《インタビュー》 舞台「銀河英雄伝説 Die Neue These」演出 大岩美智子

1982年に小説が発表されてから35年以上、その後に制作されたアニメシリーズも爆発的な人気を誇り、2011年より舞台化、松坂桃李、間宮祥太朗などの俳優も輩出、そして今年、2018年に久しぶりの新しいアニメシリーズが開始され舞台シリーズも新たに始まる。2011年に完全オリジナルストーリーで上演された「外伝 オーベルシュタイン篇」と13年に制作されたシリーズ第8弾「初陣 もうひとつの敵」を演出し、自身でも「銀英伝」ファンとする演出家の大岩美智子に前シリーズ演出のエピソード、そして作品のこと、今回の舞台の演出の見所などについて語ってもらった。

アスターテ会戦から始まり、過去に戻って、十三艦隊に入るときは、登場人物の説明が難しい。、今回も特にそうですね。

――舞台版は全て拝見しています。演出なさった前シリーズの「外伝 オーベルシュタイン篇」、彼が歌うのは斬新でしたね。

大岩:オーベルシュタインが主役になるって誰も思っていなかったですよね。結構、難しかったです。

――オーベルシュタインを中心に持ってくること自体がチャレンジでしたね。しかも、貴水博之さんが歌える方なので、そういうことになったと思うのですが、銀英伝ファンからするとオーベルシュタインが歌うイメージはないと思います。

大岩:その通りです。しかもどこまでオーベルシュタインを『冷徹』から外すか、外せるのか、振り切って明るいところから、元のオーベルシュタインから始まって、丁寧に貴水さんと稽古していった結果、いい人っぽくなっちゃいました(笑)

――このシリーズの中では異色でしたね。

大岩:そうです。最後の語りで「信じるも信じないもあなた次第」っていう言葉で締めました。

――これは大変な回だなっていう記憶と、後もう一つ手がけられた作品は「初陣 もうひとつの敵」、それまではヤンが河村隆一さんだったのが、これは田中圭さん。内容的には若い時代の話だから、このバージョンは若いな、という印象がありました。ヤンは河村さんのイメージがあったのですが、田中さんもハマっていました。

大岩:私は外伝担当なので(笑)、「これはアリ」っていうところで作らせてもらっていました。アスターテ会戦から始まって、過去に戻って、十三艦隊をやっていくときは、登場人物の説明が難しくって、今回も特にそうですね、なかなか、これは難しいなと。

――まず、ストーリーが長いのと、登場人物があまりにも多く、キャラクターもはっきりしており、しかもバックボーンもちゃんと描かれている。

大岩:そうなんですよ。

――演出、舞台を作るのは本当に大変だと思います。

大岩:でも面白かったですよ。私は手掛けられた演出家さんの中では一番の銀英伝ファンを自認していますが(笑)、他の方の演出作品を拝見すると、「あ、こういう感覚なんだ」っていうのがありますね。中学生から原作ファンなので自分の思い込みで読むことがあるわけです。「あ、ここをクローズアップするんだ」っていう発見がありました。拝見させていただいて、面白かったです。        また男性の演出家が多かったので、女性と男性の見方、「ここで差が出るのかな?」っていうところがありました。登場人物に対する男性の「銀英伝」ファンの捉え方と女性の捉え方がちょっと違うと思うんです。私は派手さがない(笑)、他の演出家さんは艦隊戦もすごくかっこいい演出されているし。

――映像がとにかく派手だった印象があります。

大岩:はい。普通の芝居の殺陣のシーンは斬って斬られて、どっちがやられるか明確ですが、「銀英伝」って「ファイエル!」って言葉だけだと臨場感がないので、ここは本当に難しいです。

――例えば日本の戦国時代だったら人と人が直接相対峙していて分かりやすいですが、これは艦隊戦なので、指令を出しているだけですからね。

大岩:そうなんですよ。あとはミサイル、ビーム撃つだけなので、撃たれたら一瞬で苦しみもなく死んでしまうから、めちゃくちゃ難しいです。私は過去の演出作品でトールハンマーを撃っています。唯一じゃないかな?トールハンマーはカッコよく演出できるんですよ。

――確かに。

大岩:「初陣」では、ラインハルトがロイエンタールとミッターマイヤーを助けるってシーンがあり、殺陣もあったので割と派手さはあったと思うんです。今回はアスターテ会戦、どうしようかなって思案中(笑)。でもラインハルトもヤンも双方ともに「わーー」っていったりするキャラクターではないですから、アンサンブルの方々が撃たれる、戦いの恐怖を一生懸命にやってくれています。

――確かにラインハルトやヤンはやたら叫んだりはしませんからね。

初めて見る方に伝わるように、ヤンの凄さ、ラインハルトの凄さを出さないと。

大岩:今回は稽古を始める前からプレ稽古、アスターテ会戦のところはずっと稽古をしているんです。周りのメンバーもそこにいる生き死を一生懸命やってくれることで成立するんじゃなかろうかという感じで稽古しています。

――今回のアニメは最初から、この艦隊のシーンがでて、ラインハルトとヤンの駆け引きでアニメの映像は派手ですね。台本も拝見いたしましたが、今回ものっけから大変だなと感じましたが、かえってやりがいもありそうな。

大岩:「銀英伝」ファンじゃない方にもアピールしたいですね。キャストもみなさん新しいメンバーなので、お客様に見てもらう時にどういう状況なのかっていうことは私には当然わかるのですが、それをできる限り丁寧に描きたい。どういう陣形で、というのもわかってもらいたいですが、それよりも今、この人が優勢、劣勢で、登場人物たちが考えていること、そしてこのような状況の中、こういう案を出して、例えばヤンが「じゃあ、こう行く」みたいなところはちゃんと出したい点です。初めて見る方に伝わるように、ヤンの凄さ、ラインハルトの凄さを出さないと。

一緒に稽古しながら私の考えと彼ら若いキャストの考えが合致する時、そこがハマった時に「おお〜」ってなる!

――シリーズの時は続けて観ているっていうベースがあるお客様もいらっしゃったと思うのですが、あれからだいぶ時間も経っているのと、新たなアニメもありますから、ある意味、ゼロからの出発ですね。

大岩:そうですね。アニメが始まって舞台も連動、アニメの方も原作遵守で作っていますので、それに伴ってこちらもアニメと同じ衣裳ですが、舞台なのでアニメと全く同じ台本でやるのは不可能。そこのところはうまく、舞台だからこそできることができればいいなっていうことを思っております。

――アニメではアスターテ会戦のところはラインハルト側から進んでいますね。舞台だとヤンの同盟軍側とラインハルトの帝国軍側と、客席から見て、わかりやすくしているのは感じました。

大岩:あれはかっこよかったですね。1話と2話で帝国側と同盟側それぞれの視点でみせるのは新しいと思いました。ただ、今回の舞台では同時進行で見せていく方が艦隊戦の「ファイエル!」の躍動感を出せるんじゃないかって。脚本家さんと相談して、こういう形になりました。

――舞台ならでは、帝国側と同盟側、こういう風に対立して拮抗しているというのをビジュアル的に見せるっていう感じで、中盤では例のジェシカの有名なシーンとあとは回想シーンですね。

大岩:「銀英伝」って戦ってはいるんですが、これは政治の話。1500万部のベストセラーで、すごい数!今だに売れ続けているってどういう理由なんだろうって考えた時に、政治が、世の中が、民主主義っていうものに変化がないからなのかな?っていうところ、そこが民主主義なのかな?って・・・・・あくまでも私が感じていることですが、それが出せたらいいなって思います。あとはそこの中に生きている人間ドラマ。帝国側は専制君主政治ですが、ラインハルトがやっていることは民主主義、読んでいると同盟国が悪い気がしてくるときがあって、そこが面白いところなんですよね。

――彼は自分の住んでいる帝国の非常に悪いところを知っていて、腹心の友であるキルヒアイスと2人で力を合わせて自分たちの国を良くしていこう、という考え。もともと同盟は専制君主から離れて、もっと自由な国にしたいと思って作った国なのに現状は腐敗政治、衆愚政治になっている。ヤンは疑問を持っているけど、金銭的な面で軍人にならざるをえない、しょうもない命令に従わざるを得ないとか「もっとこうしたらいい」と提案して案の定、却下されて・・・・悩んでいる役ですよね。

大岩:おっしゃる通りですね。読んでいてヤンの力、ラインハルトの魅力、実は自分が思っていることが結構漠然としていたなって・・・・・稽古をしていて感じました。今回新しい発見がすごくありまして、それが若いメンバーたちが「銀英伝」をやるにあたって、今の世の中を生きている方々あるいはちょっとぐらい前から生きている方々が感じていること、「銀英伝」で描かれている世界からずれることはないのですが、一緒に稽古しながら私の考えと彼ら若いキャストの考えが合致する時、そこがハマった時に「おお〜」ってなる!「銀英伝」の世界から一旦離れて、みんなが考えていることを聞くと結構面白いんですよ。「それもあるか・・・・」って思って、だからすごく楽しいです。

――「銀英伝」は前のアニメシリーズ見て、この前放映されたアニメシリーズを見るとまた違った印象を受けますが、そういう作品ですね。前回の舞台シリーズは割と大きい劇場、青山劇場でやっていたことが多かったですね。

大岩:私は外伝なのでさくらホールと青年館でした。

――他の方の演出は、あの大きな・・・・。

大岩:セリがあって羨ましいって(笑)。

個人個人がちゃんと生きている人だっていうことをできる限り表現していこうと思っています。

――今回はZeppで、ぎゅっとした感じ。

大岩:はい。ライブが多い会場ですから、音響とかも臨場感あふれるようなことができたりするのかもしれませんね。あと、稽古をしていると、ラインハルト、キルヒアイス、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ヤン、ユリアン、アッテンボロー、キャゼルヌ、クローズアップして稽古すると面白い魅力が!素敵だなって思えてくる瞬間がある!役者が頑張ってそれをみつけながらやっています。舞台全体のシーンの中で、各キャラが「素敵だな」って思えるシーンが・・・・・・もちろん全部なんですが、ワンシーンでもどこかでちゃんと的確にポイントを押さえて、表現できるといいなって思ったりしますし、これが目標でもあります。

――前作のアニメシリーズは本当に声優さんも多くって(笑)

大岩:風間杜夫さんも出演なさっていましたね。先日、今回のナレーションの下山さんにお願いいたしまして、声録りしに行きまして、出会えただけで緊張しました(笑)。

――最後に見所と締めの言葉を!

大岩:欲を言えば全部なんですけど、それぞれの人間描写はできるだけ大切にしていきたい。初めてやるところのシーン、序章的なところもありますが、個人個人がちゃんと生きている人だっていうことをできる限り表現していこうと思っています。そこを楽しみにしていただければ!ぜひ、「銀英伝」ファンの方にも来てもらいたいし、初めての方もぜひとも楽しんでもらえるように、キャスト一同頑張っておりますので、ぜひ、来てください!

  <銀河英雄伝説とは>
「アルスラーン戦記」などでも知られる、大人気作家・ 田中芳樹氏原作によるSF小説。 1982年に第一巻が刊行されて以来、 累計発行部数は1500万部を超え、 今なおその記録を伸ばし続けているベストセラー小説である。「 銀河英雄伝説」を原作とするアニメ、漫画、 ゲームなどの関連作品も多く、1988年からは、 アニメシリーズが制作され、OVA110話、外伝52話、 劇場公開作品3本という、圧倒的ボリュームで展開。 多くのファンの心を魅了し、SFファンに語り継がれている作品。 2018年4月から新作アニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」のTV放送がファミリー劇場、TOKYO MX、MBS、BS11にて放送され、新旧のファンへ向け、 好評を博している。

【公演概要】
タイトル:舞台「銀河英雄伝説 Die Neue These」 (読み:ディ・ノイエ・テーゼ)
原作: 田中芳樹「銀河英雄伝説」シリーズ(創元SF文庫刊)
演出:大岩美智子
構成・監修:高木 登
脚本:米内山陽子
出演: <銀河帝国>永田聖一朗/加藤将/畠山遼 釣本南(Candy Boy)
<自由惑星同盟>小早川俊輔/米原幸佑 伊勢大貴 小西成弥/碕理人 汐月しゅう ほか

日時: 2018年10月25日(金)~28日(日)

会場: Zeppダイバーシティ東京

HP: http://www.gineiden.jp/
公式twitter:@gineiden_stage
主催・企画・制作:舞台「銀河英雄伝説」制作実行委員会

取材・文:Hiromi Koh