The Other Life vol.11「バタフライはフリー」from スタジオライフ 自由な心、そして人は飛ぶことができる。

レオナード・ガーシュのブロードウェイ大ヒット舞台劇『バタフライはフリー』(原題:Butterflies Are free)、1969年初演、舞台でのヒットを受けて1972年に映画化。原作のレオナード・ガーシュは映画では「スタア誕生」「絹の靴下」「パリの恋人」などの名作を手がけているヒットメイカーだ。
1972年の映画ではジル役はゴールディ・ホーン、ドン役はエドワード・アルバート。この作品でエドワード・アルバートはその年のゴールデン・グローブ賞を受賞し、ゴールデン・ホーンはゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネート。ベイカー夫人を演じたアイリーン・ヘッカートはアカデミー最優秀助演女優賞を受賞した。監督のミルトン・カトセラスは舞台でも演出。製作はM・J・フランコヴィッチ、ハロルド・クレンズの自伝「風との競走」からレオナード・ガーシュが脚本化。撮影はチャールズ・ラング・ジュニア、音楽はボブ・アルシバー。
日本での舞台上演、ドン&ジル、西岡徳馬&加賀まりこ、堤真一&中川安奈、井上芳雄&高橋由美子といった組み合わせで上演されている。
舞台はシンプル、物語は終始、ドン(宮崎卓真)が借りているアパートの部屋で繰り広げられる。ドンはいわゆる視覚障害者、ミュージシャン志望、念願の一人暮らし。隣の部屋がうるさい、そこの住人はジル(伊藤清之)、年頃で流行のファッションに身を包んだコケテッシュな、いわゆる”イケてる”女の子、意気投合するのにさほど時間はかからなかった。


そこへ…来ては困る人が、ドンの母親であるミセス・ベーカー(曽世海司)、真面目を絵に描いたようなファッション、息子のドンが心配でやって来たのだった。
1幕はジェットコースターのような速さでテンポよく展開。ドンはジルの言動に最初は面食らうものの、何かが彼の中で変わっていく。そしてジルもまた、今までに会ったことのないタイプのドン、彼の純粋な心の虜になっていく。そして2幕では不意にやってきたミセス・ベーカー、ジル、そして息子のドンと対立する。

過干渉で溺愛、息子のためにきちんとしたデザインのシャツを買って持ってきた。つまり、息子の身なりまで”管理”したい、母の愛と言ってしまえばそれまでだが、子離れできない、いや、したくない気持ちが透けて見える。彼女のような母親は珍しくない。
しかも息子は目が不自由、いや、もしもドンが健常者だったとしてもきっと同じような態度をとるに相違ないであろうことは容易に想像がつく。そして自由闊達なジルとは『水と油』のごとくだ。ドンは元々、自立したくて一人暮らしを始めた。年相応な行動であり、それだけ大人になっている証拠であるが、母はそれを認めたくない、いかにも”あるある”な状況だ。また、ジルはある男を連れてくる。名はラルフ(大村浩司)、突然、ラルフと一緒に住むからアパートを出るというジル、当然ドンは心乱れる…。

撮影:ATZSHI HIRATZKA

ジルとドンを演じる伊藤清之と宮崎卓真がフレッシュな魅力を放ち、かつバランスも良い。また、曽世海司演じるミセス・ベーカー、さすがの演技、堅物で子離れできない母親らしく、あちこちに目配りしたりする様を好演。ラルフ演じる大村浩司、いかにも、な風貌が板についていてインパクトも十分。
また、電話、ファッションなど、時代を感じさせて雰囲気を盛り上げる。ジルは当時流行っていた短いスカートにヘアピースをつけてちょっと髪を遊ばせている、流行りものが好きな女の子風、そしてヒッピーの思想に感化されているふしもある。ドンは60年代に世界的に有名になったポール・サイモン的なアーティストに憧れを抱いてるような雰囲気、日本にもそういう風潮があったが、時代を彷彿とさせてくれる。そして母親のミセス・ベーカーのやや時代遅れ的な、しかしフェミニンで品の良い服装は彼女のアイデンティをイメージさせる。また、ジルがドンに首飾りを渡すが、これが60年代のヒッピーを連想させる。二人がタバコをくゆらすところもそんな時代を醸し出す。また、時折流れる音楽やドンがギターを弾きながら歌う曲もあの60年代の空気感。

撮影:ATZSHI HIRATZKA

最後は落ち着くところに落ち着くのだが、オチよりも、そこに至るまでの過程、3人ともどこかにいそうな人たち。彼らは、変わっていく、言い方を変えれば気付きを得る。そして観客も、しかり。セットの扉に蝶のステンドグラス、時々、そこに照明があたる。何かの呪縛から解き放たれた時、瞬間、人は”飛ぶ”、そして自由を知る。

撮影:ATZSHI HIRATZKA

≪Studio Life とは≫
1985年に故河内喜一郎と倉田淳により結成、2020年35周年を迎える演劇劇団。1987年から、男優が女性役を演じるという手法をとり、現在は男優40名、女性演出家・倉田淳1名のみで構成されている。その耽美的な世界観と、演出家・倉田淳の独創的な脚色力、美しく繊細な舞台演出が話題を呼び、20代~40代の女性 を中心に圧倒的な支持を得ている。

≪The Other Life とは≫
海外の小劇場で生まれた傑作を東京の舞台へ。
このコンセプトの元に、1997年に誕生したのが「The Other Life」。「トーマの心臓」(萩尾望都原作)や「死の泉」(皆川博子原作)、「白夜行」(東野圭吾原作)など、文芸・耽美作品を上演する公演とは趣を異にし、 小劇場空間のメリットを生かして繰り広げる、スタジオライフのもう一つの顔です。

≪ストーリー≫
ドンはミュージシャン志望の盲目の青年。早くに父を亡くし厳格な母の元で不自由なく育った。ドンは二カ月だけという期限付きでマンハッタンの安アパートで一人暮らしを始める。その隣部屋に引っ越してきた女優志望のジル。真面目で純粋なドンと開放的な性格のジルは互いに惹かれ合い理解を深めてゆく。が、息子を溺愛する母親が二カ月は訪問しないという約束を破り、突然アパートに現れて……

<概要>
タイトル:バタフライはフリー
英語表記:Butterflies Are Free
サブタイトル:The Other Life vol.11
公演期間:2020 年 9 月 20 日(日)~10 月 4 日(日)
会場:ウエストエンドスタジオ
作:レオナルド・ガーシュ
訳:黒田絵美子
演出:倉田 淳
[キャスト]
ジル:伊藤清之
ドン:宮崎卓真(style office)
ミセス・ベイカー:曽世海司
ラルフ:大村浩司
美術・照明・舞台監督:倉本 徹 音響:竹下 亮(OFFICE my on) ヘアメイク:MUU 衣裳:スタジオライフ衣裳部 演出助手:中作詩穂 版権コーディネート:シアターライツ 宣伝美術:田代祐子 宣伝撮影:ATZSHI HIRATZKA
協力:style office 劇団 NLT 劇団ふぁんハウス 東 容子 小泉裕子 企画制作:Studio Life
バタフライはフリー公式サイト:http://www.studio-life.com/stage/butterflies2020/
Twitter 劇団公式: @_studiolife_
Twitter Studio Life THE STAGE: @GE_studiolife
Facebook: https://www.facebook.com/studiolife1985/
[上演時の新型コロナウィルス感染症対策に関して]
『バタフライはフリー』を皆様に安心してご観劇いただけるよう対策を進めてまいります。対策の詳細は、 最新の状況を鑑み、公式サイト上でお知らせしてまいります。感染防止対策へのご理解、ご協力をお願い申し上げます。
取材・文:高 浩美