明後日公演 2018「またここか」兄と弟、出会い、関わる、そこから芽生えてくるものは?

「カルテット」「最高の離婚」「それでも生きてゆく」「anone」など 珠玉のドラマ作品を世に送り出してきた脚本家坂元裕二が 本公演のために書き下ろした戯曲。 演出には、2017年紀伊國屋ホールで上演した話題作、芝居噺「名人長二」で 初の企画、脚本、演出、主演の四役を果たした俳優、豊原功補。 旧知の仲である二人が初めてタッグを組む本作は、濃密な台詞が紡ぐ奇妙で危うい愛の物語・・・・・・。

ガソリンスタンドを舞台に繰り広げられる男女四人の会話劇。 出演は映画「モリのいる場所」、連続ドラマ「スモーキング」等、映画・テレビでの活躍がめざましい若手俳優・ 吉村界人。城山羊の会など、舞台俳優として独特の存在感を放つ岡部たかし。映画「あゝ、荒野」で印象的な ヒロインを演じた木下あかり。ナイロン100°Cで活躍中の個性派小園茉奈。

舞台上は、ちょっとくたびれた感じの部屋、椅子やテーブルもやや古い印象。ここはガソリンスタンド、そこの事務所?兼待合室?制服姿の若い女性、ここのバイト、いかにもやる気なし、すぐに椅子座って足を投げ出す。そこへ同じ服を着た若い男、ここのオーナー、バイトより腰が低く、おっとりしていて、しかもバイトはなんだか偉そう。仕事を指示するも、いやいややるバイト。会話もどこか噛み合わない。それでもオーナーである彼は大して怒りもせず。そこへ車の音、中年の瘦せ型の男と無愛想な女がやってくる。女は看護師であった。男はオーナーに会いに来たのだった。「近杉祐太郎さんはどちらですか?」「僕です」「あなたの兄、兄の者でして」二人の父親は植物状態で入院中、医療ミスの噂もある。「それ、絶対に医療ミスだよ!」と声高に叫ぶバイト女性。「よく来てくださいました」と弟。落ち着かない様子の兄、不遜な態度をとり続ける看護師、マイペースで働かないバイト。この訪問者の訪れによって、この気だるいガソリンスタンドが奇妙な空気に支配されていく。

噛み合っているような合ってないような会話、そこから関係性が少しずつ変わっていく。基本的には、この兄弟の心理状況の変化を中心に物語が動いていく。壮大なテーマというものはない。時には緊迫感を持って、時には殺気立ち、時には不思議な空気感で関わっていく。暗転の度に場面が変わる。大雨が降る、ほの暗い場面では、心理状況と外の様子がシンクロし、この先はどうなるのか?と思わせる。最初は弟はのんびりと生きてきたようにも見えるが、次第にそうではなく、生きにくさを抱えていることが見えてくる。その“生きにくさ”は、よくよく考えてみると、もしかしたら、自分では気がつかないだけで、誰しもが抱えうる感覚かもしれない。これ以上ないくらいに濃密に向い合う二人、彼らなりの愛の形もほのかに浮かぶ。

ちょっとしたシニカルな笑いを含む他愛のない会話、登場人物たちの行動、一見、脈絡がなさそうでいてラストは『こうきたか』という具合に収束する。そして作品のタイトル「またここか」、この意味合い、観客個々の解釈に委ねられているところだが、「そうだったのか」と膝を打ちたくなる。想像と妄想、紙一重、誰しもが、心のどこかに妄想を抱えている。弟を演じる吉村界人はこれが初舞台だそうだが、そうは思えない存在感。働かないバイト嬢、あまりにも働かず、それでキャラ立ち、彼女の言動にちょっとクスリとさせられる。看護師の女、これ以上の不愉快な女はなかなかいないぞ、というくらいの強烈さ。そして兄と名乗る男、最初は常識的な感じに見えつつもどこかミステリアス。そんな4人のキャラクターの絶妙な関係性と関わり合い方、ド直球ではなく、随所に仕掛けを散りばめた脚本、そしてほのかに書き手の気持ちも見えてくる。劇場も小ぶりで会話劇にふさわしい。

<STORY>
物語の舞台となるのは、東京サマーランドの近くにあるガソリンスタンド。ある中年男が愛想のない女を連れて ガソリンスタンドを訪れる。そこにはろくに働かないバイトの女と、父親から引き継いだこの店を営む若い男が いた。若い男に異母兄弟だと名乗る中年男にはなにか企みがあるらしい。排気ガスと灼けたタイヤの匂いが残る 店内で繰り広げられる会話の中で、弟の抱える秘密に気づいた兄の心に芽生えるものは?
<配役>
近杉祐太郎(25)…吉村界人 ・父親から譲り受けたガソリンスタンドを営んでいる。
根森真人(42)…岡部たかし ・小説家。近杉の異母兄。
示野香夜子(25)…木下あかり ・あきる野総合病院の呼吸器内科の看護師。
宝居鳴美(31)…小園茉奈

【概要】
明後日公演 2018「またここか」
公演日程:2018 年 9 月 28 日(金)~10 月 8 日(月・祝)
劇場:DDD青山クロスシアター
脚本:坂元裕二
演出:豊原功補
出演:吉村界人 岡部たかし 木下あかり 小園茉奈
公式サイト:http://asatte.tokyo/matakokoka/

取材:Hiromi Koh