さんに「新しい能の観客を向いていただくため、世界的にファンのいる原作を具体化する時ために力を貸してくれないか」と言われた時は、そこまで言われたら出るしかないか、と思いました」と答え、流派を越えた能楽界の動きに拍手が沸き起こった。最後に坂口は「明日、明後日とあと 4 回ありますので、私たちも客席の方々も無事に終えられることを願っております。今日は本当にありがとうございました。」と話し、トークショーは幕を閉じた。

「VR能 攻殻機動隊」クリエイター”オールスター”揃い踏み!左端はMCの南圭介

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《座談会》「VR能 攻殻機動隊」 伝統を超えた電脳の世界へ_ 奥秀太郎(演出), 川口晃平(観世流能楽師), 藤咲淳一(脚本
https://theatertainment.jp/japanese-play/57796/

【公演概要】
公演期間: 2020年8/21(金)〜23(日)
※21日 プレス向けプレビュー。
会場: 世田谷パブリックシアター

https://theatertainment.jp/japanese-play/57796/

【公演概要】
公演期間:2020年8/21(金)〜23(日)
会場 世田谷パブリックシアター

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KC デラックス刊)
演出:奥秀太郎
脚本:藤咲淳一
3D 技術:福地健太郎(明治大学教授)
VR 技術:稲見昌彦(東京大学教授)
出演:坂口貴信 川口晃平 谷本健吾他
観世流能楽師
プロデューサー:神保由香 盛裕花
製作:VR 能攻殻機動隊製作委員会

公式サイト:http://ghostintheshellvrnoh.com/

取材・文:高 浩美
撮影:斎藤純二 ※2020/8/23 写真更新