木村達成 ,須賀健太 ,早見あかり ,安蘭けいetc.出演『血の婚礼』愛が悲劇を生み、愛が勇気を生む。

スペインの伝説的劇作家、 フェデリコ・ガルシーア・ロルカによる官能的な名作悲劇『血の婚礼』が上演中だ。

本作は実際に起きた事件を元に1932年に執筆され、 翌年にロルカ自身の演出によりスペイン・マドリードのベアトリス劇場で初演、 花嫁が花婿を捨てて昔の恋人と駆け落ちしたことから起こる悲劇。同じく地方を舞台にした悲劇である『イェルマ』や『ベルナルダ・アルバの家』とまとめてロルカの三大悲劇と呼ばれることも。日本での初演は1959年。1981年にはカルロス・サウラがアントニオ・ガデスによるダンス演目『血の婚礼』を映画化。また、1952年にスペイン語でオペラ化されている。

舞台は壁、そして土、スペイン中央にはメセタと呼ばれる乾いた赤土の大地が広がっており、スペインの自然を彷彿とさせる。客席通路から、母親(安蘭けい)とその息子、婚礼を控えている花婿(須賀健太)が登場、ゆっくりと歩み、舞台に上がり、バン!と弾けた力強い音と共に幕開き。母親が花婿に語りかける、会話から、親子2人であること、父親は数年前に殺されたことがわかる。夫を殺された相手に並々ならぬ憎悪を抱く母親、「ナイフなんて呪われたらいい」と言い、息子は「やれ、やれ、またかい」と半分呆れ顔で言う。母親は息子に並々ならぬ愛情を抱いている、溺愛状態。

照明でで壁が黄色く光る。スペインでは異端者が黄色の服を着せられて刑に処されているが、黄色にはあまりいい意味はない。社会的差別の手段としてユダヤ人に黄色の服や印を身につけさせたりもしている。また、狂気の色とも言われている。不安げな、何か良からぬことが起こりそうな予感がする空気感。母親は息子に「お前しかいない」、だが、基本的には息子が結婚することを喜ばしく思っている。だが、相手の花嫁(早見あかり)にかつて恋人がいたことが気がかり、その相手が村の女からフェリックスとこのレオナルド(木村達成)と知り、「殺す替わりに、唾を吐きかけてやる」と毒づく。場面変わってレオナルドの家、彼の妻(南沢奈央)と姑が歌を歌う、この内容が意味深。

レオナルドが帰ってくるが、婚礼の話を知り、機嫌が悪くなる、それはその花嫁とレオナルドはかつて恋仲だったから。そして花婿と母親は贈り物を持って「花嫁の家へ。だが、二人が帰り、花嫁と女中の会話、そしてこともあろうにレオナルドが花嫁を訪問、波乱が起きそうな雰囲気。そして…と言うのが大体の流れ。照明の色、音楽、ギターの音色が時には情熱的に、時には不穏な空気を孕み、物語を彩る。

一人の女性に対して男二人。レオナルドと花婿、対照的な存在であり、考え方も異なる。花婿の方は世間的に見ても、それこそ「良い婿」。一方のレオナルドは、結婚したものの、過去の愛が忘れられず、妻はそこはかとなくレオナルドから漂う空気に不安を募らせる。そして案の定、な展開。休憩時間を挟んで2幕、舞台は一転して森の中という設定、赤土を連想させる砂、木こりが三人登場、この木こりがいなくなり、月と老いた物乞いに扮した死神が登場する。

この森で怒涛の展開、レオナルドと花嫁、それを追ってきた花婿、男二人が争う、花婿の手にはナイフがある。タイトルは『血の婚礼』、これだけでオチもわかるが、彼らが抱く愛、憎しみ、怒り、それらが色彩豊かに、そしてドラマチックに作品世界を見せる。愛をめぐって争う、渾身の力を振り絞って。この時代、自由に生きることは難しい、様々なものに絡め取られている人々、レオナルド、花嫁は己の真実の声に従い、花婿もまた、己の心に従い、レオナルドと争う。悲劇的な結末。愛に従い、愛に死す、愛のためなら破滅も辞さない。

レオナルド、花婿、花嫁、三者三様の愛。そして母親もまた、愛故に憎悪を内包している。愛する夫を殺されたから、激しく相手を憎む、エネルギー源は愛。剥き出しで、荒々しく、情熱的な愛。ワイルドで荒々しく、セクシーなレオナルド、演じるは木村達成、この役のために髪を伸ばし、髭も自前で熱演。生真面目で、母親想い、2幕では一転して狂ったように髪を振り乱す花婿、須賀健太が大きな振り幅で演じる。真実の愛に殉じようとする花嫁、早見あかりが内なる熱い意志を表現する。そして安蘭けいが貫禄を見せる。月に扮した時は宝塚仕込みのオーラで観客の目を釘付けに。

適材適所な配役、シンプルだが、深い意味合いを感じさせるセット、フラメンコの楽曲、スペイン南部のアンダルシア地方を中心に、ムルシア州やエストレマドゥーラ州にも伝わる芸能、複雑なリズム、深いテーマを内包する『血の婚礼』、東京は10月2日まで、その後は大阪公演となる。

概要
舞台『血の婚礼』
日程会場:
東京:2022年9月15日(木)~10月2日(日) Bunkamuraシアターコクーン
大阪:2022年10月15日(土)~16日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
スタッフ
原作:フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
翻訳:田尻陽一
演出:杉原邦生
音楽:角銅真実、古川麦
美術:トラフ建築設計事務所/照明:齋藤茂男/音響:稲住祐平(エス・シー・アライアンス)/衣裳:早川すみれ(KiKi inc)/ヘアメイク:国府田圭/振付:長谷川風立子(プロジェクト大山)/殺陣:六本木康弘/演出助手:河合範子/舞台監督:足立充章
キャスト:
木村達成
須賀健太
早見あかり
南沢奈央、吉見一豊、内田淳子、大西多摩恵、出口稚子、皆藤空良
安蘭けい
演奏:古川麦、HAMA、巌裕美子

公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/chinokonrei2022/

撮影:宮川舞子、 サギサカユウマ