舞台『おおきく振りかぶって 夏の大会編』「チームが負けるのが一番、嫌だ!」(三橋廉)

人気漫画「大きく振りかぶって」の舞台、初演は今年、2018年の冬、単行本の1巻から8巻までを描いていたが、第2弾は、その続きの物語。桐青高校に勝利した西浦高校、次の対戦校は崎玉高校。部員はたったの10名で3年生は3人。監督は野球素人で、投手の力と『10割』を誇る佐倉大地(近藤頌利)の力で勝ち進んできた県立農業高校だ。佐倉大地は生真面目な性格、チームの柱となっている。

最初にキャストが全員登場してフォーメーション、それから監督の百枝まりあ(渡邊安理)キビキビと指示を出す。頼もしい限りの監督だ。「ベストで夏が迎えられるように!」と檄を飛ばす。場面変わって、仲沢呂佳 ( 多田直人)と河合和己 (加藤潤一)の会話、仲沢は言う「仕方なくコーチ、引き受けた」と打ち明ける。彼は美丞大狭山高校コーチ、西浦高校のデータを集めていたのだった。

三橋廉 (西銘駿)、自分に自信が持てないが、先の対戦で彼の内面は少し変わった。「チームが負けるのが一番、嫌だ」と。一方で仲沢は言う「西浦は必ず、勝ち上がってくる」と。まりあは次の崎玉高校との試合、彼女は確信する、「コールド、出来る!」と。

ストーリーは原作通りに進行する。初演で見せた野球の試合を再び、舞台上で具現化する、かなりパワーアップされた印象で、投げる、打つ、捕球する、といった基本動作もかなりのリアリティを持って観客に迫る。コミックやアニメで原作を知っているファン、この先、どうなるかわかりきっているのだが、それでも気持ちは舞台上のキャラクターの一挙一動、セリフに心動かされる。崎玉高校のピッチャーの市原豊 ( 前田隆太朗)試合終了間際の言葉、「今日、負けたら終わりだ!」と叫ぶ。

阿部隆也(ゲネプロは 猪野広樹・Wキャスト)に信頼を寄せる三橋廉 (西銘駿)。三橋は「大事にされている、阿部君、ありがとう」と言う。しかし、そんな関係性も対戦校である美丞大狭山高校には完全に把握されていた。「三橋は阿部のいいなりだ」と。

試合を中心に進行しているが、登場人物の心理描写がはっきりしており、感情移入しやすい。三橋の心境の変化、途中で阿部が負傷し、キャッチャーができなくなる。一瞬、途方にくれる三橋、悔しさをにじませる阿部。代わりにキャッチャーをやることになる田島悠一郎 (一色洋平)、プレッシャーをはねのけるように自らを鼓舞する。キャプテン花井梓(白又敦)の苦悩、不利な試合は辛い。序盤ですっかり手の内を見透かされてしまい、リードされる西浦高校、努力の甲斐あって着々と得点を重ねる美丞大狭山高校。途中で阿部とまりあは配球パターンを読まれていることに気づくが、かなりリードを許してしまった。相手チームをきっちり研究してきた美丞大狭山高校、よく出来たチームではあるが、キャッチャーの倉田岳史(武子直輝)のプレイのスタイル、ルールギリギリ、「チームにも・・・・自分にも泥を塗ってんだよ!」と言われて愕然とするシーンがあり、このことに対して彼なりに悩む。三橋は気がつく「僕は阿部君にだけ責任を負わせた」と言い、そこから彼は自己革命を起こす。端から見れば小さな一歩かもしれないが、彼にとっては大きな意義を持つ。阿部のリードだけに頼らず、自分で考えることがいかに重要かに気がつく。試合の結果はともあれ、この試合、双方のチームにとってが成長の糧となるはず。全てのキャラクターに見せ場、野球は個人でやるものではなく、チーム一丸となってやるものだ。野球と演劇、かなり相性がいい。

 

なお、ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは三橋廉 役の 西銘駿、阿部隆也役の 猪野広樹と大橋典之(W キャスト)、百枝まりあ 役 の渡邊安理、花井梓 役の 白又敦、演出の成井豊。

白又敦は「半分近くキャストの変更がありまして・・・・・桐青高校戦を乗り切った苦労を出していきたいっていうのがあります」と語る。渡邊安理はキャラクターとの共通点について聞かれ「なかったです!」ときっぱり。続けて「男勝りとかって言われているまりあさんですが、どういう役なんだろうって思った時に彼女は相手を思いやる人、と感じたのでそういう人になれたらいいなと思って稽古しました」とコメント。「メンバーとコミュニケーションをとることによって共通点が出たらいいな〜と思ってやってました」とも語る。大橋典之は今回、初役であるが「阿部は狡猾だと言われていますが、純粋に野球がしたいから、そういうことをしたりするんだと。僕自身も野球をやってたので、野球に対する気持ちを根底にして役を作っていこうと思いました」と語ったが、野球経験者、プレイする姿が楽しみな新キャスト。阿部役に対して『こなれた』印象の 猪野広樹は「役への理解の変化っていうのはあんまりないのですが、バッテリーの関係性が試合を大きく左右するので、理解の変化というよりも阿部はこう変わっていくんだっていう道筋を出そうと」とコメント。父に「友達、いないだろ」と問いただされるシーンもあり、阿部はそんな父の言葉に反発を覚える。しかし・・・・・アクシデントが発生した後の阿部の内面はかなり変わる。そんな心の機微を感じさせる猪野広樹、心動く瞬間だ。西銘駿は初演時は『未成年』だったが、晴れて20歳!「初演が終わってから1週間後に20歳になって、そこから大人になった!それまではカンパニーや西浦のメンバーに支えられてきましたが、もっとみんなを支えられる主演になりたいと思いました」と言ったところで猪野広樹が「いいんじゃないの〜」と言い、さすがの『阿部隆也』ぶりに居合わせた全員から笑いが起こった。さらに西銘駿は「また主演でマウンドに立てることに嬉しく思います」とコメント。成井豊は「前作は舞台上で野球の試合を上演する方法論に時間がかかったんですよ。今回はそれがあるから楽にできると油断していたところがあったのですが、稽古が始まったら大変さが変わらないんです。それは前作よりも得点がいっぱい入るから忙しい!稽古量は変わらない。試合の様子が違うのが面白いかと。また、今回は野球の経験者が増えたんだよね。練習はたくさんしました。送球、バッターボックスの入り方とか前回よりもじっくりとやったのでリアリティが増しました」と語ったが、例えば、バントの仕方や塁に出る、ホームスチールなど、『野球をやってる演技』なはずなのに、なんだか観客席で本当の野球の試合を観ているかのような錯覚に襲われる。そして最後に意気込み、「キャプテンとしての苦悩を味わう作品になっていますので、ここを観て欲しい。今年は甲子園100回目!この作品をやることがありがたいです」(白又敦)、「監督として出ています、バッターボックスに立たずに見ている立場ですが対戦校のカラーが違うので、相手が変わると気持ちも変わりますので、そこを観て欲しいです」(渡邊安理)「2人の阿部を!臨場感がすごいです。本物の野球に近い!この作品はすごく好きです。キャッチャーというポジションで愛を込めて!」(大橋典之)「2人の阿部と、初演はチームが作られる話でしたが、今回はそこからになります」(猪野広樹)「阿部君に引っ張ってもらっていたのが、今回は三橋が自分で考えて成長する物語です。原作通りに再現していきたい」(西銘駿)、三橋の変貌に注目!最後に、「(芝居が始まってから)1時間45分後に最大の事件が起こります。白が黒に変わる、西浦の危機的状況になる、たまらない気持ちになります、そこを観て欲しい」(成井豊)。それからガッツポーズでフォトセッション、和やかに会見は終了した。

さてニコ生だけの特別配信も決定、9月15日の17時公演、プレイボール!また公演DVDも発売決定!会場で申し込みをすると一般発売よりも早く手に入るそう。舞台写真いっぱいのブックレットも!特典映像も!一般発売は2019年2月2日の予定(税込8000円)。

舞台「おおきく振りかぶって」、早くもDVD化決定!発売は6月6日!

【概要】

舞台『おおきく振りかぶって 夏の大会編』
日程:
<東京>
2018年9月6日〜9月17日
場所:サンシャイン劇場
<大阪>
日程:2018年9月28日〜9月30日
場所:梅田芸術劇場 シアタードラマシティ
原作:ひぐちアサ(講談社『月刊アフタヌーン』連載中)
脚本・演出:成井豊(キャラメルボックス)
出演:
<西浦高校>
三橋廉 役 西銘駿
阿部隆也役 猪野広樹(W キャスト)、大橋典之(W キャスト)
百枝まりあ 役 渡邊安理
花井梓 役 白又敦
田島悠一郎 役 一色洋平
泉孝介 役 安川純平
沖一利 役 中村嘉惟人
栄口勇人 役 副島和樹
水谷文貴 役 湯本健一
西広辰太郎 役 亀井賢治
巣山尚治 役 元木諒
篠岡千代 役 澤田美紀
<美丞大狭山高校>
滝井朋也 役 吉村卓也
仲沢呂佳 役 多田直人
倉田岳史 役 武子直輝
竹之内善斗 役 中村太郎
矢野淳 役 冨尚人
宮田直正 役 小川慧
鹿島匠 役 島野知也
和田誠 役 矢野聖
<桐青高校>
河合和己 役 加藤潤一
<崎玉高校>
佐倉大地 役 近藤頌利
市原豊 役 前田隆太朗
小山大樹 役 大村わたる

公式サイト:http://oofuri-stage.com

©ひぐちアサ・講談社/舞台「おおきく振りかぶって 夏の大会編」製作委員会

文:Hiromi Koh