劇団四季ファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』 創立70周年記念@自由劇場

自由劇場(東京・竹芝)にて ファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』が3月11日より上演。
今回は劇団創立70周年記念公演として、2014年以来9年ぶりの上演。

『ジョン万次郎の夢』は、幕末、日本人で初めてアメリカへ渡ったとされ、日米の架け橋として幾多の業績を残した中濱万次郎(ジョン万次郎)の半生を描いた四季オリジナル のファミリーミュージカル。
近代日本の大転換期に生き、持ち前の好奇心と不撓不屈の精神で未来を切り開いた万次郎。そんな彼の生き様は、グローバルな世界に生きる現代人にも通じるものがあるはず。

撮影:阿部章仁

本作は 2020年に全国公演が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により全公演が中止に。3年の時を経て、満を持しての上演となり、4月29日からは全国各地を巡演。
高らかな楽曲で幕開き。万次郎は幼い頃から働いていた。土佐の国、14歳で初めて漁に出る、ちょっとワクワク。ところが、なんと大嵐に遭い、船が難破してしまう。ここからの万次郎の波瀾万丈な人生の幕開きで、誰もが日本史などで習っているはず。
地図を背中にアメリカの新聞記者と日本の瓦版の記者が当時のことを説明するので、まだ習っていないお子さんでもここで把握できるので大丈夫。記者たちは物語には直接関わらないが、説明をしたりするので。14歳といえば、今なら中学2年生ぐらい。それなのに過酷な状況。数日間漂流し、現在の鳥島に漂着する。史実では漂着から143日後、万次郎は仲間と共にアメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド号によって助けられる。この出会い、まず、お互いの言葉がわからない。ここはちょっと笑えたり、微笑ましい場面。「How do you do?」という英語すらわからない。「Nice to meet you」を「内密」と思い、手を合わせるシーンでは客席から笑いが。なぜ「内密」なのか、それは当時の日本は鎖国、つまり海外への渡航など許されなかった。バレたら大変!だったので「内密」。万次郎はまだ子供でしかも好奇心旺盛、言葉がわからなくても彼らと身振り手振りで意思疎通。そして船長ホイットフィールドに気に入られ、万次郎はアメリカへ。ここまでが実にスピーディー。開幕しておおよそ30分でアメリカへ行くことになり、その10分後にはアメリカの地を踏む(笑)。ここで万次郎は船の名前にちなんで、ジョン・マンという愛称をつけられる。「ジョン万次郎」の誕生だ。アメリカで多くのことを学ぶジョン万次郎。ここで彼は様々なことを学ぶにつれ、日本は開国しなければならない、自分はそのために何かをしなければならないと強く思うようになる。
ファミリーミュージカル、つまり家族で観にくることを想定しているので、2幕構成だが、1幕、2幕それぞれの上演時間は1時間弱。子供でも無理のない時間設定になっているので、テンポ感もよく、ミュージカルナンバーも次々と。ダンスもふんだんに取り入れられて、エンタメ性を重視。また、難破するシーンだが、近年よく使われるプロジェクション・マッピングではなく、マンパワー。しかも伝統的な歌舞伎の手法、黒子(だが、衣装は白)が浪布と波衣で表現(浪布の下に入って全身で表現)、本当に布がうねる、うねる。ここは目を見張るものがある。また漁師たちのファッション、よく見るとかなり凝ってる。劇団四季では時代考証はきちんと行っているので、登場人物たちの衣装も見てほしい。

撮影:樋口隆宏

2幕はジョン万次郎が帰国してから咸臨丸で再びアメリカへ行くところまでを描いている。アメリカで勉強した、ということは世界水準で考えても相当なレベルでしかも成績優秀だったので、彼の喋ることは当時の普通の日本人にとっては「さっぱりわからない」役人たちとジョン万次郎のやりとりは噛み合わないこと、この上なし状態なので、ここのシーンも客席から笑いが起きる。それでもめげないジョン万次郎。そして黒船来航、ペリー提督が4隻の船で浦賀にやってくる。驚く人々、時代はジョン万次郎を必要としていた、歴史の教科書に登場する福沢諭吉が彼を訪ねにやってくる。そしていよいよ咸臨丸に乗り込んで…というのが2幕。
楽曲は三木たかし、昭和のヒット曲を多く手がけただけあって耳に馴染むメロディ、ダイナミックだったり、いかにも日本的な曲調だったり、ここは飽きることがない。そして2幕後半の咸臨丸での場面、貴重な飲み水を巡っての争い。ここは史実に基づいている。そしてラスト近く、ついにアメリカに。ここのシーンだが、映像演出はないのに、本当に船が大陸に着いたかのような。ここで歌われる楽曲はラストの盛り上がりにふさわしい。史実では咸臨丸の派遣から8年後に明治維新。もう、学校で習っているので全てわかってしまっているのだが、それでもジョン万次郎が壮大な夢に向かって行動する姿は清々しい。政所和行がジョン万次郎を演じていたが、最初の航海の前は初々しく、14歳っぽい!ところがアメリカに渡り、帰国し、その成長がリアルに見えてくる。最後は落ち着いた感じもあり、咸臨丸でのラスト近くの水を巡ってのシーンは客席は静まり返っていたのが印象的であった。
東京は4月2日まで。それから全国公演となる。なお、今年は奇しくもジョン万次郎漂流180周年記念の年だそう。

<取材会レポ記事>

劇団四季ファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』全国ツアー公演 取材会レポ

公演概要
日程・会場:2023年3月11日〜4月2日 自由劇場
4月29日より全国を巡演。詳細は公式サイトを。
全国ツアー情報:https://www.shiki.jp/