朗読劇『君の小説に登場する僕は』開幕、千秋楽配信も。愛を貫く、想いを遂げる。

朗読劇『君の小説に登場する僕は』が5月3日、開幕した。

原案・原作・演出は映画監督の向井宗敏。深作欣二監督、若松孝二監督らの主催する「映像塾」に入塾し映像制作を学び、その後、写真家・平山ジロウ氏に師事。現在は、mihimaruGT、ハジ→、BENIをはじめ多数のMVの監督、CMなども演出、カメラマンとしてCDジャケットや多数の映画ポスタービジュアルを撮影。劇作・脚本はスギタクミ。 1998年、主宰劇団「危婦人」を旗揚げ以降はすべての作品において脚本・演出を。また、フジテレビ アニメ『サザエさん』では、レギュラーで脚本を務め、その他にBSテレ東ドラマ『ワカコ酒』(脚本)がある。なお、千秋楽は昼、夜共に配信が決まっている。出演は昼は伊東健人、高田憂希、竹内栄治、中澤まさとも。夜は伊東健人、河瀬茉希、坂泰斗、中澤まさとも。
拝見したのは5月3日の夜の回、神尾晋一郎(板垣優斗)、峯田茉優(吉原一花)、野津山幸宏(田中倫也)、福島潤(語り・古本屋の店主)。

プロローグで、大きな命題を突きつけてくる。タイトルからもわかるように、恋愛もの。自分と愛する人の運命、どんな未来が待っているのか、それは誰も知り得ない。わかっていたら、それに対して何か『対策』を講じようとするだろう。しかし、現実はそうではない。


第一章は「僕と彼女のこと」。語りから始まる。ここでメインキャラクターの状況を知ることができる。板垣優斗、27歳、漫画家志望といえば聞こえは良いが、いつまで経っても”志望”のまま、学生時代は漫研だったが、漫画で収入は得られず、バイトの日々。彼には一花という彼女がいた。二つ年上のしっかり者、大手書店に勤めており、収入はきちんとある上に、平たくいえば優斗を”食べさせて”いる。一方の優斗はコンクールに応募しても惨敗。それでも「優斗の描く漫画が好き」という一花。その言葉に甘えてずるずる…。幼稚園からの親友・田中倫也は国立大学を出て商社に勤めている。見た目も爽やか。


優斗はちょっとしたことで一花と言い争いになる。ただ、これもよくある言い争いで、特別なことでもない。そして第二章「彼女の本音」。人はなかなか本音は見せない。だが、それを知りたいと思う人の性。優斗、なんとなく歩いていると、一軒の古本屋が、「かこみらい」と看板が。そこで一冊の本が目に止まった。「君の物語」。ちょこっと立ち読み、描かれていたのは、一花によく似た主人公の物語。買わずに一旦、帰ったが、やはり気になり、再び、本屋へ行き、本を購入、そして一気に読む、どう読んでも彼女の話、そしていよいよ結末、そこには優斗にとって衝撃の結末が。「!!」、思わず、古本屋に。店主は言った「この本は、手に取ったあなたの、大切な人の物語です・・・」と。だが、それは変えられるという店主。彼女を守りたい優斗は、その結末を変えるべく、小説を書き換えると不思議なことにタイムリープしていた、という流れになる。
観客は当初、優斗を「彼女の愛情に甘えている男」と受け止めるだろう。早い話が”ヒモ”。ところが、この不思議な小説に出会い、優斗は変わっていく。一花が自分にとってかけがえのない存在であること、それが日常と日々の惰性で埋没していたこと。それが実は”当たり前”ではなかったこと。出会いは奇跡、そして第三章、第四章へと連なっていく。彼女のために小説を書き換え、時空を超え奔走する。やれることは全てやろうとする優斗、彼女への想いが彼の中でより明確化していく。そして小説に描かれている彼女の気持ちがより一層、彼を突き動かす。


この朗読劇の面白いところは、語りの存在。小説の地の文のようでもあり、また、物語を推進させる役割もある。そして「小説」の中身が時折語られる構造。また、書き換えると時間軸が戻るのだが、確かに書き換えの影響でさまざまなところで変化が。この物語の中でのコメディリリーフが優斗の友人の田中倫也。最初は爽やかな好青年、堅実な会社員だったが、優斗が小説を書き換えるたびに大きく変化、その変わり方が笑えるポイント。また、時折、登場する猫は癒しの存在。セットをしつらえ、凝った照明、多少の芝居も入る朗読劇もあるが、これは本当にシンプルなスタイルの朗読劇。バックのシルエットでアパート、古本屋、公園とわかる程度。服装も役柄に合わせている、というものではなく、普通な出立ち。本当に声の力で表現する。それはちょうど能にも似ている。余分な、過剰なものを削ぎ落とし、できるだけシンプルにすれば、観客はより想像力を働かせる。あとは、スクリーンに映し出される第○章「○○○」の時にイメージイラストが映し出されるが、その柔らかいタッチが作品の雰囲気にふさわしく、また、過剰な感じにもならず、控えめに見せる。声優陣の演技、福島潤の穏やかな口調の語りで観客を作品世界へ誘い、神尾晋一郎演じる板垣優斗の素直さ、後半は彼女への愛を強め、気持ちが前のめりする。ヒロイン・吉原一花の峯田茉優は朗読劇は半年ぶりだそう。優斗を想い、ラスト近くは全てを知り、懸命に寄り添う姿を好演。また、小説の書き換えに翻弄される田中倫也演じる野津山幸宏、同じ人物だが何度かキャラ変、その変わり身が笑いを誘い、物語ではアクセントに。


ファンタジーであるが、そこに描かれているのはごく普通の人たち。優斗も一花も倫也もどこかにいそうなキャラクターだ。真の愛、人が人を想う気持ち、また人間が持っている性、未来を知りたいと思う欲望、未来を知ることはパンドラの箱を開けるのにも似ている。ゼウスは、人間たちを懲らしめるために、パンドラという女性に箱を持たせて、人間界へと送り込み、彼女は絶対に開けてはいけないと言われていたその箱を、好奇心にかられてつい、開けてしまう。すると、中から疫病、犯罪、悲しみなど、ありとあらゆる災いが飛び出してきたので、慌てたパンドラが箱を閉めた結果、箱の中には「希望」だけが残されたという故事。優斗は「一花の未来」というパンドラの箱を開けて、一花のキツい未来を知ってしまうが、そこから優斗はその”キツい未来”から、自分の身を挺して彼女を守ろうと右往左往する。試練は人を愛に目覚めさせ、己を強くする。切ないが、胸熱くなる。壮大な物語ではないが、心に温かいものが残る。日常や惰性に埋もれてしまう”真”、そんなことをふと気付かせてくれる良作。

あらすじ
全力で君を守る。命を懸けて……。

漫画家志望の優斗は、古本屋で不思議な小説「君の物語」を手にする。
そこには、優斗の愛する彼女・一花の人生が綴られていた。
「こんな結末ってありかよ!?」
優斗は一花を守るため、小説を書き換え、タイムリープを試みるが……。

一花のために、時空を超え奔走する優斗。小説に隠された一花の本当の思い。
ふたりに待ち受ける未来とは!?
この春、豪華出演者を迎えてお贈りする、
切なさ100%!心をぎゅっとさせるタイムリープ☆ラブストーリー!

概要
朗読劇『君の小説に登場する僕は』
日程・会場:2022年5月3日〜5月8日   TOKYO FMホール
原案・原作・演出:向井宗敏
劇作・脚本:スギタクミ
出演:
5月3日18:30/神尾晋一郎 峯田茉優 野津山幸宏 福島潤
5月4日12:30/山口智広 森下来奈 増元拓也 井上和彦
5月4日18:30/伊東健人 鶴野有紗 狩野翔 金子誠
5月5日12:30/重松千晴 小原莉子 大河元気 高橋広樹
5月5日18:30/重松千晴 宮本侑芽 野津山幸宏 高橋広樹
5月6日18:30/納谷健 大島涼花 宮城大樹 平田裕一郎
5月7日12:30/市川蒼 大橋彩香 市川太一 野上翔
5月7日18:30/市川蒼 大橋彩香 榊原優希 笠間淳
5月8日12:30/伊東健人 高田憂希 竹内栄治 中澤まさとも
5月8日18:00/伊東健人 河瀬茉希 坂泰斗 中澤まさとも

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撮影:阿部章仁