朗読で描く海外名作シリーズ 音楽朗読劇「オペラ座の怪人」パリ・オペラ座の世界へ! 石川界人 駒田航 中島ヨシキら若手実力派声優. 田尾下哲 翻案演出

音楽朗読劇「オペラ座の怪人」が、
石川界人、駒田航、中島ヨシキなどの若手実力派声優の出演、
田尾下哲の翻案・演出により、
9月5・6日に神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールにて上演。
また、「あにてれ」でも生配信。

取材したのは、9月5日、18時半の回。オペラ座の怪人、駒田航、ラウル・ド・シャニィ子爵、石川界人、クリスティーヌ、工藤晴香。
まずはオペラ座の怪人が登場、暗い舞台にスポットライトが当たる。これから起こる物語を予感させる不穏な旋律、怪人の独白、時は1905年、そして高らかに「地上25階、地下5階のパリ・オペラ座の世界へ!」背景に豪華なオペラ座が映し出される。グノー作曲オペラ『ファウスト』、原作に沿った展開、それからラウルの独白、航海士として世界中を回って、パリに戻っていた。家督は彼の兄が継いでいる。ボックス席でいつでもオペラを見ることができる。お目当ては子供時代に出会ったクリスチーヌ・ダーエであった。彼女が出演する時は観に行く、そして、ある日、なんと、プリマドンナのカルロッタが降板し、代役としてクリスチーヌが大抜擢、彼は不安と期待でいっぱい、そしてクリスチーヌの独白、代役でマルガリータを演じる、緊張しながらその時を待っていた。そんな彼女に怪人の声が、「天使の歌声をオペラ座に響かせるのだ!」と。
この3人の独白で、それぞれの状況がよくわかる仕組み。ここから、あの物語が展開する。原作はかなりの長編で登場人物も多い。そこを整理し、メインキャラクターである怪人、クリスチーヌ、ラウルに絞る。この3人の関係性、怪人はクリスチーヌを愛しているが、独占欲が強く、どこかストーカー的なところがある。それは彼の生い立ちに関係してくる。産まれながらにして醜い風貌、両親からも疎まれ、家出し、見世物小屋で風貌故に”生ける屍”として生きてきた。様々な技術を身につけた、無論、生きるために。音楽、奇術を身につけ、楽譜を書き方を教わり、歌も歌えるように、しかもかなり高度なテクニックを使いこなせるようになった。そしてマザンダランの宮殿に買われたが、秘密を知りすぎたばかりに命を狙われるようになり、パリに逃れ、オペラ座の建設に関わったのであった。美しいものを愛する、自分にはないもの。だから手に入れたい、完成度の高いオペラ、完璧な歌姫……人間らしさに溢れたキャラクターだ。怪人とラウルに愛されるクリスチーヌ、早くに父をなくした、その父にかつて言われた言葉、「音楽の天使」、それを信じる心、そして好奇心旺盛さも垣間見える。また、ラウルは初恋の人が忘れられない純粋さを持つ。裕福な貴族、兄は伯爵、自分は子爵。世間的にみれば持てるものはなんでも持っている。そんなラウル、怪人は当然面白くない、しかもクリスチーヌと相思相愛となれば、なおさらだ。この3人の愛憎劇に絞って朗読劇に。特に怪人は様々な声を出せるという設定、ハードルが高いが、そこを駒田航が健闘、また、ドスの効いた声で怪人の恐ろしさを表現。ラウルは2枚目、イケメンな空気を醸し出しつつ、純朴でまっすぐな青年を石川界人が好演、また工藤晴香が愛されキャラ、クリスチーヌ、これなら怪人もラウルも心奪われるという可愛らしい役創り。そして舞台上にはいないが、本格的なオペラの歌唱で青木エマが聴かせる!

声優陣の演技もさることながら、音響と音楽、エコーを使う場面、また、どこから音を出すのか、特に物語の後半部分、オペラ座の地下は迷宮になっており、そこは怪人の住処という設定、音響効果で、あたかもそこにいるような没入感。茂野雅道の音楽が物語を彩る。それが劇場全体を包み込む。そして照明と背景、背景はオペラ座が映像で映し出されるが、照明でそれが変化する。また、迷宮場面になると、妖しく、シックな印象に変わり、俳優陣の演技、音楽と三位一体になって”迷宮”を創り上げる。豪華な装置がなくても舞台はパリ・オペラ座、ここはクリエイタースタッフの腕の見せ所となっている。上演時間は1時間50分ほど、テンポよく物語をみせる。最後の「バッタを回すか、サソリを回すか」と下りは緊迫感に満ちており、手に汗握る場面となっている。

原作者のガストン・ルルーはもともと新聞記者であった。1900年頃から小説を書き始め、1910年に「オペラ座の怪人」を発表し、大評判になり、イギリス、アメリカの新聞にも掲載された。1925年に映画化、日本でも『キネマ旬報』の娯楽的優秀映画6位の人気作品。持てる者と持たざる者、美しいものと醜いもの、絢爛豪華なパリ・オペラ座、その地下の怪しく、暗い怪人の住処、この”対比”がこの作品の真骨頂。そして、容姿と境遇により歪んでしまった怪人・エリックは、ラスト近く、その本質を表す。閉ざされた心が垣間見え、涙を流し、クリスチーヌは彼を受け入れる。誰よりも醜い風貌の怪人の最後は美しい、そして”人間”であった。

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<概要>
朗読で描く海外名作シリーズ 音楽朗読劇「オペラ座の怪人」

日程・会場:2020年9月5、6日 神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール

配役:
9月5日 13:00
オペラ座の怪人:石川界人
ラウル・ド・シャニィ子爵:駒田航
クリスティーヌ:工藤晴香
18:30
オペラ座の怪人:駒田航
ラウル・ド・シャニィ子爵:石川界人
クリスティーヌ:工藤晴香
9月6日 13:00
オペラ座の怪人:中島ヨシキ
ラウル・ド・シャニィ子爵:石谷春貴
クリスティーヌ:久保田未夢
18:30
オペラ座の怪人:中島ヨシキ
ラウル・ド・シャニィ子爵:狩野翔
クリスティーヌ:洲崎綾

原作:ガストン・ルルー
翻案・演出:田尾下 哲
劇中歌(録音):青木エマ
音楽:茂野 雅道
舞台監督:今井 東彦
照明:加藤 学
音響:佐川 敦
衣裳:小泉 美都
演出助手:木村 孔三

主催・企画・制作:MAパブリッシング/東京音協
後援:tvk

公式HP:https://opera.rodokugeki.jp

 

取材・文:高 浩美