加藤健一事務所公演『夏の盛りの蟬のように』上演中 蝉が鳴くが如くに賑やかで、煌めいて。

2022年ラストの公演は加藤健一事務所公演は久しぶりの和物、『滝沢家の内乱』(2015年)以降、7年ぶりの上演(地方公演除く)。この『夏の盛りの蟬のように』は1990年初演。加藤健一事務所では、今回が初上演。

葛飾北斎(加藤健一)が大八車を引いている。押しているのは娘のおえい(加藤忍)。なんと93回も引っ越ししたそうで、1日に3回も引っ越ししたという逸話もある。一説には掃除嫌いだそうで、いわゆる汚部屋に住んでいた。舞台でもそれを象徴するように描き損じの紙屑が…。
絵を描く事にしか興味がない葛飾北斎、絵師としてまるでうだつの上がらない歌川国芳(岩崎正寛)、武士でありながらいずれは絵の道に専念したいと願う渡辺崋山(加藤義宗)。居心地が良いのか彼らは今日も北斎の家に集い、議論をしている。北斎の弟子で、腕はいいのに師匠の世話ばかりしている蹄斎北馬(新井康弘)。娘のおえいは自分で絵を描くようになった。加藤忍のおえい、ほっぺたが真っ赤(笑)。しかし、議論するとヒートアップ、國芳の態度、崋山の生真面目で理論づくめの物言い、北斎は機嫌を損ねたり。側から見れば、わちゃわちゃとやってるように見える、ぶつかり合っても心底はお互いを認め合っている、そんな空気感。そして、それぞれが自分のいくべき道を模索している。

時が流れ、史実でも分かる通り、國芳は勇ましい武者絵で一世を風靡するし、北斎も傑作を世に送り出すように。崋山は政治に介入し始め、幕府に捉えられてしまう。
蹄斎北馬は語り部の役割も担う。時は幕末、異国船打払命令もあり、シーボルト事件、蛮社の獄、とペリー来航までの怒涛のごとくに事件が起こる。

江戸時代後期の天才絵描きたち、というと難しそうに聞こえるが、実は喜劇。彼らの一挙一動は可笑しみがあり、口角泡を飛ばして、しゃべる、時々、客席から笑いが起きる。彼らはもちろん、それぞれの道をいく、そして散っていく。タイトルの『夏の盛りの蟬のように』、蝉の一生は短い。成虫になってからの寿命がわずか1週間ほどしかない、その間に大きな声で鳴く、しかも地下にいるのはおよそ7年間。夏の盛りの蝉、まさに一瞬のこと。そして彼らもまた、地上で一瞬の煌めきを放つ。
配役の妙というのだろうか、葛飾北斎演じる加藤健一、ゴミの中で描き続けるし、岩崎正寛の歌川国芳がちょっと軽妙で、それでいて存在感を放つ。新井康弘の蹄斎北馬はいかにも気配りな雰囲気で加藤義宗の渡辺崋山は生真面目すぎる空気を纏う。

日本の美術史にその足跡を残した天才たち、その人間臭さ、生き様、可笑しく、楽しく、そして愛おしい。公演は18日まで。

STORY
日本を代表する浮世絵界の巨匠、葛飾北斎。北斎の弟子の中では筆頭にあげられた蹄斎北馬。 武士でありながら肖像画を描いて日本一と言われた渡辺崋山。遅咲きながら武者絵や戯画など独創的な浮世絵を生み出した 歌川国芳。そして、晩年まで父・北斎の画業を助け、北斎の画才を受け継ぎ一目置かれる絵師となったおえい(葛飾応為)。 舞台はこの絵師たちが己の絵の道に葛藤し活躍した文化 13 年(1816 年)から安政 5 年(1858年)。 それぞれが生き様や志を絵にぶつけ北斎に立ち向かうも、いくつになっても頂点であり続けようと向上心むき出しの“化け物”に打ちのめされ、己の不甲斐なさに怒り悲しみ、そしてそれを活力にまた筆をとる。 変化する時代の波に翻弄されながら、家柄や流派を超えて切磋琢磨し、世の中を相手に絵師として熱く議論を戦わせる江戸の者たち。暑く眩しい季節に忙しなく聞こえてくる、あの夏の盛りの蟬のように。

概要
日程・会場:2022年12月7日(水)~12月18日(日) 本多劇場
作:吉永仁郎
演出:黒岩 亮
出演:加藤健一、新井康弘、加藤 忍、岩崎正寛(演劇集団 円)、加藤義宗、日和佐美香
公式サイト:http://katoken.la.coocan.jp/
舞台撮影:石川純

2023年の公演は3月29日から本多劇場にて。
「グッドラック、ハリウッド」
作:リー・カルチェイム
訳:小田島恒志
演出:日澤雄介
出演:加藤健一、関口アナン、加藤忍