加藤健一事務所 vol.101「ドレッサー」

1988 年にサンシャイン劇場で上演された『ドレッサー』 (演出:ロナルド・エアー/製作:松竹株式会社)。座長役を三國連太郎、座長夫人役を渡辺えり子(現・渡辺えり)がつとめるなど豪華な顔ぶれの中、加藤健一はノーマン役として出演。 あれから 30 年の時を経た今、当時の三國連太郎の 年齢を越えた加藤健一が、座長役として再び『ドレッサー』の舞台に立つことに。相手役となるノーマンには、 花組芝居の座長・加納幸和を熱烈指名! 当時と同じ台本に、鵜山仁の新演出での上演が実現。

 この作品(原題『The Dresser』)はロナルド・ハーウッドの1980年初演のイギリス舞台劇で1983年に映画化、監督:ピーター・イエーツ、脚本は原作者であるロナルド・ハーウッド自ら手掛けた。出演:アルバート・フィニー、トム・コートネイ、エドワード・フォックス他、第56回米国アカデミー賞作品賞ノミネートされている。

 日本では前述の通り、1988年に三国連太郎主演で上演され、演出のロナルド・エアーは作者ロナルド・ハーウッドの親友であった。その後も何度か上演されてきた。最近では、2013年に主演に橋爪功、三谷幸喜演出で上演されている。何はともあれ、傑作『ドレッサー』、加藤健一&加納幸和、期待は大きい。

 時代背景は第二次世界大戦中、空爆が激しさを増し、舞台物資も乏しくなり、イギリス国民が困窮していた頃だ。幕開きも空爆の音から始まる。それからゆっくりと付き人であるノーマンが登場する。それから座長夫人が登場する。戦争という異常事態もあり、座長はすっかり疲弊してしまって奇行に及び、病院送り。夫人と舞台監督は公演を中止を決断するが、ドレッサー(付き人)であるノーマンはなんとか『リア王』の舞台の幕を開けようとする。そんなことが出来るのか?という状況で、一座のメンバーは年老いた俳優に、足の悪い俳優、新人女優、若い俳優は皆軍隊に取られてしまっている。一体、どうする?というのが、この物語のだいたいの流れである。

 

 座長は我儘で唯我独尊、エキセントリックで、しかも年老いている。かつては名優であったが、今では“困った人”だ。そんな彼に献身的に仕えるドレッサー(付き人)のノーマン、召使いのように気を遣いながらも、時には座長に軽口を叩いたり、ちょっとキツいことを言ったりもする。それでも座長は彼をクビにすることはない。性格的にも全く共鳴もせず、はたから見ると“こんなよぼよぼな座長を置いて、もっと条件がいいところにいったら”と思うが、それでもノーマンは座長に仕える。二人の関係は合わせ鏡のようであり、“二人で一人”、デコボコなコンビ、そんな状況でもそれなりに歯車は廻る。ノーマンは座長をリスペクトしており、座長もまたノーマンに完全なる信頼を寄せる。この二人の関係性は『リア王』に出てくるリアと道化の関係性とリンクする。座長とノーマンには共通の大きな目標があり、それは芝居。“Show must go on”、だからどうにかして『リア王』を上演したい、そこに【骨の髄まで役者】の座長の生きる場所がある。「俺は役者だ」と叫び、「野心を信じ、野心の奴隷になるんだよ」と言い放つ。舞台に立つ座長の姿、そんな彼を見つめるノーマンの後ろ姿は温かい。そして裏方の仕事を懸命にこなす。公演中でも空襲はやってくる。ひるみながらもどうにか公演をしようとする。座長もノーマンも、一座も芝居に魅せられた人間、そんな姿は熱く、観る者の心を打つ。

 

 キャストは加藤健一始め、芸達者が揃った。加藤健一が、この我儘な座長を熱く演じる。コミカルな感じではなく、重厚で、しかしなかなか思い通りにならない苛立ちを見せる人間らしいキャラクター作りで共感出来る。対する付き人・ノーマン演じる加納幸和は、そんな座長に振り回されて右往左往する様子を時はコミカルに、時にはそれを受け入れる大きさを見せる。ラストは、ノーマンにとって厳しく悲しい結末だが、混乱しつつもそれを受け入れようとする姿は涙する。

劇中劇の『リア王』は、この『ドレッサー』のストーリーとリンク、『リア王』を知っていれば、この舞台の面白さは倍増する仕組みで、効果的。計算され尽くした戯曲。細かい仕掛けが随所に散りばめられていて、それが終幕に向かって集結する。日本でもたびたび上演されるのは、それだけ真実が詰まっているからに他ならない。

 

 

<STORY>

第二次世界大戦下のイギリス。 とあるシェイクスピア劇団では、若くて健康な俳優は軍隊に取られてし まい、年老いた座長(加藤健一)や座長夫人(西山水木)をは じめ、足の悪いオクセンビー(石橋徹郎)や老いぼれのジェフリー (金子之男)、新人のアイリーン(岡﨑加奈)らわずかな劇団員 でなんとか上演を続けていた。連日に渡る空爆の恐怖や劇団の現状 に心身共に疲弊していた座長は、ある日突然街中で奇行に及び病院送りになってしまう。座長夫人と舞台監督のマッジ(一柳みる) は、今夜の演目『リア王』の中止を決断するが、長年座長に仕えてき たドレッサー(付き人)のノーマン(加納幸和)は、なんとか舞台の 幕を開けようと孤軍奮闘を繰り広げる。

【公演データ】

加藤健一事務所 vol.101「ドレッサー」

期間:2018年2月23日(金)~3月11日(日)

会場:東京・本多劇場

作:ロナルド・ハーウッド

訳:松岡和子

演出:鵜山仁

出演:加藤健一、加納幸和、西山水木、石橋徹郎、金子之男、岡崎加奈 / 一柳みる

※岡崎加奈の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。

撮影:石川 純

文:Hiromi Koh