新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』開幕!永遠の愛はすべてを凌駕する

誰もが知っている物語、そして楽曲、サー・ピーター・ライトによるプロダクション、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』が開幕!

公開舞台稽古の開始前、吉田都舞踊芸術監督が舞台上に。「やっとたどり着けた…スタッフのおかげで、サー・ピーターにも喜んでもらえる仕上がりになりました。今シーズン、ダンサーもますますパワーアップしてまいりたいと思っています。愛が死を凌駕するドラマチックな舞台を」と語り、新国立劇場バレエ研修所の開所から所長を務めた牧阿佐美の訃報にも触れ、言葉を詰まらせながら「(今年6月に上演した)『ライモンダ』で牧先生に何度もお越しいただき、的確な、素晴らしいアドバイスをいただきました」とコメント。開幕公演を牧の追悼公演として行うことをアナウンス。

出だしは、なんと葬式のシーンから。先王が死去。大概の出だし第1幕第1場は王子ジークフリートの成人を祝う宴が開かれており、王子の友人たちが祝福の踊りを踊っていたりするのだが、このオープニング、演劇的で衝撃的な場面。それから王子ジークフリートの21歳の宴となる。ただ、彼は浮かない顔、まず、自由がない。王になれば責任も重く、やらなければならないことが山のようにある。友人でもある侍従ベンノが催した宴、華やかな場面だ(女の子ももちろん!いる)。元気いっぱいに踊るダンサーたち。これから起こる悲劇を知ってるのは観客だけ。この宴の席に王妃である母がやってきて大ショック。まだ、喪中であるのに、ということ。翌日には花嫁を選べと息子に告げる。テンション下がるジークフリート、気のいいベンノ、王子を元気づけようとみんなで乾杯のダンス、これがすこぶる楽しそう!杯を手に持って愉快そうに踊る場面は印象的。そんな時、空を見ると白鳥の群れが。ベンノとともに白鳥狩りをしに行く。

第2幕では、ここで魔術師・ロートバルト卿登場、いかにも、な仮面をかぶっているが、この衣装が怪しく、しかし、デザインがオシャレ。王子とオデットの運命の出会い、そして改めて『白鳥の湖』の完成度の高さを再認識。主役2人のパ・ド・ドゥ、刻々とフォーメーションを変えていく白鳥たちの群舞、そして有名な場面の連続、4羽の白鳥の踊りなどこの作品の十八番の場面が次々と。この場面の振付はプティパ=イワノフ版の影響が強く残っており、新演出でも大きな変更が加えられることはほぼない、改めて完成度の高さを見せ付ける場面。そしてこの2幕のセットが重厚、そのまま絵になるような!奥深い森、何かが起こる場面にふさわしい。

休憩を挟んで第3幕、2幕とは真逆な、ゴージャスな宮廷、シャンデリアが輝き、いかにもな豪華な衣装を着た面々が次々と!運命の出会いの翌日、という設定。派手なレセプションシーン、花嫁候補として招かれた王女3人。この3人がダンスで王子にアピールするのだが、3人とも可愛らしく、キュート。しかし、ジークフリートはちっとも見ていない。ベンノに促されて見るも、嬉しそうではない。この二人のやりとりが演劇っぽく、ベンノは侍従であるが、友達でもあり、王子に遠慮してるように見えないのが好感が持てる。そこへ!ファンファーレが鳴って見慣れない客人が。使節に変装したロートバルト卿と彼の娘オディール。このオディール、オデットそっくり!観客は、あれを期待する、「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」のクライマックスで披露する32回転のフェッテ!もちろん!オデットと同じダンサー、ここの演じ分け、オデットそっくりだけど、オデットではない、色気もあり、王子を惑わすのに十分。

また、ロートバルト卿らが立ち去る瞬間は、魔術師なだけに!ここはお楽しみポイント。そこから休憩を挟んで最後の第4幕へと向かう。このラスト、実は複数の”オチ”があり、死によって結ばれる結末、ロートバルトを倒して現世で結ばれる、一緒に湖で死ぬなど、演出によってバリエーションが様々。ここでは、どの結末を選択するのか、ここは劇場で!ただ一つ、共通するのは、どんな形であれ、二人は結ばれる、ということ。”愛は結ばれる、すべてを凌駕する”が王道。
それにしてもバレエ団全体の水準の高さ、一糸乱れぬ群舞は言うにおよばず、ソロの場面では、すべてのダンサーがビシッと決まるだけでなく、美しく、また、全体的に演劇的であるが、『技を魅せる、披露する』という側面もきちんと。

公開稽古ではオデット/オディールを米沢唯、王子・ジークフリードは福岡雄大。米沢唯はオデットの時は清楚な雰囲気を漂わせ、気品のある空気感で。3幕のオディールでは、色香を放ち、ちょっとコケティッシュ。ジークフリートは単にオデットに似ていたがために惑わされた、というだけでなく、彼女が放つ、”色”に絡め取られたかのよう。こういったところは単なる表現を超えて、キャラクターに帰依する、ということなのかもしれない。福岡雄大はどこか単純でまっすぐな王子を表現、ある意味、愚直であるキャラクター。2幕ではオデットと出会い、喜びを爆発、3幕では椅子に座ってつまんなさそうな雰囲気で。その落差でジークフリードを表現、4幕では渾身の力を振り絞って強敵・ロートバルト卿に立ちむかう。また、ダンスでは、とにかく、跳ぶ!その跳躍力は、見せ所。そして脇キャラであるが、ベンノ、速水渉悟が演じていたが、”気のいい奴”という雰囲気で侍従という立場ではあるが、こんなにいい奴ならタメ口でも王子もOKな、そんな空気が漂う。ロートバルトは貝川鐵夫、いかにも”悪そう”な!
日本のバレエの水準の高さを魅せてくれた今年の『白鳥の湖』、公演は11月3日まで!また、つい先日、牧阿佐美が87歳で死去したが、こういった先人が今の日本のバレエを築き上げてきたのだと思うと感慨深い。

<ストーリー>
先王である父の死後、王子ジークフリードは新たな王として戴冠し、結婚することが求められていた。彼はそれまでの自由を失うことを恐れ、愛してもいない結婚相手を選ぶことにた めらいを感じていた。ジークフリード21歳の誕生日の夜、彼に弓矢のプレゼントを贈るた めに宮廷の友人たちが集った。友人でもある侍従ベンノがジークフリードの気晴らしのため に催した宴の真最中に、王妃である母が現れる。宮廷がまだ喪に服している中での大騒ぎに ショックを受けた王妃は、翌日には花嫁を選ばなくてはいけないと王子に告げ、意気消沈した彼をその場に残して立ち去る。ベンノはジークフリードを元気づけようと、友人たちと未来の王位継承を祝って乾杯のダンスを踊る。友人たちが帰っていった後、白鳥の一群が空を渡っていく。ベンノはジークフリードにプレゼントの弓矢を試すよう促し、二人は白鳥たち を追っていく。
湖岸に着いたジークフリード王子は、ベンノに白鳥を探しに行かせる。一人残った王子は、 そこに魔術師ロートバルト卿の邪悪な存在を感じとる。突然一羽の白鳥が舞い降りてくる。 そして王子が驚き見つめるなか、美しい乙女に姿を変える。その若い娘こそオデット姫であ った。オデットと彼女の仲間たちはロートバルト卿によって白鳥の姿に変えられ、夜の間だけは人間の姿に戻れるのだ。オデットにかけられた魔法は、まだ恋をしたことをない者が彼 女に永遠の愛を誓い、結婚の約束をすることで解くことができるという。ジークフリードは オデットへの永遠に続く真実の愛を誓う。姿を現したロートバルトにジークフリードが矢を 向けるが、オデットはそれを遮り、魔術師が死ぬと、魔法の呪いは永久に解けなくなると話 す。さらにオデットは、もしジークフリードが愛の誓いを破るようなことがあったら、彼女 は永遠に白鳥の姿でいなくてはならないと伝える。やがて夜明けが訪れ、オデットと仲間た ちは白鳥の姿に戻り、湖へと帰っていく。
翌日、壮麗なレセプションには、ジークフリード王子の結婚相手の候補として 3 人の王女 が招かれていた。3 人の王女たちはそれぞれジークフリードのために踊りを披露するが、彼 は心ここにあらずの様子で、花嫁を選ぶことを断ってしまう。ファンファーレが鳴り響き、 予定されていなかった客人の到来を告げる。それは使節に身を扮したロートバルトと、魔法でオデットそっくりに姿を変えた、彼の娘オディールだった。
王子は驚くほどオデットに似たこの見知らぬ客人に心奪われ、やがてこの女性が白鳥の姫 だと信じ込んでしまう・・・。

<概要>
令和3年度(第76回)文化庁芸術祭主催公演
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』<新制作>
Swan Lake
日程・会場:2021年10月23日〜11月3日  新国立劇場 オペラパレス
芸術監督:吉田都
振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ/ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト
共同演出:ガリーナ・サムソワ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
美術・衣裳:フィリップ・プロウズ
照明:ピーター・タイガン
指揮:ポール・マーフィー/冨田実里
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
出演:新国立劇場バレエ団
公式HP:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/
撮影:鹿摩隆司