ミュージカル「深夜食堂」、夜中12時に集まる常連「夜は寂しいもんね」「分け合うと美味しい!」

テレビドラマ化も果たし、韓国でも人気のコンテンツ『深夜食堂』。この作品が韓国ミュージカルのヒットメーカーによって韓国でミュージカル化を果たした。そして原作のお膝元である日本、新宿での上演。「営業時間は夜12時から朝7時頃まで」そして「人は『深夜食堂』って言ってるよ」さらに「客が来るかって?それがけっこう来るんだよ。メニューはこれだけ。あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんは作るよ」。店内は昭和の香りがするカウンターだけのスタイル。そこにいろんな人々が集う。

街の明かりが、看板が一つ、また一つと灯る。出だしは、この冒頭の言葉、マスターが豚汁を作っている。コミックでもテレビドラマでもおなじみ、そして歌、最初はマスター(筧利夫)が歌う、『人生ひとかけら』、ちょっと哀愁漂うナンバー、次のナンバーは『深夜食堂』、この2つは作品の基調となる楽曲だ。ストリッパーのマリリン(エリアンナ)、付き合う男が頻繁に変わる。そんなマリリンが大好きな忠(藤重政孝)。いかにも怖そうな男とその子分、「なんでも作るんだろ!」と怒鳴り散らす。怖そうな男の名は剣崎竜(小林タカ鹿)、子分はゲン(碓井将大)。次第に常連化する、剣崎竜はタコのウインナー炒めを注文する。ゲイバーのママである小寿々(田村良太)はそんな剣崎竜が気になる。

卵焼きとタコのウインナー炒めをシェアして食べるようになる。「分け合うと美味しい!」、食べ物も人生も分け合えば、美味しさは倍になる。また、この物語の主要キャラクターである結婚できないOL三人組のお茶漬けシスターズ、おめかしして手には大きな紙袋、どうやら披露宴の帰り、「今日も結婚披露宴の帰りかい?」とマスターが声をかける。そう、『今日も』だ。結婚できない3人はそれでも赤い糸を信じて・・・・・。そしてことあるごとに「ね〜〜〜!」と同意しあい、お茶漬けをもりもり食べる、食べる。

出てくる料理は実にありふれたもの。卵焼きやタコウインナー炒め、バターライス(白いご飯にひとかけらのバターに醤油)、猫まんまにお茶漬けなど特別なものはなく日本の家庭に登場する、しかも庶民的なものばかり。しかし、この物語は食べ物の話ではない。食べ物にまつわる思い出、記憶。食堂に集まる人々の悲喜こもごもな感情、コンプレックスにどん詰まりな状況もあったり。売れない歌手・千鳥みゆき(AMI)はいつも寒そうにして店にやってくるが、のれんをくぐり、ちょっとホッとしたような表情を見せる。

都会の片隅にありそうなレトロ感漂うカウンターだけの小さな食堂、5、6人も入ればいっぱいになってしまうような狭い店内。常連が夜な夜な集まり、思い出を語ったり、愚痴ったり、どうでもいいことをしゃべったり。そんなありふれた日常がなんとも言えずに愛おしい。そんな日々や回想シーンがキャッチーなミュージカルナンバーでしかも生演奏で綴られる。これが意外な相乗効果と新たな一面を引き出してくれる。テンポよく物語は進んでいき、エピソードも小気味よく挿入され、すっきりとした構成。コミックやテレビドラマを知っていれば、あのセリフにこの情景、走馬灯のように浮かんでくる。「夜は寂しいもんね」とママが言う。夜は人恋しい、だから、人は集まる。マスターは余計なことは言わないし、メニュー以外のものは材料さえあればなんでも作ってくれるが、常連の好みはよく知っていて、さっと作ってさっと出す。その心意気になんとなく吸い寄せられる人々。いろんな味の食べ物、そして人生にはいろんな味がある。
今日もどこかでマスターが深夜にのれんを・・・・・・もしかしたら、本当にどこかにあるかもしれない食堂、見終わった後はどこかホッとする。この『深夜食堂』の店に書かれた唯一のメニューは「豚汁定食」、どこかで豚汁を、卵焼きを、タコウインナー炒め等が食べたくなる。劇場は新宿シアターサンモール、さて、どこへ行こうか。

ゲネプロ終了後に囲み会見があった。マスター役の筧利夫、まずはロビーにしつらえたのれんと提灯をバックにフォトセッション。「原作のエピソードはたくさんあります」と語る。原作には多くのエピソードがまだまだある。そこが原作の魅力でもある。またこの原作はアジアで人気があり、そもそもこのミュージカル自体も韓国の原作ファンのクリエイターが手掛けたもので、とにかく原作愛に溢れているのが大きな特徴だ。何か稽古場でのエピソードは?の問いかけに「急に歌詞忘れたり(笑)、今日も歌詞、作った!」この発言に一同、内心『おお〜』。とにかく出演者皆、こなれた印象で筧利夫曰く「通し稽古は相当やってる!20回以上!」と胸を張る。また心がけていることは?の質問に「余計なことは言わない」、理由は「マスターだから」。この食堂のマスターは基本的にあまりしゃべらない。ただただ、来た客を迎えるだけだ。またアジアでの公演が目標という筧利夫。「手応えはあります」とコメント。そして最後に「我々と共に1日の夜、私の店で楽しみましょう」とマスターらしい言葉で締めくくり、会見は終了した。

ミュージカル「深夜食堂」稽古快調!演出:荻田浩一   マスター役の筧利夫からコメント到着!

<あらすじ>
新宿の路地裏。 看板も出さず深夜0時から朝7時まで営業している食堂「めしや」。
人々はこの場所を『深夜食堂』と呼ぶ。
この食堂を営むマスターは、 目の上にある意味深な傷跡のせいで少し強面に見えるが、 食堂を訪れたお客さんの話を黙って聞きながら、 彼らが望む料理は出来るものなら何でも作って出してくれる。
深夜食堂を訪ねるお客さんは様々。
28年間ゲイバーを営んできた40代後半の小寿々。
魅力溢れるニューハートの看板ストリッパー・マリリン。
そのマリリンに首ったけでダメ男だけど母には優しい忠。
お茶漬けが大好きで通称お茶漬けシスターズと呼ばれる梅、 鮭、 明太子は彼氏は出来ないけど幸せな結婚を夢見る。
売れないストリートミュージシャンの千鳥みゆきは、 凍えた手をこすりながら毎晩のように深夜食堂を訪れる。
タネも仕掛けもないマスターの「素朴な料理」を求めて、 今日も疲れた足を深夜食堂に向ける人たち。
ちょっと腹拵えをしては、 また明日を生きるために『深夜食堂』の扉を開ける。

<キャスト>

マスター役:筧利夫、忠役:藤重政孝、小寿々役:田村良太、剣崎竜役:小林タカ鹿、ゲン役:碓井将大、マリリン松嶋役:エリアンナ、千鳥みゆき役:AMI、お茶漬けシスターズ・鮭役:谷口ゆうな、お茶漬けシスターズ・明太子役:愛加あゆ、お茶漬けシスターズ・梅役:壮一帆

【公演概要】
日程:2018年10月26日(金)~11月11日(日)
会場:新宿シアターサンモール
チケット料金:8200円(全席指定・税込) ※未就学児入場不可

原作著作:安倍夜郎『深夜食堂』

Book&Lyrics by JEONG, YOUNG
Music by KIM, HAESUNG

演出:荻田浩一
日本語上演台本・訳詞:高橋亜子

プロデューサー:宋元燮、 坂紀史

演奏:熊谷絵梨(Pf)、 相川瞳(Perc.)、 中村康彦(Gt.)、 中村潤(Vc.)

制作協力:株式会社小学館
企画・製作・主催:conSept /ショウビズ
(C)️Yaro Abe / Shogakukan Inc.

公式ホームページ : http://meshiya-musical.com
公式ツイッター : https://twitter.com/meshiya_musical

取材・文:Hiromi Koh