世界が注目、藤倉大待望の新作オペラ! ポピュリズムが世界を覆う今日、すぐそこに迫る脅威をスリリングに描く衝撃作『アルマゲドンの夢』11月15日より上演

令和2年度文化庁委託事業「戦略的芸術文化創造推進事業」令和2年度(第75回)文化庁芸術祭協賛公演新国立劇場2020/2021シーズンオペラ 創作委嘱作品・世界初演 『アルマゲドンの夢』11月15日より上演!

新国立劇場にて新時代の旗手としてロンドンを拠点に旺盛な作曲活動を展開している作曲家・藤倉大の新作オペラが上演される。 藤倉がオペラを手がけるのは3作目であるが、フルオーケストラと合唱を伴うオペラは今回が初。世界のオペラファン待望の藤倉大初 の大規模オペラの世界初演に、内外から注目の声が寄せられている。
藤倉が選んだ題材は、20世紀初頭に書かれた H.G.ウェルズのSF短編『アルマゲドンの夢』。藤倉と長年共同作業をしているハリー・ ロスが台本(英語)を手がけ、藤倉らしい大胆な発想でオペラ化。時空を自在に行き来しながら、忍び寄る全体主義と科学技術の発展がもたらす大量殺戮への不安を鋭くも描いた原作を脚色、ポピュリズムが世界を覆う今日、現代を生きる我々のそばにある脅威をスリリングに描き出す。
演出は近年ドイツを中心に欧米の観客の熱烈な支持を受け、2018年のザルツブルク音楽祭『魔笛』で一躍世界のオペラファンの話 題の的となった女性演出家リディア・シュタイアー。指揮は大野和士芸術監督自らがあたる。奇しくも世界を震撼させた新型ウイルスの脅威の下にある今日、今こそ上演意義のある『アルマゲドンの夢』世界初演!

~新国立劇場公式動画シリーズ 藤倉大×大野和士『アルマゲドンの夢』対談~
【前編】原作との出会い、作曲のエピソード、演出家リディア・シュタイアーについて etc
https://youtu.be/TTr-0HFa1o4
【後編】台本作家ハリー・ロス、作曲過程、映画「蜜蜂と遠雷」のエピソード etc
https://youtu.be/CO0GHAt6Mbc

<オペラ『アルマゲドンの夢』の今日性>
大野和士芸術監督が藤倉大に委嘱した際の新作の条件のひとつが「現代性のあるテーマ」。藤倉と台本作家ハリー・ロスは、大戦前夜の全 体主義と大量殺戮に覆われんとしている世界を描いたウェルズの SF 短編『アルマゲドンの夢』に、ポピュリズムが世界を席巻する今日の状況を重ね、絶好の題材として創作に着手しました。その後イギリスではボリス・ジョンソンが首相に就き、EU 離脱を決定。藤倉は「世界の状況がどんどんこの作品に近付いて、怖いくらいだ」と言っています。更に 2020 年に入り、世界は新型ウイルスの脅威に震撼し、各国指導者 の対応次第で明暗が分かれることにもなりました。夢のごとく幸福なカップルに、外界の強大な力の影が黒い染みのように広がり、やがて人類に破滅の悪夢が迫る…オペラ『アルマゲドンの夢』は、まさに今日上演されるべきドラマなのです。

<国内外から激賞された『紫苑物語』に続き、新国立劇場が世界へ放つ新作シリーズ第2弾>
日本人作曲家への新作委嘱は、大野和士芸術監督の掲げる第一の柱。第1弾として 2019年2月に上演した 『紫苑物語』(西村朗作曲)は、国内外のメディアを驚嘆させ、世界に通じる普遍的な力を絶賛された結果、世界のオペラの成果を表彰するインターナショナル・オペラ・アワード 2020(本部・イギリス)の新作部門ファイナリストに、世界8作品のうちの1本としてノミネートされました(受賞作発表は新型コロナウイルス感染症の影響で延 期)。『紫苑物語』の台本を手がけた佐々木幹郎氏は第1回大岡信賞を受賞。オペラパレスの満場の観客が大 いに熱狂した『紫苑物語』に続き、新国立劇場から世界へ、知的興奮に満ちた日本人作曲家のオペラを発信します。世界的話題作の誕生は、 同時代に生きる全てのオペラファン、音楽ファン、演劇ファン、文芸ファン必見です。
<オペラ『アルマゲドンの夢』あらすじ>
大都市へ向かう通勤電車の中。若い税理士フォートナムは見知らぬ男クーパーに、その本は夢についての本かと問われる。訝しむフォートナム。クー パーは、夢と現実が入り混じることはないか、自分は夢の中で殺された、別の時間に生きていたのだと畳みかける。 クーパーは美しく聡明な妻ベラと新婚生活を送っていた。ダンスホールへ現れたインスペクターの扇動で、若者たちは戦争への恐怖を煽られ、ジョンソン率いる一派にあっけなく取り込まれてしまう。敢然と立ち向かおうとするベラ。なだめるクーパーを、ベラは自由を求め戦おうと必死で説得する。やがて巨大な飛行機や戦艦が近づき、興奮が渦巻く中、爆撃が始まる。ベラが撃たれ、クーパーの腕の中で息絶える。
<コメント>
[芸術監督:大野和士]

日本人作曲家委嘱シリーズ第2弾として、俊英、藤倉大氏に彼自身3番目となる新作オペラを委嘱しました。 彼が選んだ題材は、英国人のSF小説の父、H.G.ウェルズの小説『アルマゲドン(世界最終戦争)の夢』。ウェルズは 未来を予言するような作品を次々と書きましたが、この『アルマゲドンの夢』は 1901 年に書かれながら、第一次世界 大戦の大量破壊兵器や、第二次世界大戦に至るファシズムの到来、はたまた原子力による暴力までをも不気味に 予測した驚くべき作品。藤倉はこの作品のオペラ化に当たって、「通勤電車の中の会話として語られるこのドラマを、 音楽によって」「夢の中あるいは覚醒状態の連続体のようにした」「オペラ特有の合唱という存在には、電車を乗り降 りする乗客や血に飢えた軍隊を想起させる役を与えた」と言っています。
シカゴ響やBBCプロムスなど世界的な楽団やフェスティバルからの作品委嘱が絶えない、また日本では子供から大人まで参加できる名物 フェスティバル‘ボンクリ・フェス’などで今日の音楽界を牽引するエネルギッシュな作曲家・藤倉の新作オペラの世界初演は必見です。
演出は、2018 年ザルツブルグ音楽祭で『魔笛』の演出を手がけたアメリカの女性演出家リディア・シュタイアー。世界の目が彼女に注がれて いる今、新国立劇場で新演出を迎えられることは大変幸運なことだと考えております。
大野 和士

[作曲家:藤倉大]

『アルマゲドンの夢』は夢の物語であり、現実とは思えない世界を描いていますが、今日の社会にも強く結びついて います。鏡のように、いまを映し出しているのです。 大野和士さんからの突然のメールで、僕の三作目のオペラ、それも合唱と管弦楽を伴うオペラの作曲を依頼された 際、大野さんは現代に関連した物語を要望しました。
そこで僕は、H.G. ウェルズのこの短編がぴったりだと思ったのです。『アルマゲドンの夢』は2度の世界大戦よりも前 に書かれた物語ではありますが、見知らぬ他人同士が電車内で交わす会話を通じて、戦時下における全体主義的 な世界が描かれています。
僕はこの小説にすぐ夢中になりました。台本作家と僕は、通勤電車の場面で幕を開けるオペラを作りたいと、20 年以上も思っていたので す! それから結局作らないままになっていたのですが、それは 20 歳の僕たちにはそのような作品委嘱の機会に恵まれなかったというだけ でなく、電車の場面からどう物語を展開させていくか、うまく決められなかったからでもあります。 ですがいま、オファーをいただいて、僕たちの物語は、電車の会話から近未来を予言する奇妙な夢の物語へと発展していったのです。 今回のプロジェクトで一緒に取り組むのは、台本作家のハリー・ロスと演出家のリディア・シュタイアーです。ハリーとは 20 年以上、多くの作 品を作ってきた間柄です。リディアとはここ数年、共同で創作できるプロジェクトはないか探っていました。彼女がもつヴィジョンであれば、僕 の音楽を躍動させることができると感じていたからです。 この作品では、通勤電車内のコーラスが、血なまぐさい軍隊のコーラスへと変化します。そのコーラスは、僕たち全員の未来を予感させるも のでもあります… このオペラではどの場面でも、夢のような情景が浮かんでは消えていきます。何が事実で、何が想像なのか、判然としなくなるのです。 未来的な動く廊下のシーンや, ダンスホールでの、H.G.ウェルズによれば「言葉で説明できないような」未来のダンス音楽も、あります。 この未来の夢の世界には個性あふれる人物たちが登場し、彼らの感情や政治論が、叙情的なストーリーのなかで歌い上げられます。 この作品はオペラであるべきでした。
この作品は、夢であるべきでした。その夢から、目覚めることができればと願っています。
藤倉 大

[台本作家:ハリー・ロス]

“アルマゲドンの夢”が迫っています。目覚めなければ、その夢は現実となってしまうでしょう。
私が H.G.ウェルズの『アルマゲドンの夢』を翻案していたとき、ある出来事が私に影を落としていました。そのため、受 け入れることのできなくなった国を飛び出して、ここ、ロッテルダムの家の机に向かい、自らに課した亡命生活を送っ ています。
イギリスで学生生活を送っていた頃、私は H.G.ウェルズを読んで育ちました。彼は典型的なイギリス人作家であり、先 見の明を備えていましたが、その時代の産物と言える作家です。特に『アルマゲドンの夢』が発表された 1901年を考えると、なおさらそう思えるでしょう。当時の大英帝国とその英国例外主義 は絶頂を極めていました。普通選挙が実現したのも、それから20年近く先のことです。
こうした当時の状況を推測しつつ、今回の『アルマゲドンの夢』には “リベラルなエリート” に対する私自身の考えを込めています。私たち “リベラルなエリート” は、行動を起こさず、現実を逃避して生活している点で、迫りくるアルマゲドンに直接的な責任があるのではないでしょ うか。外界から目を背けた私たちは、脆い泡の中で生きているようです。 行動を促すのは、クーパーではなくベラです。彼女はエリートの政治家の娘であり、あまり考えることなく、今こそ抵抗運動に加わるときだと 決めます。ニュースを読んで、出来ないことをブツブツ言っているだけではだめだと思うのです。ベラは、私が 2000 年代初頭に知り合いだっ た実在の人物に基づいて翻案しています。その人物は、スコッター活動(注:アナーキストらによる建物の占拠活動)をしていたアナーキスト でした。彼女もまた、裕福で影響力のある実業家の娘でした。言うまでもなく、現在はもう活動家ではありませんが……。 戦争の場面では、扇動的な政治家に刺激されて熱狂する大衆の行動が、漫画やアニメのようだということを示そうとしています。私は3年間、予備役の軍人をしていました。そのときの訓練や経験から言えるのは、戦争は驚くほど漫画的でカオスなものであり、人は簡単に唆されて、 ぞっとするような振る舞いをしてしまうということです。私の父は職業軍人で、バルカン半島やアイルランドでの恐ろしい出来事を目撃してきま した。どちらも、私が大人になってから起こったことですが、どうも私たちの記憶からすり抜けてしまっているようです。そして再び、こうい った ことが起ころうとしています。 大と私は、いくつかの異なる主義・思想を政治的に比較しつつ、その時々の現実や時代を超えて共通するものを見出そうとしました。扇動的 な挽歌はまさに今日の言語にも、未だに根を下ろしているのです。私たちは、簡略化された単純な言葉の世界に生きています。「Take Back Control(注:EU 離脱派のスローガン<支配権を取り戻せ>, In This Together(注:キャメロン元首相が使用していたフレーズ<全員一緒に >), For the Many not the Few(注:2017 年の総選挙時にイギリス労働党が掲げたスローガン<少数のためではなく、多数のために>)―― ―現在のイギリスがナショナリストの例外主義へ傾倒しているのは、左翼・右翼双方による、こうした挨拶文のような短い言葉のせいでもあり ます。私たち全員に責任があるのです。 私がこの作品を書いていた頃は、グレンフェル・タワーの火災の余波が残っていました。この事件は、私にとって遠い世界の出来事ではなか ったのです。私は、その地域で行われていたフェスティバルのプロデューサーを務めていました。あるパフォーマーは高架橋の下に宿泊して 作品を創作していましたが、それはグレンフェル・タワーから 200 メートルほどの場所でした。早朝、私は彼と共に彼の作品を撤収することを 余儀なくされました。またパフォーマーの一人はグレンフェル・タワーに住んでいて、やはり避難を強いられました(しかし彼は煙を吸い込んだ ことにより、3 日後に亡くなりました)。また、フェスティバルで毎年行われる建築美術のディレクターをしている仲間が、地域のコミュニティ主 導の救出活動に携わっていました。彼はこの夏、自殺しました。私もまた、48 時間家にも帰らず、一睡もせずに働き、イベントをキャンセルし、 精神的なショックに苦しめられている友人や仕事仲間の支えになろうとしていました。それからの 14 日間は、ちょうど完成した建築パビリオン で、子供を対象としたワークショップの進行役を務めました。参加してくれた子供の多く、特に小さい子たちが、燃えさかるビルから飛び降りる 人々を絵に描いたのです。
まるで戦争のようでした。外界を閉ざした泡と無関心が招いた戦争。
私はクーパーやベラのように、この戦争から逃げていたのでしょうか? 私にとって、『アルマゲドンの夢』は起こり得る未来、ポピュリズムや弱腰の政治家、無気力で泡の中に住む都会人によって滅ぼされる未来 なのです。クーパーは夢の中で、こうした未来について考える時間を得ます。70年後、私たちがみな死んだとき、こうした状況は再び起こる でしょう、そして再び同じような夢を見るでしょう。
ハリー・ロス、フェイエノールト、ロッテルダムにて

[演出家:リディア・シュタイアー]
巨大な不正に直面した時、私たちはいかに行動すべきなのでしょう? 政治が激しく揺れ動いているときに、中立を 保つのは可能でしょうか? 公共の場で交わされる言論が、全体主義的な空気へ流れているときに、自分ひとりの殻 に閉じこもり、何もしないでいるべきなのでしょうか? こうした疑問は、フェイク・ニュースが溢れ、政治的な結びつき が希薄になり、混沌に巻き込まれるのが必然に思える現在の社会では、容易に思い浮かぶでしょう。 またこのような疑問は、1901 年に出版された H.G.ウェルズの短編を元にした私たちのオペラ『アルマゲドンの夢』の まさしく中核をなしているのです。『アルマゲドンの夢』が私たちの時代に重なる側面を考えると、不安になり、驚くほ ど考えさせられます。
この小説は夢に蝕まれる男の経験を辿っています。彼はいわば、ことわざで言うところの「茹でガエル」です。軍事的な独裁政権が絶対的な 権力を握ろうとしている、ディストピア的な夢の世界。その夢の世界での語り手は、かつて権力を握っていた政治家であり、危機が迫っている のに何もしないという道を選ぶ。その結果、その語り手の分身は、愛するものをすべて失い、自らの命すらもなくしてしまうのです。 私たちが政治の領域で何もしないと、権力に加担することになってしまう。その様相を社会全体で検証するよう、『アルマゲドンの夢』は要求 していますが、藤倉大の全く新しい解釈によって、そのテーマが鮮明になりました。リブレット作者のハリー・ロスは、社会的に機能しなくなっ ている私たちの時代の言葉を劇中で引用して、『アルマゲドンの夢』は私たちの現実とかけ離れていないのだということを明確にしています。 今回のプロダクションは、バーゼル歌劇場で上演されたシュトックハウゼンの「光」から『木曜日』のチームが制作します。このプロダクション は、オペラ専門誌 Opernwelt が選ぶ 2016年の「プロダクション・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。斬新な映像技術と大胆な舞台美術を用い つつ、現実が揺れ動く空間を生み出し、私たち自身と、私たちの内側に潜む暗い側面が、絶え間ない劇的緊張のうちに映し出されるでしょう。
リディア・シュタイアー

<公演概要>
日程・会場:
2020年11月15日(日)14:00 オペラパレス
2020年11月18日(水)19:00 オペラパレス
2020年11月21日(土)14:00 オペラパレス
2020年11月23日(月・祝)14:00 オペラパレス
台本:ハリー・ロス(H.G.ウェルズの同名小説による)
作曲:藤倉大
指揮:大野和士
演出:リディア・シュタイアー
美術:バルバラ・エーネス
衣裳:ウルズラ・クドルナ
照明:オラフ・フレーゼ
映像:クリストファー・コンデク
ドラマトゥルク:マウリス・レンハルト
[出演]
クーパー・ヒードン:ピーター・タンジッツ
フォートナム・ロスコー/ジョンソン・イーヴシャム:セス・カリコ
ベラ・ロッジ:アジェシカ・アゾーディ
インスペクター:加納悦子
歌手/裏切り者:望月哲也
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
公演情報WEBサイト:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/armageddon/