『宝塚BOYS』「清く、正しく、美しく、そして逞しく」夢を追いかけたBOYSの顛末は・・・・・・。

『宝塚BOYS』は、1945年から9年間、宝塚歌劇団に男子部が特設された、という史実を元に描かれた作品で、2007年初演、戦後の復興と共に全力で夢に挑んだ青年達の一途な姿を描き、多くのファンを生み上演を重ねてきた。今回、5年ぶり、5度目の上演となる。

今回は2チームで上演、以前に『宝塚BOYS』出演経験のある人気俳優陣が結集した「team SEA」(8/4~11出演)と、2.5次元の舞台などでも活躍が目覚ましい新世代のキャストが集った「team SKY」(8/15~19及び各地公演出演)。さらに、舞台、ドラマで活躍中の実力派俳優・山西惇と、宝塚歌劇団元トップスターの愛華みれが、両チーム共に出演し、ドラマを支える。

幕開きは、空襲警報のサイレンの音、爆撃音、舞台上に一人の男、音に怯え、頭を抱える。そして、8月15日、終戦記念日、玉音放送で日本国民は自国の敗戦を知ることになる。舞台上の男は放送を聞き、深々と頭を下げる。敗戦はしたが、空襲や爆撃で命を脅かされることはなくなった。彼の名は上原金蔵(良知真次)、戦争で青春を奪われ、絶望を味わった。しかし、戦争は終わったのだ。そして彼は宝塚歌劇団の創始者である小林一三に手紙を書いた。内容は男子登用の嘆願書、彼の願いは届いた。ちょうど、男女共に出演する「国民劇」を創りたいと思っていた小林の想いと一致、男子部の特設に至ったのであった。

そして上原はドキドキしながら歌劇団の稽古場に足を踏み入れるのであった。稽古場に続々と入ってくる「男子部」のメンバー。電気屋の竹内重雄(上山竜治)、宝塚のオーケストラメンバーだった太田川剛(藤岡正明)、旅芸人の息子•長谷川好弥(木内健人)、闇市の愚連隊だった山田浩二(石井一彰)、そしてプロのダンサー星野丈治(東山義久)….。宝塚歌劇団から男子部の担当として派遣された池田(山西惇)は経理の人間で、「舞台のことはよくわからない」という。池田から「訓練期間は2年。歌劇団の生徒との接触は一切禁止」と厳しく言い渡され、日々レッスンに励むメンバーたちであったが、星野以外はバレエなどやったこともなく悪戦苦闘、もはや何の踊りだかわからない超下手なダンス、その姿は微笑ましく、客席からほっこりとした笑いも起きる。1年程経った頃、新メンバーとしてやって来た竹田幹夫(百名ヒロキ)に驚く山田。竹田は以前からの知り合いだったようだ。

2年、3年….と月日が無情にも流れていく。しかし、彼らの想いは一つ、「大劇場に立ちたい!」、やっとのことで舞台に立つ話がきても「馬の足」。フラストレーションが大きくなっていく。ついついぶつかり合うも、池田がそんな彼らを叱咤激励、舞台のことはわからないと言った彼ではあるが、男子部のことはよくわかっている。池田も彼らのために尽力する。また、寮母である君原佳枝(愛華みれ)はいつも優しい眼差しで彼らを気にかける。

結末は幕開きからわかりきっているが、不思議と悲壮感もなく、むしろユーモアに溢れるシーンがいたるところにちりばめられている。また、合同公演の企画が持ち上がり、部屋にあるものを大道具や小道具に見立て(物語の舞台はパリ!)、台本片手に稽古をする様子は微笑ましい。

そんなこんなの年月を過ごした彼らの最後通達は、もちろん『残念すぎる結果』。観客もわかっちゃいるけど「舞台にたたせてあげたかった〜」空気が充満。しかし!最後は明るく!物語のラストで展開されるレビューシーンではBOYSが宝塚を象徴する歌を次々と披露し、燕尾服を翻して歌い踊る。清々しくも力強く、しかも男役にはない迫力を感じさせる。それが終わり、稽古場のシーンになるが、先ほどのレビューは彼らの泡沫の夢であったことがわかる。それでも暗くならず、むしろ心の光が見えてくる。BOYSと一緒に夢を追いかけたい、そんな気分にさせてくれる作品、「清く、正しく、美しく、そして逞しく」なったBOYSは永遠に輝く星なのである。

ちなみにteam Aで鑑賞したが、このチームは2度目の参加となるキャストが多い。2010年に続き星野役を連投する東山義久を除き、2013年竹内役を演じた良知真次が上原役に、2010年に同じく竹内役を演じた藤岡正明が太田川役に、2013年に竹田を演じていた上山竜治が竹内役に、2010年に竹田役だった石井一彰が山田役に….と前回とは違う役に取り組むキャストが多く、『ベテラン』なはずなのにフレッシュでパワフルなチームで安定感もある。良知演ずる上原は、小林一三に手紙を書くほどの積極性があり、柔和な物腰、それでいて内に秘めたパッションをふつふつと感じさせる。藤岡扮する太田川は、関西弁で明るく、純粋で楽しいキャラクター。上山が演ずる竹内は、熱くまっすぐで、しかしどこかユーモラス、きっちりとした髪型がどことなく彼の実直さを感じさせる。『宝塚BOYS』初出演となる木内は、熱さと涼やかさを併せ持つ好青年の長谷川を好演。同じく初参加メンバーの百名は、ちょっと可愛らしい感じで竹田を演じる。石井は見た目は強面だが、性根は心優しい山田を熱演。バレエを練習する姿は一生懸命やるも、ちょっとファニーでチャーミング。そして星野演ずる東山は、男子部の中でもプロダンサーとしてひときわ存在感を放つ。7人のBOYSのそれぞれの個性が生かされたキャスティングと、キャストの作品に対する深い理解と解釈、彼らの生き様にリアリティを与える。更に、今回初出演となる愛華演ずる君原は、彼らが迷った時に、さりげなく大事な示唆を示し、愛で包む。愛華のどこかホッとする柔らかいオーラ、流石のベテラン。同じく初出演の山西、演じるはキーマン・池田。時には寄り添い、時には厳しい言葉を発する。門外漢だと言いながらも、その実BOYSを宝塚大劇場の舞台に立たせようとする池田は、おそらくBOYSの一番の理解者。山西の緩急つけた演技、物語を引き締める。

カーテンコールでは立ち上がって拍手を送る観客の多いこと!

尚、team SEAキャストは、東京公演の8月4日から8月11日まで出演。8月15日から8月19日までの東京公演後半及び各地公演は、team SKYキャストによる公演となる。

<良知真次コメント>

『宝塚BOYS』は、前回の4回目から出演させて頂き、僕にとっては二度目の出演になりますが、オリジナルを創る気持ちで出演させて頂いております。役も、前回の竹内役から今回は上原役になります。team SEAは、過去『宝塚BOYS』を経験してきた人達が多いチームですが、ほとんどのキャストの役が変わり、関係性も変わるという事で、1からというよりゼロから創って来ました。いよいよ初日を迎えるということで、初めてご覧になって下さる方、またこの作品を愛して楽しみに待っていて下さるお客様の為に、全身全霊で歌って踊りたいと思っております。一度と言わずに二度三度、四度五度六、七、八公演ありますので(笑)、是非劇場に足を運んで頂いて、応援の程宜しくお願い致します。公演で全て出し尽くしたいと思います。

<藤岡正明コメント>

いよいよ初日を迎えます。皆が一致団結して本当にこの日を待ち詫びておりました。過酷な過酷な稽古の中で、戦ってきた戦友がここにいます。僕にとっては、まさかまた、この『宝塚BOYS』の世界に戻ってくることができると思っていませんでしたので、今回本当に青春が戻ってきたなと思っています。これは俳優としてやってきたご褒美だと捉えて、一公演一公演、大切に大切に演じていきたいと思っております。必ず何か持って帰って頂ける作品です。騙されたと思って(笑)、是非劇場にお越し頂きたいと思っております。

 

《インタビュー》良知真次『宝塚BOYS』

【公演情報】

『宝塚BOYS』

原案:辻 則彦 <「男たちの宝塚」(神戸新聞総合出版センター刊)>
脚本:中島淳彦 演出:鈴木裕美
協力:宝塚歌劇団 企画・製作:キューブ

出演(配役)

[team SEA] (8/4~8/11)
良知真次(上原金蔵)
藤岡正明(太田川剛)
上山竜治(竹内重雄)
木内健人(長谷川好弥)
百名ヒロキ(竹田幹夫)
石井一彰(山田浩二)
東山義久(星野丈治)

愛華みれ(君原佳枝)
山西 惇(池田和也)

[team SKY] (8/15~9/2)
永田崇人(上原金蔵)
溝口琢矢(竹内重雄)
塩田康平(太田川剛)
富田健太郎(長谷川好弥)
山口大地(山田浩二)
川原一馬(竹田幹夫)
中塚皓平(星野丈治)

愛華みれ(君原佳枝)
山西 惇(池田和也)

公演日程・劇場:
東京公演 2018年8月4日(土)~19日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
名古屋公演 2018年8月22日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
久留米公演 2018年8月25日(土)~26日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
大阪公演 2018年8月31日(金)~9月2日(日) サンケイホールブリーゼ

公式サイト:
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/takarazukaboys_2018.html

撮影:桜井隆幸

文:Hiromi Koh