日本女子サッカー初めて物語!舞台『フートボールの時間』上演中

舞台『フートボールの時間』が上演中だ。

この作品は全国高等学校演劇大会で最優秀賞作品、丸亀高等学校演劇部「フートボールの時間」。大正時代に丸亀高等学校の前身のひとつ丸亀高等女学校の学生らがはじける笑顔でボールを蹴っている一枚の写真がこの作品の基になっている。
約100年前に撮られたその写真から丸亀は「日本女子サッカーの発祥の地」といわれる。なでしこジャパンとして国民から愛される日本女子サッカー界、当時の女学生らには良妻賢母になることが求められ、男尊女卑が当たり前だった時代に、フートボール(サッカー)に魅せらた女学生たちに対して「女が足を広げてボールを蹴るなんて、はしたない」と先生や家族、婚約者などから大反対。自分の好きなこと、やりたいことが、ただ女性という理由だけで咎められてしまう、そんな時代の物語。

シンプルなセット。1人の若い女性が登場、窓の外をみる、ボールが飛び込んできて思わずキャッチ。首を傾げながらボールを見る。今でこそポピュラーなスポーツ、サッカー。日本に初めて上陸したのは、諸説あるが、1872年、神戸市の外国人居留地で行われた試合が最初という説と1866年に横浜市山手でイギリス軍が行った試合が初という説があるが、この物語の時代、今から100年前、当時はフットボールと呼ばれていた。現在の「なでしこジャパン」のルーツとも呼ぶべき「女子フットボール事始め」な物語。

ボールをキャッチしたのは学生ではなく、写真館の娘・梅子(井上向日葵)、父が怪我をしたので、代わりに学校行事の写真を撮ると校長(おかやまはじめ)に。最初は「女性」と言うことで難色を示していたが、そこへ、元気溌溂とした女性教師・井上通子(堺小春)がやってきて、梅子を後押し。通子はリベラルな考えの持ち主。だが、彼女の考えに否定的な教頭(近江谷太朗)、裁縫の教師、宇田文子(林田麻里)。宇田は当時の典型的な女性、良妻賢母こそが女性の美徳、生徒たちにもその考えを説く。フットボールは「野蛮なスポーツ」「女性が脚を広げてボールを蹴るなんて」と一蹴。だが、それに折れる通子ではない。その考えは生徒たちにも浸透、梅子もそんな通子に感銘を受けるのだった。だが、時代が彼女たちの前に大きく立ちはだかる。そして丸亀高等女学校で無事にフットボールはできるのだろうか、と言うのが大体の流れ。

1枚の写真からインスパイアーされたこの作品、当時の女学生が嬉々としてボールを蹴っているもの。よって始まる前から「オチ」は見えている。だが、それでも見入ってしまう。先生たち、通子、梅子、生徒たち、皆、個性的。特に生徒たちが女子トークするシーンは現代と変わらない。わちゃわちゃとおしゃべりに夢中。いわゆるヒール役的な立ち位置の教頭と裁縫の先生、だが、悪人でもなんでもなく、この時代の普通の考え、感覚の持ち主。

女性は家庭で家を守るもの、社会進出などとんでもない、まして給料アップなどありえない発想。だが、少しずつ新しい考え方も入ってきた時代、大正。「青鞜」の平塚らいてうの言葉「元始女性は太陽であった」も登場する。そんな時代の空気をうまく捉えて、群像劇に。ベテランのおかやまはじめ、近江谷太朗がきっちりと、そして通子役の堺小春が元気印の体育教師をそれこそ、元気いっぱいに。写真館の娘・梅子は井上向日葵、最初は内気な梅子だったが、通子と出会い、変わっていく様を好演。また、生徒役の4人、4年生の真鍋智恵(北原日菜乃)、大西佐登子(谷川清夏)、1年生の森富貴子(桜木雅)、横田アサノ(庄司ゆらの)のカルテットが楽しく、客席から時折、笑いが。

ラスト近く、裁縫の教師、宇田文子の言葉が刺さる、彼女の内なる変化。そして写真のような躍動感あふれるシーンに連なっていく。脳内で、日本中を賑わせたなでしこジャパンの姿が蘇る。
現代の日本は彼女たちの思い描いていた理想の国になったわけではない。この物語は現代、そして未来へのメッセージ、上演時間は休憩なしのおよそ1時間50分ほど。観客は立ち上がって大きな拍手、繰り返し上演して欲しい作品。このあとは丸亀市、豊田市、佐野市、さいたま市を回る。
なお、ala Collectionは優れた戯曲に焦点を当て、リメイクして再提示する公演企画。この作品で14回目を数える。

概要
ala Collectionシリーズvol.14
作:豊嶋了子と丸高演劇部
潤色演出:瀬戸山美咲
出演:
堺小春
井上向日葵
おかやまはじめ
近江谷太朗
林田麻里
谷川清夏
庄司ゆらの
桜木雅
北原日菜乃
日程・会場:
可児:2023年10月18日(水)~22日(日) 可児市文化創造センターala
東京:2023年10月26日(木)~11月1日(水) 吉祥寺シアター
丸亀:2023年11月7日(火) 丸亀市綾歌総合文化会館
四日市:2023年11月11日(土) 四日市市文化会館
豊田:2023年11月12日(日) 豊田市民文化会館
佐野:2023年11月16日(木)~17日(金) 佐野市文化会館
埼玉:2023年11月19日(日) さいたま市文化センター

公式WEB:https://www.kpac.or.jp/ala/event_event/ala-collection14football231018/

舞台撮影:服部貴康