柄本明,花總まり,佐藤B作,笹野高史etc.出演 明治座公演『本日も休診』笑って、笑って、ほろり、休診だっていいじゃない。

明治座公演『本日も休診』、好評上演中だ。

作者の見川鯛山(1916年〜2005年)は、本名は見川泰山で栃木県植野村(現 佐野市)出身で、60年以上にわたって地域医療に従事する傍ら、那須の風土に根ざした小説や随筆を執筆。伊藤雄之助主演で『田舎医者』(1965年)が、『天山先生本日も多忙』(1979年)が森繁久彌主演がテレビドラマ化。また、『山医者がんばる』(1989年)が NHKラジオ「日曜名作座」で森繁久彌、加藤道子という布陣。そこから年月を経て今回の『本日も休診』の舞台化である。昭和40年代の那須を背景に、個性豊かな登場人物たちの交流をユーモラスに描く。
開演前は昭和の歌謡曲が流れている。令和から、ぐっと時計が巻き戻った空気。そして始まる、モノローグが響く、主人公である見川鯛山(柄本明)、「婆さん、まだ死なない」、客席がどっとウケる。「口の悪い婆さん、なかなか死なない」さらに笑いが。それから主人公である見川鯛山、舞台中央で走る、次々と登場人物が!茶畠清巡査(笹野高史)、楠田(佐藤B作)、意外と速い(笑)。そして診療所、小さな村だから、立派とは言いがたく、古びた棚、うまく開かないドア(笑)、ポット、急須、こじんまりとした診療所だ。見川鯛山と妻・テル子(花總まり)ここでドーンとタイトルロール、もちろん昨今の映像ではなく、手作り感のある幕が!

「最高の医者、腕ではない」、そう、ここは標高1000メートル!!患者さんが来る、とは言っても皆、顔なじみ、どこが悪いかもよく知っている。ホテルの主人・楠田がやってくる。腰痛持ち、手慣れた感じで看護婦の宮本さん(松金よね子)が湿布を貼り、腰をもんだり。用事があってもなくても、ここには次々と村の人がやってくる、蚕吉(ベンガル)、モノローグで「貧乏でおかしな坊さん」と(笑)。客席からはクスクス笑いが絶えない。とにかく登場人物の紹介の仕方が身も蓋もないのだが、どこか温かい愛情を感じる。茶畠巡査は「バカで不器用で声がでかい」と紹介。もちろん、診療所なのでけが人も来る。そんな他愛のない日々が描写される。しかし、こんな小さな町にも新しいメンバーはやってくる。赴任したばかりの若い巡査・柴田航平(渡辺大輔)、イケメン、早速!宮本さん!近すぎ!おーっとテル子も(笑)。また、田舎にありがちなバー、常連がグダグダと。診療所には東京から来た松本香織(能條愛未・中島早貴(Wキャスト))も加わり、賑やかに。


そんな折にテル子が町長選挙に立候補すると言い出し、鯛山はきれいごとでは済まない世界だというがテル子は曲げない!衝突する二人(ビンタの応酬!!)、さて、さて、という流れ。
主人公はもちろん見川鯛山なのだが、彼の周りにいる人々の人生もしっかり描かれており、群像劇的な要素もある。冒頭で患者のお婆さんが大往生し、孫娘・チヨ(附田瑞姫)が一人取り残される。母親は10年ほど前にいなくなったという。鯛山とテル子は引き取り、我が子のように育てる。また、赴任してきたばかりの巡査・柴田は香織が気になる様子。文字通り、月並みな言い方かもしれないが、笑いあり、涙あり、最後はもちろん、バッドエンドにはならないのはお約束。


柄本明が、飄々としていて、少々口が悪くて情に厚く、マイペースで趣味の釣りばかりしている見川鯛山を演じているのだが、さすがの巧さでずっと見ていると、なんだか、見川鯛山そのものにも見えてくる。その妻・テル子を演じる花總まりは、ちょっと勝気で天然、素直だが、やる時はやる!頼もしい奥様ぶり。夫を支えている妻、というよりも夫を手のひらで自由に”遊ばせている”感も。そして、茶畠清巡査演じる笹野高史、不器用で町の人々と一緒にワイワイやってるキャラクター作りで、こんな巡査がいたら、頼りないけど許す!という風情。また、ホテルの主人・楠田を演じる佐藤B作、腰痛持ち、ベッドから立ち上がるとズボンがズルッと(笑)、軽妙な動きは健在。朴訥な柴田巡査、渡辺大輔が訛って喋り、初日は香織役は中島早貴、東京から来たという設定だが、田舎町に溶け込み、おばちゃんたちの中でひときわ可憐さを放つ。その他、脇を固める俳優陣、東京乾電池や自由劇場、東京ヴォードヴィルショーなどを知ってるファンには懐かしい顔ぶれも。ワチャワチャと楽しく掛け合い、客席からはもちろん、笑いがしっかりと。てんやわんやの騒動も当事者には大変でも客席から見れば滑稽で愛すべき人々が楽しそうにやってるように見えてなんだか愛おしい。

2幕ではちょっとしたショータイムもあり、柄本明、笹野高史、佐藤B作が!!!白塗りで!!ここは客席の笑い声がひときわ!!イマドキ、こんなに休んでばかりの町医者は見かけないが、それでもどこか頼りになる鯛山センセイ、「本日も休診」でもいいじゃないと思えてしまう。公演は11月28日まで。

<物語>
時は昭和、高度経済成長期の頃。那須高原のてっぺんにある診療所には今日も「本日休診」の札が下がっている。
診療所の主は見川鯛山センセイ。時々コワいがとびきり美人な年下の奥さん・テル子に支えられ、医療に身を捧げ…てはいない。釣り好きで本業なんかそっちのけ、喧嘩友達の茶畠巡査たちにはヤブ医者と馬鹿にされている。
一方、診療所に集まるのはお調子者のホテルの主人・楠田や変わり者の農家・蚕吉などベテラン看護婦の宮本さんも手を焼くおかしな連中ばかり。
田植えの季節、若い柴田巡査が駐在所に赴任し、東京から来た香織も診療所の仲間に加わった。田舎の町にも新しい風が吹き、やがて夏へ、秋から冬へ。次々起こる騒動の中、センセイは那須の大自然のように人々に寄り添う…。
<概要>
日程・会場:2021年11月12日〜11月28日 明治座
脚本:水谷龍二
演出:ラサール石井
美術:堀尾幸男
音楽:玉麻尚一
[配役]
見川鯛山:柄本明
テル子:花總まり
柴田航平巡査:渡辺大輔
松本香織:能條愛未・中島早貴(Wキャスト)
ホテルの主人・楠田:佐藤B作
看護婦・宮本さん:松金よね子
蚕吉:ベンガル
村の警察官・茶畠巡査:笹野高史 ほか

制作:佐藤 駿
プロデューサー:渡邊俊也
企画・製作:明治座
公式HP:https://www.honjitsumokyushin.com
舞台撮影:引地信彦