二兎社公演44 永井愛 新作『ザ・空気 ver.3』テレビ局での人間模様と言論の自由

あるニュース番組の内容が次々に改変させられる異様な状況を描いた『ザ・空気』(2017)、国会記者会館の屋上を舞台に、日本独自の“記者クラブ制度”に着目し、メディアと政権の癒着に迫った『ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ』(2018)に続く、“空気”シリーズの第3弾が上演中。

再びテレビ局を舞台にした『ザ・空気 ver.3』では、「いつか一緒に舞台づくりを!」との念願かなって佐藤B作をキャスティング、テレビやワイドショーでお馴染みの、アクの強い政治コメンテーターとして登場。2020年読売演劇大賞最優秀女優賞に輝いた神野三鈴が二兎社に初参加、政権に批判的な姿勢によって局の上層部から疎まれているニュース番組のプロデューサーを演じる。さらに、D-Boysメンバーで、舞台や映像で独特の存在感をみせる和田正人、映画を中心に活躍し、演技力に定評ある韓英恵、今大注目の若手・金子大地も出演。
時は現代、若手のAD・袋川(金子大地)が「暖房入りましたから」といい、そこへ横松輝夫(佐藤B作)が入ってくる。政治ジャーナリスト、テレビ局の9階の会議室。時節柄、マスク着用、「こんな扱いを受けるなんて」と横松はややおかんむり。体温チェック、37.4度、「平熱、高いんだよ」という。登場人物たちがソーシャルデイスタンスを保ちながらの会話はどこか可笑しい。即座に今の状況を舞台でスケッチ、シニカルな雰囲気を醸し出し、その一挙一動で客席から笑いが起きる。
テレビ局で働く人間模様とその様子が描かれる。報道に関わっている人々、立場は異なるが、もやもやを抱えて生きている、と彼らの会話で察しがつく。「ジャーナリストはなぜ権力に弱いのか」とチーフ・プロデューサーの星野礼子(神野三鈴)、女性でこのポジションに就くのは並大抵ではない。チーフ・ディレクターの新島利明(和田正人)はADを10年、それから昇格した苦労人。立花さつき(韓英恵)は「報道9」のサブ・キャスター、華やかに見えるが、ここまでくるには並大抵ではなかったはず。
この作品は”空気”シリーズの第三弾ということだが、全てのシリーズに故人である桜木正彦が絡んでいる。姿はもちろん見えないが、彼らの心に影を落としている。圧力をかけられて自殺した、しかも物語の主要な舞台である会議室で、だ。自分が信じる正義を貫きたい、伝えたいことを報道したい、しかし、観客は知っている、そう思ってもままならないことを。「そんなこと、うちの局にはできません」と星野はいう。そして「自分のずるさと向き合いながら正義を貫こうとしていた」ともいう。

民主主義国家である日本、しかし、本当に自分のいいたいことが言えるのだろうか。「現場の言論が保障されていない」というセリフも出てくる。歴史の時計の針が逆回転しているのでは?と思うような空気。それまでは客席からは笑って笑って、だったがここで客席は静まり返る。ラスト近くのそれぞれのキャラクターの行動、そして映像で横松がジャーナリストとしてバリバリだった映像が流れる。日本はどこへ行こうとしているのか、ドイツやフランスなどの『編集権』に関することもセリフで語られる。結局、横松は番組には出ない。番組が始まり、”諸事情により”出演しない、という旨が番組のメインキャスター中本明(声の出演:吉田ウーロン太)によってアナウンス。よく聞く”諸事情”、我々観客はこの”諸事情”に含まれるニュアンスを察する。笑いからあぶり出される、このどこか背筋が寒くなるような現代を取り巻く”空気”。空気をよく読んで言論にブレーキをかける。自ら、忖度し、当たり障りなく生きる。星野も横松も、そして袋川も新島も立花も、自分たちを取り巻いている”常識”を意識的にであろうと無意識にであろうと、肌身で感じている。混沌とした現代、処世術をうまく身につけて、見ないふりをすればいいじゃないかと言う人もいるかもしれない。ちょっと背筋がうっすら寒くなるが、現代の問題点をあぶり出す、演劇は世相を写す鏡であることを改めて思い起こさせる舞台であった。

■あらすじ■
ここは某テレビ局の9階会議室。政治評論家の横松が1人、イライラしながら歩きまわっている。そこへ1人の女性が入ってきた。局のBS番組「報道9」のチーフ・プロデューサー・星野だ。
横松は今夜、ゲストコメンテーターとしてこの番組に登場する予定だった。しかし、ある「ゆゆしき事態」が発生したため、出演が難しくなってしまう。納得できない横松は、普段から対立することの多い星野の説得に耳を貸そうとしない。2人のやりとりは、ちょっとした口論に発展していく。
そんな中、星野がこの部屋にまつわる「怖い話」を語り始める。それを聞いた横松にある変化が訪れて……
[キャスト]
佐藤B作 和田正人 韓英恵 金子大地 神野三鈴
[スタッフ]
作・演出:永井愛
美術:大田 創 照明:中川隆一 音響:市来邦比古 音楽:礒﨑祥吾 衣裳:竹原典子
ヘアメイク:清水美穂 演出助手:白坂恵都子 舞台監督:澁谷壽久 票券:熊谷由子
制作協力:持田有美/畑中あゆみ(ナッポスユナイテッド) 制作:安藤ゆか 弘雅美
<東京公演概要>
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
公演日程:2021年1月8日(金)~31日(日)
前売開始:2020年12月12日(土)
チケット料金:一般6,000円(全席指定・税込)
25歳以下3,000円(枚数制限あり。要証明書。東京芸術劇場ボックスオフィス、
チケットぴあにて取扱)
高校生以下1,000円(枚数制限あり。要証明書。東京芸術劇場ボックスオフィスで取扱)
※未就学児のご入場はご遠慮ください。
ご予約:東京芸術劇場ボックスオフィス
チケットぴあ
イープラス
カンフェティ
車椅子席:お問合せ・お申込=二兎社(ご希望日の3日前までに申込)
■託児:東京芸術劇場託児室(劇場5階) 有料・定員制・要事前申込
申込・問合:HITOWAキャリアサポート株式会社 わらべうた
0120-415-306(土日祝祭日を除く平日9:00~17:00)
■主催:二兎社 :03-3991-8872 (平日10-18時)
※問い合わせのみ
<東京公演以降の上演予定>
2月4日(木)福岡・北九州芸術劇場
2月7日(日)滋賀・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2月11日(木祝)埼玉・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
2月13日(土)・14日(日)岩手・盛岡劇場
2月20日(土)・21日(日)愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT
2月25日(木)兵庫・兵庫県立芸術文化センター
2月27日(土)愛知・長久手市文化の家
3月5日(金)山形・東ソーアリーナ
3月7日(日)山形・川西町フレンドリープラザ
公式HP:http://www.nitosha.net/index.html