《インタビュー》演出 岡村俊一 つかこうへい復活祭 VOL.1 「熱海殺人事件 LAST GENERATION 46」

つかこうへいの名作「熱海殺人事件」が紀伊國屋ホールで上演されるが、なんと初演が1973年!全く色あせず、今年は46年目、キャストは味方良介、今泉佑唯、佐藤友祐、石田明とフレッシュな顔ぶれが揃った。演出の岡村俊一さんにつかこうへい氏との出会いや過去公演のエピソード、「熱海殺人事件」の継続上演についてなど余すところなく語っていただいた。

「つかさんが『おい、お前、俺が次に何やるか、お前が決めろ』と」

――初めてつか作品を観たのはいつ頃でしょうか?どの作品でしたか?
岡村:18歳ぐらいの時にどっちが先かわからないのですが、風間杜夫さんの「熱海殺人事件」と柄本明さんと加藤健一さんの「蒲田行進曲」、その頃は演劇部のイチ部員で、一つ先輩のマキノノゾミさんに連れて行かれたんです、「行くぞ!」って言われて一緒に行って、「すごいっすね!すごいっすね!」って言ってました(笑)。当時はつかこうへいさんは圧倒的にブームでした。演劇雑誌は「新劇」「テアトロ」の2誌がありました。この「新劇」に掲載される人たちってすごい人たちだった、そのすごい人がつかこうへいさんや唐十郎さん。イチ演劇部員の目から見たら「すごいものが世の中にあるんだ」って(笑)。この頃の「新劇」や「テアトロ」は権威として存在していましたね。
――だいぶ後になりますが、確かセゾン劇場で「飛龍伝」を連続上演しましたね。最初は1990年だったと記憶しています。
岡村:はい、そうですね。
――最初が富田靖子さん、筧利夫さん、そのあとが牧瀬里穂さん、石田ひかりさん。一応、全部観ています(笑)。
岡村:ファンですね(笑)。
――それなりに(笑)。
岡村:「飛龍伝’90」が、劇場に行列ができるほどものすごくヒットしまして、すぐに再演できないかっていうことになりました。それで連続上演になったんだと思います。87年から89年、かな?つかさんがお芝居を休んで小説家をやっていらして、「熱海殺人事件」を韓国で上演することで演劇に復活、紀伊國屋ホールで上演されまして、それから劇団円とシアターサンモールのこけら落としを上演してらっしゃいました。
その頃、僕はセゾン劇場の社員だったんですが、僕は趣味で駅前劇場とかで、売れてない頃の渡辺いっけいや筧利夫と下北沢あたりでお芝居をやってたんですよ。’89年末のことですが、3日間だけ人を集めてイベント的な公演をやろうと・・・その時に上演したのが「広島に原爆を落とす日」、場所は本多劇場。これが今、考えると錚々たるメンバー(池田成志、筧利夫、加納幸和、羽場裕一ら)だったんですよ。それが、その年の「演劇ぶっく」の人気投票で2位だったです。
――惜しい!2位!
岡村:そう!惜しい!1位は夢の遊眠社か劇団四季か・・・・それがたまたまつかさんの目に留まったらしく、つかさんは「幕末純情伝」をパルコでロングラン公演を上演していたにもかかわらず、それを「抜いている奴がいる!」っていうんで。それで「こいつを呼べ!」と(笑)、これ作っている奴、探せとつかさんが指令を出して捜索された(笑)。
――それで見つかって。
岡村:僕は怒られるかと思って!
――ドヨドヨした(笑)。
岡村:そう!ドヨドヨした!で、行ったらつかさんが「おい、お前、俺が次に何やるか、お前が決めろ」と。
――(笑)。
岡村:そんな感じでしたね(笑)。ちょうど次の年のセゾン劇場の11月に何かの演目がとんだんですよ、’90年の11月が空いている、これは『神の啓示』だと思って。つかさんの「飛龍伝」は、いったん’80年に閉じたんですよ、「飛龍伝’80」、っていうのが最後の「飛龍伝」だった。なぜかというと、‘60年安保、’70年安保、そして‘80年・・・・・’90年はもっと言いたいことがあるでしょ、つかさん!みたいな(笑)。’90年はゼロから作るから意味があるんですよ。安保の年の節目、10年ごとの、ゆえに「飛龍伝’90」をやりましょうと。「わかった、それでやる」と。決まるまで2秒ぐらいしか喋ってなくって(笑)。
――やろう!みたいな。
岡村:ええ。’90年だから『飛龍伝’90』です」って言ったら「おう、それは絶対にやる」って(笑)、それから珍道中が始まって(笑)。
――当時、セゾン劇場の社員さんだったんですね。
岡村:そうです。
――まあ、つかさんの2秒が強烈で、そのあとは?
岡村:若手役者の友達がいたんで、つかさんが「そいつ、連れてこい」みたいな。当時、若手の小劇場畑の人間を連れてくる係みたいに、それですぐに・・・・・当時は毎日、呼ばれていましたので(笑)、「飛龍伝’90」のヒットのこともあったし、ちょっと神がかり的な成功だったので・・・・・いや、ちょっとどころじゃない、セゾン劇場にとってとんでもない成功、つかこうへいさんにとってもこの公演は起死回生。絶対的なヒット作っていうのが突然できてしまいましたので、当時は毎日、一緒にいまして、毎日、焼肉食って(笑)第2次つかブームみたいな感じでした。ご本人がCMにでたりとか、CMを自分で作ったりとか。俺、今度、紀伊國屋で1000円でやりたいんだよ、1000円で」って言って、「スポンサー探せ!」って言われて!「全員1000円だ」って言って「新聞記者も評論家も全員1000円!」、そういう風におっしゃってそのスポンサー探しに僕は奔走して「つかこうへい1000円シアター全国ツアー」っていうのをやったんですよ。それも直後、91年ですけど、池田成志版に替えた時なんですけど。当時、演劇界で事件を作る、みたいな感じでしたね。
――そこからずっとつかさんと?
岡村:いや、そうではないんですよ。ある日、機嫌が悪くなって「お前、クビだ!」って言って2年ぐらいぱたっと・・・・・(笑)。

「つかこうへいは死なないし、『熱海殺人事件』は死なない」

――今回、「熱海殺人事件」に決めた動機は?
岡村:それは行きがかり上の話なんですが、お亡くなりになった2010年7月の時点でつかこうへい事務所が次の年の春の紀伊國屋を押さえていたんですよ。やる人がいないから「放す」っていう判断もあったのですが、毎年やっていたんだから、やらないのはあの人の主義に合わないよって言って。とにかくやれることをやろうって言って・・・・「熱海殺人事件」普通、やるよな(笑)って言って始めたんですよ(笑)。それがいまだに続いていて、今年は多分、7回目です、僕がやるようになって。途中、違うこともやった年もありますが、最初に劇場をキャンセルしないようにっていう理由で引き継いだところから始めたことなんですけど、キャストを若返らせると作品も若返っていくんですよ。これが面白くって、昔のものが、昔の人の脳裏に残って昔の役者さんも良かったなっていうのもありますが、この作品は多分、つかさんが24、25才の頃の作品、もともと、そういう奴らがやらないと本当の効力が出ないんだなって、やりながら気づいたんです。それはどんなに上手い役者さんがやろうが、どんな老練な技を使おうがそういうことじゃない。青春だとか若さとか純粋さとかが本当に備わっている人間がぶつかっていくべき戯曲だなと思うようになった。だから、変えるときはできるだけ、若い方へ若い方へ変えていく方がつかさんの考えに似ているかもしれない・・・・・・断言はできませんが。馬場徹で40周年でやって、今度は味方で45周年、今年は46年目ですが、後3回やれば49回ですが50回目の「熱海殺人事件」になるんですね。それは日本演劇にとって大事なこと、日本の演劇、日本の言語、日本人が、日本人の作ったものを50年も愛し続けている演劇ってないんですよ。学者が書いたものでは2位とありますが、そういうことではない。本当の意味で、これだけ日本中で上演されている、学生演劇とか、ちょっとした素人でも男性が三人、女性が一人いたらやれる演劇、これを日本が50年もそれを愛し続けている、それは他にはないなと思うんです。だから50年目まではやらなきゃって思っていて、今はそのつなぎ目。でも、僕の現在の意志としては、それをやっておけば、つかこうへいは死なないし、「熱海殺人事件」は死なない、何より紀伊國屋が良くなるんですよ。『紀伊國屋で演劇を見に行こう』なんて感覚は30年前のことじゃないですか。とっくに忘れられたもの、『紀伊國屋につかこうへいを見に行く』、これで日本の文化、東京に生きる人間の思想の根底にずっと植え付けられ続ける、これは悪いことではない、僕は、これはよいことであると思って続けているだけですが、これは線で、繋がっているんです。
――脈々とね。
岡村:そうですね。
――紀伊國屋でつかこうへいをやるってことですね。
岡村:基本、ここ何年かはそうですね。実はいつも俺の演出どうかなって思うんですね。根本的に若返らせないと、本当の意味で若くならない、俺ごと変えちまえっていつも思っています、毎年。これが意外と難しい、それを引きついで連ねる、お芝居を教えるとかセリフの言い方がどうの、とか、そのトーンが面白いとか、ネタが面白いとか、そこはどうでもいいんです。非常に巧妙なつかこうへいの『お芝居をお芝居にする力』、例えば「アリとキリギリス」、アリさんは真面目に働いているのにキリギリスは遊んでて死んじゃったっていう話。でもアリの中にも悪いやつはいないかとか、キリギリスの中にも本当はいいやついるんじゃないかっていうようことを実体験として演劇を見るという体験を通して、こういう生き方の人間、こういう生き方しかできない人間を、見ている側に投げかけるお芝居、これが実によくできているんです。誰もが思い当たること、実際に日常で犯している失敗みたいなものをどういう風に切り抜けるか、それは逃げるのではなく、立ち向かうこと、それに対してどうやって生きていくのが正しいのか、現代人でも心当たりがある、それがあるからこそ、この戯曲が残っているのだと思います。ところがこれを全部教えるのは難しいんですよ。とにかく若い子には「やってみな」っていうんです、『すげーものが埋まっているから!』、心に響く理由みたいなもの。こういう環境に生まれたこういう人がこういうつもりで書いたものだっていうのをある程度、わかって引き継がないと、ただのコントショーになっちゃう。笑えるのか、笑えないのか、これはそういうもんじゃないんですよね。

「僕は作家・つかこうへいが最初に何を考えて作家になったのかっていうのをちゃんとわかるように作ろうと思っている」

――最後に締めを。
岡村:俺の追体験しか話してなかった(笑)。若返らせることがどういう意味を持っているかというのが今年は特に出ているかな?今年の方が若くなっているので、それはひょっとしたら大人が観たら「拙い」と見えたりとか「技術的にどうなのか?」って言うかもしれない。今まで大人が偽物でやっていたこと、本当に純粋な若者がやるっていうこと、これはどういうことなのかが今年は観れるかな?って思うんですよ。それは何が大事かって言いますと、つかさんが売れていた頃の30代、40代、その頃に「熱海殺人事件」を使っていろんなことをやっていました。僕は作家・つかこうへいが最初に何を考えて作家になったのかっていうのをちゃんとわかるように作ろうと思っている。いつも、何でもいいからつかこうへいを5回続けて言ってみろって若い子に教えているんです。そんなことって大人になったらあんまり思いもしなくなりますが、若者の力だったら逃げていることにちゃんと立ち向かえると思ってて僕は作っている感じです、そこを観てもらえたら。はい!

【公演概要】
つかこうへい復活祭 VOL.1 「熱海殺人事件 LAST GENERATION 46」
<大阪公演>
2019 年 3 月 28 日(木)~31日(日) 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
<東京公演>
2019 年 4 月 5 日(金)~21日(日) 紀伊國屋ホール
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
<出演>
木村伝兵衛部長刑事:味方良介
婦人警官水野朋子:今泉佑唯
犯人大山金太郎:佐藤友祐(lol-エルオーエル-)
熊田留吉刑事:石田 明(NON STYLE)
[大阪公演]
協力:つかこうへい事務所
企画・制作:(株)よしもとクリエイティブエージェンシー(株)アール・ユー・ピー
主催:吉本興業
[東京公演]
提携:紀伊國屋書店
制作:つかこうへい事務所
企画・製作:アール・ユー・ピー
公式HP:http://www.rup.co.jp/
取材・文:Hiromi Koh