観月ありさ主演 手塚治虫 生誕90周年記念 原作:手塚治虫「ダスト8」より 舞台「悪魔と天使」、人生とは?生きる意味と生と死と

ーー隠れた手塚治虫名作作品が平成最後の年に蘇る、生きることとは?人生は?人はいかに生きるべきなのかーー

手塚治虫作品「ダスト8」が「悪魔と天使」というタイトルで舞台化した。静かなピアノの調べで幕開き、そして弦楽器が加わり、音楽がこの物語の序を奏でる。豪華列車に乗り込む人々、よくある光景だ。言葉を交わし、膝を付き合わせて席に座る。人々の関係性やバックボーンもうっすら透けて見える。発車!楽しい旅のはずが・・・・・・大事故が起きる。照明と効果音とで事故の大きさがわかる。畳み掛けるような音楽、そして・・・・・天の声が響く、「運命の力によって命が奪われた」と。生存者がいないと思われた事故、ところが8人だけが助かった。死ぬはずだった運命が命の山のかけらを持ったがために、だ。その中の2人が生還した者から石を取り返すように言われる、取り返したら・・・・・死ななくてすむ。その2人は弁護士の海江田(観月ありさ)とカメラマンの岬(白石隼也)、「死にたくない」と海江田は叫び、回収を決意する。一方、岬はそんな海江田についていけない。大事故だった故に話題になり、生存者は会見を開くことに。皆、感謝の言葉を述べたり、生き方を変えたいといった趣旨の発言をする。大女優の九條小百合(高島礼子)は突然、引退宣言をする・・・・・・。

この『石』を持ったことによって人生観や生き方が変わる人々、海江田は回収するために生存者に会いに行き、岬は「あなたのようにはなれない」と言う。一人一人の人生、状況と心情を丁寧に提示、「人はいずれ死ぬ」と海江田は言い放つが、それは真実、生まれ落ちた瞬間から人は『死』に向かっている。石を持つことによって彼らは変わった。生きることの意味、尊さ、そして『生かされている』ことを自覚し、手にした石がなんなのか、おぼろげながらも気がつき始める。そして「回収する」と息巻いていた海江田の心にも変化が訪れる。彼らが見る景色は?生かされるのか、死ぬのか、ドキドキする展開、そして関係性も少しずつ明かされる。気がつかなかった絆、想いがストーリーがすすむにつれて明るみになっていく。岬は海江田に「あなたは寂しい人なのでは?」と言う。

生きること、死ぬこと、いつ死ぬかは運命なのか、考えても考えても答えはない無限ループのような命題を観客に見せる。一寸先の未来も実はわからない、明日が来るのかどうかもわからないのが現実だ。九條小百合の隠された秘密は切なく、ラストシーンは号泣必至。2幕で河村隆一の曲「Hope」がテーマソングとして流れる。テーマは重いが、それを絶妙なさじ加減でエンターテイメント性を加味して舞台にのせる。笑い、ほのぼの、涙、人の喜怒哀楽、葛藤。海江田が前半で「生きたい」と・・・・これは生きとし生けるものすべての基本的な想い、願い。しかし、ただ生きるのではなく、そこには何かがある。ある者は「やりたいことをやる」ある者は「人のために尽くす」・・・・・生きることの深さ、意義、2幕物のこの作品には多くのことが詰まっている。そして設定の心憎さ、人々の職業や状況、弁護士、カメラマン、社長、絵描き、ラジオ番組を持つ女性、ITで起業した者、女優、父をなくした若者、これらの設定は作品のスパイスに。挑戦的な作品、観劇した後には心地よい感動と余韻が待っている。

なおゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは主要キャストの面々、観月ありさ、白石隼也、野村宏伸、黒川智花、鍵本輝(Lead)  、中島早貴、 黒田こらん、ぼんちおさむ 、佐藤B作
高島礼子。

精霊の悪魔キキモラと海江田沙月の2役を演じる観月ありさは「生きること、人生をどう生きていくのかが描かれている舞台」と語る。すべてのキャラクターの生き様が丁寧にしかも生き生きと舞台に息づいている。感情移入もしやすく、共感する部分も多い。野村宏伸は柏木守役、医者、「ゲネプロですが初日の感覚で緊張しています」と語るが、ヒューマニズム溢れる医者を真摯に見せていた。また精霊の天使キキモラと岬慎吾役を務める白石隼也は「日々生きるということが、素晴らしいことなんだというのを届けられたら」とコメント。カメラマンの岬は優しいだけでなく、物事を客観的に見られるキャラクターでちょっとほっこりとする存在、時にはソフトに時には熱く演じていたのが印象的。大女優・九條小百合役の高島礼子は「年齢に関係なく、若い人でも明日亡くなってしまうかもしれない。楽しんで何か持って帰っていただきたい」と語るが、九條小百合がひた隠しにしていたことが・・・・・ここは観てのお楽しみ。絵描きである渋井新役の佐藤B作は「自分が生きたいと思う生き方があっても、なかなかそうはいかない。何を幸せに思うか、ということの答えがこの芝居にはある気が・・・・・初日からバッと伝わればいいんですが」とコメント。子供の頃に絵を褒められ、描くことを生きがいにしている役柄、その笑顔は印象的。小島忠役の鍵本輝は「僕はカンパニーの中では下の世代。偉大な大先輩に囲まれながら本当に勉強の連続。千秋楽まで皆さんに怒られないように」と初々しく。吉沢エリ子役の黒川智花は「生と死という重いテーマではありますが、いただいた命の大切さ、家族への感謝の気持ちを改めて感じられる作品」とコメント、吉沢エリ子は病気の母と自分の2人ぼっち、母を自己犠牲の心で看病しているという設定だ。

会社の社長・大前田十蔵を演じるぼんちは、演技中の観月について「にらまれると怖い(笑)。その迫力をぜひ舞台で!」と笑わせる。有坂瞳役の中島早貴は「劇場も大きいですし、先輩方の存在感もすごいので、埋もれないようにこの派手な衣装を味方につけて挑みたいと思います!」と元気良く。そして小坂徳子役と、1月12日に亡くなった市原悦子に代わり“天の声”を担当する黒田こらんは「一人ひとりの思いがこもっている舞台です。最後までケガなく務めたい」と続けたが感極まって涙ぐんだ。天の声は急遽の代役であったが存在感もしっかり、また意地の悪い小坂徳子、舞台上でのアクセントに。

その市原悦子とのエピソード、黒田智花は別れの挨拶をしたそうで「安らかに眠っていらっしゃいましたが、今にもセリフを言い出しそうな雰囲気」と思い出す。また過去に共演したことのある高島礼子は「芝居に対して諦めない姿勢を学ばせていただきました」としんみり。佐藤B作は「二人芝居やドラマでご一緒させていただきました。芝居に対して妥協しない、人生を芝居に費やしてきた方・・・・・いつも凛となさっていて、どんな風が吹いても立ち向かっていく姿は今でも忘れられませんね」としみじみ。

観月ありさは「みんな市原さんの“天の声”を聴くのが楽しみだったので残念。市原さんは『悪魔と天使』の脚本を読んで、『ぜひやりたい』とおっしゃってくださっていたそうで、市原さんが天から見守ってくれているんだと思いながら、最後までがんばりたいです」と語る。さらに本作のテーマ曲を手がけた河村隆一が自宅療養中であることについて「回復に向かっているそうなので安心しました。少しでも早く復帰していただき、迫力のある歌声を聴かせていただきたいです」といい、最後に公演PR、「新年早々の舞台、おめでたい気持ちで観ていただけたら」と締めくくった。

なお、書面で河村隆一からコメントも到着した。

「この『Hope』は1997年にリリースした『LOVE』というアルバムの最後を飾る曲です。観月ありささんの舞台で、この曲を流していただけることを光栄に思っております。観月ありささんが僕のソロコンサートを観に来ていただき、僕の楽曲を舞台で使用したいということをお伺いしましたので、今回、舞台『悪魔と天使』のために、この曲を新録しました。この曲は、人それぞれの心の声であり、人生であり、いろんな視点で自分を見つめる、そんな曲だと改めて感じています。現在、自宅療養中ということもあり、舞台を拝見できないのは残念ではありますが、舞台の成功、皆様のご健康をお祈りしております」

 <物語のあらすじ>
手塚治虫 生誕90周年記念 原作:手塚治虫「ダスト8」より
舞台「悪魔と天使」
平成から年号が変わる時。
豪華列車トワイライトエキスプレス号が大事故に遭う。 生還者はいないと思われたが、8人の乗客が奇跡の生還をとげた。それは、“生命(いのち)の山”という不思議な山にぶつ かったはずみで、山のかけらが8人の乗客にふりかかったからであった。
——死ぬ運命だったものが生き残ってしまった。 死神のボスはある者たちに、生還者を探し出し、山のかけら——“生命の石”を取り返すことが出来たなら、二人の命は助け ることを約束し、否応なしに彼らに、“生命の石”を探し出すように迫る・・・。 果たして、彼らは“生命の石”を取り返すことが出来るのか。
そこには思いもよらない結末が待っていた・・・。

<原作について>
1972年「週刊少年サンデー」に連載された『ダスト18』が作品の原形。題名の通り18人分のエピソードを予定していたが 未完となる。その後、全集の刊行の際に、新たに2人分のエピソードが追加され、『ダスト8』として全集に収録された。 本作品の舞台化は、今回が初となる。

<キャスト>
観月ありさ
白石隼也
野村宏伸/黒川智花
鍵本輝(Lead)  矢部昌暉(DISH//)〔Wキャスト〕 向山毅(SOLIDEMO)〔Wキャスト〕 木全寛幸(SOLIDEMO)〔Wキャスト〕
中島早貴 黒田こらん
白木美貴子 咲良 脇坂春菜 成沢愛希 萩原悠 優志 石黒洋平
佐渡稔 梅垣義明 久保酎吉 まいど豊 石井智也
ぼんちおさむ 松澤一之
佐藤B作
高島礼子

[テーマ曲]
河村隆一
【公演概要】
手塚治虫 生誕90周年記念 原作:手塚治虫「ダスト8」より 舞台 「悪魔と天使」
日程・場所:
2019年1月19日(土)~2月 3日(日)神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉全12公演
2019年2月9日(土)~2月10日(日)大阪・梅 田芸術劇場メインホール全3公演
2019年3月1日(金)~3月3日(日)名古屋・御園座全4公演
原作:手塚治虫「ダスト8」より
監修・脚本:佐藤幹夫
脚本・演出:モトイキシゲキ
演出補:大江祥彦
音楽:鎌田雅人

主催:舞台「悪魔と天使」製作実行委員会(神奈川公演・大阪公演)、御園座(名古屋公演)
企画・製作:舞台「悪魔と天使」製作実行委員会
企画協力:手塚プロダクション

公式HP:http://www.akumatotenshi.com
※「手塚治虫」の「塚」の字は、旧字体。
©TEZUKA PRODUCTIONS/©舞台「悪魔と天使」製作実行委員会

取材・文:Hiromi Koh