TBS開局70周年記念インタビュー TBSテレビライブエンタテインメント局 戦略担当部長 TBS赤坂ACTシアター支配人・岡田慎太郎

TBSテレビ ライブエンタテインメント事業部は多種多様なライブエンタテインメントを提供。現在はTBS赤坂ACTシアターにて世界中で上演されている、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』をロングラン上演中のほか、ミュージカル、演劇、バレエ、展覧会と数々のエンタテインメントを手掛ける。2028年には新たな劇場も建設する。ライブエンタテインメントをTBSが手掛ける意義、また、未来のライブエンタテインメントについて、現在、ライブエンタテインメント局事業部 戦略担当部長であり、TBS赤坂ACTシアターの支配人でもある岡田慎太郎さんのインタビューを行った。

ーー現在はTBS赤坂ACTシアターにて舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』がロングラン上演されています。これだけのロングラン公演を行っているのは、劇団四季以外はないと思います。これだけの公演が行える強みは何でしょうか。

岡田:テレビ番組を中心にエンタテインメントを生み出していく会社として、テレビだけではない、劇場というものを使って自ら発信できる、というところだと思います。

ーーやはり、自分で劇場を持つことに意味があると。

岡田:はい。自分たちが思うエンタテインメントを自らが発信し、形にできる。そこが大きいと感じます。TBSは直近までは赤坂BLITZというライブホールも所有していました(現TBS AKASAKA BLITZ STUDIO)。現在、赤坂再開発が行われており、2028年に向けて、新しい劇場を建設中です。

ーー今のTBS赤坂ACTシアターよりも大規模なのでしょうか。

岡田:はい大規模というよりも、今までにお客様が感じたことがないような新しい体感ができる劇場を目標にしています。

ーーということは、赤坂の街もだいぶ様変わりするでしょうね。

岡田:そうですね。そこには劇場だけではなくて、ビルも新しく2棟建設されます。劇場に限らず、赤坂の街でいろんなエンタテインメントを発信できる要素のきっかけとなることを目指しています。

参考URL:https://www.tbs.co.jp/job/vision/city.html

ーーところで今、ちょうどTBS赤坂ACTシアターのほうでは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』がロングラン上演中ですが、魔法の世界がすごいですよね。

岡田:『ハリー・ポッター』自体がすでに世界中で愛されているタイトルだと思います。舞台版は映画や小説で知られているハリーの子ども時代から19年後の世界を描いています。まず、舞台版のストーリーが続いているということが今までのハリー・ポッターファンにとって「映画や小説が終わった先を見ることができる」という楽しみを感じていただけます。そして、何より劇場で体感していただきたいのは“魔法”なんですよね。よくぞここまで・・・!!これはなかなか他の劇場では感じられない、専用劇場ならではの体験が出来ると思います。

ーー映像であれば「魔法」はいくらでも実現はできるでしょうし、活字であっても頭の中で想像くらいはできますが、「舞台」で「実現」となるとまた違いますよね。素直に感動できる。そして、シリーズの19年後というのが絶妙ですよね。

岡田:ハリーは37歳です。3人の子どもがいて、その次男が繰り広げるストーリー。やはり映画や小説で1回でも触れた人たちが思う、「物語のその後はどうなっている?」の答えがまさにこの舞台なんです。しかも、目の前で魔法をリアルに体感させてくれる。そこはやはり舞台版『ハリー・ポッター』の最大の魅力でしょう。

ーーしかし『ハリー・ポッター』、開幕にこぎつけるまでがたいへんだったと聞きましたが。

岡田:私が舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を最初に観劇したのは本作品が2016年7月にロンドンで世界初演を迎え、その4ヶ月後の11月でした。そこから各社いろいろな交渉があった末に、ホリプロさんと一緒にロングラン公演として頑張っていくというお話で進みました。準備の段階から、制作面において、ホリプロさんは本当に大変だったと思います。我々としても2021年12月からTBS赤坂ACTシアター自体の改修工事をはじめました。舞台面の改修のみならず、ロビーやカフェも同時に行いました。通常営業している劇場をクローズして、半年間改修工事をする判断は『ハリー・ポッター』でなければ、なかなかできないことだと思います。あの魔法の世界はそれだけの時間と労力をかけなければ生み出せなかった。

ーー一朝一夕ではできないですものね。

岡田:ロビー周りだけをハリー・ポッターの世界観にする、とはわけが違います。
もともとTBSとしては、先程お話した赤坂の再開発プロジェクトというものが同時に進行しています。『ハリー・ポッター』もそのひとつです。ここで世界クラスのエンタテインメントを実現するのと同時に、街をどう変化させるかという意図で誘致しています。赤坂駅を降りた瞬間から、『ハリー・ポッター』の音楽が流れていたり、エスカレーターを登った先にある大階段では、物語の鍵を握るアイテムのタイムターナーがみなさんをお迎えします。更に劇場では、グッズ売り場はもちろんカフェまでもが『ハリー・ポッター』の世界観の一部になるよう大改修しています。だからこそ、舞台の感想は当然ですが、お客様には赤坂駅に到着してからの感想も聞いてみたいですね(笑)。

ーー劇場の周りにも、ハリー・ポッターカフェや、グッズショップ(マホウドコロ)がありますからね。

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岡田:ショップとカフェに関しては、ワーナーブラザースさんからも多大なるご協力をいただいております。メニューも含めて『ハリー・ポッター』を好きな方に楽しんでいただける内容になっています。まさに、開演前、そして終演後に高ぶる気持ちを持ち続けて、楽しんでいただきたいなと。たいへん好評をいただいています。

ーーお芝居を観るだけではなくて、街全体で『ハリー・ポッター』を楽しむというコンセプトはなかなかないですね。もはやテーマパークのよう。

岡田:演劇や映画もそうだと思うんですが、普通開演時間が18時であれば、だいたい10分から20分前に劇場に来場されますよね。そして、終演後は急いで家に向かう、という流れの方がほとんどかと思います。これは決して悪いことではないんですが・・・。一方、海外ではそうではなかった。劇場の周りにはお食事をするレストランやパブが非常に多くて、開演する1~2時間前には集まって会話を楽しむ。終演後もそこで感想を話したり、日常会話に盛り上がっていました。そうした文化を日本にもっと浸透させたい、というチャレンジなんです。今回、開演時間よりもかなり前から赤坂の街にお客様が集まって、楽しんでいただけている様子がとてもうれしいです。大階段のタイムターナー前でも連日写真の列ができていたり、ハリー・ポッターカフェやショップに人が集まっている。それが開演1時間前だったりしていて、何もなかった1年前と比べると驚かされるんです。これは一緒に赤坂の街づくりを考えてくれたプロジェクトメンバーのみんなと作り上げた結果が実ったんだな、と。人の行動パターンをも変えられたんだと。

ーー開演前でさえ楽しむ時間を作れる、それでより舞台の世界に入れますね。

岡田:劇場へも早くご来場いただけているんです。複数のフォトスポットや公演グッズショップ、充実したカフェも用意しました。本当にみなさん楽しんでいただけているのがわかります。そういった世界観をご提案したい、という自分たちの意図が伝わっていれば幸いです。

ーーいわゆる劇場文化でしょうか。お客様の中にはホグワーツ魔法魔術学校のローブを着用している人もいました。

岡田:そのようなお客様が多数ご来場いただいています。それこそ、楽しみ方はそれぞれですから。自分流に作品を楽しむ、まさに理想とする形のひとつだと思っています。

ーー演目選びについてはどのようにこだわりをお持ちなのでしょうか。

岡田:演目選びのポイントは、企画概要を聞いた瞬間に「ワクワクするか」というのを最重要視しています。エンタメの基本ってすべて「ワクワク」だと思っているので。すごく単純な言葉ですが、何事に対しても第一歩であると思うんですよね。それに、楽しいだけで心が躍る、というわけではなくて、悲しい話でもすごく感動することだってある。それこそ、心が動くか、動かないかというのが大前提であると思います。それがマーケティング的に成立しているものなのかを強く会社では考えています。イコールビジネスとして成功しているのか、していないのか。1人が納得するだけでは、実現するにはまだ弱いですよね。みんなが「観たい、行きたい」と確信できるものである必要があり、そこを軸に演目選びについては話し合っています。とはいえ、最後は自分を信じるしかないんですけどね(笑)。

ーーそれでは、改めてTBSとしてライブエンタテインメントを今後どうお考えかをお伺いしたいと思います。

岡田:TBSとしては、赤坂再開発の中にエンタテインメントの掛け算をどう成立させ、大きく展開できるかというところだと思います。例えば配信など、もともと準備していたことが、コロナきっかけで、1ブロック早めに事業として進み始めたと考えています。このような時代に合わせた新しいチャレンジをどんどん取り入れながら、スピード感を重視していかなければいけない。もしかしたら我々が考えているものより、もっと新しい、今現在では想像もつかない革新的なものが3年後には生まれているかもしれないですから。なにが流行るか、求められるかというのに敏感にアンテナを高くして生活していくことと、そこに“ワクワク”を感じるかどうかを求め続けることが、TBSライブエンタテインメントとしての役割なんじゃないかと思っています。やはり、発信する側が「イマイチだな」と思っていると絶対失敗するんです。だからこそ、我々自身が“ワクワク”できるエンタテインメントを生み出し、提供していきたいです。

ーーそれでは、最後にメッセージを。

岡田:TBSライブエンタテインメント局としては、2030年前後の先を見ています。会社として、テレビ“も”作る会社と宣言しているように、テレビ番組の制作以外にも、いろんなエンタテインメントを0(ゼロ)から1(イチ)として生み出していく、新しい発信をしていくことを目指しています。ひとつでもみなさんに共感していただいて、五感を揺るがし、“ワクワク”していただけるようなものをご提供できる集団でありたいです。

ーーありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/event/
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公式サイト:https://www.tbs.co.jp/harrypotter/

取材:高浩美
人物撮影:金丸雅代
構成協力:佐藤たかし
劇場内写真提供:丹⻘社/撮影:奥村浩司
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